カオティックアーツ
64:ウトピアを見て回ろう③
ヴァネッサは疲れきった表情をして、大きくため息を吐いた。
確かに、楓と一緒に観光、いやデートというべきか。それができないのは非常に残念だった。でも負けてしまったのだから仕方がない。それに、この一回で全てが決まるわけでもないし、まだチャンスはあるはずだ。
だから、楓に関して言えば、まだ大丈夫だと思っている。ヴァネッサが大きなため息を吐く原因。それは……5歩ぐらい後ろを怯えながらついてくるティオであった。
じゃんけん大会で、ペアになってからというもの、震えが止まらないティオ。大きな原因としたら、料理大会かもしれないが、それ以前に、まだ仲間として見られていないのでは、とヴァネッサは感じていた。
だからこそ、この機会にティオと仲良くなると、ヴァネッサは心の中で誓った。
「ティ、ティオ。そんなに離れてないで……」
「ひっ……」
「……うう」
ヴァネッサは強気な女の子に見えて、メンタルが弱かった。たった一言声をかけ、怯えられただけで泣きそうになっていた。
でも、頑張るって決めたヴァネッサは、涙目になりながらも、ティオを見る。
「ねぇ、あたいはそんなに怖くないから。大丈夫だから」
ヴァネッサはぎこちない笑顔でティオを見つめていた。それを見たティオは固まってしまった。ヴァネッサは、もしかして……と思ったりしたが、そんなことはなかった。
ぎこちないその笑顔は、ある意味怖い顔になっており、ティオはさらに顔を青くして、周りを通る魔女たちも、ヴァネッサを見て苦笑する。
ん、なんで苦笑されるの? と状況が分からず挙動不審になるヴァネッサを見て、ティオが一歩後ずさる。
「な、なんでだよ……」
肩を落とし、落ち込んでしまったヴァネッサ。誰もが同情しているのか、若干避けて通る姿は余りにも痛々しい。
そんな状況を無視して、一人の魔女がやってきた。
その魔女は、近くのお店でアルバイトをしているらしい小柄な魔女。
「あの、ヴァネッサさん。お仕事をお願いしたいんですけど……」
魔女の国に来る前、冒険者をやっていたヴァネッサは、ウトピアでは何でも屋のような仕事をしていた。
魔女の国では上位に入るヴァネッサだが、正直頭を使う仕事は向いていないと言い、政治関連には全く関わっていなかった。
ヴァネッサの役目としたら、魔女の国、ウトピアの安全を守ることと、困ってる魔女を助けることだ。
これも仕事の一環で、ふらついている時に声を直接掛けて依頼することもできるようになっていた。
「えっと……」
ヴァネッサはちらりとティオを見る。未だ怯えながらも、コクコクと首を縦に振った。どうやら仕事は仕方ないということらしい。
ヴァネッサは、しょうがないなと頭を掻きながら、仕事を引き受けた。
小柄な魔女が依頼した仕事は屋根の修理だった。小柄な魔女がバイトしている店の近くを怒り狂ったウィウィが通った際、運悪く破損していしまったらしい。
ウィウィは怒りながらも、そこらへんは考慮していたらしく、被害はこの場所以外になかった。
壊れた屋根は、小柄な魔女のバイト先であるお店と、ちょうど店の裏に位置する場所にある小さな物置小屋。
小さめといっても、高さは二メートル以上ある小屋で、主に店に出す商品がしまってある。
店に並べた商品はこの際気にせず、これから出す予定だったものが悪くなるのはお店として困る。そこでちょうど通りかかったヴァネッサに依頼が来たのだ。
「よっし、やるか」
急な仕事のため、道具は一切ない。普通なら取りに行くところだが、今回は急ぎの仕事のため、お店に道具を借りた。
はしごを使い、屋根に上るヴァネッサ。修繕用の木の板を魔法で形を整える。そして、木材を固定し、釘をハンマーで打ち込んでいく。打ち込んだあとは、雨等で釘が錆びて折れないように、魔力コーティングする。炎の魔法しか使えないヴァネッサには、燃やすことしかできないと思いがちだが、魔法は使い方次第。それに、魔力だけを付与するなら、炎しか使えなくてもあまり関係なかった。
そんなヴァネッサの仕事を見て、ティオも思うところがあった。
ティオも一応ライトワークの冒険者。ヴァネッサと似たような仕事をしていた。
(僕も何かやらないと……)
ティオは小柄な魔女に、屋根の修理をやると言った。小柄な魔女は困惑し、ヴァネッサもどうしようか戸惑う。だけど、何か行動を起こそうとしているティオを尊重して、店側の屋根の修理をお願いした。
恐る恐るはしごを上り、屋根の修理作業を始めるティオを暖かい目で見守りながら、ヴァネッサも作業をするのであった。
ティオは魔法が使えなくても、楓が渡してある【ディメンションリング】を持っており、そこから道具を取り出して、屋根の修理をおこなった。以外に便利なカオティックアーツを使い、屋根の修理をどんどん進めていくティオ。その作業っぷりに感心した小柄な魔女は、安心しながら店の中に入っていった。
***
作業開始から1時間ぐらいが経過した頃。魔法を駆使して作業を行っていたヴァネッサは、屋根の修理を完了させた。屋根から下りて、ティオの様子を見ると、まだ作業をしていた。
見た感じあと少しで終わりそう。小柄な魔女と店の店主の魔女に、もうすぐ終わると報告したら、お茶をくれたので、ティオの様子を見ながら、下で待っていた。
少しおっかなびっくりで作業を行っているが、それでも出来上がったものは丁寧で、ヴァネッサは感心する。
これが終わったら、どこか買い物でも行こう。そうしたら、もう少し仲良くなれるかな。
そう思いながら、ヴァネッサがティオを眺めていると、屋根の上にいるティオが額の汗を拭った。
「ふう、終わった!」
「おつかれさん。危ないからゆっくり降りて来いよ」
ヴァネッサの声に少し驚いて、ティオは少し緊張した顔つきになる。
危なっかしいなと思いながらティオの様子を見ていると、ティオははしごの近くで足を滑らせて、屋根から落ちた。
「うわぁ」
「危ない!」
咄嗟に動いたヴァネッサは、落ちてきたティオを優しく受け止める。
ティオをゆっくりと地面におろし、どこも怪我がないことを確認して、ヴァネッサは安堵のため息を吐いた。
「はぁーよかった……。ティオ、もっと気を付けないとダメだぞ」
「はい……その、ありがとうございます」
ティオの髪を荒く撫でたヴァネッサは、「そんな他人行儀じゃなくてもいいんだよ」とつぶやきながらそっぽを向く。
ちょっと嬉しかったようで、若干顔が赤かった。
落ちたことで店の店主の魔女と、小柄な魔女が駆け寄った。二人共、無事だったことを安堵して、修理をしてくれたことのお礼を言った。
仕事分のお金は、直接受け取りなので、店の店主の魔女が渡そうとする。ヴァネッサはそれを受け取ると、「また何かあったら声をかけてくれ」と言って、ティオと一緒にその場を去った。
少し賑わっている大通りに出る。ティオの手をつかみながら、ヴァネッサはよさげな店を探していると、楓とクレハが喫茶店にいるところが目に映る。
ちょっと羨ましいなと思いながら眺めていると、ティオがクイッと手を引っ張った。
「お姉ちゃん、あれ、あれなに!」
ティオが出店の商品を指さしながら、少し興奮気味に言ったが、それよりも「お姉ちゃん」と言われたことがヴァネッサは気になった。
「えっと……お姉ちゃんって?」
「さっき助けてもらったとき、なんかお姉ちゃんみたいだった」
「でも、クレハやフレアだっているだろう?」
「うーん、クレハ姉さんは、ずっと一緒に暮らしていた本当のお姉ちゃんって感じがするし、フレアさんはお母さんって感じがする。でも、お姉ちゃんは、近所の優しいお姉ちゃんって感じがしたの! だからお姉ちゃん」
家族まではいかなくても、少しなついてくれたことが嬉しくて、ヴァネッサは自然とにやけそうになる。それをグッとこらえながらも、ティオが質問した商品について答えてあげた。
(近所の優しいおねえちゃんか。でも、ティオと一緒にいると、プリシラと過ごしたあの日々を思い出すんだよな)
性別は違っても、昔いた妹の姿を重ねてしまう。もうなくなってしまったあの日々を取り戻したような感覚が、ヴァネッサは嬉しく感じた。
「ちょっと小腹も空いたし、どっか食べに行くか!」
「うん!」
ヴァネッサはティオの手を繋ぎながら、その日を楽しんだ。
確かに、楓と一緒に観光、いやデートというべきか。それができないのは非常に残念だった。でも負けてしまったのだから仕方がない。それに、この一回で全てが決まるわけでもないし、まだチャンスはあるはずだ。
だから、楓に関して言えば、まだ大丈夫だと思っている。ヴァネッサが大きなため息を吐く原因。それは……5歩ぐらい後ろを怯えながらついてくるティオであった。
じゃんけん大会で、ペアになってからというもの、震えが止まらないティオ。大きな原因としたら、料理大会かもしれないが、それ以前に、まだ仲間として見られていないのでは、とヴァネッサは感じていた。
だからこそ、この機会にティオと仲良くなると、ヴァネッサは心の中で誓った。
「ティ、ティオ。そんなに離れてないで……」
「ひっ……」
「……うう」
ヴァネッサは強気な女の子に見えて、メンタルが弱かった。たった一言声をかけ、怯えられただけで泣きそうになっていた。
でも、頑張るって決めたヴァネッサは、涙目になりながらも、ティオを見る。
「ねぇ、あたいはそんなに怖くないから。大丈夫だから」
ヴァネッサはぎこちない笑顔でティオを見つめていた。それを見たティオは固まってしまった。ヴァネッサは、もしかして……と思ったりしたが、そんなことはなかった。
ぎこちないその笑顔は、ある意味怖い顔になっており、ティオはさらに顔を青くして、周りを通る魔女たちも、ヴァネッサを見て苦笑する。
ん、なんで苦笑されるの? と状況が分からず挙動不審になるヴァネッサを見て、ティオが一歩後ずさる。
「な、なんでだよ……」
肩を落とし、落ち込んでしまったヴァネッサ。誰もが同情しているのか、若干避けて通る姿は余りにも痛々しい。
そんな状況を無視して、一人の魔女がやってきた。
その魔女は、近くのお店でアルバイトをしているらしい小柄な魔女。
「あの、ヴァネッサさん。お仕事をお願いしたいんですけど……」
魔女の国に来る前、冒険者をやっていたヴァネッサは、ウトピアでは何でも屋のような仕事をしていた。
魔女の国では上位に入るヴァネッサだが、正直頭を使う仕事は向いていないと言い、政治関連には全く関わっていなかった。
ヴァネッサの役目としたら、魔女の国、ウトピアの安全を守ることと、困ってる魔女を助けることだ。
これも仕事の一環で、ふらついている時に声を直接掛けて依頼することもできるようになっていた。
「えっと……」
ヴァネッサはちらりとティオを見る。未だ怯えながらも、コクコクと首を縦に振った。どうやら仕事は仕方ないということらしい。
ヴァネッサは、しょうがないなと頭を掻きながら、仕事を引き受けた。
小柄な魔女が依頼した仕事は屋根の修理だった。小柄な魔女がバイトしている店の近くを怒り狂ったウィウィが通った際、運悪く破損していしまったらしい。
ウィウィは怒りながらも、そこらへんは考慮していたらしく、被害はこの場所以外になかった。
壊れた屋根は、小柄な魔女のバイト先であるお店と、ちょうど店の裏に位置する場所にある小さな物置小屋。
小さめといっても、高さは二メートル以上ある小屋で、主に店に出す商品がしまってある。
店に並べた商品はこの際気にせず、これから出す予定だったものが悪くなるのはお店として困る。そこでちょうど通りかかったヴァネッサに依頼が来たのだ。
「よっし、やるか」
急な仕事のため、道具は一切ない。普通なら取りに行くところだが、今回は急ぎの仕事のため、お店に道具を借りた。
はしごを使い、屋根に上るヴァネッサ。修繕用の木の板を魔法で形を整える。そして、木材を固定し、釘をハンマーで打ち込んでいく。打ち込んだあとは、雨等で釘が錆びて折れないように、魔力コーティングする。炎の魔法しか使えないヴァネッサには、燃やすことしかできないと思いがちだが、魔法は使い方次第。それに、魔力だけを付与するなら、炎しか使えなくてもあまり関係なかった。
そんなヴァネッサの仕事を見て、ティオも思うところがあった。
ティオも一応ライトワークの冒険者。ヴァネッサと似たような仕事をしていた。
(僕も何かやらないと……)
ティオは小柄な魔女に、屋根の修理をやると言った。小柄な魔女は困惑し、ヴァネッサもどうしようか戸惑う。だけど、何か行動を起こそうとしているティオを尊重して、店側の屋根の修理をお願いした。
恐る恐るはしごを上り、屋根の修理作業を始めるティオを暖かい目で見守りながら、ヴァネッサも作業をするのであった。
ティオは魔法が使えなくても、楓が渡してある【ディメンションリング】を持っており、そこから道具を取り出して、屋根の修理をおこなった。以外に便利なカオティックアーツを使い、屋根の修理をどんどん進めていくティオ。その作業っぷりに感心した小柄な魔女は、安心しながら店の中に入っていった。
***
作業開始から1時間ぐらいが経過した頃。魔法を駆使して作業を行っていたヴァネッサは、屋根の修理を完了させた。屋根から下りて、ティオの様子を見ると、まだ作業をしていた。
見た感じあと少しで終わりそう。小柄な魔女と店の店主の魔女に、もうすぐ終わると報告したら、お茶をくれたので、ティオの様子を見ながら、下で待っていた。
少しおっかなびっくりで作業を行っているが、それでも出来上がったものは丁寧で、ヴァネッサは感心する。
これが終わったら、どこか買い物でも行こう。そうしたら、もう少し仲良くなれるかな。
そう思いながら、ヴァネッサがティオを眺めていると、屋根の上にいるティオが額の汗を拭った。
「ふう、終わった!」
「おつかれさん。危ないからゆっくり降りて来いよ」
ヴァネッサの声に少し驚いて、ティオは少し緊張した顔つきになる。
危なっかしいなと思いながらティオの様子を見ていると、ティオははしごの近くで足を滑らせて、屋根から落ちた。
「うわぁ」
「危ない!」
咄嗟に動いたヴァネッサは、落ちてきたティオを優しく受け止める。
ティオをゆっくりと地面におろし、どこも怪我がないことを確認して、ヴァネッサは安堵のため息を吐いた。
「はぁーよかった……。ティオ、もっと気を付けないとダメだぞ」
「はい……その、ありがとうございます」
ティオの髪を荒く撫でたヴァネッサは、「そんな他人行儀じゃなくてもいいんだよ」とつぶやきながらそっぽを向く。
ちょっと嬉しかったようで、若干顔が赤かった。
落ちたことで店の店主の魔女と、小柄な魔女が駆け寄った。二人共、無事だったことを安堵して、修理をしてくれたことのお礼を言った。
仕事分のお金は、直接受け取りなので、店の店主の魔女が渡そうとする。ヴァネッサはそれを受け取ると、「また何かあったら声をかけてくれ」と言って、ティオと一緒にその場を去った。
少し賑わっている大通りに出る。ティオの手をつかみながら、ヴァネッサはよさげな店を探していると、楓とクレハが喫茶店にいるところが目に映る。
ちょっと羨ましいなと思いながら眺めていると、ティオがクイッと手を引っ張った。
「お姉ちゃん、あれ、あれなに!」
ティオが出店の商品を指さしながら、少し興奮気味に言ったが、それよりも「お姉ちゃん」と言われたことがヴァネッサは気になった。
「えっと……お姉ちゃんって?」
「さっき助けてもらったとき、なんかお姉ちゃんみたいだった」
「でも、クレハやフレアだっているだろう?」
「うーん、クレハ姉さんは、ずっと一緒に暮らしていた本当のお姉ちゃんって感じがするし、フレアさんはお母さんって感じがする。でも、お姉ちゃんは、近所の優しいお姉ちゃんって感じがしたの! だからお姉ちゃん」
家族まではいかなくても、少しなついてくれたことが嬉しくて、ヴァネッサは自然とにやけそうになる。それをグッとこらえながらも、ティオが質問した商品について答えてあげた。
(近所の優しいおねえちゃんか。でも、ティオと一緒にいると、プリシラと過ごしたあの日々を思い出すんだよな)
性別は違っても、昔いた妹の姿を重ねてしまう。もうなくなってしまったあの日々を取り戻したような感覚が、ヴァネッサは嬉しく感じた。
「ちょっと小腹も空いたし、どっか食べに行くか!」
「うん!」
ヴァネッサはティオの手を繋ぎながら、その日を楽しんだ。
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