カオティックアーツ
58:魔女の国の拘留所?
厳しくも激しい道のりを乗り越えて、ようやく他たどり着いた魔女の国。
獣王ガロフを完全に救えなかったことを後悔しながらも、ようやく目的地に辿り着いた楓たち一行の疲労がピークに達していた。
獣王ガロフとの激闘を行い、暗い山の中を駆け巡るのは並大抵の人間にできることではない。できたとしても、激しい疲れに襲われるはずだ。
それは楓たちも例外じゃない。
初めて魔女の国を見た楓たちは、世界茸の上という不思議な感触の地面と、広く青い空、目の前に見える神秘的な雰囲気を漂わせる大きな国に一瞬だけ疲れが吹き飛んだような気がしたが、それでも体は正直であり、体のあちこちが痛み出した。
「まずはゆっくり休みたいな~」
そんな楓のつぶやきに賛同した一同は、アクアの案内に従い魔女の国に入国したはずだった。
それがどうしたことか、楓とブラスとティオは拘留所に連行され、尋問を受けていた。
「さぁ、質問に答えてもらおう………好きなタイプの女性は?」
先ほどからくる質問は「ご趣味」「好きなタイプ」「好きな食べ物」など、まるでお見合いをしているような状態だった。
実際、審問官が少しだけ質問し、ちょっとだけ話したあと、すぐに次の審問官と交代するのだ。
頻繁に変わる審問官は全て女性であり、スタイルはよく、とても美しいにも関わらず、獲物に狙いを定めた肉食獣のような鋭い眼光を放っていた。
疲れている楓たちにとって、これは全く想定外であったが、よくよく考えてみれば仕方がないことだと、楓は納得している。それでも「はぁ」とため息を吐いてしまうのは、楓も疲れており、早く休みたいがこの状況から抜け出せないことを理解したからであろう。
この状況は、これから魔女の国に滞在する男に少しでもアピールしながら顔合わせをする場所であった。
「これは、お見合いっていうより婚活パーティーみたいな感じだな」
「婚活パーティー?」
審問官が交代している間に呟いた楓の言葉に、ティオは首を傾げる。
「ティオは別に知らなくてもいい。まだそういう年じゃないしな」
「ふ~ん、そうなんだ。僕もう疲れた~」
「それは俺もだが、これ……いつまでやるんだ」
「それは、相手が決まるまでじゃ!
わしとしては、複数人でもいいがのう。
のほほほほほほほほほほほ」
突如現れたアクアが最悪なことを口にした。
相手、つまり恋人でも見つけない限りここから出られないということだ。
一体何故こうなった。
楓たちはただ、魔女の国に来ただけなのに……
「おうおう、楓くん。何故こうなったって顔しておるな。
前にも言っておろう。魔女の国は男不足なのじゃ。子孫を残すため、魔女に理解があり、共存してくれる男は貴重なのじゃ!
だから……お願い。勘弁して!」
楓はニコリと笑い【インフィニティ・マークⅤ】を取り出そうとしたところで、ブラスが割り込んできた。
「絶対に、絶対に認めんぞぉぉぉぉぉぉ」
ブラスが机を叩き、声を荒げる。ブラスの鍛え上げられた筋肉による重い一撃が机を破壊する。まるで木が粉砕されたような壊れ方をしたが、机は鉄製。ブラスの力がどれだけ危険でデタラメかを感じ取った魔女たちが青ざめる。
「あのう、ブラスさん。何でそんなに怒っているのです?」
審問官の魔女は少しばかし震えながらも、突如怒り出したブラスに質問をする。
質問をした審問官をブラスが睨みつけると、更に顔を青くして俯いてしまう。身を縮こませる審問官として来た魔女の痛々しい姿は、見ていていいものではない。
だが、疲労のためか助ける気力もなく、教育的に見せていいものでもないと感じた楓は、そっとティオの目を塞ぐ。
「あの、お兄さん?」
「あーあんまり見てていいものじゃないからな」
「そうなんだ~」
あまり騒ぎを起こしても宿に向かうための時間が長引くだけだ。穏便に終わって欲しいと思う楓だが、ブラスの怒りは頂点に達しており、半ば暴走気味だった。
「かかか、楓に恋人だと。それもどんなやつか知らない女どもをだと。ふざけるな。
クレハと……まぁ、ヴァネッサも認めてやる。あの二人ならともかく、パッと出てきた女どもに楓はやらん!」
「お前は俺の母ちゃんか!」
「のほほほほほほ。楓の言うことはもっともじゃな。まるでお母さんのようじゃないか。
それで、それで本音は何なんじゃ。ほれ、言うてみ、ほれ、ほれ~」
「アクア……あんまりブラスを……」
「そんなの言うまでもない。俺は楓を愛してる。これが俺の本音だ。正直、誰にも渡したくない。俺と一緒に、二人っきりの人生を歩んで欲しい。
この気持ちがなくなったら、俺が俺でなくなってしまうぐらい、俺は本気だ。
楓、愛してるぅぅぅぅぅ」
「茶化すな」そう言おうとした楓の言葉は、ブラスの告白によりかき消される。
胸に宿る想いを楓の前で叫んだブラスは、楓に熱い視線を向けたあと、相手が恐怖するような形相で審問官の魔女たちとアクアを睨みつける。
アクアは予想以上の迫力に、若干引きつった笑みを浮かべ、審問官の魔女に至っては泣き出す始末。
「ティオ、そこでおとなしくしているんだぞ」
「何をするの、お兄さん」
不安そうな顔をするティオを安心させるかのように頭を撫でてやった楓は、【インフィニティ・マークⅤ】を取り出て、威力をブラスが死ぬほど痛いが死なない程度に調節し、ブラスに向けた。
「こんな場所でふざけた事を言ってんじゃねぇ」
「あはぁぁぁ、ご褒美ですぅぅぅぅ」
痛みに喘ぐブラスの姿は、一種のホラー映像のようにおぞましい雰囲気を漂わす。
その光景を見たティオは、いつもの光景とばかりに見ていたが、魔女たちは違った。
審問官の魔女たちは、楓をキチガイの魔物を倒した英雄を見ているかのような尊敬な眼差しを向け、アクアに至っては「これがB・Lなのか!」と歓喜する。
余りにも混沌と化した状況になったが、誰も止めるものはいなかった。
ブラスを締め上げた楓に魔女たちが群がる。
「あの、この怖い人を痛めつけてくれてありがとうございます。これ、どうぞ」
とある魔女が渡したのは一杯の水。
おそらく、変態を締め上げて疲れているだろうと労ってくれたに違いないと楓は思い、ありがたく頂戴した。
楓が水を飲み干す姿を見つめ、きゃっきゃしている魔女たち。ティオはお兄さんが取られたような複雑な気持ちになり、楓に抱きつく。
「ふぉぉ、これは兄ショタなシチュエーション。ナイスなのじゃ!」
「……アクア、お前ってやつは……」
ブラスに引けを取らない変態っぷりを発揮するアクア。この状況をどうにかしてくれと願う楓の想いが届いたのか、突如、拘留所が爆発した。
激しい轟音と侵入者が入ってきたことを示す警報音が鳴り響く。そして、楓たちがいる場所に向かって足音が近づいてきた。
勢いよく開かれ、現れたのはクレハとヴァネッサ。
「楓、大丈夫」
「あたいらが助けにきたぞ」
「ああ、助か……おい、ブラス」
捕まった仲間を助けに来たという感動的な場面なのに、ブラスが激しい痛みに喜ぶ声が邪魔をする。残念なことに、ブラスは開かれた扉にぶつかって、強い快感を得ていたようだ。
一同は思う。激しく思う。とても気持ち悪いと……
「……まぁいい。予想以上の変態は放っておくとしよう。
さて、クレアにヴァネッサよ。どうするのじゃ?」
「もちろん、楓を取り返す。こんなお見合い時見たことは間違っているんだよ!」
「ああそうだ。楓たちはこの国にとって賓客だ。丁重に扱えど、いきなりこんなの……その……あの……間違っていると思うぞ!」
「……ああ、ヴァネッサ。顔をそんなに赤らめて言うセリフじゃないと思うんじゃが……
一体何を考えておるのじゃ。このビッチめ!」
「ビビビ、ビッチ言うな!
変なことなんて考えてねぇよ。
ただ、楓たちも一緒に旅をした仲間だし、疲れているんだから早く休ませてやりてぇんだよ」
「んで、本音は、本音は一体何なんじゃ!」
「……【フレア・ランス】」
ヴァネッサが使用した炎の槍を放つ魔法【フレア・ランス】はアクア目掛けて突き進む。
それを予想してたのか、突如現れた水の柱によって、あっさりと消失してしまった。
「クソ、あいつにあたいの炎は相性が悪いか」
「のほほほほおほほほ。わしが水陰の魔女であることを忘れておったな」
「っち……こいつをどうにかしないと、この状況は……クレハ? どうした」
「ふふ、雷よ。我が敵に災厄を降り注げ【フードル・カラミティ】」
「ちょ、その魔法は!」
まるで女神のように微笑むクレハが放った魔法は雷の魔法。
自然界に干渉して相手に雷という災害を与える広範囲魔法だった。
相手が水陰の魔女のため放った雷の魔法であったが、クレハは知らなかったのだ。
水というものは不純物が含まれている為に電気を通すのであって、不純物の含まない純水は絶縁体である。
一瞬慌てた様子をしたアクアだが、水の防御魔法を使って難なく防いだ。
「のほ、怒っているのか。それもそうじゃろうな。想い人が取られるかもしれんからな!」
「ック」
悔しそうな顔をするクレハがアクアを睨みつける。ヴァネッサもスキあらばと攻撃を狙っている。
不敵な笑みを浮かべるアクアは、まさしく魔女。
それも、クレハやヴァネッサにとって最悪の敵でもあった。
恋敵というべきか、今までの敵よりも厄介極まりない。
「ふはぁ、悩んでるのう。その解決方法、わしが教えてやろうではないか!」
「元凶が何をいうか」
「そうだそうだ!」
厄介事に巻き込まれそうだと感じた楓は、一目散に逃げ出そうとして、審問官達に囲まれた。
ティオも楓にしっかりとしがみついているため、無理に進むことは不可能。
この事態を最後まで見届けなくてはならなくなった。
悲しいことに頼れる仲間は誰もいない。フレアは行方しれず。きっと魔女の国をご満喫しているに違いない。騒ぎの元凶、アクアとクレハ、ヴァネッサチームは敵対状態にあり、ブラスは未だに痛みに悶えて喜んでいる。
さて、どうなることやら。
「さぁ、第一回楓達、男の子争奪大会を開会することを宣言するのじゃ」
楓たちがゆっくりできるのはもう少し先になりそうだ。
獣王ガロフを完全に救えなかったことを後悔しながらも、ようやく目的地に辿り着いた楓たち一行の疲労がピークに達していた。
獣王ガロフとの激闘を行い、暗い山の中を駆け巡るのは並大抵の人間にできることではない。できたとしても、激しい疲れに襲われるはずだ。
それは楓たちも例外じゃない。
初めて魔女の国を見た楓たちは、世界茸の上という不思議な感触の地面と、広く青い空、目の前に見える神秘的な雰囲気を漂わせる大きな国に一瞬だけ疲れが吹き飛んだような気がしたが、それでも体は正直であり、体のあちこちが痛み出した。
「まずはゆっくり休みたいな~」
そんな楓のつぶやきに賛同した一同は、アクアの案内に従い魔女の国に入国したはずだった。
それがどうしたことか、楓とブラスとティオは拘留所に連行され、尋問を受けていた。
「さぁ、質問に答えてもらおう………好きなタイプの女性は?」
先ほどからくる質問は「ご趣味」「好きなタイプ」「好きな食べ物」など、まるでお見合いをしているような状態だった。
実際、審問官が少しだけ質問し、ちょっとだけ話したあと、すぐに次の審問官と交代するのだ。
頻繁に変わる審問官は全て女性であり、スタイルはよく、とても美しいにも関わらず、獲物に狙いを定めた肉食獣のような鋭い眼光を放っていた。
疲れている楓たちにとって、これは全く想定外であったが、よくよく考えてみれば仕方がないことだと、楓は納得している。それでも「はぁ」とため息を吐いてしまうのは、楓も疲れており、早く休みたいがこの状況から抜け出せないことを理解したからであろう。
この状況は、これから魔女の国に滞在する男に少しでもアピールしながら顔合わせをする場所であった。
「これは、お見合いっていうより婚活パーティーみたいな感じだな」
「婚活パーティー?」
審問官が交代している間に呟いた楓の言葉に、ティオは首を傾げる。
「ティオは別に知らなくてもいい。まだそういう年じゃないしな」
「ふ~ん、そうなんだ。僕もう疲れた~」
「それは俺もだが、これ……いつまでやるんだ」
「それは、相手が決まるまでじゃ!
わしとしては、複数人でもいいがのう。
のほほほほほほほほほほほ」
突如現れたアクアが最悪なことを口にした。
相手、つまり恋人でも見つけない限りここから出られないということだ。
一体何故こうなった。
楓たちはただ、魔女の国に来ただけなのに……
「おうおう、楓くん。何故こうなったって顔しておるな。
前にも言っておろう。魔女の国は男不足なのじゃ。子孫を残すため、魔女に理解があり、共存してくれる男は貴重なのじゃ!
だから……お願い。勘弁して!」
楓はニコリと笑い【インフィニティ・マークⅤ】を取り出そうとしたところで、ブラスが割り込んできた。
「絶対に、絶対に認めんぞぉぉぉぉぉぉ」
ブラスが机を叩き、声を荒げる。ブラスの鍛え上げられた筋肉による重い一撃が机を破壊する。まるで木が粉砕されたような壊れ方をしたが、机は鉄製。ブラスの力がどれだけ危険でデタラメかを感じ取った魔女たちが青ざめる。
「あのう、ブラスさん。何でそんなに怒っているのです?」
審問官の魔女は少しばかし震えながらも、突如怒り出したブラスに質問をする。
質問をした審問官をブラスが睨みつけると、更に顔を青くして俯いてしまう。身を縮こませる審問官として来た魔女の痛々しい姿は、見ていていいものではない。
だが、疲労のためか助ける気力もなく、教育的に見せていいものでもないと感じた楓は、そっとティオの目を塞ぐ。
「あの、お兄さん?」
「あーあんまり見てていいものじゃないからな」
「そうなんだ~」
あまり騒ぎを起こしても宿に向かうための時間が長引くだけだ。穏便に終わって欲しいと思う楓だが、ブラスの怒りは頂点に達しており、半ば暴走気味だった。
「かかか、楓に恋人だと。それもどんなやつか知らない女どもをだと。ふざけるな。
クレハと……まぁ、ヴァネッサも認めてやる。あの二人ならともかく、パッと出てきた女どもに楓はやらん!」
「お前は俺の母ちゃんか!」
「のほほほほほほ。楓の言うことはもっともじゃな。まるでお母さんのようじゃないか。
それで、それで本音は何なんじゃ。ほれ、言うてみ、ほれ、ほれ~」
「アクア……あんまりブラスを……」
「そんなの言うまでもない。俺は楓を愛してる。これが俺の本音だ。正直、誰にも渡したくない。俺と一緒に、二人っきりの人生を歩んで欲しい。
この気持ちがなくなったら、俺が俺でなくなってしまうぐらい、俺は本気だ。
楓、愛してるぅぅぅぅぅ」
「茶化すな」そう言おうとした楓の言葉は、ブラスの告白によりかき消される。
胸に宿る想いを楓の前で叫んだブラスは、楓に熱い視線を向けたあと、相手が恐怖するような形相で審問官の魔女たちとアクアを睨みつける。
アクアは予想以上の迫力に、若干引きつった笑みを浮かべ、審問官の魔女に至っては泣き出す始末。
「ティオ、そこでおとなしくしているんだぞ」
「何をするの、お兄さん」
不安そうな顔をするティオを安心させるかのように頭を撫でてやった楓は、【インフィニティ・マークⅤ】を取り出て、威力をブラスが死ぬほど痛いが死なない程度に調節し、ブラスに向けた。
「こんな場所でふざけた事を言ってんじゃねぇ」
「あはぁぁぁ、ご褒美ですぅぅぅぅ」
痛みに喘ぐブラスの姿は、一種のホラー映像のようにおぞましい雰囲気を漂わす。
その光景を見たティオは、いつもの光景とばかりに見ていたが、魔女たちは違った。
審問官の魔女たちは、楓をキチガイの魔物を倒した英雄を見ているかのような尊敬な眼差しを向け、アクアに至っては「これがB・Lなのか!」と歓喜する。
余りにも混沌と化した状況になったが、誰も止めるものはいなかった。
ブラスを締め上げた楓に魔女たちが群がる。
「あの、この怖い人を痛めつけてくれてありがとうございます。これ、どうぞ」
とある魔女が渡したのは一杯の水。
おそらく、変態を締め上げて疲れているだろうと労ってくれたに違いないと楓は思い、ありがたく頂戴した。
楓が水を飲み干す姿を見つめ、きゃっきゃしている魔女たち。ティオはお兄さんが取られたような複雑な気持ちになり、楓に抱きつく。
「ふぉぉ、これは兄ショタなシチュエーション。ナイスなのじゃ!」
「……アクア、お前ってやつは……」
ブラスに引けを取らない変態っぷりを発揮するアクア。この状況をどうにかしてくれと願う楓の想いが届いたのか、突如、拘留所が爆発した。
激しい轟音と侵入者が入ってきたことを示す警報音が鳴り響く。そして、楓たちがいる場所に向かって足音が近づいてきた。
勢いよく開かれ、現れたのはクレハとヴァネッサ。
「楓、大丈夫」
「あたいらが助けにきたぞ」
「ああ、助か……おい、ブラス」
捕まった仲間を助けに来たという感動的な場面なのに、ブラスが激しい痛みに喜ぶ声が邪魔をする。残念なことに、ブラスは開かれた扉にぶつかって、強い快感を得ていたようだ。
一同は思う。激しく思う。とても気持ち悪いと……
「……まぁいい。予想以上の変態は放っておくとしよう。
さて、クレアにヴァネッサよ。どうするのじゃ?」
「もちろん、楓を取り返す。こんなお見合い時見たことは間違っているんだよ!」
「ああそうだ。楓たちはこの国にとって賓客だ。丁重に扱えど、いきなりこんなの……その……あの……間違っていると思うぞ!」
「……ああ、ヴァネッサ。顔をそんなに赤らめて言うセリフじゃないと思うんじゃが……
一体何を考えておるのじゃ。このビッチめ!」
「ビビビ、ビッチ言うな!
変なことなんて考えてねぇよ。
ただ、楓たちも一緒に旅をした仲間だし、疲れているんだから早く休ませてやりてぇんだよ」
「んで、本音は、本音は一体何なんじゃ!」
「……【フレア・ランス】」
ヴァネッサが使用した炎の槍を放つ魔法【フレア・ランス】はアクア目掛けて突き進む。
それを予想してたのか、突如現れた水の柱によって、あっさりと消失してしまった。
「クソ、あいつにあたいの炎は相性が悪いか」
「のほほほほおほほほ。わしが水陰の魔女であることを忘れておったな」
「っち……こいつをどうにかしないと、この状況は……クレハ? どうした」
「ふふ、雷よ。我が敵に災厄を降り注げ【フードル・カラミティ】」
「ちょ、その魔法は!」
まるで女神のように微笑むクレハが放った魔法は雷の魔法。
自然界に干渉して相手に雷という災害を与える広範囲魔法だった。
相手が水陰の魔女のため放った雷の魔法であったが、クレハは知らなかったのだ。
水というものは不純物が含まれている為に電気を通すのであって、不純物の含まない純水は絶縁体である。
一瞬慌てた様子をしたアクアだが、水の防御魔法を使って難なく防いだ。
「のほ、怒っているのか。それもそうじゃろうな。想い人が取られるかもしれんからな!」
「ック」
悔しそうな顔をするクレハがアクアを睨みつける。ヴァネッサもスキあらばと攻撃を狙っている。
不敵な笑みを浮かべるアクアは、まさしく魔女。
それも、クレハやヴァネッサにとって最悪の敵でもあった。
恋敵というべきか、今までの敵よりも厄介極まりない。
「ふはぁ、悩んでるのう。その解決方法、わしが教えてやろうではないか!」
「元凶が何をいうか」
「そうだそうだ!」
厄介事に巻き込まれそうだと感じた楓は、一目散に逃げ出そうとして、審問官達に囲まれた。
ティオも楓にしっかりとしがみついているため、無理に進むことは不可能。
この事態を最後まで見届けなくてはならなくなった。
悲しいことに頼れる仲間は誰もいない。フレアは行方しれず。きっと魔女の国をご満喫しているに違いない。騒ぎの元凶、アクアとクレハ、ヴァネッサチームは敵対状態にあり、ブラスは未だに痛みに悶えて喜んでいる。
さて、どうなることやら。
「さぁ、第一回楓達、男の子争奪大会を開会することを宣言するのじゃ」
楓たちがゆっくりできるのはもう少し先になりそうだ。
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