カオティックアーツ
57:獣王の襲撃、家族の愛
「GAAAAAAAAAAAAA」
暴れだす獣王の攻撃により、地面が抉れ、木々が倒れて地形すらめちゃくちゃにぶち壊す。神獣、月を食らう獣、生ける災害と呼ばれるクラスの魔物【ライオネイラ】。それがオルタルクの技術により魔改造され、聖呪痕によって凶暴化したその姿は、獣の王と呼ぶに相応しい威厳と脅威を放っていた。
ヴァネッサが炎の魔法で攻撃しても大したダメージが与えられず、クレハが束縛魔法を放って獣本来の速さで避けられてしまう。
今まで戦ってきた中で最強と呼ぶに相応しい敵が楓たちに襲いかかってきた。
獣王が楓に向かって駆け抜け、腕を振りおろし引き裂こうとした。楓の守るため、新たに作成していたブラス専用のカオティックアーツ【アイギス】を持って、ブラスが獣王の前に割り込んだ。
【アイギス】はギリシャ神話に登場する、あらゆる邪悪、災厄を振り払う聖なる楯だ。神話ではメデューサの首が埋め込まれており、相手を石化する能力をもつ。
その楯をイメージして作成したが、石化能力という非現実的なことまでは再現できていない。相手の力を利用して、最低のチカラで守りきる、降りかかる最悪を振り払うためのカオティックアーツだ。
獣王の攻撃がブラスの持つ【アイギス】に当たった。本来ならば、圧倒的な力を持つ獣王の攻撃をブラスが防げるはずがないのだが、獣王の攻撃をエネルギー変換、そのエネルギーを用いて相手の力を相殺するように楯が機能する。
完全に攻撃を考えない、防御特化型カオティックアーツ【アイギス】により、ブラスは獣王の攻撃を防ぎ切った。
攻撃を防がれても尚、獣王のは激し攻撃がブラスを襲う。元聖騎士ということもあり、持ち前の反射神経と聖騎士時代に培った技術により、獣王の攻撃を防ぎ続ける。
「ブラス、ちょっと熱いけど耐えてみせな!」
ブラスを攻撃し続け、周りに気が向いていないことをチャンスだと思ったヴァネッサが、獣王に向けて炎の魔法を詠唱する。
「詠唱は柄じゃねぇが、炎よ、槍となりて、突き抜けろ【フレア・ランス】」
炎の槍が獣王に向かって一直線に進んでいく。【フレア・ランス】は貫通能力のある炎の魔法だ。普通の攻撃で傷つかない獣王でも、この攻撃なら大きなダメージを与えられるはずだった。だからこそ、ヴァネッサはありったけの魔力を使って放ったのだ。
激しく燃えているが、それで言って綺麗な槍の形をしたそれに気がついた獣王は、野生の勘なのか、危険を感じたらしく、ブラスの楯を利用して大きく後ろに飛んだ。
それを分かっていたのか、ヴァネッサが魔力で操作して、【フレア・ランス】の軌道が変わる。再び獣王に襲いかかった。
「GAAAAAAAAAAAAA」
獣王の鋭い爪を聖呪痕から放たれる黒い力が覆い尽くす。漆黒に染まった爪で、【フレア・ランス】を切り裂いた。霧散する炎の槍を見た楓たちは、獣王の脅威を感じた。
「獣王に生半可な攻撃は喰らわないが、その驚異的な能力の原因は聖呪痕に侵食されているからだ。今持っているものであの呪いを解くことはできないが、あの黒い魔力を吹き飛ばすことはできるんだ。どうすればいい。考えろ……」
「私たちがあいつを束縛する。私だけじゃ無理でも、ヴァネッサやブラス、ティオにフレアさんがいれば行けるよ」
「……わかった。束縛魔法はクレハ、お前しか使えん。みんなでサポートしてくれ!」
「「「「了解!」」」」
獣王は楓たちが何か作戦を立てようとしていることはわかったが、圧倒的な力でねじ伏せれば問題ないと思ったので、再び楓に向かって攻撃を繰り出した。
先ほどと同様に、ブラスが割り込んで楓を守る。【アイギス】は最小の力で相手の攻撃を無力化出来る。それを利用し、前に押し出すような力を加えて、楯で獣王を押し返した。
後ろに仰け反った獣王に一瞬のスキが出来る。ブラスと獣王の間に、フレアが割り込み、魔法を放った。
「かの場所に力集まりて、輝き出せ【ライティング】」
「ガァァアァァァァァァァ、メガ……マエガミエナイ。ガァァァア」
暗闇の中に突然現れた強烈な輝きに、獣王の視覚が奪われる。目を抑えて、フラつく獣王にティオの矢が放たれた。
風を切るような音をたて、獣王の足をめがけて進んでく。
視力を奪われても、超人的な聴力をもつ獣王は矢の軌道を感じ取り、横に避けるように飛んだ。
その先にヴァネッサが魔法を準備し、待ち構えていたとも知らずに……
「その聴力もいただくぜ。爆ぜよ!」
轟音を鳴り響かせ、獣王の近くで小さな炎が爆ぜた。
獣王の超人的身体能力と聖呪痕の力により、致命傷は受けなかったものの、激しい音によって聴力までもが奪われる。
「今だ、クレハ!」
「ふふ、ナイスだよ、ヴァネッサ。私に任せなさい。敵を囲う木々たちよ。束縛せよ【ティムバー・リストリクションズ】」
暗闇により、影の束縛魔法が使えない状態だった為か、クレハは木の束縛魔法を放つ。
木々が獣王に向かって伸びていき、獣王を束縛、身動き一つ取れない状況を作った。
「あとは俺の番だ!」
楓はヴァネッサを救うときに使用したカオティックアーツ【アペレフセロスィ】を装備して、獣王に向かって走り出す。
これで獣王を止められると誰もが思った。
しかし、全員が獣王の力を見誤った。
持ち前の怪力で、自身を束縛している木を引きちぎった。暴れまわっている時に散々木をなぎ倒している獣王だ。木の束縛魔法である【ティムバー・リストリクションズ】で完全に動きを封じられるはずがなかったのだ。
次第に戻ってきた視力で周りを確認した獣王が楓に気がつく。
突然、力で束縛魔法を打ち破った為、楓は既に獣王の近くまで来てしまっていた。
攻撃されればどうやっても逃げられない状況に楓は恐怖した。
やばい……失敗した……
今、楓を守るためのは何一つない。それに、前に出てしまっているため、ブラスが割り込んでくれることもない。
獣王はこれで最後だと言わんばかりに楓に向かって攻撃を開始しようとした。
楓は自分に向かってくる獣王の攻撃を対処しようにも、何もできない。
強力な道具を作成をできても、いくら天才的な知能を持っていようとも、楓はただの人間だ。
この状況をどうすることもできない楓だが、それでも諦められなかった。カノンのために、自分が命を落としてしまう可能性があるとしても、一撃を食らわせないといけないんだと思った楓は、自滅覚悟で前に出ようとした。
その時、楓の前に一つの影が飛び出した。
それを見た瞬間、獣王の攻撃が止まる。
「カノン……」
飛び出してきたのはカノンだった。いくら聖呪痕に侵食されようとも、娘を愛する父親の気持ちを塗りつぶすことはできなかったようだ。
狂気に飲み込まれた状態だった獣王の瞳に少しだけ、光が宿る。
大切な娘を殺してしまうことなんてできるはずがない。ガロフがオルタルクスによって特殊聖騎士にされていたとしても、それで娘と敵対関係になっていたとしても、娘を想う気持ちに変化があるわけではない。
ガロフは大切な娘を、カノンを家族として愛している。
大切な、本当に大切なカノンが目の前に飛び出してきたのだ。
大切な人を守るために……
勇気を振り絞って前に出てきた娘引き裂き、殺すことの出来る親がどこにいようか。
そんなものはどこにもいない。ガロフも例外じゃない。
獣王と化しているガロフの瞳に涙がこぼれる。攻撃をやめたガロフは、飛びかかってきたカノンを優しく抱き上げて、楓の頭の上に乗っけた。
「スコシダケ、ショウキ二モドレタ。
オレハヒトリノチチオヤダ。ムスメニテヲアゲルコトナンテデキヤシナイ。
オレニヤドルクロイノヲドウニカデキルノダロ。ヒトオモイニヤッテクレ」
「わかった。今は完全に救うことができないが、必ずあんたを救ってやる。
ガロフ、あんたはカノンの父親なんだから」
「……ソノトキガクルノヲタノシミニシテイル。オッテノホウモオレニマカセロ。
カノンヲ……タノンダゾ」
「……ああ、頼まれた」
楓は【アペレフセロスィ】をガロフに向けて放ったのだった。
***
ガロフを聖呪痕の黒い魔力から解き放った楓たちは、オルスマウンテンを駆けていた。
魔女の国に向かっている最中にアクアから連絡が入り、指定の場所まできて欲しいと言われたからだ。
そこは、オルスマウンテンを反対側に抜けていく道であり、頂上から離れてしまう。
でも、アクアにもなにか考えがあるようだったので、指示に向かって進んでいった。
その場所にたどり着いたのは、日が少しだけ顔を出してきた頃だった。
目的の場所にはアクアが、何かしらの魔法を準備して待機していた。
「やぁ、皆の衆。ちと遅かったのう」
「すまんな。ここまで距離があったし、ちょっと大変なこともあったからな」
「まぁ、皆が無事でなりよりじゃ。
ヴァネッサも何か進展があったか聞きたいからのう。のほほほほほほほ」
「う、うっせぇ。それよりなんでここに連れてきたんだよ!」
興奮気味にアクアに突っかかるヴァネッサを適当にあしらって、アクアが説明してくれた。
「ここいらに、転移用の魔法を準備しておったのじゃ。外から入るなら聖騎士に襲われるからのう」
「でも、何も感じないわよ?」
「ほうほう、クレハとやら。お前はわからんか。それも無理はないだろうな。これはワシの特別な魔法じゃけ。
水陰の魔女を舐めてもらっちゃ困るのう」
「魔力にまったく乱れがないってこと。凄い……」
「ここなら距離が近いからそんなに魔力消費がないし、問題なく転移できると思うのじゃ!」
「「ぶっつけ本番!」」
魔女であるクレハとフレアは、アクアの行動に驚いた。楓やブラス、ティオはよく分からずにキョトンとしているが、クレハとフレアは若干震えている。
「まぁアクアだし、なんとかなるんじゃねぇ」
「ヴァ、ヴァ、ヴァネッサは怖くないの!」
「こいつは天才だしな」
「でも、転移系の魔法って、下手すると岩の中とかに……」
クレハの言葉で、アクア意外の全員が引きつった顔をした。
「それじゃあ出発じゃ!」
「「「「「「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇ」」」」」」
アクアが問答無用で転移魔法を発動した。
魔法が発動すると空間が揺れた。水の中に石を投げ込んだ時に水が波立つように揺れた空間が次第に落ち着いてくる。
そして、ふわっとした地面の感覚と空に囲まれたような場所に立っていた。
目の前に映る立派な塀。おそらくあれが魔女の国だとヴァネッサとアクア意外の者は思った。
切り替わった景色と不思議な感覚、そして立派な魔女の国を見て驚いている楓たちにアクアはこういったのだ。
「ようこそ、魔女の国へ」
暴れだす獣王の攻撃により、地面が抉れ、木々が倒れて地形すらめちゃくちゃにぶち壊す。神獣、月を食らう獣、生ける災害と呼ばれるクラスの魔物【ライオネイラ】。それがオルタルクの技術により魔改造され、聖呪痕によって凶暴化したその姿は、獣の王と呼ぶに相応しい威厳と脅威を放っていた。
ヴァネッサが炎の魔法で攻撃しても大したダメージが与えられず、クレハが束縛魔法を放って獣本来の速さで避けられてしまう。
今まで戦ってきた中で最強と呼ぶに相応しい敵が楓たちに襲いかかってきた。
獣王が楓に向かって駆け抜け、腕を振りおろし引き裂こうとした。楓の守るため、新たに作成していたブラス専用のカオティックアーツ【アイギス】を持って、ブラスが獣王の前に割り込んだ。
【アイギス】はギリシャ神話に登場する、あらゆる邪悪、災厄を振り払う聖なる楯だ。神話ではメデューサの首が埋め込まれており、相手を石化する能力をもつ。
その楯をイメージして作成したが、石化能力という非現実的なことまでは再現できていない。相手の力を利用して、最低のチカラで守りきる、降りかかる最悪を振り払うためのカオティックアーツだ。
獣王の攻撃がブラスの持つ【アイギス】に当たった。本来ならば、圧倒的な力を持つ獣王の攻撃をブラスが防げるはずがないのだが、獣王の攻撃をエネルギー変換、そのエネルギーを用いて相手の力を相殺するように楯が機能する。
完全に攻撃を考えない、防御特化型カオティックアーツ【アイギス】により、ブラスは獣王の攻撃を防ぎ切った。
攻撃を防がれても尚、獣王のは激し攻撃がブラスを襲う。元聖騎士ということもあり、持ち前の反射神経と聖騎士時代に培った技術により、獣王の攻撃を防ぎ続ける。
「ブラス、ちょっと熱いけど耐えてみせな!」
ブラスを攻撃し続け、周りに気が向いていないことをチャンスだと思ったヴァネッサが、獣王に向けて炎の魔法を詠唱する。
「詠唱は柄じゃねぇが、炎よ、槍となりて、突き抜けろ【フレア・ランス】」
炎の槍が獣王に向かって一直線に進んでいく。【フレア・ランス】は貫通能力のある炎の魔法だ。普通の攻撃で傷つかない獣王でも、この攻撃なら大きなダメージを与えられるはずだった。だからこそ、ヴァネッサはありったけの魔力を使って放ったのだ。
激しく燃えているが、それで言って綺麗な槍の形をしたそれに気がついた獣王は、野生の勘なのか、危険を感じたらしく、ブラスの楯を利用して大きく後ろに飛んだ。
それを分かっていたのか、ヴァネッサが魔力で操作して、【フレア・ランス】の軌道が変わる。再び獣王に襲いかかった。
「GAAAAAAAAAAAAA」
獣王の鋭い爪を聖呪痕から放たれる黒い力が覆い尽くす。漆黒に染まった爪で、【フレア・ランス】を切り裂いた。霧散する炎の槍を見た楓たちは、獣王の脅威を感じた。
「獣王に生半可な攻撃は喰らわないが、その驚異的な能力の原因は聖呪痕に侵食されているからだ。今持っているものであの呪いを解くことはできないが、あの黒い魔力を吹き飛ばすことはできるんだ。どうすればいい。考えろ……」
「私たちがあいつを束縛する。私だけじゃ無理でも、ヴァネッサやブラス、ティオにフレアさんがいれば行けるよ」
「……わかった。束縛魔法はクレハ、お前しか使えん。みんなでサポートしてくれ!」
「「「「了解!」」」」
獣王は楓たちが何か作戦を立てようとしていることはわかったが、圧倒的な力でねじ伏せれば問題ないと思ったので、再び楓に向かって攻撃を繰り出した。
先ほどと同様に、ブラスが割り込んで楓を守る。【アイギス】は最小の力で相手の攻撃を無力化出来る。それを利用し、前に押し出すような力を加えて、楯で獣王を押し返した。
後ろに仰け反った獣王に一瞬のスキが出来る。ブラスと獣王の間に、フレアが割り込み、魔法を放った。
「かの場所に力集まりて、輝き出せ【ライティング】」
「ガァァアァァァァァァァ、メガ……マエガミエナイ。ガァァァア」
暗闇の中に突然現れた強烈な輝きに、獣王の視覚が奪われる。目を抑えて、フラつく獣王にティオの矢が放たれた。
風を切るような音をたて、獣王の足をめがけて進んでく。
視力を奪われても、超人的な聴力をもつ獣王は矢の軌道を感じ取り、横に避けるように飛んだ。
その先にヴァネッサが魔法を準備し、待ち構えていたとも知らずに……
「その聴力もいただくぜ。爆ぜよ!」
轟音を鳴り響かせ、獣王の近くで小さな炎が爆ぜた。
獣王の超人的身体能力と聖呪痕の力により、致命傷は受けなかったものの、激しい音によって聴力までもが奪われる。
「今だ、クレハ!」
「ふふ、ナイスだよ、ヴァネッサ。私に任せなさい。敵を囲う木々たちよ。束縛せよ【ティムバー・リストリクションズ】」
暗闇により、影の束縛魔法が使えない状態だった為か、クレハは木の束縛魔法を放つ。
木々が獣王に向かって伸びていき、獣王を束縛、身動き一つ取れない状況を作った。
「あとは俺の番だ!」
楓はヴァネッサを救うときに使用したカオティックアーツ【アペレフセロスィ】を装備して、獣王に向かって走り出す。
これで獣王を止められると誰もが思った。
しかし、全員が獣王の力を見誤った。
持ち前の怪力で、自身を束縛している木を引きちぎった。暴れまわっている時に散々木をなぎ倒している獣王だ。木の束縛魔法である【ティムバー・リストリクションズ】で完全に動きを封じられるはずがなかったのだ。
次第に戻ってきた視力で周りを確認した獣王が楓に気がつく。
突然、力で束縛魔法を打ち破った為、楓は既に獣王の近くまで来てしまっていた。
攻撃されればどうやっても逃げられない状況に楓は恐怖した。
やばい……失敗した……
今、楓を守るためのは何一つない。それに、前に出てしまっているため、ブラスが割り込んでくれることもない。
獣王はこれで最後だと言わんばかりに楓に向かって攻撃を開始しようとした。
楓は自分に向かってくる獣王の攻撃を対処しようにも、何もできない。
強力な道具を作成をできても、いくら天才的な知能を持っていようとも、楓はただの人間だ。
この状況をどうすることもできない楓だが、それでも諦められなかった。カノンのために、自分が命を落としてしまう可能性があるとしても、一撃を食らわせないといけないんだと思った楓は、自滅覚悟で前に出ようとした。
その時、楓の前に一つの影が飛び出した。
それを見た瞬間、獣王の攻撃が止まる。
「カノン……」
飛び出してきたのはカノンだった。いくら聖呪痕に侵食されようとも、娘を愛する父親の気持ちを塗りつぶすことはできなかったようだ。
狂気に飲み込まれた状態だった獣王の瞳に少しだけ、光が宿る。
大切な娘を殺してしまうことなんてできるはずがない。ガロフがオルタルクスによって特殊聖騎士にされていたとしても、それで娘と敵対関係になっていたとしても、娘を想う気持ちに変化があるわけではない。
ガロフは大切な娘を、カノンを家族として愛している。
大切な、本当に大切なカノンが目の前に飛び出してきたのだ。
大切な人を守るために……
勇気を振り絞って前に出てきた娘引き裂き、殺すことの出来る親がどこにいようか。
そんなものはどこにもいない。ガロフも例外じゃない。
獣王と化しているガロフの瞳に涙がこぼれる。攻撃をやめたガロフは、飛びかかってきたカノンを優しく抱き上げて、楓の頭の上に乗っけた。
「スコシダケ、ショウキ二モドレタ。
オレハヒトリノチチオヤダ。ムスメニテヲアゲルコトナンテデキヤシナイ。
オレニヤドルクロイノヲドウニカデキルノダロ。ヒトオモイニヤッテクレ」
「わかった。今は完全に救うことができないが、必ずあんたを救ってやる。
ガロフ、あんたはカノンの父親なんだから」
「……ソノトキガクルノヲタノシミニシテイル。オッテノホウモオレニマカセロ。
カノンヲ……タノンダゾ」
「……ああ、頼まれた」
楓は【アペレフセロスィ】をガロフに向けて放ったのだった。
***
ガロフを聖呪痕の黒い魔力から解き放った楓たちは、オルスマウンテンを駆けていた。
魔女の国に向かっている最中にアクアから連絡が入り、指定の場所まできて欲しいと言われたからだ。
そこは、オルスマウンテンを反対側に抜けていく道であり、頂上から離れてしまう。
でも、アクアにもなにか考えがあるようだったので、指示に向かって進んでいった。
その場所にたどり着いたのは、日が少しだけ顔を出してきた頃だった。
目的の場所にはアクアが、何かしらの魔法を準備して待機していた。
「やぁ、皆の衆。ちと遅かったのう」
「すまんな。ここまで距離があったし、ちょっと大変なこともあったからな」
「まぁ、皆が無事でなりよりじゃ。
ヴァネッサも何か進展があったか聞きたいからのう。のほほほほほほほ」
「う、うっせぇ。それよりなんでここに連れてきたんだよ!」
興奮気味にアクアに突っかかるヴァネッサを適当にあしらって、アクアが説明してくれた。
「ここいらに、転移用の魔法を準備しておったのじゃ。外から入るなら聖騎士に襲われるからのう」
「でも、何も感じないわよ?」
「ほうほう、クレハとやら。お前はわからんか。それも無理はないだろうな。これはワシの特別な魔法じゃけ。
水陰の魔女を舐めてもらっちゃ困るのう」
「魔力にまったく乱れがないってこと。凄い……」
「ここなら距離が近いからそんなに魔力消費がないし、問題なく転移できると思うのじゃ!」
「「ぶっつけ本番!」」
魔女であるクレハとフレアは、アクアの行動に驚いた。楓やブラス、ティオはよく分からずにキョトンとしているが、クレハとフレアは若干震えている。
「まぁアクアだし、なんとかなるんじゃねぇ」
「ヴァ、ヴァ、ヴァネッサは怖くないの!」
「こいつは天才だしな」
「でも、転移系の魔法って、下手すると岩の中とかに……」
クレハの言葉で、アクア意外の全員が引きつった顔をした。
「それじゃあ出発じゃ!」
「「「「「「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇ」」」」」」
アクアが問答無用で転移魔法を発動した。
魔法が発動すると空間が揺れた。水の中に石を投げ込んだ時に水が波立つように揺れた空間が次第に落ち着いてくる。
そして、ふわっとした地面の感覚と空に囲まれたような場所に立っていた。
目の前に映る立派な塀。おそらくあれが魔女の国だとヴァネッサとアクア意外の者は思った。
切り替わった景色と不思議な感覚、そして立派な魔女の国を見て驚いている楓たちにアクアはこういったのだ。
「ようこそ、魔女の国へ」
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