カオティックアーツ

日向 葵

31:港町に向かうために

 港町【アパダリア】は、楓たちが拠点としていた場所からは遠かった。
 そのため、馬車が必要となる。
 しかし、聖騎士襲撃の時に、近くの村に、魔女がいるということがばれてしまった楓たちは、まだバレていないであろう、少し離れた村に向かうことにした。

 「歩くのしんどいよ~」

 「だからって、愚痴ばっかり言うなよ。魔物だっているのにさ」

 「やー、水浴びしたい。ベッドで寝たいよ」

 「クレハ姉さん。愚痴ばかりだと気分までしんどくなるよ? もっとポジディブに行こうよ」

 「ティオに言われちゃダメだろ」

 「ちょ、楓! それはひどくない!」

 「まぁ、クレハが一番おこちゃまってことかな」

 「フレアさんまで!」

 フレアの一言で、クレハ以外全員が笑った。
 疲れも溜まっていたが、笑うことで、少し明るくなった楓たち。
 そのあとも、魔物を倒しながら離れた村に向かって歩いて行った。



 「きゃああああ」

 あと半日歩けば到着できるあたりの場所で、悲鳴が聞こえた。
 悲鳴は、はっきりと聞こえており、距離が近いことはわかった。

 「誰かが襲われているのかもしれん。みんな行くぞ」

 「フレアさん。これを。クレハも持っておけ」

 楓は、戦闘に入ることを予想して【インフィニティ・マークⅣ】を渡す。
 魔法を使うのは最終手段。
 しかし、魔法が使えないフレアとフレアは戦えなかった。
 理由は、【ライトワーク】の拠点が燃えたた事で武器がなくなったからだ。
 他の人と共同討伐することがない限りは、魔法を用いて戦ってきたフレアとクレハだった。
 また、聖騎士との戦いでは、魔法がメインとなっていたため、魔法なし用の武器を持ってくることまで考えられなかったのだ。

 そこで、楓のディメンションリングから出したのが【インフィニティ・マークⅣ】だ。
 これはクレハに教えてもらった魔法技術と、楓なりに解析してみた【ハーミットリング】の調査結果をもとに作成した武器だ。
 この武器には2種類の使い方がある。
 それは、今までと同じように周囲の暗黒物質をエネルギーに変換して発射する方法。
 もう一つが、魔力を込めることで弾を生成し、発射する方法だ。
 更に、本体や弾には、魔力などのエネルギーを隠蔽するコーティングがされているため、魔法と間違われることがない武器として製作したものだった。

 「ブラス。基本的には俺と前衛で戦う。ティオとクレハ、フレアさんは、襲われている人を守ってほしい」

 「まぁ、私やクレハの戦力は落ちているからな。楓の武器で多少戦えるぐらいだし、しょうがない。後ろは任せて、存分に戦え!」

 「「了解!」」

 そして、悲鳴が聞こえた方に走っていった。
 向かった先にあったのは、一台の馬車だった。
 近くには、護衛役立っただろう人が倒れていた。
 おそらく死んでいるだろうと楓は思った。
 そして、馬車を攻撃しているのが、カノンと似ている、獣型の魔物だった。

 「あれは、【キラーパンサー】です。少し小さめですが、獰猛で危険です。気をつけてください」

 「ああ、わかったよ。ありがとな、ティオ」

 「絶対に無理だけはしないでください。僕が援護しますから!」

 ブラスと楓は頷いて、【キラーパンサー】討伐のために動き出した。

 【キラーパンー】の数は15体。
 倒せない数ではなかったが、それでもギリギリだった。
 【キラーパンサー】たちの動くスピードが早く、小さいため、攻撃を当てるのが難しい。
 ティオの矢も全然当たらない。
 全てかわされてしまった。
 そのため、ブラスと楓は苦戦していた。

 「楓。俺が動きを抑えるから、お前が狙い撃て」

 「すまない、任せた」

 飛びかかってきた【キラーパンサー】をブラスが盾でガードする。
 そして、動きを抑えようとするが、【キラーパンサー】の離脱する方が早く、なかなか動きを抑えられなかった。

 「ブラス、【キラーパンサー】を蹴り上げろ。空中なら回避できないはずだ」

 「わかった。任せろ!」

 また、飛びかかってきた【キラーパンサー】を盾で受け止めて、上に蹴り上げる。

 そこまで高く上がらなかったが、動きが制限された【キラーパンサー】に狙いを定めて、【インフィニティ・マークⅣ】で打ち抜く。
 打ち抜かれた、【キラーパンサー】は、攻撃を受けたことにより、動きが鈍った。
 止めとばかりに、ブラスが剣を振り下ろす。
 そこで、一体の【キラーパンサー】を討伐することに成功した。

 それからは、比較的楽に討伐することができた。
 【キラーパンサー】の攻撃は短調で、飛びかかることしかしない。
 それを、蹴り上げ、打ち抜き、振り下ろす。
 この作業の繰り返しにより、【キラーパンサー】を討伐できた。

 「こっちは終わったが、馬車のほうはどうだった?」

 「こっちは大丈夫。女性が一人乗っているだけだった。でも、護衛の冒険者は死んじゃって……」

 馬車の奥から、女性が一人出てきた。
 髪の色は金色で、長い髪を後ろで三つ編みに縛っていた。
 メガネをかけており、服装は裕福そうな感じがする。
 でも、よく見ると、とても実用的で、ある程度の物理攻撃なら防げる仕様となっている、ちょっと不思議な服だった。

 「助けていただいて、ありがとうございます。私の名前は、レイン・アルハルト。商人をしています。それで……ジロジロ見られると恥ずかしんですけど」

 「あ、ごめん」

 「ちょっと、楓! 女性をジロジロ見るなんて失礼じゃない!」

 「その服が気になったんだよ!」

 「へぇ、楓って、こういう服装が好みなの?」

 「別にそういうわけじゃなくて、見た目が普通なのに、よく見ると実用的な感じが気になったんだよ」

 「じ、実用的ってなによ!」

 顔を赤くするクレハ。
 一体何を想像しているかわからない楓だった。

 「いや、その服の性能ってどんな感じなんですか? 物理防御に適していそうで、そう簡単にやられない仕様ですね」

 「あら、わかりますの。この服はすごいんですよ。商人って、各地を旅するんで危険が多いんですよね。でも、堅苦し防具なんてつけたくないじゃないですか。だから、見た目が綺麗で実用的なものを作ったんですよ! これが結構売れるんです!」

 「あ、実用的ってそういうこと……」

 「おまえは一体何を想像していたんだよ」

 「べ、別になんでもいいでしょ!」

 なぜか、落胆するクレハ。
 その背中を、ポンと叩いて慰めたのはブラスだった。

 「俺も、同じことを思っているよ。仲間だな」

 「そうね。楓ってああだもんね」

 「「はぁ」」とブラスとクレハは大きくため息をついた。

 「私、ここの近くの村に行くんです。もしよっろしければ、護衛をお願いできないですか?」

 「俺たちも、目的地は一緒だと思う。半日ほどいった先にある村ですよね。なら、同行させていただきます」

 「まぁ、ありがとうございます!」

 「そういうのは、リーダーの私の仕事なんだがな……」

 ちょっと複雑そうな顔をする、フレアだった。
 その目は、ちょっぴりと潤んでいた。

 死んでしまった、護衛を全員で埋めて、遺品となるものだけをもってその場を後にした。


コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品