カオティックアーツ

日向 葵

29:激戦

 「弓矢隊、放て!」

 聖騎士隊隊長のドルフの掛け声により、楓たちに矢の雨が降り注ぐ。

 クレハの魔法で防御しているが、それもいつまでもつかわからない状況だった。
 クレハとフレアの魔力が尽きれば、矢の雨から逃れる術はない。
 いや、楓のカオティックアーツには、防げるものがあるが、全員を守るとなると、とある危険性が出てくる。
 それは、この森が火事になること。
 【バースト・フレア】を使えば、確実に凌げるのだが、今使うのは難しい。

 「楓、防御は大丈夫だから、どんどん攻撃して」

 「ブラス。前に出て、敵を倒すぞ」

 「ああ、愛しの楓に言われたんだ。やる気が出てきたぜ!」

 「……そっか。ガンバレ……」

 こんな状況でも、平常運転なブラスは、楓からもらったカオティックアーツ【ヴァイブロブレード】を取り出して、聖騎士に切りかかる。
 聖騎士たちは、盾で防御をしようとしたが、【ヴァロンブレード】の前では無駄だった。
 ブラスは、盾ごと敵を切り裂いていく。
 ただし、敵は殺さないようにしていた。

 それは、楓が発案したことだった。
 敵は出来るだけ殺したくない。
 ブラスのように、仲間になってくれる奴がいるかも知れない、という可能性にかけたいそうだ。
 この戦いで見つけられなくても、何かに気が付く人が居るかも知れない。
 そうなった場合、ブラスがいる【ライトワーク】を頼ってくるはずだと、楓は予想している。
 それ以外にも、殺したくないという気持ちからかもしれない。

 「おい、ブラス。こんなんじゃ俺たちは勝てないぜ」

 「隊長。この魔女を見逃してほしんです。この子達は俺が倒れているところを助けてくれたんだ。教典に書かれているような、悪い奴らじゃないんです」

 ブラスは交渉を諦めていなかった。
 一番望ましいのは、相手に見逃してもらうことだ。
 その可能性が一番あるのは、ブラスの交渉だった。
 相手の聖騎士団が、ブラスの元仲間だからこそ、可能性があると思っていた。
 しかし、それは思い違いだった。
 ドルフの一言で、全て崩れた。

 「そんなことはどうでもいい。【オルタルクス】のくそったれが、魔女がお前を洗脳していると言っているから、最初は教典に従っただけだ。俺は、教会の教えなんて信じてない」

 「だったら、なんで戦うんですか!」

 「そんなの決まっていだろう。家族のためだよ」

 「なぁ!」

 「驚くな。【オルタルクス】に娘を預けなければならないのは尺だったがな。あとは、戦えば金がもらえる。それで家族を養わないといけないだろ? 生きるための戦いなんだよ!」

 楓たちは、音葉を失った。
 聖騎士が戦っている理由が家族のためだったからだ。
 家族のために戦っているため、逃がしたくても逃せない。
 最悪【オルタルクス】にあずけている子供を殺される可能性すらある。
 そのため、聖騎士たちに逃げる選択肢はなかったのだ。

 だが、殺されてたまるか、と楓は思った。
 そして、【インフィニティ・マークⅢ】で対応する。

 楓がもしものために作成していた」、【インフィニティ・マークⅢ】専用の外部ユニットを装着する。
 この外部ユニットは、相手の能力を読み取って、自動で威力調整してくれるものだ。
 こんな戦いでも、誰も殺す気がない楓は、外部ユニットの設定を気絶するぐらいとして、エネルギーをフルチャージする。

 「かか、魔女の仲間が単騎で攻めて来るなんてやるのう」

 「ふん、行ってやがれ、俺たちは誰も殺さず、この危機を脱してやる!」

 「ふん、出来もしないことを。やってみるがええわ!」

 楓は、聖騎士のひとりに向かって【インフィニティ・マークⅢ】を向ける。

 「フルバースト」

 範囲攻撃型のショットを聖騎士の一人に放った。
 外部ユニットにより、広範囲に放つはずのエネルギー弾を振動弾という、魔道技術が加わった特殊弾に変換して放った。
 これが当たれば、振動による衝撃で、体や頭が揺れ、意識を奪うことができるはずだった。

 しかし、その攻撃を全て受け止められてしまった。
 楓が予想しているよりも相手の方が強い。
 そのため、今の攻撃程度じゃ相手にならないらしい。
 ブラスも、1対1なら負けることはないだろう。
 しかし、相手が複数人のため、ブラスも苦戦していた。

 それでも、戦った楓とブラスにより、弓矢隊の攻撃は止まった。
 それは、弓で攻撃するよりも、剣で攻撃したほうがいい位置まで、楓とブラスが攻めてきたからだ。
 しかも、カオティックアーツの威力は絶大で、並みの武器では意味がなかった。
 だから、人の数どいうでどうにかする作戦に出ていた。

 しかし、矢の攻撃を止めること。
 それはやってはいけないことだった。

 この時、クレハとフレアが自由に動けるようになったのを見て、ニヤリと笑った。

 誰も殺さずに助かる道ができる。
 楓の直感がそう告げていた。

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