カオティックアーツ

日向 葵

25:勇気を持って誘ってみる!

 それぞれの買い物が終わったあと、全員が合流して、【ライトワーク】の本拠地に帰宅しようと、歩いていた。

 ブラスとクレハは、帰り道に、楓のことをチラチラと見ていたことを、楓は知っていた。
 しかし、それ以上にショックなことがあったので、無視することにした。
 ティオと楓は「はぁ」とため息をつく。
 そのため息が気になったこともあり、勇気を振り絞って、楓に声をかけた。

 「買い物で一体何があったの? 落ち込んでいる」

 この時のクレハは、ものすごくドキドキしていた。
 なぜ、ドキドキしていたかは、買い物の時に、好きな人の話をしたため、楓を意識してしまっているからである。
 楓に声をかけたクレハを見たブラスは、「先を越された」と、小さく呟いた。

 しかし、楓とティオは無反応だった。
 それもその筈。
 落ち込んでいる理由が、ぽこりんだからだ。
 クレハに、「ぽこりんがまずかった」なんて話したら、鬼のように怒るだろうことは、目に見えている。
 だから、楓もティオも答えられなかった。

 「ちょっと楓?」

 「ごめん。話せないことなんだよ。クレハには……」

 「クレハ姉さん。本当にごめんなさい」

 「なんで、なんで私だけ?」

 「「本当にごめん」」

 「なんでなのよぉぉぉ」

 「だったら、俺には教えてくれるのか?」

 ここぞとばかりに、ブラスが出てきた。
 楓とティオは、縦に首をふる。
 ブラスは、ぽこりん大好きな人種ではない。
 だから、ブラスには話せると思ったのだ。

 そんな二人を見たクレハは、ちょっとショックを受けた。
 もしかして、私は嫌われているんじゃないか、クレハはそう思った。

 それからというもの、帰り道は暗い雰囲気だった。
 唯一明るかったのは、ブラスだけだった。


 【ライトワーク】帰宅後……

 楓の作業部屋のドアがノックされる。

 「ブラスだけど、入っていいか」

 「……ああ、いいぞ」

 「それじゃぁ……ふふ」

 楓は、一瞬ためらった。
 楓に告白してきた、あのブラスだ。
 二人っきりになるのは、危険だ。楓の直感が警告アラームを発していた。
 しかし、仲間を疑うなんてしたくない、そう思った楓は対策をした。
 万が一にも、ブラスが襲ってきたら、三日間ぐらい意識不明になるような罠を張った。
 今の楓がブラスに合うには、これぐらいしないと不安で仕方がなかった。

 部屋に入ってきたブラスは、【ディメンションリング】を机の上に置いた。

 「これ、すっごく便利だったぞ。強度も何もかも、問題ない。外部からダメージを受けた場合は、わからんがな」

 「ん、何だ。使用後の報告に来たのか?」

 「俺が何しに来たと思ったんだよ……」

 「それは……その……あれかな」

 「よくわからんから、まあいいや」

 楓はホッとした。
 ブラスが、告白関連について聞きに来たわけじゃないとわかったからだ。

 「それで、問題はなかったのか」

 「ああ、楓が貸してくれた【ディメンションリング】。すごく便利だったぞ」

 「ふむ、利便性は良かったと。強度とか重さとかはどうだ」

 「どんなに物を入れても、重さに変動がなかったぞ。強度については、なにもしていないから、わからないな」

 「そっか。わかった。また何かあったら言ってくれ」

 「ああ、わかった」

 「あと、楓!」

 ブラスの声に、楓はびっくりした。
 そして、どうやって話をそらすか考えた。
 手元には、今度実験しようとしていたカオティックアーツ【マジックボックス】というものを開発していた。

 効果は、高い保温性&保冷性を持っており、【ディメンションリング】と活用することで、どこでも、暖かいご飯や、冷たい飲み物が飲めるカオティックアーツである。

 「ブラス。今度は、【マジックボックス】もお願いできるか?」

 楓は、どこかの書物で読んだ【秘技:話外し】を実施してみた。
 どうにかして、告白から離れたかったからだ。

 「ああ、わかった。やっておくよ。それで楓。聞いて欲しいことがあるんだ」

 楓の秘技は、不発に終わった。
 次にどんな言葉が来ても、問題ないように、楓は覚悟を決めた。

 「今度、村で収穫祭があるんだ。そこで、俺も踊り子として踊ることになった」

 「……いろいろと突っ込みたいことがあるが、わかった」

 「ああ、それでな。俺の踊りを見てほしんだ。踊りが終わったあと、伝えたいことがある。よかったら、俺の踊りを見てくれないか」

 「……」

 楓は、返答に迷った。
 それもそうであろう。
 なんせ、男から、「俺の踊りを見て」と頼まれたのだ。
 それに、最後の「伝えたいことがある」という部分になにかが引っかかった。
 再び、楓の脳内で、警告アラームが発生する。
 楓から、タラっと汗が垂れる。

 「楓。お願いだ。心の友よ!」

 「ああ、考えておくよ」

 「ああ、今はそれでいい。よかったら来てくれ。俺のわがままを聞いてくれてありがとう。俺はそろそろ戻るよ」

 「わかった。夕飯になったら呼んでくれ」

 「今日は、楓が作らないのか?」

 「今日はティオが作るそうだ。だから、俺は作らん」

 「ティオの料理も美味しいからね。了解したよ。後で呼びにくる」

 「ああ、頼んだぞ」

 楓は、ブラスが出て行ったことを確認して、「はぁ」とため息をついった。
 そして、踊りを見に行くのは、返答したらいいのか、非常に迷った。



 楓とブラスの会話を、盗み聞きしているものがいた。
 それはクレハだ。
 ブラス同様、楓に【ディメンションリング】の報告と、踊りについて話に行こうと思っていた。
 しかし、今回も先を越されてしまっていた。

 それに、ブラスが、楓を踊りに誘っていることから、クレハはやばいと思った。

 仮に、楓が男好きの気配があったとしたら、間違いなくブラスを選ぶだろう。
 もし、もしそうなったら、とっても悲しいだろうな。クレハはそう思った。

 ブラスがいなくなったことを確認して、楓の作業部屋の扉をノックした。

 「ん、誰だ」

 「クレハだけど、今入っていい?」

 「ああ、問題ないぞ」

 「わかった、お邪魔します?」

 「別に、普通に入ればいいんだよ」

 クレハが緊張気味で、部屋に入ってくる姿を見て、「はは」と楓は笑ってしまった。
 ここは【ライトワーク】のリーダであるフレイが、楓のためにと用意してくれた作業部屋だ。
 ここには、楓が作成したカオティックアーツなどが保管してある。
 少し、ごちゃごちゃしているが、クレハはこの部屋が好きだった。
 知らないものがたくさんあり、好奇心が高鳴る、おもちゃ箱のだった。
 普段なら、楓の作ったカオティックアーツに、興奮気味になるのだが、今のクレハは、別のことで緊張していた。

 それは、楓を収穫祭にさそて、踊りを見てもらうこと。
 しかし、この時のクレハは緊張で、頭が真っ白になっていた。

 「【ディメンションリング】の性能はどうだった」

 「全然問題なかったよ。どんなにものを入れても、重さは変わらないし。最大収納量はわからなかったけど……」

 「そっか、不便なところはなかった?」

 「ふえ? う、うん。なかったよ」

 「ん? どうしたんだ、クレハ。顔が赤いぞ」

 「え、そんなこと……ないよ」

 次第に小さくなるクレハの声。
 楓は、体調が悪いのかと思い、心配した。
 この時、楓の脳裏にブラスの言葉が浮かんだ。

 収穫祭で踊りを見て欲しい。

 まさか、クレハもそんなことを、と一瞬思ったが、クレハならしないだろうと結論づけた。

 「ん、熱は……ないみたいだな」

 「ひゃぁ、なに……」

 「いや、お前の様子がおかしいなって思ったから」

 「お、おかしくないよ!」

 「いや、でも……」

 「お・か・し・く・な・い・の!」

 「ああ、わかったよ」

 余りにも強く言ってきたクレハを見て、問題なさそうだと思った楓は、自席に戻ろとする。

 「楓、聞いて欲しいことがあるんだけど……いいかな?」

 不意打ちだった。
 問題なさそうだから、クレハもすぐに部屋を出るだろうと、楓は思っていた。
 しかし、クレハから出てきた言葉は「聞いて欲しいことがある」だ。

 ここで、また収穫祭の踊りが脳裏に過ぎった。
 だが、クレハだし……という考えが抜けず、考えることを放棄した。
 どんなに頭がいい楓でも、人の感情は難しかったようだ……

 「なんだ、カオティックアーツの調整か?」

 「そうじゃなくて……収穫祭で私も踊るから見に来て欲しい!」

 「え」

 楓は、まさか的中していたとは、と驚愕した。
 クレハの緊張はどんどん高まって、顔も次第んい赤くなっていく。

 「へへへ、返事は後でいいから。じゃあ」

 緊張に耐え切れなかったのか、クレハは楓の作業部屋を飛び出していった。

 ちなみに、踊りを見てもらう意味を全く知らない楓は、誘ってくれたのに、無下にするのは悪いから、二人の踊りを見に行こうと考えていた。

 「後で詳細でも聞くか」

 そう呟いて、楓は作業に戻った。

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