カオティックアーツ

日向 葵

22:とある日の買い物で 楓とティオ編

 山賊事件から、数日たった日のこと。
 クレハは突然叫びだした。

 「あれ、ない。どうしよう。もうストックなくなっちゃったよ! どうしよう」

 どうやら、日常必需品のなにかが尽きたようだった。
 クレハがどうしようと悩んでいたとき、ティオ、ブラス、楓が現れた。

 「ん、どうしたんだよ。なにか足りないものがあるのか?」

 「うん、ちょっと……」

 「クレハ姉さん。僕たち、これから買い物に行くんだけど……買ってこようか?」

 「ああ、俺たちに任せておけ!」

 「いや……でも……」

 楓たちは、買ってくるよと言ったのに、困った顔をするクレハ。
 クレハがなくなって困っていたのは、化粧品やハンドクリームなどの、女の子の必需品だった。
 クレハがかって欲しいものを言ってみると、当然、男性陣は戸惑う。
 化粧品なんてわからないし、ハンドクリームなんて使わない。

 「ティオ、俺がくる前は……どうしていたんだ!」

 「それは、クレハ姉さんやフレアさんが……自分で買っていました!」

 「ブラス、おまえは、化粧品とか、わかるか?」

 「男性用なら……少しだけ分かるぞ。だが、女性用はわからん」

 「男性用ってなんだよ……」

 楓が聞いてみると、ブラスは、どこからか、怪しげなものを取り出した。

 『大好きな男性もイチコロ。男好きの男性用化粧品!』

 そんなことが、大きく書いてある、謎のものを取り出した。
 それを見た楓は、背筋がゾッとしたようだった。
 近くにいるティオも感じられる、訳のわからない恐怖がそこにあった。

 「わりい。ブラス。それ、何だ?」

 「男用の化粧品だよ。結構イイぞ」

 「何が……」

 「おお、聞いてくれるのか! 楓!」

 そして、ブラスは楓に抱きつく。
 楓は、一瞬ビックリして固まったが、すぐに冷静になり、ブラスから離れようとしている。
 しかし、しっかりと鍛え上げられた肉体による抱きしめなので、研究や作成を多くしている、楓では、離れることができなかった。

 「あ、暑苦しいから抱きつくな」

 「いいじゃないか。俺と楓の仲だろ」

 「どんな仲だよ」

 「ム! 楓とベタベタしないでよ」

 クレハは、自前のロッドで、ブラスを殴る。
 ブラスは、少し冷静になり、楓から離れた。

 「ごめん。やりすぎた」

 「……」

 楓は、引きつった笑しかできなかった。
 このあと、ブラスは必死で謝ったのは、言うまでもない。


 最終的には、クレハも買い出しに行くことになった。
 やっぱり、自分で見て買いたいとのこと。
 クレハは、魔女であるため、【ハーミットリング】を装備して買い出しに来ている。
 魔女であるクレハは、魔女であることを隠さないと、殺されてしまうからだ。
 だけど、女の子であるクレハじゃないと、わからないものがある。
 化粧品だってその一つだ。
 絶対に正体がバレないことを条件に、クレハも買い物に参加する流れになったのだ。

 村についたら、なぜか3つの班に分かれた。
 どうも、ブラスはブラスでみたいものがあるらしい。
 クレハも化粧品などの、女性の必需品を買いに来た。
 だから、各々が買い物をして、後で合流することになった。

 楓、ティオ班は、食料の買い出し。
 クレハは、女性必需品を買いに。
 ブラスは謎。

 楓、ティオ班は食料のため、市場にきていた。
 村の食料品は、基本的に市場で行っている。
 これは、商業組合が決めたことであり、村の人々や、料理屋をやっている、店の主人たちが、買い物をしやすくするための対策だった。

 必要な食料をかって、ついでに面白い食べ物がないか見ていると、二人は変な食材を見つけた。

 【ところてんぽこりん】

 商品名には、こう書かれていた。
 それを見た楓は、ちょっと悩んでしまった。

 「どうしたんです? お兄さん」

 「いや、【ところてんぽこりん】っていうのがあってな」

 「あ、本当だ。あれはレアですよ。結構美味しんですけど、人気があるから。そうだ、あれを買いましょう」

 嬉しそうな表情で、ティオが楓にお願いした。
 ところてんはいとして、ぽこりんというとこに抵抗がある楓は悩んだ。
 ティオは、急にプレゼンを始める。
 どうやら、そこまで買ってほしいようだった。

 「仕方がない。買ってやるよ」

 「やった! ありがとう。お兄さん!」

 【ところてんぽこりん】を買った後も、市場を回る二人。
 【ところてんぽこりん】を買った近くの店に、また面白いものを見つけた。

 【ぽこりんゼリー】

 いろんな色のゼリーがあった。
 紫、オレンジ、赤、どれも美味しそうだと、楓は思った。

 「【ぽこりんゼリー】、なんか美味しそうだな」

 「お兄さんはゲテモノ好き? あれは、全く美味しくないよ?」

 さっきの【ところてんぽこりん】と何が違う、と楓は思った。
 だが、ティオはゲテモノだと言う。

 【ぽこりんゼリー】は、楓がもと居た世界にあるゼリーと変わらない。
 納得がいかない楓は、とりあえず買うことにした。
 【ぽこりんゼリー】に手を伸ばそうとすると、

 「え、死んだぽこりんを、そのまま詰めた【ぽこりんゼリー】を買うの?」

 「え、【ぽこりんゼリー】って、ぽこりんそのままなの」

 「うん、そうだけど?」

 楓は【ぽこりんゼリー】をそっと置いた。
 ゼリーじゃない。楓はそう思った。

 楓と、ティオの買い物はまだまだ続く。

 ちょっと歩いた先に、また面白いものを見つけた。
 今度は食材ではなく、屋台だった。
 いい匂いが食欲をそそる。
 楓とティオは、匂いに釣られるように、屋台に向かった。
 屋台には、若い男が一人いた。

 「へい、いらっしゃい」

 「ここでは、なにを売っているんだ」

 「【ぽこりん焼き】だよ。とっても美味しいぜ」

 またぽこりんだ。楓とティオはそう思った。
 おそらく、クレハがいたら号泣するだろう。
 しかし、とてもいい匂いが【ぽこりん焼き】が気になった。

 だから、二人は【ぽこりん焼き】を買った。

 野菜と思われる、なにかと肉と思われるなにかを、薄い生地で包み込む。そして、ソースをかける。
 焼けた鉄板にソースが垂れると、ソースが焼けるいい匂いがする。
 それを、容器に入れて、渡してもらう。

 その場に立って食べるのもと思った楓は、ちょっと言った先のベンチに向かう。
 二人で座って、先ほど買った【ぽこりん焼き】が入った容器を開ける。
 再び、美味しそうな匂いがした。

 「わぁ、とても美味しそうですよ」

 「ああ、美味しそうだな。早速食べよう!」

 「うん、いただきまーす」

 ティオと一緒に楓も食べる。
 そして、二人は微妙な顔をする。

 「……美味しくない」

 「いい匂いはするんだけど、肉とか野菜とか、全てがプルプルしている。なんだこれ」

 「もしかして、ぽこりんじゃないですか?」

 「これがぽこりん……」

 「しかも、ゼリーです。これ。【ぽこりんゼリー】を焼いただけですよ」

 「これが【ぽこりんゼリー】。しかも焼いただけ……」

 二人は、余りにも美味しくない【ぽこりん焼き】を見つめ、「はぁ」とため息を付いた。

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