カオティックアーツ

日向 葵

20:力を合わせて

 「GAAAAAAAAAAAAAAAA」

 触手の化物が、容赦なく襲いかかる。
 その攻撃を、クレハとブラスが防ぐ。

 楓とクレハは、ブラスに化物が山賊のお頭であること、これから助ける事を伝えた。
 そして、ブラスが協力のもと、激しい戦闘が繰り広げられていた。

 激しい攻防の中、どうにかして【インパクト・マークⅡ】を食らわせる方法を考えていた。
 それが、あの化物を救ってあげる第一段階。

 聖呪痕によって変質してしまったものは、体に備蓄されているエネルギーを、体外に排出させることで、元の姿に戻すことができる。
 フレアが提唱してくれた理論であり、カノンの親を元に戻すことができた実例もある。

 しかし、【インパクト・マークⅡ】は攻撃のための、カオティックアーツではない。
 相手に備蓄されている、エネルギーを発散させることを目的として作っている。
 そのため、攻撃力、防御力、共に皆無だった。

 そこで、クレハと、ブラスに道を開いてもらい、隙を見て、楓が【インパクト・マークⅡ】を食らわせる、という作戦を実行することにした。

 この作戦の成功率を上げるため、楓は二人に、カオティックアーツを渡した。

 クレハに渡したのは、リング型のカオティックアーツ【ブーストリング】。
 クレハの協力のもと、魔法技術と、楓の技術によって生まれた、新型のカオティックアーツだ。
 楓がはっきりと認知できない力、魔力を用いて稼働する【ブーストリング】の効果は、魔法強化だ。
 リング内に魔力を蓄える。その魔力を、放った魔法に上乗せして、魔法の威力をあげるカオティックアーツだ。

 「己の影に苦しみ、束縛されよ【シャドウ・リストリクションズ】、ブースト」

 クレハが「ブースト」といった途端に、【ブーストリング】が輝き出す。
 【シャドウ・リストリクションズ】に追加の魔力が加わり、強化される。
 強力な、影によって、化物を束縛しようとする。
 しかし……

 「AAAAAAAAAAAA」

 触手によって、影たちが弾かれていく。
 どうやら、あの触手は、魔力、もしくは聖法気によってコーティングされていた。

 そのため、魔法として使用している影を簡単に振り払うことができていた。

 【ブーストリング】がなかったら、影は一撃で消滅していただろう。
 それぐらい、化物は強敵だった。

 楓にも触手が襲いかかった。
 そこで、前に出てきたのが、ブラスだ。
 襲いかかってきた触手を、盾で弾いて、剣で切り裂く。

 楓が、ブラスに渡したカオティックアーツは二つ。
 一つは【インパクト・アブソープション・マークⅡ】、盾型のカオティックアーツだ。
 盾を使うなら、騎士として使い慣れているブラスが適任だと、楓は思った。
 そのため、持っていた【インパクト・アブソプーション・マークⅡ】をそのままブラスに渡した。
 そして、もう一つ渡したのは、【ヴァイブロブレード】だ。
 これは、俗に言う【高周波ブレード】である。
 架空の武器とされていたが、楓の技術によって、再現した。
 もし、ブラスが立ち直った時のために作成したカオティックアーツである。
 ブラスは、それを用いて、楓を守っていく。

 触手の攻撃は強力だ。
 でも、防げないレベルじゃない。
 攻撃も食らわせられる。

 本当のことを言うと、楓たちは、この化物を倒すことが可能だった。
 楓のカオティックアーツ、クレハの魔法、ブラスの戦闘技術、これらが組み合わされば、討伐は可能だった。
 しかし、今の目的は、あの化物を救うこと。
 そのために、行動すると、さすがの楓たちも厳しいところがある。

 「楓! 私が、あの触手をなんとかするわ!」

 「できるのか、クレハ!」

 「多分できる。広範囲魔法で、化物ごと吹き飛ばせばいい。本体は硬いから吹き飛ばないけど、触手だけならなんとか」

 「わかった、タイミングはクレハに任せる!」

 「オッケー。任せなさい」

 クレハは触手攻撃をかわしながら、少しずつ、少しずつ、後ろに下がっていった。
 そして……

 「風よ。嵐になりて、我が敵たちを切り裂け【ヴァン・シュナイデン・シュトゥルム】、ブースト」

 魔法によって生成された風が、嵐となって吹き荒れて、触手の化物を切り刻む。【ブースドリング】の補正によって、更に強力になった超広範囲魔法により、触手がズタボロになる。

 本来なら、楓もブラスも離れていないと巻き込んでしまう、危険な魔法。
 しかし、今回は少し違う。

 楓に傷が無いように、ブラスが盾に立って、魔法の衝撃を耐えていた。

 楓の考えでは、触手は再生すると考えていた。
 あの化物の姿は、体内に蓄えられたエネルギーによるもの。
 触手を切れば、触手の生成にエネルギーが使用される。
 つまり、触手が再生してしまうことになる。

 「こっからは、時間の勝負。俺が打ち込むのが早いか、触手の再生が早いか」

 嵐が止むと同時に、楓は、化物の方に走る。
 化物の触手は、楓の予想どうりに再生していった。

 予想外だったことは、触手の再生が一瞬だったこと。
 無数の触手が楓を襲う。

 「か、楓!」

 「っち、これじゃぁ。よけられない」

 「ここは俺に任せろ!」

 楓の後ろから来たのはブレスだった。
 クレハの魔法から楓を守ったブレス。
 クレハの魔法が強力だったこともあり、だいぶ、力を消耗していた。
 だが、ここで倒れるわけにはいかない、ブラスはそう思った。
 だからこそ、だからこそ立ち上がり、仲間の力になるために、走った。

 「みんなで力を合わせれば、どんな人だって助けられる。俺が道を開く。楓は、あの化物を元の姿に戻してくれ」

 「任せろ!」

 楓は、化物の懐に入り込む。
 【インパクト・マークⅡ】を装備した手を掲げて……

 「インパクト」

 その場に、すごい衝撃が走った。

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