カオティックアーツ

日向 葵

18:山賊たちをかき乱せ

 「俺たちは、俺たちの役目を果たすぞ」

 「うん、今回は陽動。この場をかき乱して、混乱している隙に子供たちを助けるんだよね」

 「そんな感じだな。最初はちょっと派手に行くか」

 楓は、【ディメンションリング】から何かを取り出す。
 クレハはそれがどんなものなのかよく分からず、楓に聞いてみることにした。

 「それ何? 美味しいの?」

 「……お前の頭の中は食べ物のことしかないのかな?」

 「ちょ、冗談だって。ねぇ、冗談だからね。そんな人を食いしん坊みたいに言わないでよ」

 「はは、わかっているさ。これは、俺の世界の……芸術に近いのかな。そこらへんはよくわからないが、昔はよくあったと聞く、懐かしのものだ」

 「私は楓の世界についてよくわからないけど……大丈夫なの」

 「ああ、大丈夫さ。これで奴らも驚くはずだ」

 楓もクレハも、実に楽しそうにしている。
 傍から見たら、これから山賊に突撃する人たちには見えない。
 それでも、気楽な理由は、討伐をすることがメインじゃないからだ。
 今回は子供たちを救うこと。
 そのため、数の多い山賊を必ずしも討伐する必要がないのだ。

 だからこそ、ふたりは気楽であった。
 逃げ切れる自信は強かったから……

 「よし、派手に行くぞ」

 「うん!」

 楓は、先ほど【ディメンションリング】から取り出した【爆竹】をうまい具合に放り投げる。

 クレハが敵の近くに落ちた爆竹に魔法で火をつける。

 バチバチ

 爆竹の音が鳴り響く。

 「何だ、何だ。言いたい何なんだ」

 「て、敵襲だあぁぁぁぁ」

 「まさか、【オルタルクス】のやつらが言っていた奴らか!」

 ゾロゾロと出てくる山賊たち。
 彼らのことばに気になるワードが出てきた。

 「あいつら、【オルタルクス】と言っていたな」

 「ええ、言っていたわね」

 「思ったよりこの山賊たちは危険かも知れない」

 「予定変更だ。場をかき乱しつつ、山賊どもを蹴散らすぞ」

 「うん!」

 楓たちは、爆竹で驚いている山賊たちに向かって突撃する。

 楓は【インフィニティ・マークⅢ】を取り出す。
 エネルギー効率や、排熱などをいろいろと改良した【インフィニティ】。
 更に、機能もひとつ追加している。
 ただ、それを使うのにはエネルギーを満タンにしなければいけない。
 そのため、最初の工程、”エネルギーを満タンにする”を行うための音声キーワードを入力する。

 「フルチャージ」

 「楓、敵がくるよ」

 「俺が目くらましをやる。クレハは相手を束縛してくれ。得意なんだろ」

 楓は、【ディメンションリング】から【発光球】を取り出した。
 それを山賊に向かって投げた。

 未知の道具に警戒しないものはいない。
 山賊たちは、楓が投げたものを警戒しながら見て、かわそうとしていた。

 楓は、狙い道理と思い、にやりと笑う。
 隣にいるクレハも「あくどい笑顔だな」とぼやくほどだった。

 「起動フラグオン」

 楓の音声キーワードの入力によって、【発光球】が輝き出す。
 あらかじめ知っていた楓とクレハ以外、警戒のため【発光球】を見ていたため、いきなり輝きだした【発光球】によって視界が奪われた。

 「クレハ、今だ!」

 「ふっふ~ん。クレハちゃんに任せなさい! 己の影に苦しみ、束縛されよ【シャドウ・リストリクションズ】」

 クレハが使った影の束縛魔法によって、山賊たちの動きを封じる。
 山賊たちは自分自身の影によって身動きがとれなくなり、もがいている。
 そこに、タイミングよく【インフィニティ・マークⅢ】から音が鳴る。

 【インフィニティ。マークⅢ】のフルチャーが完了したのだ。

 「クレハ、ちょとしゃがんでいろ。巻き込まれるぞ」

 「え、え…一体何するの」

 「早くしろ!」

 「は、はい」

 クレハは頭に被っている怪しい帽子を手で抑えつつ、その場にしゃがむ。

 クレハがしゃがんだ事確認した楓は、【インフィニティ・マークⅢ】に搭載した新たな機能を起動する。

 「フルバースト」

 楓は【インフィニティ・マークⅢ】を敵の方に向け、なぎ払うようにスライドさせる。
 その瞬間、山賊たちが弾けとんだ。

 楓が新たに搭載した機能「フルバースト」は、蓄えている全エネルギーをエネルギーの弾丸にして、超光速で打ち出す機能だ。

 デメリットとしては、チャージまでに時間がかかることなので、小隊と戦うことになったときは不便な機能であるが、今回のように敵が多い場合、全体攻撃ができるメリットがある。

 楓は、範囲攻撃用のカオティックアーツをたくさん用意していた。
 場をかき乱すには、全員にちょっかいを出して、騒いでもらった方が好都合だ。
 そして、範囲攻撃ができるようになったのは楓だけじゃない。

 クレハも、カノンの母親を救えなかった時から、修行していたのだ。

 楓の攻撃によって苦しんでいる人たちめがけて、クレハが魔法を唱えた。

 「風よ。嵐になりて、我が敵たちを切り裂け【ヴァン・シュナイデン・シュトゥルム】」

 クレハが魔法を唱えると、嵐が起こる。
 ただの嵐じゃない。
 切り裂く風の嵐だ。
 それに巻き込まれた山賊は切り傷を作りながら空に吹き飛んでいく。

 「ち、畜生がぁぁぁぁぁ」

 「何なんだあのガキどもは」

 「あいつは魔女だ!」

 「あの男も変な武器を持っているぞ!」

 「一斉に殺れぇぇぇぇ」

 山賊たちが一斉に襲いかかってくる。
 ひとり、また一人。

 山賊の数が増えていく。
 見たっておかしい数だった。

 「ねぇ、山賊ってあれに似ているような……」

 「やめろ」

 「台所に出てくる」

 「クレハ、やめてくれ」

 「G!」

 「グフ」

 「ちょ、楓! 攻撃食らったの?」

 クレハに心の傷? を追わせられながらも敵の様子を観察する楓。
 ふとあることに気が付く。

 それな、山賊の中で、禍々しく光る武器を装備しているものとしていないもの。

 装備している奴らはできるだけ前に出ず、攻撃を避けやすい、いい具合の距離にいる。

 そして、装備していないものは、動きが非常に単調だった。

 顔に表情があり、実に人間らしいのに、動きがほぼ同じ物たちがいる。

 「攻撃が……パターン化されている?」

 「楓、それってどういうことなのよ?」

 「もしかしたら、この山賊のほとんどが偽物かもしれない」

 「そ、そんなことだったら見たときに気がついたんじゃ……」

 「っち、まずはこいつらを何とかするぞ!」

 「え、ふぇ?」

 「ぼーっとするな!」

 楓は【ディメンションリング】から【インパクト・マークⅡ】を取り出す。

 前に作成した【インパクト】は敵のエネルギーを発散させるだけのものだった。

 改良することにより、発散させるタイミングで衝撃を与える機能を付け加えた。
 それが【インパクト・マークⅡ】。

 楓はクレハに襲いかかろうとした山賊たちに手を掲げて音声キーワードを言った。

 「インパクト!」

 その瞬間、山賊たちのエネルギー発散する。
 更に、発散するときに強い衝撃が与えられ、山賊が吹き飛ぶと思っていた。

 「おい、これはどういうことだよ」

 「私に聞かれても……」

 クレハに襲いかかろうとしていた山賊たちは綺麗に吹き飛んで、掻き消えた。

 まるで、人の姿をした霧が風に流されて霧散する。そんなかんじがした。

 「おい、あれは!」

 「そっか! この山賊のほとんどが聖呪具による偽物なのね。あいつらが言っていた【オルタルクス】が関わっているっていうのは本当らしいね」

 「これで、あいつらをぶっ飛ばさなければいけない理由が増えた」

 「カノンの親を殺した組織が関わっているんだよね。絶対に許せない!」

 また一人、また一人。
 山賊が増えていく。
 倒してもキリがないことがわかったクレハと楓は敵に向かって突撃する。

 「雷よ。降り注げ【サンダーボルト】」

 クレハの雷魔法【サンダーボルト】が聖呪具によって作られたであろう人たちを消していく。

 雷魔法は外でしか使えないが、強力な範囲攻撃だ。

 クレハの魔法によってできた、聖呪具を持っている山賊たちに向かう一本径。

 楓は全力で走る。

 「っち、これに気がついたのか」

 「だからどうだってんだ。まだまだ作れるぞぉ」

 楓がたどり着く前に増えられると非常に厄介だった。
 だからクレハは、

 「敵を囲う木々たちよ。束縛せよ。【ティムバー・リストリクションズ】」

 山賊の周りにある木々が、山賊を束縛する。

 動けなくなった山賊の一人に手を掲げる。

 「インパクト」

 ドン、という大きな衝撃が起こる。
 この衝撃は相手が蓄えているエネルギー量に比例して、衝撃が強く鳴る。
 この山賊は思っていたよりも蓄えていたらしく、地面が徐々に沈んでいく感じがした。

 そして……

 パリーン

 山賊が持っている聖呪具が壊れた。
 壊れたことで、一定数の山賊が霧散する。

 「やっぱりこれが原因か。これで戦力を増やしていたのか」

 「楓!」

 「ああ、こっちは大丈夫だ」

 「本当に?」

 「まぁな。それより、この道具が山賊の戦力を増強している」

 「それを壊して回ればいいのね」

 「理解が早くて助かる」

 楓とクレハは敵の武器を壊すため、突撃する。

 本来の目的、山賊をかき乱すことを忘れて……

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