カオティックアーツ

日向 葵

15:険悪な仲の理由

 あの買い出し以来、楓とブラスの仲は険悪だった。
 というより、楓が一方的に嫌っているように見えた。

 「うう、今日も空気が重たい……」

 「楓から事情は聞いているからな。楓が怒るのも無理ないが……」

 「この状況は早くなんとかしたいね」

 「がうがう!」

 クレハたちも、楓たちには困っていた。
 とにかく、場の空気が重たい。
 楓は、ブラスを一方的に嫌っており、ブラスは何か思いつめた表情をしている。

 ガタッと楓はいきなりたった。
 食べ終わった皿をまとめて、この場を去ろうとする。

 「ちょっと楓。話があるんだけどいい?」

 「ああ、別にいいぞ。俺は新しいカオティックアーツの製作があるから部屋にいる」

 「うん、わかったわ。私も食べ終わったらそっちに行くね」

 「了解」

 そう言うと、楓はこの場から去ってしまった。

 「クレハ、頼むぞ……」

 「わかったわ。フレアさんも、ブラスのことお願いね」

 「ああ、こっちは任せろ。早く、この重たい空気を何とかしたい。安らげる家のはずが苦しいのは嫌だからな」

 「そうね。ティオ、カノン。今日は依頼もないから遊んできていいわよ。危険がないようにね」

 「うん。わかった! 行こ、カノン」

 「がうがう!」

 ティオとカノンが外に出たあと、クレハは残りのご飯を食べて、楓のもとに向かった。

 楓の部屋。
 最初は普通の部屋だった。
 だが、楓の部屋は、楓によって魔改造されていた。
 金属製の何やら怪しい機器。
 フラスコや試験管などがたくさんおいており、机の上には書籍が積んでいる。
 一見汚そうに見えるが、使用していない物はきちんとしまわれており、綺麗に整えられてある。

 そんな楓の部屋に踏み込んだクレハは毎度であるものの、すごいな、と感じてしまう。

 「楓は何あっているの」

 「さっきも言っただろ。新型の顔ティックアーツだ。今回はかなりシンプルだけどな」

 「それは……」

 クレハの目に映ったのは、ただの剣だった。
 どこら辺に、楓の超技術が使われているのか検討もつかない。

 「まだ未完成品だ。もうすぐ出来上がるがな」

 「それは楓が?」

 「いや、俺は使わないよ。多分な」

 「じゃあなんで?」

 「はは、俺もさ。よくわからないんだ」

 楓は、ブラスとの一軒をクレハに話した。
 クレハも真剣に話を聞いており、考え込んでしまう。
 それで、何かを納得したような表情をした。

 「そっか。それで楓はブラスのこと怒ってたんだね」

 「ん? 怒っている? 俺が?」

 「あちゃ、自覚なかったんだ」

 クレハは楓が自覚していないことに驚きつつも、クレハ達が感じていることを楓に話した。
 早く、どうにかして、あの重たい空気から抜け出したい、という気持ちもあるが、何より、仲間同士で争って欲しくなかった。

 クレハはブラスのことを大切な仲間だと思っている。
 出会ってからの時間は短い。
 でも、魔女と知りながらクレハやフレアと一緒にいるブラスを【ライトワーク】の仲間だと思っていた。
 それは、クレハだけではない。
 フレアも、ティオもカノンも、そう思っていた。
 だからこそ、クレハは、年の近い一番の親友とも思える、楓とブラスが仲良くなって欲しいと思っていた。

 「楓。あなたが怒っているからいつも場の空気が重たいのよ?」

 「はは、それは済まないな。でも、きっと必要なんだよ」

 「む、もっと仲良くすればいいのに……」

 「……それは無理だな。今のあいつじゃ仲良くなんてなれない」

 楓の思いも寄らない言葉に、クレハは少しショックを受けた。
 何よりも仲間を大切にして、すごい武器でみんなを守ってくれる楓に裏切られたように感じた。

 「なんで、ブラスだって大切な仲間よ。どうしてそんなこと言うのよ」

 「それは、この前の事件が関係している」

 「この前の事件て何。ブラスが戦えなかったこと? 戦えなかったら仲間じゃないって言うの!」

 「そうじゃない。そうじゃないんだ」

 「だったらなんだって言うのよ。私にはわからない!」

 ツーっとクレハの瞳から雫が落ちる。
 クレハは泣いてした。
 静かに、静かに泣いていた。
 【ライトワーク】のみんな。
 ここにいる人たちは家族のように大切な仲間。
 だからみんな仲良くして欲しい。
 クレハは、そう思っていた。
 だから、ブラスと仲良くできない、楓にショックを受けた。
 それは、涙が出るほど辛い感じがした。

 楓の考えは違った。
 あのままではいけない。そう思った。
 たしかに、クレハの言うことも分かる。
 ブラスは【ライトワーク】の仕事をこなしている、大切な仲間だ。
 聖騎士だろうとなんだろうと、あいつがクレハたちを襲うことはない。
 確信に近い何かを感じていた。
 だからこそ、なんとかしなければならない。
 そんな気がした。

 「俺は、ブラスがあのままじゃいけないと思ったんだ」

 「……どういうことよ」

 未だに泣いているクレハ。
 仲間を思う気持ちが強いクレハから見れは、楓のしていることがひどいことに見えたのかもしれない。

 「ごめんな。俺が不器用だからかな。俺はブラスがあのままじゃ良くないと思ったんだ」

 「良くない?」

 「ああ、罪悪感に押しつぶされて、今にも死んでしまうかもしれない。そういう空気をまとっている。あのままではダメなんだよ」

 「ブラスのために……」

 「ああ、俺だって、こんなやり方でいいのか、と思うときもある。でも、何か切っ掛けがあれば立ち直れるはずなんだ」

 「それと楓の冷たい態度に関係あるの。そんな風にしなくても……」

 「それは、クレハ達がやっているだろ。仲間としてちゃんと接している。それでもブラスは変わらない。この前の事件を切っ掛けに、別の方面から考えたほうがいいと思ったんだ」

 「そう……何だ」

 「ごめんな。わかりにくくて」

 「んーんー 私こそ、楓がそこまで考えていたなんて、分かって上げられなくてごめん」

 「いや、俺のほうこそ……」

 「いいえ、私のほうこそ……」

 そして、二人は見つめ合い、「ははははは」と声を出して笑った。
 お互い謝ってばかりだと、実は何にも心配いらなかったんだと気がつき、笑った。

 「さて、クレハにもわからなかったってことは、ブラスも絶対に分かっていないな」

 「そうだね。あれは楓がブラスを嫌っているようにしか見えないからね」

 「でも、どうやって立ち直らせるかな?」

 「むー どうなんだろう?」

 二人で悩んでいると、ドン! という激しい音がした。
 楓とクレハは顔を見合わせて、急いで音がした方向に行った。

 そこにあったのは、よくわからない光景だった。

 「二人共、降りてきたのか……」

 「フレアさん、どうかしたんですか」

 「そういえば、ブラスもいないわね」

 「ああ、あいつにはティオとカノンを迎えに行ってもらった。ちょっと緊急事態でな」

 深刻そうな顔をするフレア。
 その表情から、よほどの事件が起きたのだ、と二人は感じた。

 数分しないうちに、ティオとカノンを連れたブラスが帰ってきた。
 そして、フレアが深刻そうな顔をする原因、新しく来た依頼についての説明を始めた。

 「依頼内容は、山賊の討伐と誘拐された子供たちを救出することだ」

 「子供たちを……」

 「ああ、そうだ。そこそこでかい山賊だ。しかし、ここまで規模の大きいことをするのは初めてだそうだ。もしかしたら、山賊の中で何かがあったのかもしれない。十分危険な仕事だ」

 「大体わかった。作業分担はどうする」

 「楓は理解が早いから助かる。だが、まだ決まっていない。わかる範囲の情報からみんなで決めていこうと思う」

 フレアの一言から、子供達を救う依頼の緊急会議が始まった……
 絶対に助ける、そう心に誓いながら。

 だが、ブラスは……

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