カオティックアーツ

日向 葵

4:ライトワークの戦い

 ドバン! ドバン!

 「なになに、一体何なのよ」

 クレハは外から聞こえる異音で目が覚める。
 生まれてから今までの人生を思い返してみても、聞いたことが無い凄い音。
 そのため、敵がきたのかもしれないと思い、急いで着替え、寝室を飛び出る。
 1階に行くと、フレアもいた。
 クレハと同じく異音が聞こえたので、急いで降りてきたらしい。

 館の近くで一体何が起こっているんだ。

 予想もできない未知の音に不安がこみ上げてくるが、確かめないという選択肢は無い。
 魔女であるクレハとフレアは、魔女の敵が来ていた場合、生き残るために対処しなければならない。
 クレハとフレアが目で合図をしながら、外の様子を伺うために玄関を開けようとした。

 ガチャリ。

 クレハとフレアが開ける前に、玄関の扉が開く。
 そこから現れたのは、眠そうな表情の楓だった。

 「なんであんたが玄関から入ってくるのよ!」
 「いや、玄関から入るのは普通だろ? 一体どうしたんだ」
 「どうしたもこうしたもない。いま、外から異音が聞こえたでしょ」
 「楓、外にいたなら音の原因とか見なかったか?」

 クレハとフレアに言い寄られながら、ちょっと冷や汗を流す楓。

 音の原因は楓だ。
 今日は討伐依頼をするということで、武器の試験と調整をしていた。
 その時に出た音で、ここまで反応されるとは思っても見なかった。

 「皆、玄関でどうしたんですか」
 「ティオもすごい異音が聞こえたでしょ。それが一体何なのか見に来たのよ。もしかしたら敵かもしれないでしょ!」
 「そうだ。私たちは魔女だからな。正体がバレたら殺される。敵かもしれないから、ティオは隠れてなさい!」
 「はぁ、さっきの音ってお兄さんですよね。だから大丈夫ですよ」
 「「はあ」」

 ティオの一言で唖然とするクレハとフレア。
 ふたりは楓のいる方に振り返り、ギロっと睨みつける。

 「楓、これは一体どういうこと」
 「【ライトワーク】のリーダーとしてちゃんと話を聞かないとな」
 「はは、お手柔らかに……」

 睨む二人に若干恐怖してしまい、眠気が吹き飛んだ。
 楓は、ちょっとやりすぎたか、と武器の試験をやったことを後悔した。

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 「で、どういうことなの」
 「ちゃんと説明しろ」

 ティオが作ってくれた朝食を頂きつつ、クレハとフレアに事情聴取される楓。
 朝食が若干修羅場な件でティオは「ははは」と笑うしかなかった。

 「武器の試験と調整をやっていたんだよ」
 「なんでそんなことを朝っぱらかやってんのよ」
 「今日は俺は討伐依頼を受けるんだろ。そこで使うカオティックアーツの調整をしていたんだ」
 「だったら一言欲しかったな」
 「そうだよね、フレアさん。そう思うよね」
 「ああ、全くだ」
 「それはすまなかった。俺も徹夜でおかしなテンションになってたんだよ」
 「なに、徹夜だと。昨日はあれほど寝ておけと言っただろう。何をしていたんだ」
 「それは……本を読みながらカオティックアーツの研究を今日使う武器の制作をしていたんだよ」
 「! 楓、武器も作れるの」
 「カオティックアーツに不可能はない!」
 「……」

 ドヤ顔で宣言する楓。
 クレハがちょっと引いたのは言うまでもない。

 いい感じで朝食を食べ終わる。
 食事担当はティオらしく、皆の食器を下げて台所で洗っていた。

 「ティオが準備できたら出発するが、体調は大丈夫なのか?」

 楓が徹夜だと聞いて体調を気にするフレア。
 これから行くところは魔物が生息する場所。
 いつ攻撃されるかわからない場所だ。
 そんなところに体調が万全じゃないものを連れて行くことなんかできない。
 体調が悪かったせいで殺されることもあるからだ。
 そんな心配をするフレアに、楓は笑いながら答える。

 「体調は大丈夫ですよ。徹夜は慣れてるから1日ぐらいじゃどうってことない。それに、今回作ったカオティックアーツはなかなかの出来だ。きっと役に立つ」
 「そうか…… 無理だけはするなよ」
 「無理そうならいうさ」
 「ああ、たのむ」
 「ふ、ふん。ピンチになったら私が助けるから大丈夫よ。昨日は助け……」
 「昨日がどうした」
 「え、な、なんでもないわ」

 クレハはちょっと照れながら楓をちらっと見る。

 (昨日のお礼、また言えなかったな。ティオ以外の男の子と話したことがないのがいけないのかな? ただお礼を言いたいだけなのに……)

 そして、「はぁ」と小さくため息をついた。
 もちろんクレハの気持ちなんて察することができていない楓は頭に”?”を浮かべる事になった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 楓たちは魔物の【ぽこりん】というものを討伐するために森の中を歩き回っていた。
 フレアが言うには、このあたりで【ぽこりん】が目撃されたらしい。

 少し歩くと開けた場所に出てきた。
 クレハが言うには、開けた箇所がこの森に複数あるらしい。
 昨日、クレハと出会った花畑もその一つ。
 このような場所は魔物たち、主に【ぽこりん】が作るのだという。
 一体どういう魔物なんだよ! と心の中で突っ込んでいると、噂の【ぽこりん】が奴があわられた。

 「ぽっこり~ん」
 「ぽこぽこり~ん」
 「ぽこりん、ぽこりん」

 「……なにあれ」
 「なにって、あれがぽこりんですよ。お兄さん」
 「あれがぽこりん……」

 ちょっとでかい鼻が特徴の小人のような魔物。体はスライム的でちょっと透き通っている、ゼリーのようだった。
 ぽこりんが動く旅にぷるぷる揺れる。
 そして、つぶらな瞳……とてつもなくかわいい魔物だった。

 「クレハ、本当にあれを狩るのか」
 「……うん、これは仕事、これは仕事……」
 「おい、クレハ?」
 「ひゃい、なに、どうしたの!」
 「いや、本当にあれを狩るのか聞きたかったんだけど……大丈夫か?」
 「だだだ、大丈夫だよ! ほんと、大丈夫だから!」

 顔を赤くしつつ、大丈夫というクレハ。
 クレハのことがちょっと心配になった楓に、フレアが話しかける。
 それは、クレハにとって言って欲しくないことだった。

 「これは、ぽこりんが可愛すぎて狩りたくないんだよ。意外とかわいいやつだろ?」
 「ちょ、何言ってるのよ。フレアさん!」

 顔を赤くしながらフレアの口を抑えようとしている。
 これ以上、自分の恥を話してもらいたくなかったからだ。
 楓は戦闘前にこんなんでいいのだろうか、と頭を悩ませることになる。

 「皆さん、ぽこりんがきますよ!」

 ティオの掛け声ではっとなる3人。
 もしかしたら、この中で一番まともなのはティオなのかもしれない。

 「楓、お前はそこで待っていろ」
 「なぜだ、俺のカオティックアーツを見ることも目的の一つだろう」
 「それはあとでいい。どうせ50体も駆らなければいけないんだ。お前は戦闘経験ないだろう」
 「それは……そうだが……」
 「だったら、最初は私たちの動きを見て学べ」

 その一言でフレアが何をしたいのか理解した。
 戦闘経験がない楓を、いきなり戦わせるのは危険だと判断したので、一度、戦闘とは何なのか見てもらおう、ということらしい。
 楓はフレアの言うことを素直に従う。
 何かを学ぶ時、見て学ぶことも大切だからだ。
 これより、ぽこりんとの戦闘が始まる!

 最初に前に出たのはクレハだった。

 「敵を囲う木々たちよ。束縛せよ。【ティムバー・リストリクションズ】」

 クレハの魔法を唱えると、いくつかの木に魔法陣が浮かんだ。
 魔法陣が浮かんだ木は、ぽこりん達に襲いかかる。
 そして、ぽこりん達が動けないように束縛する。

 動けない標的に当てるのは簡単だとばかり、ティオが矢を放って、束縛されているぽこりんを倒していく。

 クレハの魔法も万能ではない。
 数の多いぽこりん全てを束縛することはできない。
 束縛されなかったぽこりん達がクレハに襲いかかろうとする。
 ティオの腕では難しい。
 動いている標的に当てるのは難しく、ティオは動き回るぽこりんに矢を当てることができなかった。

 ぽこりんたちがあと少しでクレハに届くというとき、フレアがクレハの前に出た。

 「閃光よ。迸れ! 【エクレール・フロウ】」

 そうフレアが唱えると、小さな魔法陣が出現した。
 それも驚く程たくさん……
 その魔法陣から小さな光の弾が出現し、ぽこりんたちに弾け飛ぶ。
 光の弾に当たったぽこりんたちは、攻撃に耐え切れず吹っ飛んでいく。

 楓はこの状況でクレハたちが負けるなんて予想もできない、圧倒的な戦いだった。

 「ふう、35体ぐらいは狩ったかな。どうだ楓。参考になったか」
 「ああ、勉強になったよ。ところでクレハとティオは」
 「それならあそこに。あの子はぽこりんを倒すとあんな感じになるのよ」

 フレアが指した方向にクレハとティオがいた。
 クレハは号泣していた。
 それをティオが慰めるシュールな構図だった。

 「大丈夫。クレハ姉さん落ち着いてよ」
 「うう、だってあんなに可愛いのに。矢で吹き飛んだり、魔法で吹き飛んだり、かわいそうじゃないの」
 「でも、相手は魔物……」
 「カワイイは正義なの。ぽこりんも改心してくれるはずなのよ~」

 どうやら、可愛いものが好きなクレハは、ぽこりんを倒すと精神的にダメージが来るらしい。

 楓たちが話している間に、ぽこりんがまた増えた。
 その数10。生き残りと合わせると25体この場にいることになる。
 楓は、このぐらいがちょうどいい、と言わんばかりの笑みをぽこりんに向ける。

 「じゃあ、今度は俺の番かな」
 「期待しているが無茶はするな。目的はカオティックアーツというものを見せてもらうことなんだからな」
 「大丈夫。それに……」
 「それに?」
 「あの数なら、俺のカオティックアーツで十分だ!」

 フレアにそう言い放ち、ぽこりん達に向かって走り出した。

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