Girl's curse~鏡の奥に潜む影~

日向 葵

最終話『ミラーハウス』

〈△月○日(金)6時18分〉

 頭がカックンと落ちた感覚で目が覚めた。
 どうやら私は少し寝てしまったらしい。
 でも、いい感じに時間を潰せたことだし、そろそろ富岡もいなくなっている頃だろう。そうだといいな。
 それにしてもやっぱり変だ。なんでまだ暗いんだろう。6時を過ぎているんだったら、絶対に明るくなっているはずなのに。やっぱりここは普通の場所じゃないみたいだ。

 とりあえず、私はすぐそこにある階段を登っていく。するとそこは厨房につながっていいた。だけどすぐには入らない。
 厨房の方から声が聞こえたからだ。

「クソ、クソクソ。なんだよここは。俺はただ、あいつらとお遊びのおまじないをやっただけなのに、あいつは一体何なんだよ、ちくしょう、ちくしょう」

 錯乱したよにブツブツと呟く少年は、体育座りをしながら震えていた。
 私はそこでふと思う。こんなところにいい器があるではないかと。
 さっきの機密文書から器があればいいということはわかっている。本当にタイミングがいい。あの少年はおまじないとか言っていたから、多分ここは普通の空間とは違う。そう考えたほうがいいかもしれない。だって私がここに来るとき、電車には誰も乗っていなかった。そして、あの駅は一日一往復しか電車はこない。つまりあの駅に誰かが来たということは絶対にありえないのだ。
 まぁ、そんなことはどうでもいいんだけどね。さて、さっさとやりますか……。

 私はカバンから鉈を取り出して、音を立てないようそっと近づいた。そして、少年の後頭部に向かって柄の部分で殴る。

「ぐぁあ」

「はは、ははははははは」

 真っ黒い何かが心を支配する。私が私でなくなっているような、そんな気分。ただ、人を傷つけることを楽しいと感じて、気持ちいいと感じて、叩いて、叩いて、叩いて、ぐちゃぐちゃに歪んだ少年の顔がたまらなく美しくて、自然と笑が溢れる。
 だけど、ハッと我に変えて声を抑えた。
 いくら楽しいと言っても、富岡に居場所を教えてまでやるようなことじゃない。
 それに、少年はどうやら死んでしまったようだ。ホント、ちょうどいい器が手に入ってよかった。
 ミラーハウスまではそんなに距離はないし、富岡がいなければなんとか運べるだろう。
 そう思って私は少年の死体を抱える。そして、ミラーハウスを目指して歩き始めた。


******

 ミラーハウスの中は本当に静かで不気味だった。しかも、何人もの子供の死体があり、嫌な匂いが漂う。
 しかも鏡はみんなボロボロで、割れているものすらある。ある意味で廃墟のミラーハウスなのだが、これでは私の目的が果たせないんじゃないかと不安になる。少年の死体を引きずって、奥に、奥にと進んでいくと、綺麗な鏡が向かい合わせになっているところを発見した。
 私は鏡と鏡の間にいって、少年の死体を横に寝かす。

「お願い秀樹……もう一度、あなたに会いたい……」

 手を合わせて祈るように、その場に膝を着いた。すると、鏡が少し揺れたような、そんな気がした。そしてーー

「クス、クスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクス……キャハハハハハハハハハハハハ」

 突然響く笑い声、うるさくて目をつぶって耳を塞ぐ。
 だけど、音は大きくて、頭が痛くなってくる。その笑い声に混じって聞こえるなにかを引きずっている音。耳を塞いでいるのに聞こえるそれは、あの殺人鬼ー富岡のものだった。
 私は目をあけて、逃げようと試みるのだが、私の目に写ったものは……

「な……なんで」

 横たわる少年の前に座っている私の姿だった。咄嗟に周りを確認するが。真っ暗で何もない場所。だけど笑い声だけがはっきりと聞こえる。何人も、何十人もの子供のような笑い声。だけど、それが一瞬で止まる。そして、服の裾を引っ張られる感触があった。振り返ると、小さな赤い服の女の子がそこにいた。

「おねぇちゃん……」

「え、だ、誰……」

「エヘヘへへ」

 可愛らしく笑うその姿がすごく不気味だった。それもその筈。少女の服が赤いのは返り血のようなものを浴びたからだと直感でわかるほどのものだったからだ。

「あなたは誰。ここは一体どこ。彼に……秀樹にもう一度会わせてよ……」

「秀樹?」

 少女は首をかしげる。そしてなにかを思い出したかのように少女は誰かを手招きした。まさか……秀樹を呼んでくれたの。そう思ったらちょっとだけ心が温かくなる。だけど呼ばれて出てきたのは……少年の前に座っている私と同じ姿をした魂だった。

「やった、帰れる。私の帰れるよ……」

 魂はゆらりと進んでいき、鏡のような大きな壁を擦りぬける。そして、私の中に入っていった。その時、向かい合わせになっている鏡に私の姿が写っているのに気がついた。

「ーーえ、なんで」

 その姿は子供のようで、まるで夢に出てきたあの子のようで。そして全てを思い出す。

 私は昔、ここに来て魂が囚われた。体の方はすでに死んでいるだろう。そして、長い年月が経って『裏野ドリームランド』にやってきた古谷友美と魂の入れ替わりをしたことを。そして、古谷友美の本当の魂は、いま体に戻ったやつだということを。だけどそこには……

「ガァアアアァアァアッァアアアァァアァァア」

「い、いやあぁぁあああっぁっぁぁぁぁぁあぁぁあああぁぁぁあぁあ」

 肉片が飛び散り、鏡を汚す。富岡がハンマーを振りかぶって、彼女を殺してしまった。彼女はまたここを彷徨う魂に戻る。いや、もっと悪質な、ここを訪れたものを殺してしまうような呪いになるだろう。
 それを見て、私はぽろぽろと泣いていた。その涙に乗って、なにか大切なものがこぼれ落ちていくような、そんな気がした。
 またクイッと服を引っ張られる。

「おねぇちゃん、あ~そーっぼ!」

 赤い少女は血塗られたナイフを持ち、笑顔でそういった。私は笑いながら勝手に「いいよ」と答える。無理やり喋らされたようなものだ。きっと顔は引きつっているだろう。

 もうこの時はすでに……彼の名前すら忘れていた。幸せだった気持ちも、嬉しかった気持ちも、悲しかった気持ちさえ、涙に流れてどんどん忘れていく。そして残ったのは、元々の魂が持っていた願いごと。

 私はもうここに囚われて、二度と外には出れないだろう。あの日常には絶対にもう……。
だからこそ、願わずにはいられない。ここでずっと苦しんでいる、赤い服の少女のことを。
 複雑に絡まり合って生まれてしまったこの場所で、一人がさみしいと泣いている少女は、今も誰かと一緒にいたいと引きずり込む。
 この少女から始まった大きくて複雑な呪い。誰か全ての謎を解き明かし、彼女を助けてあげてください。これが私の中に残されたち小さな願いです。

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