Girl's curse~鏡の奥に潜む影~

日向 葵

第三話『キャストルーム その1』

〈△月○日(金)2時17分〉

 ザザ……ザ…………ザザ…………。

 なんだろう。ノイズが酷くてよく思い出せない。だけど、私はこの場所に『裏野ドリームランド』に来たことがある。
 でも何で、どうしてなのかわからない。
 『裏野ドリームランド』は私が生まれるずっと前から廃遊園地になっている。それなのに、私はいつ、どうしてここに来たんだろ。
 だめだ、ノイズが強すぎて、思い出せないし、思い出そうとするたびに頭がひどく痛む。ただ、なんだろう……、とても懐かしい気がした。それはまるで故郷に帰ってきたかのように……。


 目を覚ますと、全く知らない場所にいた。さっきまで、立ち入り禁止の看板がある森の中にいたはず。なのに、今私がいる場所の地面は石造りになっている。
 つまり、さっきまでいた場所からここまで誰かが運んだ、そう言う結論になるのだが、何のためにやったのか全くわからない。
 私は起き上がって、状況を把握することにする。周りを見渡すとさっきまで森にいたのが嘘のような気がするほど、綺麗に整理された石造りの道。道端には街灯がたっており、不気味に点灯している。まるでB級のホラー映画の一シーンのようだ。このままじっとしていたら、何かが出て襲われそ。そう思ったら、背筋がゾッとした。
 なにか出るかもしれないと思いながらも、そっと街灯を目で追っていく。すると、シャッターで閉ざされた大きな門が視界に映った。

「あれって、もしかして入場門?」

 門の形は遊園地によくある入口みたいで、その証拠に上の方あたりに『裏野ドリームランド』と書かれていた。文字にも電気が通っているが、すでにボロボロのようで、不安定な点灯、時折火花を散らしている。
 そこでフッと違和感を感じた。
 ここは何十年も前に廃園になった『裏野ドリームランド』だ。電気が通っているとは考えにくい。だとすると、この街灯と門の上にあるあれは一体何だろう。もしかしたら、誰かが不正に使用している。どうして?
 不可解なことが多く、頭がこんがらがってくる。でもとりあえず、わからないことは一旦置いておくことにした。
 私の目的はミラーハウスだ。もし誰かがなにかしているんだったら、侵入するのも楽になるんじゃないだろうか。だったらこっちとしてもラッキーだ。
 電気が通って、誰かが居るかもしれないなら、シャッターが簡単に開くんじゃないかとも思えた。だから私は門の前に行って確かめてみたんだけど……。

ガチャ、ガチャ。

 廃遊園地のシャッターは鍵がされており、固く閉ざされていた。よじ登って中に入るにしても、高すぎて登れない。
 他に入れそうな場所がないか探してみると、ひと目のつかない場所に一つの扉があった。
 私はそれに手をかけて、開けようとしたが、そこも鍵がかかっている。

「ここも入れないか……。どっかから入れないかな。ん?」

 この扉、よく見るとキャストルームと書かれている。おそらく、キャストがここから入り、準備をしてから中に入る、そのための場所何だろう。そういえば、さっき手に入れた鍵に同じようなことが書いてあったような。
 私はそう思って、さっき手に入れたはずの鍵を探してみる。ポケットあたりに手を突っ込むとあっさり見つかり、書いてある文字を確認すると確かに『裏野ドリームランドキャストルーム』と書かれている。
 これが本物なら、鍵が開くかもしれない。
 そう思って私は、鍵を鍵穴に差し込んでゆっくりと回した。

 ガチャリ。

 静かにそう音が鳴る。取っ手を回すと、ギーと軋むような音を立てながら扉が開いた。どうやらあの鍵は本物で、無事に開くことができたようだ。

 早く秀樹に会いたい。私は目的地のミラーハウスを目指して、キャストルームの中に入った。
 中は薄暗くってよく見えない。手で周りを探りながら、進んでいくとぐにゃりとした何かを踏んだ。
 私は慌てて後ろに下がり、足元のそれを見た。

「ひぃ……」

 それは少し腐った男の死体だった。穴という穴からから蛆虫が湧き出て気持ち悪い。
 何でこんなところに死体があるんだろう。しかも、時間的になにか出そうな雰囲気があって怖い。次第に足が震えてくる。
 死体を避けて、私は奥に、奥に進む。すると、目の前に赤くぼやけた光が揺らめいていた。不安定な形状が、少しづつ人の形になっていく。
 よく見ると、さっきの死体の男だった。こんな怪奇現象、普通なら誰も信じないだろう。だけど、現実に目の前で起こっている。あれは本当に幽霊のようで、ミラーハウスに対する噂の信憑性が上がってくる。
 怖い気持ちと同時に、嬉しい気持ちがこみ上げてきた。

 私は幽霊を無視して前に進んだ。園内側の扉はすぐそこにあったので、そこから入って、ミラーハウスを目指すつもりだった。でも……。

 ガチャ、ガチャガチャ。

「あ、あれ……」

 園内に入るための扉が開かない。これでは園内に入れない。作り的にはこの扉の鍵は、内側、つまり私がいる場所から開け閉めできるはずなのに、固くて全然動かせない。もしかして、錆びている。そうだとしたら、この扉を壊さないと先に進めないってこと?
 私は悩んだ末、扉を無理やりこじ開けることにした。
 まずは何か扉をこじ開けられそうなものを探してみることにしよう。

 部屋の中にあるものは、職員用の机とロッカー。それにパイプ椅子がいくつか置いてある。後はハンガーラックに服が三着ほどかかっていた。
 そして、私が踏んだ死体と、その近くに移動した男の幽霊。今この部屋にあるものはこれだけ。幽霊はできれば近づきたくない。噂の信憑性が高くなっている以上、あれに関わるには危険だと思う。目的のミラーハウスにいけなくなるのは困る。だから別の何かを探そう。

 まずは身近な机の上を確認して見る。上に置いてあるのはうさぎのマスコットのペン立てと一冊のノート、後は小さなカバンだ。
 カバンは女性用で、あの死体とは関連なさそう。

 私は最初にペン立てを確認してみた。
 マスコットの背中に穴があり、ペンが刺さるようになっている。この作りがグロさを感じさせるのだが、この遊園地はいったい何を考えてこんなものを作ったのだろうか。
 ペンは赤黒い血のようなものがついている。それが一体なにを示しているのかわからない。ただ、なんとなくだと思うけど、そのペンが気になった。だから私がそれに触れようとするのだが……。

「あぁぁあ、あああぁぁぁぁああ」

 幽霊が突然声をあげる。不穏な空気。虚ろな目が私をこのペンをつかもうとしている私を見ているような気がした。だからそっと手をどける。すると、幽霊は何事もなかったように無表情になった。
 これに触れるのはやめておこう。

 私は次にカバンの中を確認しようとしたが、ふと机の上にあった一冊のノートに目が移る。
 そこには女性の文字でこう書かれていた。

『○○○○年○月○日:金曜日 :曇り
 また、ゲストがいなくなた。そのため、ゲストがこの遊園地から遠ざかるばかり。もうこの遊園地はダメかもしれない。きっとあの噂は本当だったんだろう。この場所にはあの****が**っている。かの**に**された可哀想な**。**はきっと静かに****んだろう。だけど人に夢を与える遊*地なんてものを****に作ってしまった。きっと**は怒り狂っている。狂って、狂って、狂って、***まって*を**。きっと私も****。嫌だ、わたしは死にたくない。また生きたい。わたしはこの遊園地をやめる。もっと遠*に**なきゃ。でもあ*つが、あい*が来る。**に*われた***がまた…………………………』

 これ以上は赤く染まっていて読むことができない。それに、所々にシミが付いていて、詳しくわからない。どうやらこれは……この遊園地で働いていた人の日記だった。

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