お姫様は自由気ままに過ごしたい ~理想的な異世界ライフを送るための能力活用法~
第二十三話『そうか、奴らが木材か!』
「ななな、なんなのよ、気持ちわるいあれは!」
ザブリェットはヒステリックな感じになりながら叫んだ。当然、ザブリェットだけじゃなく、一号、二号、それにポチまでもが震え上がる。確かに怖い、上を見上げたら大量の目っていう光景は。
どうやらよくわからない何かが密集してドーム状の何かになっているらしい。ザブリェットたちはその内側に『瞬間移動』したようだ。
ギチギチと音を立てながら、視線はザブリェットたちに向けたまま。相手は何もしてこない模様。
ただただ見つてくるだけのホラー映像にザブリェットは何も考えられなくなる。ただ怖いという気持ちが溢れ出し、すぐにでも焼き払ってしまいたいと思ってしまう。
そんなザブリェットとは裏腹に、怖いと思いながらも相手を観察するポチが何かに気がついたようだ。
「あ、あれってもしかして……ギか?」
「ポチ……ギって何?」
「はぁ? 姫……お前はここに木材を取りに来たんだよな」
「う、うん、そうだけど」
「あれがお前さんが欲しがっている木材だ」
ポチに言われてもう一度”アレ”を見てみるザブリェットだが、どう考えても木材に見えない。あれのどこが木材なのか、ザブリェットにはわからない。
「ねぇ、あれのどこが木材なの? わからないなら焼き払うけど……」
「焼き払うな。あれはギ、正確にはギ・シリーズ種と言ってな。宿り木が魔力によって変異した植物型の魔物だ。いい木材になる」
「宿り木……」
宿り木とはいわゆる寄生樹という植物で、月桂樹などの大きな木に絡みつくように寄生して、養分を吸い取る植物だ。一応、養分を受け取る代わりに大きな木に必要なあれやこれやを受け渡すらしいのだが、最初は小さくても、気が付くと寄生していた大きな木と同じぐらいの大きさになる。まるで祭りのときに買った亀が気がついたら大きくなっていたみたいだ。
そんな宿り木にも弱点はある。そう、彼らは大きな木から養分を貰い受けることで生きている。
大きな木から見放されたら死んでしまうか弱い存在。
さて、そんな弱っちい存在が魔力を浴びて魔物化したらどうなるか。もちろん、自由に動けることぐらいはできるだろう。
そうなると、好き勝手に寄生して、木の養分を吸い取る、森殺しに生まれ変わるのだ。
といっても、養分を奪う木がなくなれば彼らもまた死んでしまう。取りすぎはよくない。だからこそ、魔物化した宿り木、ギは森との共存関係を築いている。森を管理し、外敵から森を守り、その対価として木々から養分を貰い受ける、なかなか賢い魔物である。
そんな植物であっても、一応生きている。当然、子孫を残すべく種をまく。いまはちょうど繁殖期。植物型の魔物に対して繁殖期と言っていいのか疑問だが……そういうわけで、なんか密集しているとポチは言う。
「あれは、見た感じギ・キーファーだな。松に寄生する魔物だ。そこそこ丈夫だが、腐りやすいぞ。他の木材と比べると、ざっと半分ぐらいの寿命かな。大体3から5年ってところか。でも、やすらぎを与えてくれる空間を作ったりするにはいいかもしれないな」
「ポチ、なかなか詳しいけど、どうして」
「いや、俺って建築系が好きなんだよ。家を建てたり、家具を作ったりさ。魔王さまって農業馬鹿だろう」
「ヘルトを馬鹿にした……言いつけてやろう」
「絶対に言うなよ!
まぁそういうわけで、魔王様にやすらぎを与えられる空間をつくる、そうなると建築の技術が必要になってくるってわけよ」
「見事な忠犬っぷり」
「はは、褒めても何も出ないぞ」
「褒めてない……。
よし、一号、二号……行け」
「ーーえっ」
今まで怖くて黙りだった一号と二号が、ザブリェットの言葉に困惑する。
心の奥底から湧き上がる恐怖。本当は行きたくない。きっと酷いことになるのは目に見えている。だけど、大好きなザブリェットに行けと言われたのだ。怖くて行きたくないという気持ちと、ザブリェットにお願いされたから行かなければという気持ちが葛藤する。
頭を抱えて、涙目になりながらブツブツと「どうすれば」という二人。
なかなか行ってくれない二人にザブリェットは大きなため息を吐いた。そして、二号のお尻を蹴っ飛ばす。
「きゃふん!」
「…………行け」
「ハイですよ、お姉さま。この二号にお任せを!」
蹴られたことで吹っ切れた二号は、大量のギに立ち向かう。ドーム状で手の届かない場所にいるため、本来ならどうしようもないのだが、二号はサキュバス。一応悪魔に分類されるので空を飛ぶことができる。
「あ、ちょっとまって! 行ってきます、ご主人様!」
先に行ってしまった二号を見て、慌てて後を追いかける一号。ここはハーピィである私の出番とばかりに速度を出して、ギの群れに突っ込んで行く。そしてーー。
「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」
ギたちが一号と二号に何かを飛ばした。そう、飛ばしたのだ。飴玉サイズの小さな何かは弾丸のように一号と二号にめり込んだ。
そして、体内に入り込んだそれは、まるで生きているかのように這いずり回る。
そう、大量の種を植えつけられたのだ。しかも魔物化している植物の種だ。普通とは全く違って、自由に動ける仕様。かなりやばい。
空中から落ちてくる一号と二号。ザブリェットのもとに真っ逆さま。
当然、ザブリェットは、数歩後ろに下がる。
「「グギャ!」」
地面に激突するふたりはなんて哀れなんだろう。ほんと、ザブリェットは女の子に厳しい。どうしてこんな歪んだ性格になってしまったのだろうか。ポチは、手と手のシワとシワを合わせて「なーむー」とか言い始める。どっかのCMみたいだ。
ポチの姿を見てなんだか懐かしいと思うザブリェット。でも、これで手詰まりだ。ギをどうにかする方法がない。
二号がボロ雑巾のようになったことで、光の魔法が次第に薄れていく。徐々に暗くなるその場所に、新たな光が場を照らした。
「『らいと』」
「おま、光の魔法が使えるのか!」
「だって、さっき二号の魔法を見たし」
「いやいや、魔法を見たぐらいで使えるようにならないだろう!」
「え、そう……私、今まで魔法の勉強ってしたことないけど」
「は? 雷の魔法は……」
「偶然見ることができただけ。いっつも仕事しかしていなかった」
「これが……天才ってやつか」
「褒めて褒めて~」
ザブリェットは甘えるようにして、ポチの胸に飛び込んだ。がっちりとホールドして、ふわふわなポチの体を堪能する。
「ちょ、待て、こんな……くぅ~ん」
「ちょっと……悶えてないで褒めてよ。頭を撫でてくれても、いいんだよ」
上目遣いでポチにそういったザブリェット。この世界に来て、誰かに甘えられる機会がほとんどなかったのだ。ついでだとばかりに甘え倒す。
そのおかげでバランスを崩して、ふたりは地面に倒れ込んだ。なぜか、ポチがザブリェットを押し倒す形で。
「……ケダモノ、信じていたのに!」
「うっせぇ。不可抗力だ。それにお前、今の状況をーーーーあぶねぇ!」
突然、ポチがザブリェットを包み込むように覆いかぶさった。その行動にびっくりしたザブリェットはドキドキが止まらない。そっとポチの顔を見ると、苦痛に歪んだ顔が間近にあった。
息を荒げ、苦しそうにしているのに、その場から動こうとしないポチに困惑した。
(一体何故、どうしてポチはこんなに苦しそうなの)
「ポチ、どいて、苦しいなら早くなんとかしないと」
「ーーっ……うっせぇ…………ジッと……してろ」
「な、なんで……」
そう言ったところで、ある音に気が付く。何かがシュッと飛んでくる音。そこでザブリェットは何が起こっているのか理解する。
転んで動きが鈍ったときに、ギたちが一斉に種を飛ばしたのだ。
それに気がついたポチはザブリェットを守るため、自分を盾にする。触れた体の内側から、何かが蠢いている感触がザブリェットにも伝わった。
なんで人間の私を守るの……そういう考えが頭の中を駆け巡る。
とても長く感じた時間。涙を流しそうになるのを堪えて、ザブリェットはジッと耐えた。
そして、音が止む。もう種が尽きたのか、必要な分だけ飛ばしたのでもうやめたのかわからない。
ザブリェットはポチから抜け出して、周りの状況を確認する。
一号と二号はいつもどおりだから別にいい。回復させてやれば済むこと。それだけでふたりは大喜びをするだろう。だけど、身をなげうって守ってくれたポチは違う。ザブリェットのために傷ついて、苦しそうに呻いている。
ふつふつと湧き上がる感情。今まで感じたことがない怒りがザブリェットの心を支配しそうになる。それを押さえつけて、静かにギを見つめた。
「回復は……後でいいっか。残念だけど、天使の祝福は優秀だしね。それに、治してすぐに攻撃が来そうだし、また苦しそうなポチをいるのは嫌だ。だからその前に、みんなにひどいことをしたあんたたちを、木材に変えてやるわ!」
怒りながらも、なんだかんだで自分のやりたいことに忠実なザブリェットは、知っている能力を頭に思い浮かべ、静かに微笑んだ。
ザブリェットはヒステリックな感じになりながら叫んだ。当然、ザブリェットだけじゃなく、一号、二号、それにポチまでもが震え上がる。確かに怖い、上を見上げたら大量の目っていう光景は。
どうやらよくわからない何かが密集してドーム状の何かになっているらしい。ザブリェットたちはその内側に『瞬間移動』したようだ。
ギチギチと音を立てながら、視線はザブリェットたちに向けたまま。相手は何もしてこない模様。
ただただ見つてくるだけのホラー映像にザブリェットは何も考えられなくなる。ただ怖いという気持ちが溢れ出し、すぐにでも焼き払ってしまいたいと思ってしまう。
そんなザブリェットとは裏腹に、怖いと思いながらも相手を観察するポチが何かに気がついたようだ。
「あ、あれってもしかして……ギか?」
「ポチ……ギって何?」
「はぁ? 姫……お前はここに木材を取りに来たんだよな」
「う、うん、そうだけど」
「あれがお前さんが欲しがっている木材だ」
ポチに言われてもう一度”アレ”を見てみるザブリェットだが、どう考えても木材に見えない。あれのどこが木材なのか、ザブリェットにはわからない。
「ねぇ、あれのどこが木材なの? わからないなら焼き払うけど……」
「焼き払うな。あれはギ、正確にはギ・シリーズ種と言ってな。宿り木が魔力によって変異した植物型の魔物だ。いい木材になる」
「宿り木……」
宿り木とはいわゆる寄生樹という植物で、月桂樹などの大きな木に絡みつくように寄生して、養分を吸い取る植物だ。一応、養分を受け取る代わりに大きな木に必要なあれやこれやを受け渡すらしいのだが、最初は小さくても、気が付くと寄生していた大きな木と同じぐらいの大きさになる。まるで祭りのときに買った亀が気がついたら大きくなっていたみたいだ。
そんな宿り木にも弱点はある。そう、彼らは大きな木から養分を貰い受けることで生きている。
大きな木から見放されたら死んでしまうか弱い存在。
さて、そんな弱っちい存在が魔力を浴びて魔物化したらどうなるか。もちろん、自由に動けることぐらいはできるだろう。
そうなると、好き勝手に寄生して、木の養分を吸い取る、森殺しに生まれ変わるのだ。
といっても、養分を奪う木がなくなれば彼らもまた死んでしまう。取りすぎはよくない。だからこそ、魔物化した宿り木、ギは森との共存関係を築いている。森を管理し、外敵から森を守り、その対価として木々から養分を貰い受ける、なかなか賢い魔物である。
そんな植物であっても、一応生きている。当然、子孫を残すべく種をまく。いまはちょうど繁殖期。植物型の魔物に対して繁殖期と言っていいのか疑問だが……そういうわけで、なんか密集しているとポチは言う。
「あれは、見た感じギ・キーファーだな。松に寄生する魔物だ。そこそこ丈夫だが、腐りやすいぞ。他の木材と比べると、ざっと半分ぐらいの寿命かな。大体3から5年ってところか。でも、やすらぎを与えてくれる空間を作ったりするにはいいかもしれないな」
「ポチ、なかなか詳しいけど、どうして」
「いや、俺って建築系が好きなんだよ。家を建てたり、家具を作ったりさ。魔王さまって農業馬鹿だろう」
「ヘルトを馬鹿にした……言いつけてやろう」
「絶対に言うなよ!
まぁそういうわけで、魔王様にやすらぎを与えられる空間をつくる、そうなると建築の技術が必要になってくるってわけよ」
「見事な忠犬っぷり」
「はは、褒めても何も出ないぞ」
「褒めてない……。
よし、一号、二号……行け」
「ーーえっ」
今まで怖くて黙りだった一号と二号が、ザブリェットの言葉に困惑する。
心の奥底から湧き上がる恐怖。本当は行きたくない。きっと酷いことになるのは目に見えている。だけど、大好きなザブリェットに行けと言われたのだ。怖くて行きたくないという気持ちと、ザブリェットにお願いされたから行かなければという気持ちが葛藤する。
頭を抱えて、涙目になりながらブツブツと「どうすれば」という二人。
なかなか行ってくれない二人にザブリェットは大きなため息を吐いた。そして、二号のお尻を蹴っ飛ばす。
「きゃふん!」
「…………行け」
「ハイですよ、お姉さま。この二号にお任せを!」
蹴られたことで吹っ切れた二号は、大量のギに立ち向かう。ドーム状で手の届かない場所にいるため、本来ならどうしようもないのだが、二号はサキュバス。一応悪魔に分類されるので空を飛ぶことができる。
「あ、ちょっとまって! 行ってきます、ご主人様!」
先に行ってしまった二号を見て、慌てて後を追いかける一号。ここはハーピィである私の出番とばかりに速度を出して、ギの群れに突っ込んで行く。そしてーー。
「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」
ギたちが一号と二号に何かを飛ばした。そう、飛ばしたのだ。飴玉サイズの小さな何かは弾丸のように一号と二号にめり込んだ。
そして、体内に入り込んだそれは、まるで生きているかのように這いずり回る。
そう、大量の種を植えつけられたのだ。しかも魔物化している植物の種だ。普通とは全く違って、自由に動ける仕様。かなりやばい。
空中から落ちてくる一号と二号。ザブリェットのもとに真っ逆さま。
当然、ザブリェットは、数歩後ろに下がる。
「「グギャ!」」
地面に激突するふたりはなんて哀れなんだろう。ほんと、ザブリェットは女の子に厳しい。どうしてこんな歪んだ性格になってしまったのだろうか。ポチは、手と手のシワとシワを合わせて「なーむー」とか言い始める。どっかのCMみたいだ。
ポチの姿を見てなんだか懐かしいと思うザブリェット。でも、これで手詰まりだ。ギをどうにかする方法がない。
二号がボロ雑巾のようになったことで、光の魔法が次第に薄れていく。徐々に暗くなるその場所に、新たな光が場を照らした。
「『らいと』」
「おま、光の魔法が使えるのか!」
「だって、さっき二号の魔法を見たし」
「いやいや、魔法を見たぐらいで使えるようにならないだろう!」
「え、そう……私、今まで魔法の勉強ってしたことないけど」
「は? 雷の魔法は……」
「偶然見ることができただけ。いっつも仕事しかしていなかった」
「これが……天才ってやつか」
「褒めて褒めて~」
ザブリェットは甘えるようにして、ポチの胸に飛び込んだ。がっちりとホールドして、ふわふわなポチの体を堪能する。
「ちょ、待て、こんな……くぅ~ん」
「ちょっと……悶えてないで褒めてよ。頭を撫でてくれても、いいんだよ」
上目遣いでポチにそういったザブリェット。この世界に来て、誰かに甘えられる機会がほとんどなかったのだ。ついでだとばかりに甘え倒す。
そのおかげでバランスを崩して、ふたりは地面に倒れ込んだ。なぜか、ポチがザブリェットを押し倒す形で。
「……ケダモノ、信じていたのに!」
「うっせぇ。不可抗力だ。それにお前、今の状況をーーーーあぶねぇ!」
突然、ポチがザブリェットを包み込むように覆いかぶさった。その行動にびっくりしたザブリェットはドキドキが止まらない。そっとポチの顔を見ると、苦痛に歪んだ顔が間近にあった。
息を荒げ、苦しそうにしているのに、その場から動こうとしないポチに困惑した。
(一体何故、どうしてポチはこんなに苦しそうなの)
「ポチ、どいて、苦しいなら早くなんとかしないと」
「ーーっ……うっせぇ…………ジッと……してろ」
「な、なんで……」
そう言ったところで、ある音に気が付く。何かがシュッと飛んでくる音。そこでザブリェットは何が起こっているのか理解する。
転んで動きが鈍ったときに、ギたちが一斉に種を飛ばしたのだ。
それに気がついたポチはザブリェットを守るため、自分を盾にする。触れた体の内側から、何かが蠢いている感触がザブリェットにも伝わった。
なんで人間の私を守るの……そういう考えが頭の中を駆け巡る。
とても長く感じた時間。涙を流しそうになるのを堪えて、ザブリェットはジッと耐えた。
そして、音が止む。もう種が尽きたのか、必要な分だけ飛ばしたのでもうやめたのかわからない。
ザブリェットはポチから抜け出して、周りの状況を確認する。
一号と二号はいつもどおりだから別にいい。回復させてやれば済むこと。それだけでふたりは大喜びをするだろう。だけど、身をなげうって守ってくれたポチは違う。ザブリェットのために傷ついて、苦しそうに呻いている。
ふつふつと湧き上がる感情。今まで感じたことがない怒りがザブリェットの心を支配しそうになる。それを押さえつけて、静かにギを見つめた。
「回復は……後でいいっか。残念だけど、天使の祝福は優秀だしね。それに、治してすぐに攻撃が来そうだし、また苦しそうなポチをいるのは嫌だ。だからその前に、みんなにひどいことをしたあんたたちを、木材に変えてやるわ!」
怒りながらも、なんだかんだで自分のやりたいことに忠実なザブリェットは、知っている能力を頭に思い浮かべ、静かに微笑んだ。
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