お姫様は自由気ままに過ごしたい ~理想的な異世界ライフを送るための能力活用法~
第十二話『目指せ布の世界!』
亡霊神父から聞いた『布の世界』を探すため、魔王城を駆け巡るザブリェットたち。
入口前に来ても、何がなんだか分からず、結局彷徨う羽目になった。
「一体どこに布の世界があるって言うのよ!」
「お姉さま、落ち着いてください。この僕にお任せーーグファ」
二号がザブリェットのために行動を起こそうとしたとき、横から一号が蹴りを入れた。それはもう、殺意が感じられるほど強力だった。もしかしたら、こいつらは仲良くないんじゃないかなと思い始めるザブリェット。そういえば、恋敵と書いてライバルと読むらしいので、これはこれでありだと思う。
ザブリェットは転がっている二号を蹴りながら端によけて、一号に向き直った。
「ここは私にお任せ下さい、ご主人様。いっきますよ~」
一号は大きく息を吸い、大声で叫んだ。魔力を声に乗せて、その反響により固有結界である『布の世界』を探し出そうとしたのだ。
ただ、声があまりにも大きかった。
「うるさい!」
「グベラ……」
後頭部を巨大な鋏で叩かれた一号は、崩れ落ちて地面と熱いキスを交わす。
白目を向いて、泡を吐き出したので、この世界の回復魔法『ヒール』を唱えて治療してやった。
一応回復できたものの、手放した意識はもとに戻らず、一号はぐったりと倒れたまま。
ザブリェットはめんどくさそうに蹴り上げて、二号同様端に寄せる。
邪魔くさい一号と二号をどけて「ふう」と一息ついたザブリェットは何かに気がついたようにピクっと動いた。
ザブリェットは一号が放った魔力による反応を見逃さなかった。明らかに何もない空間。だけど、確かに何かある反応。そこに『布の世界』があることに気がついたザブリェットは鋏を魔力で纏、何もない空間を切り裂いた。
突然鋏を振り回したザブリェット。傍から見たら頭がおかしくなった何かにしか見えないだろう。実際に、チラホラと悲鳴が聞こえてきた。
だが、切り裂いたあとに、光り輝く亀裂ができると、誰もが息を飲んだ。
ひび割れた空間。そこから漏れる光。その奥の光景は、多種類の布たちが漂う幻想的空間。
ザブリェットはなんのためらいもなく、その中に入っていく。
その時、目を覚ました二号は気絶した一号を蹴っ飛ばし、「ぐへぇ」といったことを確認したあとに、どこかに去ってしまう。
あんなになついてくれたのに、ついてくれないんだ。そう思うと、ちょっと寂しい気持ちになるザブリェット。だけど、いまは布。それが一番大事だった。
「ぬの~ぬの~」
「布って……鳴くんだ。知らなかった」
奇妙な声を上げて漂う布たち。その周囲は、カーテンレースから絨毯。雑巾やらシーツまで、多種多様の布が存在する。
「さて、どの布を切り裂こうか……」
どうせならいい布を使って、いいベッドで眠りたい。これだけ沢山の布があるのだから、探せば希望の布があるだろうと思ったザブリェットはブラブラと『布の世界』を歩いた。
「ぬ~ぬ~ぬ~ぬ~」
「え、なになに!」
「ぬ~ぬ~ぶしゃあぁぁぁぁぁぁぁ」
「うっそ~ん」
防犯ベルの「じりじり」といった音がぬになったような感じの声で鳴き出した布リアンたち。きっとザブリェットという敵が現れたので、応戦しようとしているのだ。
だが、十三歳というかわいらしい見た目とは裏腹に、悪魔のような心をもっているザブリェットのことを、獣……いや、布の勘が告げたようだ。仲間を率いて一斉に襲うことで、確実に倒そうとしているらしい。
そんな鬼気迫る布リアンたちを見て、ザブリェットは……。
(あ、あの布たち……頭がある。本当に生きているよ!)
などと考えていた。緊張感や恐怖心が全くないザブリェットにとって、襲ってくる布たちは、じゃれてきたおいしいお肉と同じ。良し悪しを見極めて、綺麗に削ぎ落すことに集中する。
「頭……じゃま!」
シュンっと目に見えない速さで振るわれた鋏に、一匹の布の首が飛ぶ。口からは血をたれながして白目になっているが、体は何も流れず綺麗なまま。ザブリェットは体を拾いほくえむ。
しかも『鋏の魅了』の効力をOFFにして行ったおかげか、『鑑定』をつけっぱなしにしているザブリェットの視界に何も映らない。邪魔な能力を上手くOFFにできたことに嬉しい気持ちになったので、ニヤリと笑ってしまった。
そんなザブリェットの表情を見た布リアンたちの心の奥底に恐怖を植え付けられる。
あれに逆らったら殺される。だけど逆らわずに従っても殺されると。だったら逃げる。だけどそれでも殺される。唯一生き残る方法があるとすれば、仲間を犠牲にして自分が逃げるほかありえない。
その思考に至ってしまうと、布リアンたちは互いに疑心暗鬼になる。お互いを蹴落としながら、ザブリェットから距離取ろうとしているせいで、逃げるに逃げられない状況に陥っていた。
ザブリェットの影がゆらりと揺れる。
シャキンっと鋏を鳴らして、勢いよく駆け出した。
「ぬぬぬぬ~~~~~~~~~」
「へへ、逃がさないんだから!」
鋏を持った手を横に振り回し、その勢いに乗って回転する。ザブリェットのハサミに巻き込まれた布リアンたちは、頭と胴体がおさらばする。回転により近くの布リアンを切り裂いたザブリェットは次の狙いを定めたとばかりに、腕を伸ばして頭を切り裂く。血しぶきを上げながら落ちていく布の頭。それとは全く逆にとても綺麗な体の方を血に染まる前に、ザブリェットは回収する。
「うん、綺麗な絨毯とか、綺麗なカーテンレースとか。うーん、ベッドに使えそうなものがない」
しかし、ベッドに使えそうな綺麗な布がない。ちくしょう、殺し損じゃないか。そう思うのだが、せっかくだから頂いておこうと、全ての布を『時空庫』にしまう。
そして、次なる布を求めて、ザブリェットは徘徊し始める。その姿は、人を求めて彷徨うゾンビの如く。ゆらゆらと進んでいく。
だけどあらかた切り裂いたせいか、布の姿が見当たらない。
「どこ……私の求める布はどこ……」
広がる布の世界。その中央部分が何か要塞のような、タンスのような大きな建造物があった。まだそこだけ見ていない。それ以外、もう布が存在しない。だったらそこに行くしかない。
ザブリェットの歩みは止まらない。
「布狩りだぁぁぁぁあああ」
どこぞの世紀末なあれのように、ザブリェットは鋏を振り回して、要塞タンスに駆け出す。
その狂気じみた姿に恐れをなしたのか、突然すべての扉が開いた。
そこから大量の布が、また飛び出してくる。
できるだけ遠くに逃げられるように。
「なにあれ……綺麗……」
宙を浮かぶ純白の布。光が照らし、まるで宝石のように輝いているような錯覚をさせる。
理想の布が、ザブリェットから逃げるように飛んでいく。それは……最高のベッドが作れないのと同意。
だけど、一人でこの量を追っかけても回収は難しい。
仕方ないとばかりに、能力ガイドで検索をかける。
一発で見つかった、アレを全て回収出来そうな能力『召喚』。
これを使うしかないとザブリェットは手をかざして能力を発動する。なのに……。
『エラーメッセージ:条件を満たさなかったので能力が発動できませんでした』
「……あれ?」
『鑑定』の能力によって、不発のメッセージが流れるのだった。
入口前に来ても、何がなんだか分からず、結局彷徨う羽目になった。
「一体どこに布の世界があるって言うのよ!」
「お姉さま、落ち着いてください。この僕にお任せーーグファ」
二号がザブリェットのために行動を起こそうとしたとき、横から一号が蹴りを入れた。それはもう、殺意が感じられるほど強力だった。もしかしたら、こいつらは仲良くないんじゃないかなと思い始めるザブリェット。そういえば、恋敵と書いてライバルと読むらしいので、これはこれでありだと思う。
ザブリェットは転がっている二号を蹴りながら端によけて、一号に向き直った。
「ここは私にお任せ下さい、ご主人様。いっきますよ~」
一号は大きく息を吸い、大声で叫んだ。魔力を声に乗せて、その反響により固有結界である『布の世界』を探し出そうとしたのだ。
ただ、声があまりにも大きかった。
「うるさい!」
「グベラ……」
後頭部を巨大な鋏で叩かれた一号は、崩れ落ちて地面と熱いキスを交わす。
白目を向いて、泡を吐き出したので、この世界の回復魔法『ヒール』を唱えて治療してやった。
一応回復できたものの、手放した意識はもとに戻らず、一号はぐったりと倒れたまま。
ザブリェットはめんどくさそうに蹴り上げて、二号同様端に寄せる。
邪魔くさい一号と二号をどけて「ふう」と一息ついたザブリェットは何かに気がついたようにピクっと動いた。
ザブリェットは一号が放った魔力による反応を見逃さなかった。明らかに何もない空間。だけど、確かに何かある反応。そこに『布の世界』があることに気がついたザブリェットは鋏を魔力で纏、何もない空間を切り裂いた。
突然鋏を振り回したザブリェット。傍から見たら頭がおかしくなった何かにしか見えないだろう。実際に、チラホラと悲鳴が聞こえてきた。
だが、切り裂いたあとに、光り輝く亀裂ができると、誰もが息を飲んだ。
ひび割れた空間。そこから漏れる光。その奥の光景は、多種類の布たちが漂う幻想的空間。
ザブリェットはなんのためらいもなく、その中に入っていく。
その時、目を覚ました二号は気絶した一号を蹴っ飛ばし、「ぐへぇ」といったことを確認したあとに、どこかに去ってしまう。
あんなになついてくれたのに、ついてくれないんだ。そう思うと、ちょっと寂しい気持ちになるザブリェット。だけど、いまは布。それが一番大事だった。
「ぬの~ぬの~」
「布って……鳴くんだ。知らなかった」
奇妙な声を上げて漂う布たち。その周囲は、カーテンレースから絨毯。雑巾やらシーツまで、多種多様の布が存在する。
「さて、どの布を切り裂こうか……」
どうせならいい布を使って、いいベッドで眠りたい。これだけ沢山の布があるのだから、探せば希望の布があるだろうと思ったザブリェットはブラブラと『布の世界』を歩いた。
「ぬ~ぬ~ぬ~ぬ~」
「え、なになに!」
「ぬ~ぬ~ぶしゃあぁぁぁぁぁぁぁ」
「うっそ~ん」
防犯ベルの「じりじり」といった音がぬになったような感じの声で鳴き出した布リアンたち。きっとザブリェットという敵が現れたので、応戦しようとしているのだ。
だが、十三歳というかわいらしい見た目とは裏腹に、悪魔のような心をもっているザブリェットのことを、獣……いや、布の勘が告げたようだ。仲間を率いて一斉に襲うことで、確実に倒そうとしているらしい。
そんな鬼気迫る布リアンたちを見て、ザブリェットは……。
(あ、あの布たち……頭がある。本当に生きているよ!)
などと考えていた。緊張感や恐怖心が全くないザブリェットにとって、襲ってくる布たちは、じゃれてきたおいしいお肉と同じ。良し悪しを見極めて、綺麗に削ぎ落すことに集中する。
「頭……じゃま!」
シュンっと目に見えない速さで振るわれた鋏に、一匹の布の首が飛ぶ。口からは血をたれながして白目になっているが、体は何も流れず綺麗なまま。ザブリェットは体を拾いほくえむ。
しかも『鋏の魅了』の効力をOFFにして行ったおかげか、『鑑定』をつけっぱなしにしているザブリェットの視界に何も映らない。邪魔な能力を上手くOFFにできたことに嬉しい気持ちになったので、ニヤリと笑ってしまった。
そんなザブリェットの表情を見た布リアンたちの心の奥底に恐怖を植え付けられる。
あれに逆らったら殺される。だけど逆らわずに従っても殺されると。だったら逃げる。だけどそれでも殺される。唯一生き残る方法があるとすれば、仲間を犠牲にして自分が逃げるほかありえない。
その思考に至ってしまうと、布リアンたちは互いに疑心暗鬼になる。お互いを蹴落としながら、ザブリェットから距離取ろうとしているせいで、逃げるに逃げられない状況に陥っていた。
ザブリェットの影がゆらりと揺れる。
シャキンっと鋏を鳴らして、勢いよく駆け出した。
「ぬぬぬぬ~~~~~~~~~」
「へへ、逃がさないんだから!」
鋏を持った手を横に振り回し、その勢いに乗って回転する。ザブリェットのハサミに巻き込まれた布リアンたちは、頭と胴体がおさらばする。回転により近くの布リアンを切り裂いたザブリェットは次の狙いを定めたとばかりに、腕を伸ばして頭を切り裂く。血しぶきを上げながら落ちていく布の頭。それとは全く逆にとても綺麗な体の方を血に染まる前に、ザブリェットは回収する。
「うん、綺麗な絨毯とか、綺麗なカーテンレースとか。うーん、ベッドに使えそうなものがない」
しかし、ベッドに使えそうな綺麗な布がない。ちくしょう、殺し損じゃないか。そう思うのだが、せっかくだから頂いておこうと、全ての布を『時空庫』にしまう。
そして、次なる布を求めて、ザブリェットは徘徊し始める。その姿は、人を求めて彷徨うゾンビの如く。ゆらゆらと進んでいく。
だけどあらかた切り裂いたせいか、布の姿が見当たらない。
「どこ……私の求める布はどこ……」
広がる布の世界。その中央部分が何か要塞のような、タンスのような大きな建造物があった。まだそこだけ見ていない。それ以外、もう布が存在しない。だったらそこに行くしかない。
ザブリェットの歩みは止まらない。
「布狩りだぁぁぁぁあああ」
どこぞの世紀末なあれのように、ザブリェットは鋏を振り回して、要塞タンスに駆け出す。
その狂気じみた姿に恐れをなしたのか、突然すべての扉が開いた。
そこから大量の布が、また飛び出してくる。
できるだけ遠くに逃げられるように。
「なにあれ……綺麗……」
宙を浮かぶ純白の布。光が照らし、まるで宝石のように輝いているような錯覚をさせる。
理想の布が、ザブリェットから逃げるように飛んでいく。それは……最高のベッドが作れないのと同意。
だけど、一人でこの量を追っかけても回収は難しい。
仕方ないとばかりに、能力ガイドで検索をかける。
一発で見つかった、アレを全て回収出来そうな能力『召喚』。
これを使うしかないとザブリェットは手をかざして能力を発動する。なのに……。
『エラーメッセージ:条件を満たさなかったので能力が発動できませんでした』
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