お姫様は自由気ままに過ごしたい ~理想的な異世界ライフを送るための能力活用法~
第四話『見えない来客』
まぁ、そんなこんな色々あって現在に至る。十三歳になっても、誰も祝ってくれないザブリェットは、今日も寂しく仕事をする。
外から楽し声な笑い声、たぶん姉や妹たちなんだろう。
一緒に遊びたいと思っていても、目の前にある大量の書類をチェックしなければならないのでそれも無理。
ザブリェットは「はぁ」と大きくため息を吐いて仕事を開始する。
ここから逃げてやろうと決意してから三年。呪いを解く手がかりがまるでない。
分かったことは、能力は逃げ出す以外の使用なら呪いは反応しないこと。この呪いは、束縛、つまり逃げる意思がなければ何も反応しないし、一定範囲内の決められた場所なら、どこに移動しようとも大丈夫だということだ。
能力の解明は、色々とありすぎて未だに終わらないけど、ロクでもないものしかなかった。
例えば、能力を全て把握するものがないか探したら、『能力ガイド』という能力があった。偶然にも思い出せた、使えそうな能力。
それを発動すると、ザブリェットにしか見えない本のようなものが出てくる。ちゃんと検索機能があるのはありがたいけど、約十兆三千六百八十五億の能力を全て把握するのは無理だった。
しかも、書いてある内容がどこぞの取り扱い説明書のようになっており、見ると眠くなる仕様。現在は寝る前に行っている能力チェックか、寝れないときの睡眠導入書として使っている。
他にも『創造』、『破壊』、『強化』、『暴食』なんかあったが、どれもこれも使えない。
『創造』は、頭の中にあるイメージを創造することができる。ただし、無から有は作れず、同じ原子が含まれるものがないと、何もできない仕様。これって、原子変換じゃないのかな、と思うザブリェットだが、どうも違うらしい。あれは、原子そのものを別のものに変換するのであって、創造は、原子をもとに、物を作り変える能力だと、能力ガイドに書いてあった。そうなると錬金術に近いのかもしれない。
『破壊』は、生きているものには使えない上に、使ったら対象が消滅して二度と戻らない。ゴミ掃除にしか使えない能力だし、『強化』は、次の日に筋肉痛に見舞われる。
一番最悪なのは、『暴食』だ。
なんでも食べられる能力だけど、使ったらお腹を壊すって、これどうなの?
まだたくさん能力があるけども、これだけで、天使の祝福がどのくらい使えないものなのか理解できる。
呪いを解くための能力がないか、当然探した。でも、出てくるのは、呪いは解けるけど死んじゃうよとか、呪いは解けるけど、次の日に、効力が倍になって呪いが再発するとか、意味の分からないものしかなかった。
色々と試行錯誤したものの、どうも解決策が見つからないまま、三年も経ってしまった。
最近は自由に遊べないどころか、楽しそうに遊んでいる声がそこらじゅうで聞こえて、夜は涙で枕を濡らすザブリェット。
「畜生、皆ばっか。私がなんだってんだ。人に仕事を押し付けて。皆だけ遊んで。私がいなくなったらこの国が滅びるんじゃないのか。てか、私を一体なんだと思っているんだ、バカ野郎!」
楽しく遊んでいるであろう、人たちに悪態つきながら、『強化』を多重併用して常人の36倍速で仕事を行う。
次の日に筋肉痛になる能力なので、ある程度仕事をして、明日は休もうなどと考えていた。最近、能力のデメリットをサボるために使っているザブリェットは、今日も退屈な時間を過ごす。
仕事を始めてからどれぐらい時間がたっただろうか。気がついたら、外が暗くなっていた。でも、城下町には明かりが灯っており、まだ賑わっている。きっと、仕事帰りのおっさんどもが楽しく騒いでいるに違いない。
「はぁ、羨ましい」
でも、そんなことは言っていられない、ザブリェットは、仕事を進めようとすると、普段と違う、怪しげな気配を感じた。
(今日の夜ご飯? でも、こんな気配は……あれ?)
天使からもらった能力はロクでもないものが多いけど、常時起動型の能力だけは違う。ザブリェットの瞳は他の人よりも魔力探知に優れていたので、その存在に気が付けた。
視界に映るモヤモヤした何か。おそらく幻術系の魔法か何かで姿を隠している謎の人物。
誰にも悟られず、ザブリェットのもとにきたのだから、只者ではないはずだ。
「……あなた、誰?」
「ほう? 我に気が付くか。人間の姫よ」
幻術魔法が掻き消え、姿を現したのは、二本のツノ、赤い瞳に、紫色っぽい肌。黒いマントを羽織り、高級そうな杖を持っている。
何より、男から漏れ出す魔力が尋常じゃない。そして、イケメンだった。
「我の名はヘルト。魔国領の王、魔王ヘルトだ」
中二病っぽい、痛いポーズを決めたヘルト。ただ、ザブリェットは、不思議に思うところがあった。
ヘルトはイケメンなのに、何も感じない。
何を隠そう、ザブリェットはイケメンが大嫌い。イケメンとは、顔がいいのでいろんな女性が寄ってくる。取っ替え引っ替えしていそうなイメージがあり、優柔不断で、チャラい。顔を武器に貢がせて、ヒモを目指す最低最悪のクソ野郎。人を騙してもなんとも思わず、利用することが当たり前で、謝ればなんでも許されると思っている人種。それが、ザブリェットが思い浮かべるイケメンのイメージだった。
前世の記憶では、天恋に言い寄るイケメンがいたこともあった。確かに顔はかっこいいけど、そのとき火薬にハマっていた天恋は恋愛ごとに興味がなく、告白された時に普通に振った。
そしたら、イケメンが激怒して「なんで俺が告白してやってんのに、断るんだよ」と言ったので、火薬の餌食にしてトラウマを植え付けてやった事もある。それを思い出すと、なんだか懐かしいなとザブリェットは思う。
そんなわけで、この経験からザブリェットはイケメンが大嫌いなのだが、魔王ヘルトからは、イケメン特有の俺様オーラというか、そんなのがまるで感じない。
一緒にいても苦にならないイケメンだった。
「驚いて声も出ないか。それも無理はない。何せ我は魔王だからな。お前は俺と一緒に魔国領に来てもらう」
「え、いいの。私、呪い持ちなんだけど大丈夫?」
「……えっ」
ザブリェットが簡単に了承してくれたので、魔王が驚く。
普通なら、何か抵抗しそうなシチュエーションだが、一刻も早くここから逃げ出したいザブリェットには、待ち望んたことだった。
ただ、束縛の呪いが残っている。これがある限り能力を封じられ、この場所に閉じ込められたままとなってしまう。一定の場所から出ることが不可能になっていしまう強力な呪い。
国王や神官たちは、神の祝福とか言っていたけど、一体どんな疫病神なのだろうか。
「なんだ、お前はオ……じゃなかった。我に協力してくれるのか?」
「よくわからないけど、私はこんな最低最悪な場所から逃げ出したい。もっと自由気ままに過ごしたいの。貴方と一緒に行って私の望みが叶うんだったら、誘拐でもなんでもされてあげようじゃないの
でも、私には束縛の呪いがかかっているの。これをとかない限り……」
「ここから出られない」と言おうとしたザブリェットに、ヘルトが手を翳すと、パリンと割れる音が聞こえた。そして、胸元の辺りがスーッと軽くなる。
ザブリェットは自分の胸元を確認すると、黒い文様がなくなっていた。
「嘘……呪いが消えたの」
脱出を意識して、『破壊』を窓に向けて放った。すると、いとも簡単に窓ガラスが消えていた。
「使えた。能力が使えた!」
「お前、その力は一体……」
ヘルトも、ザブリェットが使った力に驚く。そんな様子に気もくれず、嬉しさに涙して、ザブリェットはヘルトに抱きついた。
「ありがとう、本当にありがとう。あの呪いを解いてくれて」
「あ、ああ。分かった。分かったから、いいから離すっぺ」
「うん?」
「いや、気にするな。それよりも、呪いを解いてやったんだ。今度は我に協力してもらおう、人間の姫よ」
「うん、今度は魔国領に連れて行ってくれるんだよね。どんなところか楽しみだよ!」
「あ、うん。って違う。我らに協力してくれるのか」
「でも、事情が分からないから何をすればいいのやら」
そう、ザブリェットは何も聞いていない。魔国領に来てもらう、聞いたのはそれだけだ。
だから、改めて、ザブリェットは魔王に聞いた。
「私、ザブリェット・フォン・ウンゲテュームにできることであれば協力しましょう。
魔王ヘルト、あなたは私をどうしたいの?」
「いや、どうもしない。ただ俺たちのところに来てくれればいい」
「どういうこと?」
ザブリェットにはよくわからなかった。ただ来ればいい。それは、魔国領に来たら、好きにしていいと言っているようなものだ。誘拐するのだから、それなりに何かあると思っていたので、首を傾げた。
だけど、魔王は手を震わせて、怒りに満ちた表情をした。そして、語ってくれたのだ。誘拐する経緯を。
外から楽し声な笑い声、たぶん姉や妹たちなんだろう。
一緒に遊びたいと思っていても、目の前にある大量の書類をチェックしなければならないのでそれも無理。
ザブリェットは「はぁ」と大きくため息を吐いて仕事を開始する。
ここから逃げてやろうと決意してから三年。呪いを解く手がかりがまるでない。
分かったことは、能力は逃げ出す以外の使用なら呪いは反応しないこと。この呪いは、束縛、つまり逃げる意思がなければ何も反応しないし、一定範囲内の決められた場所なら、どこに移動しようとも大丈夫だということだ。
能力の解明は、色々とありすぎて未だに終わらないけど、ロクでもないものしかなかった。
例えば、能力を全て把握するものがないか探したら、『能力ガイド』という能力があった。偶然にも思い出せた、使えそうな能力。
それを発動すると、ザブリェットにしか見えない本のようなものが出てくる。ちゃんと検索機能があるのはありがたいけど、約十兆三千六百八十五億の能力を全て把握するのは無理だった。
しかも、書いてある内容がどこぞの取り扱い説明書のようになっており、見ると眠くなる仕様。現在は寝る前に行っている能力チェックか、寝れないときの睡眠導入書として使っている。
他にも『創造』、『破壊』、『強化』、『暴食』なんかあったが、どれもこれも使えない。
『創造』は、頭の中にあるイメージを創造することができる。ただし、無から有は作れず、同じ原子が含まれるものがないと、何もできない仕様。これって、原子変換じゃないのかな、と思うザブリェットだが、どうも違うらしい。あれは、原子そのものを別のものに変換するのであって、創造は、原子をもとに、物を作り変える能力だと、能力ガイドに書いてあった。そうなると錬金術に近いのかもしれない。
『破壊』は、生きているものには使えない上に、使ったら対象が消滅して二度と戻らない。ゴミ掃除にしか使えない能力だし、『強化』は、次の日に筋肉痛に見舞われる。
一番最悪なのは、『暴食』だ。
なんでも食べられる能力だけど、使ったらお腹を壊すって、これどうなの?
まだたくさん能力があるけども、これだけで、天使の祝福がどのくらい使えないものなのか理解できる。
呪いを解くための能力がないか、当然探した。でも、出てくるのは、呪いは解けるけど死んじゃうよとか、呪いは解けるけど、次の日に、効力が倍になって呪いが再発するとか、意味の分からないものしかなかった。
色々と試行錯誤したものの、どうも解決策が見つからないまま、三年も経ってしまった。
最近は自由に遊べないどころか、楽しそうに遊んでいる声がそこらじゅうで聞こえて、夜は涙で枕を濡らすザブリェット。
「畜生、皆ばっか。私がなんだってんだ。人に仕事を押し付けて。皆だけ遊んで。私がいなくなったらこの国が滅びるんじゃないのか。てか、私を一体なんだと思っているんだ、バカ野郎!」
楽しく遊んでいるであろう、人たちに悪態つきながら、『強化』を多重併用して常人の36倍速で仕事を行う。
次の日に筋肉痛になる能力なので、ある程度仕事をして、明日は休もうなどと考えていた。最近、能力のデメリットをサボるために使っているザブリェットは、今日も退屈な時間を過ごす。
仕事を始めてからどれぐらい時間がたっただろうか。気がついたら、外が暗くなっていた。でも、城下町には明かりが灯っており、まだ賑わっている。きっと、仕事帰りのおっさんどもが楽しく騒いでいるに違いない。
「はぁ、羨ましい」
でも、そんなことは言っていられない、ザブリェットは、仕事を進めようとすると、普段と違う、怪しげな気配を感じた。
(今日の夜ご飯? でも、こんな気配は……あれ?)
天使からもらった能力はロクでもないものが多いけど、常時起動型の能力だけは違う。ザブリェットの瞳は他の人よりも魔力探知に優れていたので、その存在に気が付けた。
視界に映るモヤモヤした何か。おそらく幻術系の魔法か何かで姿を隠している謎の人物。
誰にも悟られず、ザブリェットのもとにきたのだから、只者ではないはずだ。
「……あなた、誰?」
「ほう? 我に気が付くか。人間の姫よ」
幻術魔法が掻き消え、姿を現したのは、二本のツノ、赤い瞳に、紫色っぽい肌。黒いマントを羽織り、高級そうな杖を持っている。
何より、男から漏れ出す魔力が尋常じゃない。そして、イケメンだった。
「我の名はヘルト。魔国領の王、魔王ヘルトだ」
中二病っぽい、痛いポーズを決めたヘルト。ただ、ザブリェットは、不思議に思うところがあった。
ヘルトはイケメンなのに、何も感じない。
何を隠そう、ザブリェットはイケメンが大嫌い。イケメンとは、顔がいいのでいろんな女性が寄ってくる。取っ替え引っ替えしていそうなイメージがあり、優柔不断で、チャラい。顔を武器に貢がせて、ヒモを目指す最低最悪のクソ野郎。人を騙してもなんとも思わず、利用することが当たり前で、謝ればなんでも許されると思っている人種。それが、ザブリェットが思い浮かべるイケメンのイメージだった。
前世の記憶では、天恋に言い寄るイケメンがいたこともあった。確かに顔はかっこいいけど、そのとき火薬にハマっていた天恋は恋愛ごとに興味がなく、告白された時に普通に振った。
そしたら、イケメンが激怒して「なんで俺が告白してやってんのに、断るんだよ」と言ったので、火薬の餌食にしてトラウマを植え付けてやった事もある。それを思い出すと、なんだか懐かしいなとザブリェットは思う。
そんなわけで、この経験からザブリェットはイケメンが大嫌いなのだが、魔王ヘルトからは、イケメン特有の俺様オーラというか、そんなのがまるで感じない。
一緒にいても苦にならないイケメンだった。
「驚いて声も出ないか。それも無理はない。何せ我は魔王だからな。お前は俺と一緒に魔国領に来てもらう」
「え、いいの。私、呪い持ちなんだけど大丈夫?」
「……えっ」
ザブリェットが簡単に了承してくれたので、魔王が驚く。
普通なら、何か抵抗しそうなシチュエーションだが、一刻も早くここから逃げ出したいザブリェットには、待ち望んたことだった。
ただ、束縛の呪いが残っている。これがある限り能力を封じられ、この場所に閉じ込められたままとなってしまう。一定の場所から出ることが不可能になっていしまう強力な呪い。
国王や神官たちは、神の祝福とか言っていたけど、一体どんな疫病神なのだろうか。
「なんだ、お前はオ……じゃなかった。我に協力してくれるのか?」
「よくわからないけど、私はこんな最低最悪な場所から逃げ出したい。もっと自由気ままに過ごしたいの。貴方と一緒に行って私の望みが叶うんだったら、誘拐でもなんでもされてあげようじゃないの
でも、私には束縛の呪いがかかっているの。これをとかない限り……」
「ここから出られない」と言おうとしたザブリェットに、ヘルトが手を翳すと、パリンと割れる音が聞こえた。そして、胸元の辺りがスーッと軽くなる。
ザブリェットは自分の胸元を確認すると、黒い文様がなくなっていた。
「嘘……呪いが消えたの」
脱出を意識して、『破壊』を窓に向けて放った。すると、いとも簡単に窓ガラスが消えていた。
「使えた。能力が使えた!」
「お前、その力は一体……」
ヘルトも、ザブリェットが使った力に驚く。そんな様子に気もくれず、嬉しさに涙して、ザブリェットはヘルトに抱きついた。
「ありがとう、本当にありがとう。あの呪いを解いてくれて」
「あ、ああ。分かった。分かったから、いいから離すっぺ」
「うん?」
「いや、気にするな。それよりも、呪いを解いてやったんだ。今度は我に協力してもらおう、人間の姫よ」
「うん、今度は魔国領に連れて行ってくれるんだよね。どんなところか楽しみだよ!」
「あ、うん。って違う。我らに協力してくれるのか」
「でも、事情が分からないから何をすればいいのやら」
そう、ザブリェットは何も聞いていない。魔国領に来てもらう、聞いたのはそれだけだ。
だから、改めて、ザブリェットは魔王に聞いた。
「私、ザブリェット・フォン・ウンゲテュームにできることであれば協力しましょう。
魔王ヘルト、あなたは私をどうしたいの?」
「いや、どうもしない。ただ俺たちのところに来てくれればいい」
「どういうこと?」
ザブリェットにはよくわからなかった。ただ来ればいい。それは、魔国領に来たら、好きにしていいと言っているようなものだ。誘拐するのだから、それなりに何かあると思っていたので、首を傾げた。
だけど、魔王は手を震わせて、怒りに満ちた表情をした。そして、語ってくれたのだ。誘拐する経緯を。
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