喫茶店リーベルの五人姉妹+1
第九話『作ってみよう、漫画のご飯……中編』
「さぁ聞いてくれ、長原さん!」
「ひゃ、ひゃい~~」
なぜか戸惑う長原さん。一体どうしたというのだろうか。僕は不思議に思って聞いてみた。
「長原さんはどうして緊張しているの?」
「えっと、それはですね。私って学校ではかなり暗い性格なんですよ。同士がいれば別なんですけど……。それに、水紋ちゃんって男の娘なんですよね。ちょっと緊張しちゃって……」
お、男の子扱いだと!
これはかなり嬉しぞ。僕が男の子扱いされることなんて今までなかったからな。あの姉のせいで、あの姉のせいで!
大切なことなので二回言ってしまった。でも、あの姉さえいなければ僕が女の子みたいな感じになることもなかったのに……。見た目は仕方ないけどさ。性格とかはもう少し男の子っぽく……。
「やっぱり、男の娘だと料理が好きなんですね」
「いや、それは違うと思うよ。男の子が料理するなんてあまりないと思うし。でも、好きな人は好きだと思うよ」
「そういうものなんですか。私の勝手なイメージかもしれないですけど、男の娘ってフリルのついた白いエプロンとかを身につけて、可愛らしいお弁当を作るイメージがあります。それを大好きな先輩とかに手渡しして……BでLな展開になっちゃったりして!」
「ん? 普通の男の子はそんなことしないと……。ところでBとLってもしかして、もしかすると?」
「男同士でイチャイチャする奴です。当然、水紋ちゃんは受けですよね」
「ちちち、違うよ! てか、なんでそんな話になるのさ!」
「だって……水紋ちゃんは男の娘だって……」
「たしかに、僕は男の子だけど……」
なんか話が噛み合わない。一体どういうこと? 僕が男の子って話をしているんじゃないの。ならなんで男同士でイチャイチャする話につながるの。何か……何かがおかしい。
「男の娘は男の子が好きになるものだと思っていました。違いますか?」
「えっと、どういうこと?」
「いや、可愛らしく女装する男の子を男の娘と書いて男の娘って読むんですよ。水紋ちゃんはそっちですよね!」
「違うよ! 僕はそっちじゃない方の男の子!」
僕の誤解だった。男の子じゃなくて男の娘だったのね。そりゃあ、僕の普段の服装はレディースの服ばっかだし? たまにスカートなんかはかされて外に出ていますけど、僕はちゃんと男の子だからね。すべては、あの姉のせいだ。ちくせう。
「まぁいいわ。それより聞いてちょうだい!」
「その口調が女の子っぽくて勘違いされるんじゃ……」
「……僕は漫画に載っているご飯を作ろうと思うの」
「あ、話を逸らした……。ところで、なんの作品から頂戴するんですか?」
「この前のオフ会に行ったときに買った漫画でね、『ホクサイと飯さえあれば』と『人魚姫のごめんねご飯』、『くうねるまるた』に『甘々と稲妻』かな」
「かなり有名な作品を参考いしていますね。私もホクサイと稲妻は大好きです。くうねるまるたとごめんねご飯は今度探してみますね」
「そうするといいよ。ごめんねご飯はギャクっぽくてかなり面白いから、オススメだよ」
「ギャクですか、一体どんなお話なんです?」
「共食いの話」
「割とえげつなくないんですか? 共食いってカニバリズム的なやつですか?」
「そんな物騒なお話じゃないよ。主人公の人魚姫が港町に来て、お店で魚料理を堪能するお話だから」
「ああ、だから共食い……。グロいですね」
「グロくないよ! みんな美味しそうな料理に変えられていくんだから」
「そう考えると、人間ってなんて残虐なんでしょう。みんな生きているのに……」
「人間は食物連鎖の頂点に立っちゃったから……しょうがないんじゃない? そうしないと生きていけないし」
「それはそうなんですけど……。ところで、その人魚姫はどんな感じで魚料理を食べていましたか?」
「えっと、涙を流しながら「いいお味です!」ってな感じに食べていたけど」
「もしかして、好きな人を食べて、「やっと一つになれました!」的な展開とかもあります?」
「第二話にあったね」
「やっぱりグロいじゃないですか。病んでますよそれ」
そうなのかな? 僕的にはかなり面白い部類に入るけど。それに、魚料理専門なんてあまりないしね。ほかの作品だと、家庭的な感じで、家で楽しく料理を作ってみんなで食べる的なのが多いけど。
この作品はそれとは全く違う、お店などで魚をおいしく頂くだけの漫画なんだよ。人魚姫ちゃんはなんにもしない。ただ見ているだけ。そして、最後にはごめんねと言いながらお友達を食べていくんだけど……あれ、そう考えると……そうなのかな。でも面白いのも事実だし。
「まぁ試しに読んでみるといいよ。絶対にハマるから」
「水紋ちゃんがそう言うならそうしてみます」
よし、これで読者をもうひとりゲットだぜ。同じ作品を共に楽しめる仲間がいるのは本当にいいことだよ。
「水紋ちゃんは他にはどんな作品を読んでいますか? 料理系の漫画を読んで、だいぶハマったみたいですけど」
「ほかの作品だと……『うらみちお兄さん』とか面白かったね。体操のお兄さんの歪んだ考え方とか特に」
「あ、私も読んだことありますよ。お兄さんの「良い子のみんなにあって、大人に無いものな~んだ」っていう問題に対して子供たちが「自由、心、希望」って答えるシーンに爆笑しました」
「あ、あそこは思わず笑っちゃうよね! 思い出しただけで、ふふ」
◇
そんなこんなで、僕と長原さんは1時間ほどフードコーナで話し合った。気が付けばかなりいい時間。そろそろ買い物を終わらせて帰らないと料理ができない。
「長原さん。僕はそろそろ買い物を済ませて帰らないと……」
「あ、そうなんですか。ごめんなさい。長い時間引き止めて」
「長原さんはこれからどうするの?」
「私もお菓子と夕飯をかを買って家に帰ります」
「夕飯? お母さんかお父さんは作ってくれないの?」
「両親は共働きなので、休みの日以外に顔を合わせることはないですよ。なので割と自由にやっています。でも、私は料理をしたことがあまりないので……スーパーでお惣菜でもと」
ちょっと寂しそうに語ってくれた長原さん。僕にはその気持ちがよくわかる。僕の両親も共働きで、あまり構ってもらえなかった。今では海外に行ってしまってなかなか会うことすらできない。
あの姉? あいつはどうでもいいよ。碌なことしないし。今思えば、あの姉がどうしようもない性格だったから、家事を一通りやるようになったんだよな。それに、あれがいてくれたから、寂しさは和らいだような気がする。あれが海外の大学に行ってしまって一人暮らしをするようになったあと、かなり寂しかったな~。思い返せば、あの姉にも感謝しなくてはならない。
それに、ご飯は誰かといっしょに食べたほうが美味しいに決まっている。
「ねぇ長原さん。よかったら家に食べに来る?」
「え、いいんですか。私なんかが行っても迷惑じゃないですか? 結婚してくれますか?」
「ごめん、でもなんで結婚にこだわるのさ」
「そ、それは……誰かと一緒にいたくて。私って一人っ子なので、かなり寂しいというか、なんというか。だからなんですかね。積極的にオタク友達とチャットしたりして、寂しさを紛らわせているんです。はは、こんなこと、人に話すようなことじゃないですね。ごめんささーーってなんで泣いているんですか!」
なんだろう。長原さんの話を聞いていたら悲しくなってきた。もし、僕にあの姉がいなかったら同じような気持ちを抱いていたのかも知れない。
そう感じたら胸が苦しくて……。なんとなく、長原さんと僕は似ているんだなと思った。
だからかな、気が付けば泣いていた。
今の僕にはリーベルのみんながいてくれる。だから寂しくない。でも、寂しいなって感じている女の子が目の前にいるんだ。ちょっとぐらい一緒にいてあげてもいいじゃないか。
「別に……僕の両親も共働きだったから、その気持ちがすごくわかる。今は住み込みバイトしているからそうでもないんだけどね」
「そうなんですか……水紋ちゃんも同じだったんですね。住み込みバイトとかちょっとだけ羨ましいです」
「でも、家が近いんだからさ。ちょっとぐらい一緒にいてもいいんじゃないかな。だからご飯食べにおいでよ」
「そ、それじゃあ遠慮なく、お邪魔させてもらいますね!」
長原さんは嬉しそうに笑いながら、僕にそう言った。
「ひゃ、ひゃい~~」
なぜか戸惑う長原さん。一体どうしたというのだろうか。僕は不思議に思って聞いてみた。
「長原さんはどうして緊張しているの?」
「えっと、それはですね。私って学校ではかなり暗い性格なんですよ。同士がいれば別なんですけど……。それに、水紋ちゃんって男の娘なんですよね。ちょっと緊張しちゃって……」
お、男の子扱いだと!
これはかなり嬉しぞ。僕が男の子扱いされることなんて今までなかったからな。あの姉のせいで、あの姉のせいで!
大切なことなので二回言ってしまった。でも、あの姉さえいなければ僕が女の子みたいな感じになることもなかったのに……。見た目は仕方ないけどさ。性格とかはもう少し男の子っぽく……。
「やっぱり、男の娘だと料理が好きなんですね」
「いや、それは違うと思うよ。男の子が料理するなんてあまりないと思うし。でも、好きな人は好きだと思うよ」
「そういうものなんですか。私の勝手なイメージかもしれないですけど、男の娘ってフリルのついた白いエプロンとかを身につけて、可愛らしいお弁当を作るイメージがあります。それを大好きな先輩とかに手渡しして……BでLな展開になっちゃったりして!」
「ん? 普通の男の子はそんなことしないと……。ところでBとLってもしかして、もしかすると?」
「男同士でイチャイチャする奴です。当然、水紋ちゃんは受けですよね」
「ちちち、違うよ! てか、なんでそんな話になるのさ!」
「だって……水紋ちゃんは男の娘だって……」
「たしかに、僕は男の子だけど……」
なんか話が噛み合わない。一体どういうこと? 僕が男の子って話をしているんじゃないの。ならなんで男同士でイチャイチャする話につながるの。何か……何かがおかしい。
「男の娘は男の子が好きになるものだと思っていました。違いますか?」
「えっと、どういうこと?」
「いや、可愛らしく女装する男の子を男の娘と書いて男の娘って読むんですよ。水紋ちゃんはそっちですよね!」
「違うよ! 僕はそっちじゃない方の男の子!」
僕の誤解だった。男の子じゃなくて男の娘だったのね。そりゃあ、僕の普段の服装はレディースの服ばっかだし? たまにスカートなんかはかされて外に出ていますけど、僕はちゃんと男の子だからね。すべては、あの姉のせいだ。ちくせう。
「まぁいいわ。それより聞いてちょうだい!」
「その口調が女の子っぽくて勘違いされるんじゃ……」
「……僕は漫画に載っているご飯を作ろうと思うの」
「あ、話を逸らした……。ところで、なんの作品から頂戴するんですか?」
「この前のオフ会に行ったときに買った漫画でね、『ホクサイと飯さえあれば』と『人魚姫のごめんねご飯』、『くうねるまるた』に『甘々と稲妻』かな」
「かなり有名な作品を参考いしていますね。私もホクサイと稲妻は大好きです。くうねるまるたとごめんねご飯は今度探してみますね」
「そうするといいよ。ごめんねご飯はギャクっぽくてかなり面白いから、オススメだよ」
「ギャクですか、一体どんなお話なんです?」
「共食いの話」
「割とえげつなくないんですか? 共食いってカニバリズム的なやつですか?」
「そんな物騒なお話じゃないよ。主人公の人魚姫が港町に来て、お店で魚料理を堪能するお話だから」
「ああ、だから共食い……。グロいですね」
「グロくないよ! みんな美味しそうな料理に変えられていくんだから」
「そう考えると、人間ってなんて残虐なんでしょう。みんな生きているのに……」
「人間は食物連鎖の頂点に立っちゃったから……しょうがないんじゃない? そうしないと生きていけないし」
「それはそうなんですけど……。ところで、その人魚姫はどんな感じで魚料理を食べていましたか?」
「えっと、涙を流しながら「いいお味です!」ってな感じに食べていたけど」
「もしかして、好きな人を食べて、「やっと一つになれました!」的な展開とかもあります?」
「第二話にあったね」
「やっぱりグロいじゃないですか。病んでますよそれ」
そうなのかな? 僕的にはかなり面白い部類に入るけど。それに、魚料理専門なんてあまりないしね。ほかの作品だと、家庭的な感じで、家で楽しく料理を作ってみんなで食べる的なのが多いけど。
この作品はそれとは全く違う、お店などで魚をおいしく頂くだけの漫画なんだよ。人魚姫ちゃんはなんにもしない。ただ見ているだけ。そして、最後にはごめんねと言いながらお友達を食べていくんだけど……あれ、そう考えると……そうなのかな。でも面白いのも事実だし。
「まぁ試しに読んでみるといいよ。絶対にハマるから」
「水紋ちゃんがそう言うならそうしてみます」
よし、これで読者をもうひとりゲットだぜ。同じ作品を共に楽しめる仲間がいるのは本当にいいことだよ。
「水紋ちゃんは他にはどんな作品を読んでいますか? 料理系の漫画を読んで、だいぶハマったみたいですけど」
「ほかの作品だと……『うらみちお兄さん』とか面白かったね。体操のお兄さんの歪んだ考え方とか特に」
「あ、私も読んだことありますよ。お兄さんの「良い子のみんなにあって、大人に無いものな~んだ」っていう問題に対して子供たちが「自由、心、希望」って答えるシーンに爆笑しました」
「あ、あそこは思わず笑っちゃうよね! 思い出しただけで、ふふ」
◇
そんなこんなで、僕と長原さんは1時間ほどフードコーナで話し合った。気が付けばかなりいい時間。そろそろ買い物を終わらせて帰らないと料理ができない。
「長原さん。僕はそろそろ買い物を済ませて帰らないと……」
「あ、そうなんですか。ごめんなさい。長い時間引き止めて」
「長原さんはこれからどうするの?」
「私もお菓子と夕飯をかを買って家に帰ります」
「夕飯? お母さんかお父さんは作ってくれないの?」
「両親は共働きなので、休みの日以外に顔を合わせることはないですよ。なので割と自由にやっています。でも、私は料理をしたことがあまりないので……スーパーでお惣菜でもと」
ちょっと寂しそうに語ってくれた長原さん。僕にはその気持ちがよくわかる。僕の両親も共働きで、あまり構ってもらえなかった。今では海外に行ってしまってなかなか会うことすらできない。
あの姉? あいつはどうでもいいよ。碌なことしないし。今思えば、あの姉がどうしようもない性格だったから、家事を一通りやるようになったんだよな。それに、あれがいてくれたから、寂しさは和らいだような気がする。あれが海外の大学に行ってしまって一人暮らしをするようになったあと、かなり寂しかったな~。思い返せば、あの姉にも感謝しなくてはならない。
それに、ご飯は誰かといっしょに食べたほうが美味しいに決まっている。
「ねぇ長原さん。よかったら家に食べに来る?」
「え、いいんですか。私なんかが行っても迷惑じゃないですか? 結婚してくれますか?」
「ごめん、でもなんで結婚にこだわるのさ」
「そ、それは……誰かと一緒にいたくて。私って一人っ子なので、かなり寂しいというか、なんというか。だからなんですかね。積極的にオタク友達とチャットしたりして、寂しさを紛らわせているんです。はは、こんなこと、人に話すようなことじゃないですね。ごめんささーーってなんで泣いているんですか!」
なんだろう。長原さんの話を聞いていたら悲しくなってきた。もし、僕にあの姉がいなかったら同じような気持ちを抱いていたのかも知れない。
そう感じたら胸が苦しくて……。なんとなく、長原さんと僕は似ているんだなと思った。
だからかな、気が付けば泣いていた。
今の僕にはリーベルのみんながいてくれる。だから寂しくない。でも、寂しいなって感じている女の子が目の前にいるんだ。ちょっとぐらい一緒にいてあげてもいいじゃないか。
「別に……僕の両親も共働きだったから、その気持ちがすごくわかる。今は住み込みバイトしているからそうでもないんだけどね」
「そうなんですか……水紋ちゃんも同じだったんですね。住み込みバイトとかちょっとだけ羨ましいです」
「でも、家が近いんだからさ。ちょっとぐらい一緒にいてもいいんじゃないかな。だからご飯食べにおいでよ」
「そ、それじゃあ遠慮なく、お邪魔させてもらいますね!」
長原さんは嬉しそうに笑いながら、僕にそう言った。
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