喫茶店リーベルの五人姉妹+1
第五話『手作りなお弁当』
「水紋ちゃん! 手作りお弁当を作って!」
百合さんが突然そんなことを言い出した。僕はちょうど夕御飯の支度をしている最中だと言うのに。
「突然どうしたんですか?」
「いや、あのね。さっき少女漫画を読んでいたら、真っ白いご飯の下にカレーがあって、ヒロインが大喜びするお話を見てね」
「はい……んん? 白いご飯の下にカレー?」
「そう、そうなのよ。ヒーローからお弁当を渡されて、開けたらまさかの白ご飯。困惑するヒロインはイジメか! って内心思いつつお弁当に手をつけると……なんとご飯の下からカレーが! ヒロインが余りにも喜び過ぎて……爆笑したわ」
「そうですか……。それを僕に作って欲しいってことですか?」
「それはちょっと違うかな。たしかにご飯の下にカレーって惹かれるところがあるけど、そうじゃない。私って少女漫画を描いているでしょう」
「えっと……、それとお弁当作りに……あ」
「気がついたみたいね。料理ができない私には、まだ手作りお弁当のお話を描いたことがないってことに」
「つまり、お弁当のお話を描くために取材がしたいと。それで試しに僕がお弁当を作って、みんなに渡した時の反応が見たいと」
「そう! それよ。ついでにお弁当の作り方も教えてくれると助かるな~。ちゃんと知っていないと描くのって難しいのよ」
「それでしたら、明日のお昼ご飯はお弁当にしましょうか。どうせ休みですし、喫茶店の開店は夕方からですから」
「みんなには私から言っておくわ。料理中ごめんね」
「いえ、大丈夫です。明日の朝に作りますから、一緒に作りましょう」
百合さんは脱兎の如くいってしまった。明日の朝、ちゃんと起きてくれるのだろうか。最近徹夜気味だったらしく、目の隈がファンデーションで隠しきれていない。
だからこそちょっとテンションがおかしいところもある。百合さん……、フリフリのかぼちゃパンツにシャツというかなりラフな格好だったし。この家に住むようになってからそういうのは完全に慣れてしまったけど。
それにみんな僕のことを男と認識していないみたいだから、かなりいいかげんなところが多い。外に出ている時と大違いだ!
まぁでも、百合さんも漫画を読むほどの余裕が出来たのだから、今日はしっかり休むだろう。
それにしても、お弁当か~。漫画のネタにするんだったら、面白みのあるものを作りたいよね。材料足りるかな? 夕食終わったら、買い物に行っておこう。
いつもいっている八百屋さんとかは閉まっているけど、あそこのスーパーなら大丈夫。
ふふふ、お弁当を見て、みんなが驚く風景が浮かぶ。明日は……勝負の時だ!
◇
さて、まだみんなが寝静まっている時間。お弁当作りのために早く起きたんだけど……案の定、百合さんは起きなかった!
起こしに行ったけど……あと五分を三回ほど繰り返したあたりで諦めた。
お弁当作りは僕一人でやることになったけど、一応漫画用の資料として、料理の工程を写真でもとっておきますか。
ちなみに、カメラは百合さんの部屋から拝借。寝ぼけた百合さんに「いいよ」って言われたので、問題ない!
えっと、このカメラはどうやって使えば……あ、写真が映し出された。デジタルカメラって、撮った写真を見ることができる機能があるんだ。
使ったことなかったから知らなかった。
って、うわぁ、なんで僕の写真ばっかり。料理中、制服姿、買い物中、はたまた寝顔まで。お風呂もあるよ。これ完全に盗撮じゃん。
削除……したいけどやり方わからない。あとで百合さんに文句を言おう。
えっと、このボタンを押せば……。
「きゃあ」
押した瞬間、強く光ってパシャリと音がなった。どうやらフラッシュの機能がオンになっていたようだ。
あってもなくても問題なけど、突然のことでびっくりした。
自分でもどうかと思うけど「きゃあ」って何よ。乙女か! 自分で突っ込んでいて悲しいな~。
カメラを確認すると、なんか写真は撮れているっぽい。床の画像が映し出されたし。
これで準備万端。
早速お弁当を作るぞ~。
「う~ん、こんな早くにどうしたの~」
「ま、真麻ちゃん! どうしたの?」
「ちっち……」
「ちっちって……あ~トイレね」
「うん……おやすみ~」
「ちゃんとお布団に戻るんですよ」
「わかった……すやぁ」
「もう、全くもう、この子ったら……」
これから作るぞって時に……。
僕は真麻ちゃんを部屋に戻してから台所にたった。
まずは、真麻ちゃんのお弁当を作ろうか。
一番簡単だしね。
何を作るかって? もちろん、赤まむしご飯。
ヒントは百合さんが話していたカレー弁当。
真麻ちゃんのことだから赤まむしを入れておけば大喜びすると思う。
まずは鍋に赤まむしを投入。それに火をかけて、大体60度ぐらいになったら顆粒ゼラチンを入れてっと。
火を止めてアルミ製のお弁当箱に流し込んで冷めるまで待つ。
これで赤まむしゼリーの完成だ。
それはそれとして、赤まむしを火にかけるって、使い方としてあっているのだろうか?
それにゼリーって……、こんなもん、もう二度と作らないぞ。絶対なんだからな!
精力剤を小学生に食べさせようとしているなんて……犯罪臭しかしないしね!
んで、赤まむしゼリーが完成したら、その上にご飯を敷いて完成。特性赤まむしご飯弁当。
正直かなり不味そうだ。こんなのを渡して真麻ちゃんは喜んでくれるんだろうか。
よろこんでくれそうだな~。
とりあえず、次行こ、次!
次は花梨のお弁当を作ろうかな。
花梨は……何が好きなんだろう。鯵? 鯖? それとも鰯だろうか。あ、ししゃも弁当とかいいかもしれない。でも面白みがないんだよね。
こう、ザ・漫画でしかできませんぐらいのレベルにしないと……。誰も作らないお弁当……よし、あれに行こう。
まず、じゃこ天を焼こう。あれ、大根おろしをのせて醤油を垂らすと美味しんだけど、今回はお弁当。こんがり焼き色が付いたら、ご飯の上に乗せる。この上にしっかり水を切った大根おろしとしらすを乗せれば、じゃこ天しらす丼みたいになる。
醤油を垂らしたほうがいいんだけど、お弁当だとあれなので、小さな容器にちょちょっと入れて。
あとは他のおかずだけど……じゃこ天と大根のサラダ。じゃこ天と大根の煮物。じゃこ天と大根の天ぷらでも入れておこう。
なんか、じゃこ天と大根しか使っていないような気がするけど……まぁいいや。
それにしても、じゃこ天は便利だな~。何にでも使える。美味しいし、簡単だし、もっとじゃこ天の存在が広まればいいのに。テレビで宣伝するレベルで。
う~ん、一口ぐらいつまみ食いしてもいいよね。ちょっと醤油をたらして……。
「はわぁぁ、あれ、水紋せんぱ~い。何をしているんですか。ホモってます?」
「そんなことしていないんだからね! それで、花梨ちゃんはこんな時間にどうしたのよ。それになんかキャラが違うような?」
「ありゃりゃ、バレちゃった? たまにはこんな俺もいいでしょう。えっと、何やっていたかっていうとBL小説読んでたんだよ。余りにも面白すぎて、ずっと起きてた」
「え、いままで起きてたのって仕事のほうは!」
「ちゃんと終わらしてますよ~。俺はもうすぐ寝るんで、おやすみ~」
「はい、おやすみ。ほんと、夜更かしばっかして。体壊さないといいんだけど……、まぁ若いから大丈夫でしょう」
花梨も部屋に戻ったことだし、次行こ、次!
次は菜乃華のを作りましょうかね。
あいつは適当でいいや。いや、逆に顔を赤らめたくなるような恥ずかしいものを作ってやるのも楽しいかも知れない。
少女漫画並に愛情こもったやつを作ろう。
例えば、そうだな。桜でんぷんでハートを作るとか。のりやごまなんかを使ってキャラ弁を作るとか。よし……あれにしよう。
まず、お弁当箱にご飯をセット。あとはおかずにハンバーグ、アスパラのベーコン巻き、ミートボール、ちょっと塩コショウ多めの焼肉と茶色盛りだくさんにする。
野菜も欲しいから、プチトマトとたまご焼きを入れようか。
こう、周りを茶色にして顔に見立てて、トマトめで目を作って卵焼きが口的な?
なんかロボットみたいに見えるのは気のせいだろうか。きっと気のせいだね!
気にしない、気にしない。
それだけだと緑がない。ブロッコリーでも入れよう。
まるでアフロのようになった。入れすぎて蓋が閉まるか心配だけど、無理やり押し込めばどうにかなるだろう。
これでおかず側の謎キャラが出来た。
次はのりを細く切って、ご飯側に吹き出しを作る。まるで漫画のようだ。こう、キャラが話しかけている風のキャラ弁って新しい気がする。
おかずを自分に見立てて、愛を語るとか……ラブコメにありそうだ。いや、ないか。そもそもラブコメ系な物語に出てくる女キャラって料理が下手なのが多い傾向がある。
純愛的なのとかだと、料理が得意だったりするけど、戦闘バカとか、スポーツ系とかズボラとか。
変なヒロインが多いんだよね。あとロリ系。なんであんなに多いんだろうって思うぐらいロリキャラっているよね。
きっとアレなんだろう。日本は終わってしまっている的な? みんなロリコンだから、一人ぐらい出していればよくね的な感じだねきっと。
もしかしたら出版社の担当編集との打ち合わせに必ず入れるようにとか言われていたりして。怖、日本怖!
そして、ロリキャラは子供っぽすぎて料理ができないのが常識。ある意味あれが親心をくすぐる的なモノがあって需要が高いのかも。
こう、お父さんのために頑張って作りました! って娘から言われるとすっごく嬉しいって感じ。僕がお父さんだったら、自分の子供にそんなこと言われて嫌に思えない。むしろ嬉しくて飛び跳ねるかも。
うん、それなら納得できる。
日本がロリコン国家じゃないことを祈ろう。
さて、このロボット的な怪しいキャラで何を語ろうか。せっかく桜でんぷんがあることだし、ハートマークを小さくいっぱい作って……好きだよって一言入れておけばいっか。
こんなロボットに好きだって言われて喜ぶ乙女が想像できないけど。
せっかくならロボットじゃなくてもう少し可愛いのをつくっておけば良かったな~。
過ぎたことは仕方ないしーー
「あんた、何してんの? こんな朝早くに」
「な、菜乃華! いつからそこに!」
「あんたがお弁当っぽいそれを見ながらゲンナリしたあと、よろこんで飛び跳ねていたあたりかな?」
ぼ、僕がロリについて思考していた時だ! しかも行動に移していたなんて、やっちまった。
「ぷぷ、どうせ変なことでも考えていたんでしょう。それよりそのお弁当っぽいのはなんなのよ」
「えっと、今日のお昼ご飯」
「はぁ? あんた、こんな朝早くから作っているの? もしかして、どっかでかけたりして?」
「違うよ。百合さんが少女漫画のネタとしてお弁当回を描きたいって言って……」
「そういえばそんなこと言っていたような? たしか取材的なあれね。試しに作ってみて的な。私もよくやるしね。んで、百合ねぇちゃんはどこにいるのよ」
「……寝てる」
「はぁ? あんた馬鹿なの? 本人がいないんじゃなんにもならないじゃない」
「あと五分を三回繰り返されたので諦めた」
「百合ねぇさんらしい」
「写真はとってるから大丈夫でしょう」
「それもそうね。質問事項があったらあとで聞かれると思うし、頑張りなさい。私は寝るわ」
「え、起きてきたんじゃないの?」
「……お花を詰みに来たのよ」
「そこはちっちって言えば?」
「ぅ~~~~このセクハラ女! バカ! 死ね!」
「僕は男だ!」
「あっそ、じゃあね!」
なんか扉を荒く閉じて自分の部屋に戻ってしまった。それにしてもショックだ。クラスメイトから女の子扱い。しかも僕が男だって反論したら「あっそ」って何よ。
完全に信じちゃいない。
それも気にしてばかりじゃあ仕方がない。次行こ、次!
さてさて、次は桜先輩のお弁当でも作ろうか。
あの人は女装する主人公な漫画を描いているんだよね。うーん、迷う。
ネタが尽きてきた感があるし、普通にキャラ弁をチャレンジしてみようかな。
そうだな……桜先輩が描いている漫画のキャラでいっか。
そのためには一回読んでみよう。
僕は火元を確認したあと、一旦部屋に戻った。以前みんなから貸してもらった漫画やらライトノベルやらが部屋の本棚にしまってある。
今みたいタイトルは……これこれ。『偽物ですけど恋していいですか?』だ。
タイトルの略称が偽恋だから、ジャ○プで掲載していたあの漫画とタイトルモロかぶりになるけど……きっと偶然だよね。
そもそもお話の内容が違うからね。
桜先輩が描いている話は、近所のお姉さんに仕込まれた女装癖が抜けなくなった主人公がとある女の子に恋をするんだけど、その子がどうしようもない女好き。だから女装して女として近づくって物語りだしね。
ここはやっぱり主人公の平坂水紋くんを作るべきだよね。
ん? 水紋? 僕と同じ名前だ。それにどことなく僕に似ている。気のせいか? 気のせいだよね。
あの姉の弟子を名乗る桜先輩だし、もしかして本当に僕がモデル? なんか嫌だわ~。
まぁとりあえず、水紋くんを作ろう。
まずはボールの中に白いご飯と醤油、ケチャップを投入。それをしゃもじで混ぜ混ぜ。
肌色ご飯の完成! ケチャップと醤油のご飯ってなんかまずそう。それに塩分も高そうだから健康に悪いだろうな~。ま、いっか。
肌色のご飯をキャラクターの形になるように敷き詰めて、あいたスペースは白ご飯。
髪や目などの黒い部分はノリで再現。目の白は上から白ご飯を入れればいいでしょう。
あとはほっぺをほんのり赤くするために桜澱粉を散らす。口の赤は……材料がないから紅しょうがでいいや。いや、ここは紅しょうがとご飯を混ぜたほんのり赤いご飯を入れるか。それともラー油? 迷う。
でも、辛い感じにすると食べれないってことにもなるかもしれない。
ここは紅しょうがを口の形に入れてあげよう。
制服の部分、白はご飯でつくってあるけど、それだと背景の混ざってしまうので、のりで線を作る。黄色い部分はたまごを千切りにして、綺麗につくってやれば問題ない。
問題は……水色。そこである材料を使う。それはデコふり。かなりまずいらしいけど、面白いお弁当を作るんだから別にいいや。
制服の水色の部分をデコふりを乗っけて、はい完成。
一言コメントとか欲しいよね。ちょっとスペースが空きすぎて寂しいし、また吹き出しでも作りますか。
ここは漫画の一コマ、水紋くんのあのセリフを……。僕のことじゃないよ。漫画の水紋くんのことなんだからね。
はぁ、僕は一体誰に言い訳しているんだ。
とりあえず『女装、気持ちいぃぃぃぃ』と一言。あれ、僕が危ない人になってないか?
「あれ、水紋ちゃん。どうしたの?」
「さささ、桜先輩!」
「ふわぁ~、眠い……。んで、お弁当箱の前で青ざめて、一体どうしたの? なんか悪いものでも食べた?」
「いいい、いえ、そんなことありませんよ」
こんな弁当見られた日にはなんて言われるか。絶対におもちゃにされる。自分で書いておいてなんだけど……この人だけには見られちゃいけない。
「別になんともないんだったらいいよ」
「ふぅ、そうですか」
「ん、だから早くその言葉を口にしなさい。女装気持ちいいって」
「なななな……」
「な~んてね、うそうそ。水紋ちゃんがそんなんじゃないって知っているから」
「そんな冗談言わないでください!」
お弁当のことばれたかと思った。心臓に悪すぎだよ、桜先輩……。
「そんなに慌てなくてもいいじゃん。大丈夫。僕はちゃんと知ってるから。水紋ちゃんが無意識に女装をしてしまうほど染まっているって。気持ちいとかそんなんじゃなく、それが普通になりつつあるってことに」
「そ、そんなことありません!」
「ははは、水紋ちゃんはからかうと面白いね。僕は部屋に戻って、漫画でも読んでるよ」
「一体何しに来たんですか……」
「玄関に置いてあるペットボトルのお茶を取りに」
「あれは外出用なんですから、あんまり持っていかないでくださいね」
「はいは~い」
最近ペットボトルのお茶の減りが早いのはあの人のせいか。
全く、いったい誰が買いに行ってると思っているのさ。
ここまで歩いて持って帰るの、すっごく大変なのに。
あまりに減りが早いようだったら……通販にしようかな? でも手数料が……困った。
桜先輩のキャラ弁に書いた文字は書き直しておこう。絶賛発売中とでも書いておけばいいでしょう。
これで四人分のお弁当が完成。次で最後、いざ尋常に!
そう言いたいのも山々なんだけど、本当にネタが尽きた。あとは普通のお弁当ぐらいかな。
こういう時はネットで検索しよう。
えっと、夫婦喧嘩。おもしろお弁当っと。
でたでた……って怖!
夫婦喧嘩した翌日のお弁当が、ちょびっとのご飯と梅干だけとか。白いご飯に生たまごを乗っけただけとか。こう、奥さんの怒りが伝わってくる。これはある意味面白い。
えっと、他には……うわぁ、これはない。
母親が夫に渡すつもりで間違って息子に渡してしまったお弁当。
『こんや』と意味深に書いてあって、端っこにハートマークって。これもらったら僕は家出するよ。絶対に……。
あとはクオリティーの高いキャラ弁か……。
うーん、たしかに面白いけど……さてさて、どんなものに……。
そんなわけで、僕はおもしろお弁当をいろいろと調べて見た。
「こ、これは!」
そして出会った。こんな最悪な弁当を作る人がいるなんて。かなりの怒りが伝わってくる。
そういえば、百合さんは僕にお弁当をつくって取材させてと言いながらずっと寝てる。
ちょっとぐらい怒ってもいいよね。
よし、このお弁当を作ろう。絶対にこれしかない!
◇
そんなわけでお昼がやってきました。朝早かったからちょっとばかし眠いけど。お弁当作ったあとは掃除だったり洗濯だったり、やることはたくさんある。僕に二度寝をする時間なんてないんだよ。
主夫業を軽視する人って結構いるみたいだけど、大変なんだよね。
あとは共働きだからと頑張って家事を手伝う旦那さんを厳しく言う奥さん。あれは最低だと思う。
ありえない、本当にありえない。
女性の方が家事ができて当たり前。元々学校でそういう教育方針があったから。
昔だと男は技術、女は家庭科で別れていたぐらいだしね。
夫は優しさで手伝うと言っているのに、それに対してダメだしばっか。そんなことをされちゃ夫はやる気をなくして手伝わなくなってしまう。そして……手伝わなくなった夫をさらにガミガミいって破局。
そうなる人って大抵男の人の気持ちがわからないんだよね。自分勝手な女性は嫌われる。
本来ならこう考えるべきなんだよ。社会人一年目の人に一から教えて上げて、ゆっくりできるようにする。いくら言ってもダメだったらガミガミいうのは仕方ないかもしれないけど、最初なんだから優しく丁寧にが基本だよ。
いきなり上級者レベルの技術を求められても無理。それは家事も同じ。最初は上手くできないのが当たり前なんだから、優しくしてあげないとダメ。
まぁ、リーベルの五人姉妹みたいに元からズボラっぽい感じがあると、手伝うって発想がなかなか生まれないから悲しいけどね。
いいよ別に、僕は住まわせてもらっている身ですから。それに、育児をしているわけじゃないからそれほどストレスを感じない。
僕の方がまだ気楽でいいや。
それはそうと、そろそろ降りて来る……やっと来た。
「ごめんね、水紋ちゃん。私は寝てばっかりで」
「百合さん、おはようございます」
「さて、みんなには付き合ってもらって悪いけど、一応漫画の取材目的があるし、反応が見たいから一人ずつ開けてもらっていい?」
「真麻、一番がいい。水紋お姉様、真麻のお弁当はどれ?」
「はいはい、真麻ちゃん。これ」
「わ~い、真麻のお弁当! 開けていい? 開けていい?」
「こら、慌てない。お弁当は逃げないんだから。ゆっくり食べるんですよ」
周りからお母さんだ……って言葉が聞こえるけど、もう慣れた。それでいいよ、別に。
「じゃあ早速……なにこれ?」
真麻ちゃんは目を点にしてお弁当を見つめた。そりゃそうだ。開けたら白いご飯が入っているだけなんだから。
「み、水紋お姉様は真麻が嫌いなの?」
「そ、そんなに泣きそうにならないでよ。ほら、ご飯をめくって見なさい」
真麻ちゃんはゆっくりご飯をめくり、目を輝かせた。
「あ、赤まむしゼリーだ!」
「はは、喜んでくれて何よりだよ」
「ありがとう、水紋お姉様!」
「ほら、ゆっくり食べなさい」
「ふわぁーい」
「……水紋ちゃん……小学生に精力剤(赤まむし)って」
「ちょ、百合さん、僕は変なことなんて考えてませんよ!」
周りから「うわぁ」って言われた。これ、だいぶメンタルがやられそう。
でも、真麻ちゃんはかなり喜んでいるようで、とりあえず良かったというべきか。
「あまり真麻に赤まむしを与えないように、お願いよ」
「ごめんなさい、百合さん」
「わかればよろしい。次は花梨がいってみようか」
「へ~い」
花梨はめんどくさそうにお弁当箱を開けた。そんなに嫌そうにしなくてもいいのに。
僕がせっかく作ったのに……寂しいな。
まぁ、花梨のために作ったお弁当は半分ネタで作っているから……怒られたらどうしよう。
「ねえ、水紋先輩。これなんですか?」
「えっと……じゃこ天大根弁当?」
「なんで疑問形なの。こんな灰色な弁当初めて見たよ。茶色じゃないんだよ。灰色なんだよ。特殊すぎるよ。それに、じゃこ天って何!」
「えっと、じゃこ天とは愛媛県の特産品で地魚などのすり身を形を整えて油で上げた魚肉加工品。揚げかまぼこに分類されていてとっても美味しいんだ。特にあみで焼いて、大根おろしに醤油を垂らすとやばいほど美味しい。それにじゃこ天うどんとか言うのもあってーー」
「ちょ、ストップ、ストップっす、水紋先輩。先輩のじゃこ天愛が分かりましたから、ちゃんと食べますから」
「まだまだ言いたいことあったのに……」
「もう勘弁っす。食べます。ん~~~、はぐ。あれ、美味しい」
「でしょ!」
「これすっごく美味しいですね。水紋先輩!」
「お弁当よりも、ちゃんと焼いて食べたほうがいいよ。よかったら夕食に出そうか?」
「うん、食べたい。水紋お母さん!」
「よしよし」
「この子たちったら……はぁ」
百合さんは呆れてため息をつく。じゃこ天の美味しさを知ったらそんなことできないはずなのに……。
「次行きましょう。菜乃華」
「私はなんでもいいけどね。私のお弁当はどれ?」
「えっと、これです」
「ふーん、私のはあんな灰色弁当とか赤まむしとかじゃないでしょうね」
「い、いや、そんなことないよ」
「なんでそこで詰まるのよ。かなり不安になるじゃない。まあいいわ、開けてみましょう」
菜乃華はめんどくさそうにお弁当箱を開けて、引きつった笑みをした。
……背中が寒く感じる。これは……殺気か!
「あああ、あんた、これマジで言っているの。何よこの言葉。すすす、好きだよって。告白、告白なの!」
「い、いや、百合さんの取材だから少女漫画チックに、こんなのありかなって思って……」
「ーーーーーーバカ! 死ね、消えちまえぇぇぇぇ」
「なんでそんな怒るのさ」
「水紋ちゃん……」
「ゆ、百合さん……」
「もうちょっと女心を分かりましょう?」
「は、はい……」
「水紋……」
「その、菜乃華……ごめん」
「別に変なこと書かなければそれでいいのよ。お弁当はありがたくいただくわ。水紋のご飯は……美味しいからね。いつもありがと、ふん」
「「「「「ツ、ツンデレだ~」」」」」
なんだろう、菜乃華がすっごく可愛く見えてきた。どうしよう、どうしよう。
「もう、バカ水紋。そんなに見るな! 死ね!」
これ以上は菜乃華が怒りそうだ。次に行かなければいけない気がする。
そっと視線を百合さんに移すと、まだ菜乃華にテンションを上げまくっている。
「ゆ、百合さん。そろそろ……」
「そ、そうね。あまりにも美味しい展開だったからつい……。次は桜ね」
「えっと、僕のはこれでいいのかな?」
「はい、そうですよ。結構いい感じに作れたと思うので、どうぞ」
「ふむ、お手並み拝見ね」
桜先輩がお弁当を開けて目を見開いた。
「こここ、これは! 私の作品、偽恋の水紋じゃない!」
「そうですよ。キャラ弁なんて初めてつくりましたけど、結構上手く出来た気がするんです」
「上手く出来たどころじゃない。完璧よ。ごめん、僕は行くわ」
「ちょ、一体どこに!」
「このお弁当の写真をとって、ネットに拡散するわ。あと防腐処理してずっと残しておくの!」
「いや、食べてくださいよ! せっかく作ったのに!」
「でも、こんな嬉しいもの作ってもらったんだもの。とっておかないと損でしょう! ごめん、水紋ちゃん!」
桜先輩はいってしまった。本当に嬉しそうだからいいんだけどね。
でも、防腐処理したところで腐るでしょうに。食材のあれって賞味期限が延びるだけみたいな感じでしょ。いや、ホントはどうだか知らないけど。
「さて、最後は私の番ね! 水紋ちゃんは私にどんなお弁当を作ってくれたのかしら?」
「百合さんには特別驚くようなものを作りましたよ」
「ほんと、それは楽しみだわ。さーて、どれどれ……きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
百合さんは泣きながら逃げた。それも当然だろうに。
その光景にみんなが注目する。お弁当如きで驚く長女の姿があるんだ。注目しないはずがない。
「水紋ちゃん、これはひどすぎでしょう! お、お弁当にゴキ○リ入れるなんて!」
「よく見てください」
「い、嫌よ。なんで、もしかして寝坊したこと怒っているの。お願いだから許してよ。そんなの食べられない!」
「いや、のりで形作っただけですから、ちゃんと食べてください。絶対ですよ」
「のりだとしても嫌よ。なんでそんなにリアルなのよ。今にもカサカサ動き出しそうじゃない!」
「それはそういう風に作ってますから」
「やっぱり怒っているんだぁぁっぁぁぁ」
「はい! 怒ってます。だからちゃんと食べてくださいね」
「ごめんなさぁぁぁぁぁい」
泣いて謝る女子大生。食って本当に大事だね。
なんかみんながちょっぴり震えながら僕を見てくるんだけど。
「「「……怖!」」」
怯えられた! どうしよう。まぁでも大丈夫でしょう。僕だっていつもそんなことをするわけじゃないしね。
おいしい料理を楽しんでくれたらそれでいい。
ちょっとだけ僕の行う家事のことを気にかけてくれるだけでいいんだ。
「ほんと、ごめんなさい」
「はい、わかりましから、ちゃんと残さず食べてくださいね」
お父さん、お母さん。食って大切ですね。
お弁当で百合さんがマジで土下座しました。
たしかに、料理は大切ですけど、こんな効果があるなんて知りませんでした。
百合さんにも、少しはいい薬になったでしょう。
これで約束事を破るようなことはないはずです。でも、みんなに怖がられてしまったので、二度とするつもりはありません。
ほんと、あの怖がられた時のみんなの悲しそうな目が……忘れられそうにありません。
とりあえず、心の中で謝っておきます。
ほんと、申し訳ありませんでした。
そして、みんなで食べるお弁当は美味しかったです!
百合さんが突然そんなことを言い出した。僕はちょうど夕御飯の支度をしている最中だと言うのに。
「突然どうしたんですか?」
「いや、あのね。さっき少女漫画を読んでいたら、真っ白いご飯の下にカレーがあって、ヒロインが大喜びするお話を見てね」
「はい……んん? 白いご飯の下にカレー?」
「そう、そうなのよ。ヒーローからお弁当を渡されて、開けたらまさかの白ご飯。困惑するヒロインはイジメか! って内心思いつつお弁当に手をつけると……なんとご飯の下からカレーが! ヒロインが余りにも喜び過ぎて……爆笑したわ」
「そうですか……。それを僕に作って欲しいってことですか?」
「それはちょっと違うかな。たしかにご飯の下にカレーって惹かれるところがあるけど、そうじゃない。私って少女漫画を描いているでしょう」
「えっと……、それとお弁当作りに……あ」
「気がついたみたいね。料理ができない私には、まだ手作りお弁当のお話を描いたことがないってことに」
「つまり、お弁当のお話を描くために取材がしたいと。それで試しに僕がお弁当を作って、みんなに渡した時の反応が見たいと」
「そう! それよ。ついでにお弁当の作り方も教えてくれると助かるな~。ちゃんと知っていないと描くのって難しいのよ」
「それでしたら、明日のお昼ご飯はお弁当にしましょうか。どうせ休みですし、喫茶店の開店は夕方からですから」
「みんなには私から言っておくわ。料理中ごめんね」
「いえ、大丈夫です。明日の朝に作りますから、一緒に作りましょう」
百合さんは脱兎の如くいってしまった。明日の朝、ちゃんと起きてくれるのだろうか。最近徹夜気味だったらしく、目の隈がファンデーションで隠しきれていない。
だからこそちょっとテンションがおかしいところもある。百合さん……、フリフリのかぼちゃパンツにシャツというかなりラフな格好だったし。この家に住むようになってからそういうのは完全に慣れてしまったけど。
それにみんな僕のことを男と認識していないみたいだから、かなりいいかげんなところが多い。外に出ている時と大違いだ!
まぁでも、百合さんも漫画を読むほどの余裕が出来たのだから、今日はしっかり休むだろう。
それにしても、お弁当か~。漫画のネタにするんだったら、面白みのあるものを作りたいよね。材料足りるかな? 夕食終わったら、買い物に行っておこう。
いつもいっている八百屋さんとかは閉まっているけど、あそこのスーパーなら大丈夫。
ふふふ、お弁当を見て、みんなが驚く風景が浮かぶ。明日は……勝負の時だ!
◇
さて、まだみんなが寝静まっている時間。お弁当作りのために早く起きたんだけど……案の定、百合さんは起きなかった!
起こしに行ったけど……あと五分を三回ほど繰り返したあたりで諦めた。
お弁当作りは僕一人でやることになったけど、一応漫画用の資料として、料理の工程を写真でもとっておきますか。
ちなみに、カメラは百合さんの部屋から拝借。寝ぼけた百合さんに「いいよ」って言われたので、問題ない!
えっと、このカメラはどうやって使えば……あ、写真が映し出された。デジタルカメラって、撮った写真を見ることができる機能があるんだ。
使ったことなかったから知らなかった。
って、うわぁ、なんで僕の写真ばっかり。料理中、制服姿、買い物中、はたまた寝顔まで。お風呂もあるよ。これ完全に盗撮じゃん。
削除……したいけどやり方わからない。あとで百合さんに文句を言おう。
えっと、このボタンを押せば……。
「きゃあ」
押した瞬間、強く光ってパシャリと音がなった。どうやらフラッシュの機能がオンになっていたようだ。
あってもなくても問題なけど、突然のことでびっくりした。
自分でもどうかと思うけど「きゃあ」って何よ。乙女か! 自分で突っ込んでいて悲しいな~。
カメラを確認すると、なんか写真は撮れているっぽい。床の画像が映し出されたし。
これで準備万端。
早速お弁当を作るぞ~。
「う~ん、こんな早くにどうしたの~」
「ま、真麻ちゃん! どうしたの?」
「ちっち……」
「ちっちって……あ~トイレね」
「うん……おやすみ~」
「ちゃんとお布団に戻るんですよ」
「わかった……すやぁ」
「もう、全くもう、この子ったら……」
これから作るぞって時に……。
僕は真麻ちゃんを部屋に戻してから台所にたった。
まずは、真麻ちゃんのお弁当を作ろうか。
一番簡単だしね。
何を作るかって? もちろん、赤まむしご飯。
ヒントは百合さんが話していたカレー弁当。
真麻ちゃんのことだから赤まむしを入れておけば大喜びすると思う。
まずは鍋に赤まむしを投入。それに火をかけて、大体60度ぐらいになったら顆粒ゼラチンを入れてっと。
火を止めてアルミ製のお弁当箱に流し込んで冷めるまで待つ。
これで赤まむしゼリーの完成だ。
それはそれとして、赤まむしを火にかけるって、使い方としてあっているのだろうか?
それにゼリーって……、こんなもん、もう二度と作らないぞ。絶対なんだからな!
精力剤を小学生に食べさせようとしているなんて……犯罪臭しかしないしね!
んで、赤まむしゼリーが完成したら、その上にご飯を敷いて完成。特性赤まむしご飯弁当。
正直かなり不味そうだ。こんなのを渡して真麻ちゃんは喜んでくれるんだろうか。
よろこんでくれそうだな~。
とりあえず、次行こ、次!
次は花梨のお弁当を作ろうかな。
花梨は……何が好きなんだろう。鯵? 鯖? それとも鰯だろうか。あ、ししゃも弁当とかいいかもしれない。でも面白みがないんだよね。
こう、ザ・漫画でしかできませんぐらいのレベルにしないと……。誰も作らないお弁当……よし、あれに行こう。
まず、じゃこ天を焼こう。あれ、大根おろしをのせて醤油を垂らすと美味しんだけど、今回はお弁当。こんがり焼き色が付いたら、ご飯の上に乗せる。この上にしっかり水を切った大根おろしとしらすを乗せれば、じゃこ天しらす丼みたいになる。
醤油を垂らしたほうがいいんだけど、お弁当だとあれなので、小さな容器にちょちょっと入れて。
あとは他のおかずだけど……じゃこ天と大根のサラダ。じゃこ天と大根の煮物。じゃこ天と大根の天ぷらでも入れておこう。
なんか、じゃこ天と大根しか使っていないような気がするけど……まぁいいや。
それにしても、じゃこ天は便利だな~。何にでも使える。美味しいし、簡単だし、もっとじゃこ天の存在が広まればいいのに。テレビで宣伝するレベルで。
う~ん、一口ぐらいつまみ食いしてもいいよね。ちょっと醤油をたらして……。
「はわぁぁ、あれ、水紋せんぱ~い。何をしているんですか。ホモってます?」
「そんなことしていないんだからね! それで、花梨ちゃんはこんな時間にどうしたのよ。それになんかキャラが違うような?」
「ありゃりゃ、バレちゃった? たまにはこんな俺もいいでしょう。えっと、何やっていたかっていうとBL小説読んでたんだよ。余りにも面白すぎて、ずっと起きてた」
「え、いままで起きてたのって仕事のほうは!」
「ちゃんと終わらしてますよ~。俺はもうすぐ寝るんで、おやすみ~」
「はい、おやすみ。ほんと、夜更かしばっかして。体壊さないといいんだけど……、まぁ若いから大丈夫でしょう」
花梨も部屋に戻ったことだし、次行こ、次!
次は菜乃華のを作りましょうかね。
あいつは適当でいいや。いや、逆に顔を赤らめたくなるような恥ずかしいものを作ってやるのも楽しいかも知れない。
少女漫画並に愛情こもったやつを作ろう。
例えば、そうだな。桜でんぷんでハートを作るとか。のりやごまなんかを使ってキャラ弁を作るとか。よし……あれにしよう。
まず、お弁当箱にご飯をセット。あとはおかずにハンバーグ、アスパラのベーコン巻き、ミートボール、ちょっと塩コショウ多めの焼肉と茶色盛りだくさんにする。
野菜も欲しいから、プチトマトとたまご焼きを入れようか。
こう、周りを茶色にして顔に見立てて、トマトめで目を作って卵焼きが口的な?
なんかロボットみたいに見えるのは気のせいだろうか。きっと気のせいだね!
気にしない、気にしない。
それだけだと緑がない。ブロッコリーでも入れよう。
まるでアフロのようになった。入れすぎて蓋が閉まるか心配だけど、無理やり押し込めばどうにかなるだろう。
これでおかず側の謎キャラが出来た。
次はのりを細く切って、ご飯側に吹き出しを作る。まるで漫画のようだ。こう、キャラが話しかけている風のキャラ弁って新しい気がする。
おかずを自分に見立てて、愛を語るとか……ラブコメにありそうだ。いや、ないか。そもそもラブコメ系な物語に出てくる女キャラって料理が下手なのが多い傾向がある。
純愛的なのとかだと、料理が得意だったりするけど、戦闘バカとか、スポーツ系とかズボラとか。
変なヒロインが多いんだよね。あとロリ系。なんであんなに多いんだろうって思うぐらいロリキャラっているよね。
きっとアレなんだろう。日本は終わってしまっている的な? みんなロリコンだから、一人ぐらい出していればよくね的な感じだねきっと。
もしかしたら出版社の担当編集との打ち合わせに必ず入れるようにとか言われていたりして。怖、日本怖!
そして、ロリキャラは子供っぽすぎて料理ができないのが常識。ある意味あれが親心をくすぐる的なモノがあって需要が高いのかも。
こう、お父さんのために頑張って作りました! って娘から言われるとすっごく嬉しいって感じ。僕がお父さんだったら、自分の子供にそんなこと言われて嫌に思えない。むしろ嬉しくて飛び跳ねるかも。
うん、それなら納得できる。
日本がロリコン国家じゃないことを祈ろう。
さて、このロボット的な怪しいキャラで何を語ろうか。せっかく桜でんぷんがあることだし、ハートマークを小さくいっぱい作って……好きだよって一言入れておけばいっか。
こんなロボットに好きだって言われて喜ぶ乙女が想像できないけど。
せっかくならロボットじゃなくてもう少し可愛いのをつくっておけば良かったな~。
過ぎたことは仕方ないしーー
「あんた、何してんの? こんな朝早くに」
「な、菜乃華! いつからそこに!」
「あんたがお弁当っぽいそれを見ながらゲンナリしたあと、よろこんで飛び跳ねていたあたりかな?」
ぼ、僕がロリについて思考していた時だ! しかも行動に移していたなんて、やっちまった。
「ぷぷ、どうせ変なことでも考えていたんでしょう。それよりそのお弁当っぽいのはなんなのよ」
「えっと、今日のお昼ご飯」
「はぁ? あんた、こんな朝早くから作っているの? もしかして、どっかでかけたりして?」
「違うよ。百合さんが少女漫画のネタとしてお弁当回を描きたいって言って……」
「そういえばそんなこと言っていたような? たしか取材的なあれね。試しに作ってみて的な。私もよくやるしね。んで、百合ねぇちゃんはどこにいるのよ」
「……寝てる」
「はぁ? あんた馬鹿なの? 本人がいないんじゃなんにもならないじゃない」
「あと五分を三回繰り返されたので諦めた」
「百合ねぇさんらしい」
「写真はとってるから大丈夫でしょう」
「それもそうね。質問事項があったらあとで聞かれると思うし、頑張りなさい。私は寝るわ」
「え、起きてきたんじゃないの?」
「……お花を詰みに来たのよ」
「そこはちっちって言えば?」
「ぅ~~~~このセクハラ女! バカ! 死ね!」
「僕は男だ!」
「あっそ、じゃあね!」
なんか扉を荒く閉じて自分の部屋に戻ってしまった。それにしてもショックだ。クラスメイトから女の子扱い。しかも僕が男だって反論したら「あっそ」って何よ。
完全に信じちゃいない。
それも気にしてばかりじゃあ仕方がない。次行こ、次!
さてさて、次は桜先輩のお弁当でも作ろうか。
あの人は女装する主人公な漫画を描いているんだよね。うーん、迷う。
ネタが尽きてきた感があるし、普通にキャラ弁をチャレンジしてみようかな。
そうだな……桜先輩が描いている漫画のキャラでいっか。
そのためには一回読んでみよう。
僕は火元を確認したあと、一旦部屋に戻った。以前みんなから貸してもらった漫画やらライトノベルやらが部屋の本棚にしまってある。
今みたいタイトルは……これこれ。『偽物ですけど恋していいですか?』だ。
タイトルの略称が偽恋だから、ジャ○プで掲載していたあの漫画とタイトルモロかぶりになるけど……きっと偶然だよね。
そもそもお話の内容が違うからね。
桜先輩が描いている話は、近所のお姉さんに仕込まれた女装癖が抜けなくなった主人公がとある女の子に恋をするんだけど、その子がどうしようもない女好き。だから女装して女として近づくって物語りだしね。
ここはやっぱり主人公の平坂水紋くんを作るべきだよね。
ん? 水紋? 僕と同じ名前だ。それにどことなく僕に似ている。気のせいか? 気のせいだよね。
あの姉の弟子を名乗る桜先輩だし、もしかして本当に僕がモデル? なんか嫌だわ~。
まぁとりあえず、水紋くんを作ろう。
まずはボールの中に白いご飯と醤油、ケチャップを投入。それをしゃもじで混ぜ混ぜ。
肌色ご飯の完成! ケチャップと醤油のご飯ってなんかまずそう。それに塩分も高そうだから健康に悪いだろうな~。ま、いっか。
肌色のご飯をキャラクターの形になるように敷き詰めて、あいたスペースは白ご飯。
髪や目などの黒い部分はノリで再現。目の白は上から白ご飯を入れればいいでしょう。
あとはほっぺをほんのり赤くするために桜澱粉を散らす。口の赤は……材料がないから紅しょうがでいいや。いや、ここは紅しょうがとご飯を混ぜたほんのり赤いご飯を入れるか。それともラー油? 迷う。
でも、辛い感じにすると食べれないってことにもなるかもしれない。
ここは紅しょうがを口の形に入れてあげよう。
制服の部分、白はご飯でつくってあるけど、それだと背景の混ざってしまうので、のりで線を作る。黄色い部分はたまごを千切りにして、綺麗につくってやれば問題ない。
問題は……水色。そこである材料を使う。それはデコふり。かなりまずいらしいけど、面白いお弁当を作るんだから別にいいや。
制服の水色の部分をデコふりを乗っけて、はい完成。
一言コメントとか欲しいよね。ちょっとスペースが空きすぎて寂しいし、また吹き出しでも作りますか。
ここは漫画の一コマ、水紋くんのあのセリフを……。僕のことじゃないよ。漫画の水紋くんのことなんだからね。
はぁ、僕は一体誰に言い訳しているんだ。
とりあえず『女装、気持ちいぃぃぃぃ』と一言。あれ、僕が危ない人になってないか?
「あれ、水紋ちゃん。どうしたの?」
「さささ、桜先輩!」
「ふわぁ~、眠い……。んで、お弁当箱の前で青ざめて、一体どうしたの? なんか悪いものでも食べた?」
「いいい、いえ、そんなことありませんよ」
こんな弁当見られた日にはなんて言われるか。絶対におもちゃにされる。自分で書いておいてなんだけど……この人だけには見られちゃいけない。
「別になんともないんだったらいいよ」
「ふぅ、そうですか」
「ん、だから早くその言葉を口にしなさい。女装気持ちいいって」
「なななな……」
「な~んてね、うそうそ。水紋ちゃんがそんなんじゃないって知っているから」
「そんな冗談言わないでください!」
お弁当のことばれたかと思った。心臓に悪すぎだよ、桜先輩……。
「そんなに慌てなくてもいいじゃん。大丈夫。僕はちゃんと知ってるから。水紋ちゃんが無意識に女装をしてしまうほど染まっているって。気持ちいとかそんなんじゃなく、それが普通になりつつあるってことに」
「そ、そんなことありません!」
「ははは、水紋ちゃんはからかうと面白いね。僕は部屋に戻って、漫画でも読んでるよ」
「一体何しに来たんですか……」
「玄関に置いてあるペットボトルのお茶を取りに」
「あれは外出用なんですから、あんまり持っていかないでくださいね」
「はいは~い」
最近ペットボトルのお茶の減りが早いのはあの人のせいか。
全く、いったい誰が買いに行ってると思っているのさ。
ここまで歩いて持って帰るの、すっごく大変なのに。
あまりに減りが早いようだったら……通販にしようかな? でも手数料が……困った。
桜先輩のキャラ弁に書いた文字は書き直しておこう。絶賛発売中とでも書いておけばいいでしょう。
これで四人分のお弁当が完成。次で最後、いざ尋常に!
そう言いたいのも山々なんだけど、本当にネタが尽きた。あとは普通のお弁当ぐらいかな。
こういう時はネットで検索しよう。
えっと、夫婦喧嘩。おもしろお弁当っと。
でたでた……って怖!
夫婦喧嘩した翌日のお弁当が、ちょびっとのご飯と梅干だけとか。白いご飯に生たまごを乗っけただけとか。こう、奥さんの怒りが伝わってくる。これはある意味面白い。
えっと、他には……うわぁ、これはない。
母親が夫に渡すつもりで間違って息子に渡してしまったお弁当。
『こんや』と意味深に書いてあって、端っこにハートマークって。これもらったら僕は家出するよ。絶対に……。
あとはクオリティーの高いキャラ弁か……。
うーん、たしかに面白いけど……さてさて、どんなものに……。
そんなわけで、僕はおもしろお弁当をいろいろと調べて見た。
「こ、これは!」
そして出会った。こんな最悪な弁当を作る人がいるなんて。かなりの怒りが伝わってくる。
そういえば、百合さんは僕にお弁当をつくって取材させてと言いながらずっと寝てる。
ちょっとぐらい怒ってもいいよね。
よし、このお弁当を作ろう。絶対にこれしかない!
◇
そんなわけでお昼がやってきました。朝早かったからちょっとばかし眠いけど。お弁当作ったあとは掃除だったり洗濯だったり、やることはたくさんある。僕に二度寝をする時間なんてないんだよ。
主夫業を軽視する人って結構いるみたいだけど、大変なんだよね。
あとは共働きだからと頑張って家事を手伝う旦那さんを厳しく言う奥さん。あれは最低だと思う。
ありえない、本当にありえない。
女性の方が家事ができて当たり前。元々学校でそういう教育方針があったから。
昔だと男は技術、女は家庭科で別れていたぐらいだしね。
夫は優しさで手伝うと言っているのに、それに対してダメだしばっか。そんなことをされちゃ夫はやる気をなくして手伝わなくなってしまう。そして……手伝わなくなった夫をさらにガミガミいって破局。
そうなる人って大抵男の人の気持ちがわからないんだよね。自分勝手な女性は嫌われる。
本来ならこう考えるべきなんだよ。社会人一年目の人に一から教えて上げて、ゆっくりできるようにする。いくら言ってもダメだったらガミガミいうのは仕方ないかもしれないけど、最初なんだから優しく丁寧にが基本だよ。
いきなり上級者レベルの技術を求められても無理。それは家事も同じ。最初は上手くできないのが当たり前なんだから、優しくしてあげないとダメ。
まぁ、リーベルの五人姉妹みたいに元からズボラっぽい感じがあると、手伝うって発想がなかなか生まれないから悲しいけどね。
いいよ別に、僕は住まわせてもらっている身ですから。それに、育児をしているわけじゃないからそれほどストレスを感じない。
僕の方がまだ気楽でいいや。
それはそうと、そろそろ降りて来る……やっと来た。
「ごめんね、水紋ちゃん。私は寝てばっかりで」
「百合さん、おはようございます」
「さて、みんなには付き合ってもらって悪いけど、一応漫画の取材目的があるし、反応が見たいから一人ずつ開けてもらっていい?」
「真麻、一番がいい。水紋お姉様、真麻のお弁当はどれ?」
「はいはい、真麻ちゃん。これ」
「わ~い、真麻のお弁当! 開けていい? 開けていい?」
「こら、慌てない。お弁当は逃げないんだから。ゆっくり食べるんですよ」
周りからお母さんだ……って言葉が聞こえるけど、もう慣れた。それでいいよ、別に。
「じゃあ早速……なにこれ?」
真麻ちゃんは目を点にしてお弁当を見つめた。そりゃそうだ。開けたら白いご飯が入っているだけなんだから。
「み、水紋お姉様は真麻が嫌いなの?」
「そ、そんなに泣きそうにならないでよ。ほら、ご飯をめくって見なさい」
真麻ちゃんはゆっくりご飯をめくり、目を輝かせた。
「あ、赤まむしゼリーだ!」
「はは、喜んでくれて何よりだよ」
「ありがとう、水紋お姉様!」
「ほら、ゆっくり食べなさい」
「ふわぁーい」
「……水紋ちゃん……小学生に精力剤(赤まむし)って」
「ちょ、百合さん、僕は変なことなんて考えてませんよ!」
周りから「うわぁ」って言われた。これ、だいぶメンタルがやられそう。
でも、真麻ちゃんはかなり喜んでいるようで、とりあえず良かったというべきか。
「あまり真麻に赤まむしを与えないように、お願いよ」
「ごめんなさい、百合さん」
「わかればよろしい。次は花梨がいってみようか」
「へ~い」
花梨はめんどくさそうにお弁当箱を開けた。そんなに嫌そうにしなくてもいいのに。
僕がせっかく作ったのに……寂しいな。
まぁ、花梨のために作ったお弁当は半分ネタで作っているから……怒られたらどうしよう。
「ねえ、水紋先輩。これなんですか?」
「えっと……じゃこ天大根弁当?」
「なんで疑問形なの。こんな灰色な弁当初めて見たよ。茶色じゃないんだよ。灰色なんだよ。特殊すぎるよ。それに、じゃこ天って何!」
「えっと、じゃこ天とは愛媛県の特産品で地魚などのすり身を形を整えて油で上げた魚肉加工品。揚げかまぼこに分類されていてとっても美味しいんだ。特にあみで焼いて、大根おろしに醤油を垂らすとやばいほど美味しい。それにじゃこ天うどんとか言うのもあってーー」
「ちょ、ストップ、ストップっす、水紋先輩。先輩のじゃこ天愛が分かりましたから、ちゃんと食べますから」
「まだまだ言いたいことあったのに……」
「もう勘弁っす。食べます。ん~~~、はぐ。あれ、美味しい」
「でしょ!」
「これすっごく美味しいですね。水紋先輩!」
「お弁当よりも、ちゃんと焼いて食べたほうがいいよ。よかったら夕食に出そうか?」
「うん、食べたい。水紋お母さん!」
「よしよし」
「この子たちったら……はぁ」
百合さんは呆れてため息をつく。じゃこ天の美味しさを知ったらそんなことできないはずなのに……。
「次行きましょう。菜乃華」
「私はなんでもいいけどね。私のお弁当はどれ?」
「えっと、これです」
「ふーん、私のはあんな灰色弁当とか赤まむしとかじゃないでしょうね」
「い、いや、そんなことないよ」
「なんでそこで詰まるのよ。かなり不安になるじゃない。まあいいわ、開けてみましょう」
菜乃華はめんどくさそうにお弁当箱を開けて、引きつった笑みをした。
……背中が寒く感じる。これは……殺気か!
「あああ、あんた、これマジで言っているの。何よこの言葉。すすす、好きだよって。告白、告白なの!」
「い、いや、百合さんの取材だから少女漫画チックに、こんなのありかなって思って……」
「ーーーーーーバカ! 死ね、消えちまえぇぇぇぇ」
「なんでそんな怒るのさ」
「水紋ちゃん……」
「ゆ、百合さん……」
「もうちょっと女心を分かりましょう?」
「は、はい……」
「水紋……」
「その、菜乃華……ごめん」
「別に変なこと書かなければそれでいいのよ。お弁当はありがたくいただくわ。水紋のご飯は……美味しいからね。いつもありがと、ふん」
「「「「「ツ、ツンデレだ~」」」」」
なんだろう、菜乃華がすっごく可愛く見えてきた。どうしよう、どうしよう。
「もう、バカ水紋。そんなに見るな! 死ね!」
これ以上は菜乃華が怒りそうだ。次に行かなければいけない気がする。
そっと視線を百合さんに移すと、まだ菜乃華にテンションを上げまくっている。
「ゆ、百合さん。そろそろ……」
「そ、そうね。あまりにも美味しい展開だったからつい……。次は桜ね」
「えっと、僕のはこれでいいのかな?」
「はい、そうですよ。結構いい感じに作れたと思うので、どうぞ」
「ふむ、お手並み拝見ね」
桜先輩がお弁当を開けて目を見開いた。
「こここ、これは! 私の作品、偽恋の水紋じゃない!」
「そうですよ。キャラ弁なんて初めてつくりましたけど、結構上手く出来た気がするんです」
「上手く出来たどころじゃない。完璧よ。ごめん、僕は行くわ」
「ちょ、一体どこに!」
「このお弁当の写真をとって、ネットに拡散するわ。あと防腐処理してずっと残しておくの!」
「いや、食べてくださいよ! せっかく作ったのに!」
「でも、こんな嬉しいもの作ってもらったんだもの。とっておかないと損でしょう! ごめん、水紋ちゃん!」
桜先輩はいってしまった。本当に嬉しそうだからいいんだけどね。
でも、防腐処理したところで腐るでしょうに。食材のあれって賞味期限が延びるだけみたいな感じでしょ。いや、ホントはどうだか知らないけど。
「さて、最後は私の番ね! 水紋ちゃんは私にどんなお弁当を作ってくれたのかしら?」
「百合さんには特別驚くようなものを作りましたよ」
「ほんと、それは楽しみだわ。さーて、どれどれ……きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
百合さんは泣きながら逃げた。それも当然だろうに。
その光景にみんなが注目する。お弁当如きで驚く長女の姿があるんだ。注目しないはずがない。
「水紋ちゃん、これはひどすぎでしょう! お、お弁当にゴキ○リ入れるなんて!」
「よく見てください」
「い、嫌よ。なんで、もしかして寝坊したこと怒っているの。お願いだから許してよ。そんなの食べられない!」
「いや、のりで形作っただけですから、ちゃんと食べてください。絶対ですよ」
「のりだとしても嫌よ。なんでそんなにリアルなのよ。今にもカサカサ動き出しそうじゃない!」
「それはそういう風に作ってますから」
「やっぱり怒っているんだぁぁっぁぁぁ」
「はい! 怒ってます。だからちゃんと食べてくださいね」
「ごめんなさぁぁぁぁぁい」
泣いて謝る女子大生。食って本当に大事だね。
なんかみんながちょっぴり震えながら僕を見てくるんだけど。
「「「……怖!」」」
怯えられた! どうしよう。まぁでも大丈夫でしょう。僕だっていつもそんなことをするわけじゃないしね。
おいしい料理を楽しんでくれたらそれでいい。
ちょっとだけ僕の行う家事のことを気にかけてくれるだけでいいんだ。
「ほんと、ごめんなさい」
「はい、わかりましから、ちゃんと残さず食べてくださいね」
お父さん、お母さん。食って大切ですね。
お弁当で百合さんがマジで土下座しました。
たしかに、料理は大切ですけど、こんな効果があるなんて知りませんでした。
百合さんにも、少しはいい薬になったでしょう。
これで約束事を破るようなことはないはずです。でも、みんなに怖がられてしまったので、二度とするつもりはありません。
ほんと、あの怖がられた時のみんなの悲しそうな目が……忘れられそうにありません。
とりあえず、心の中で謝っておきます。
ほんと、申し訳ありませんでした。
そして、みんなで食べるお弁当は美味しかったです!
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