太陽を守った化物

日向 葵

第二十四話~敵さんは危ない人だったっ!~

 よくわからないくまさんの死体を跳ねのけて、ハクレイたちは奥に進む。
 ハクレイ曰く、ここがマリアを襲う不届きもの達がいる場所で間違いない。

 くまさんがどうたらこうたらという謎の出来事はあったが、洞窟の中はそれなりに整備されており、人が住むぐらいは問題ない。
 敵が根城にしていてもおかしくないのだ。

 だが、どれだけ進んでも、それらしい敵に遭遇しなかった。
 ハクレイは「確かににおいはつづいているんだけどなー」とつぶやきながら首をかしげる。

 かなり奥まで進んできたはずなのに、誰一人として会うことはなく、あるのはただのにおいのみ。
 ハクレイ自身、本当にいるのだろうかと怪しく思ってきたほどだ。

「ねぇ、人の気配がしないんだけど。大丈夫なの」

 そして、ついにパルミナに突っ込まれる。ハクレイは自信なさげに「大丈夫」と答えた。

「きっといる、いるに違いない。敵は皆殺しにするんだっ!」

「いやそんなに熱くならなくても、てか、洞窟の中で声が響くからあまり叫ばないで」

「きゃーはー。ハクレイちゃんの声が体にひびくぜぇ」

「ルーイエ、死ね」

 通常運転のルーイエを罵倒しつつ、三人は奥に進む。不安に感じ始めてから数分した後だろうか。洞窟の中に変化が現れた。

「な、なにあれ。ハクレイっ! これってどういうこと?」

「そんなの私に聞かれても……ルーイエなら知ってるかも。だって同類っぽいし」

「おいおい、ハクレイちゃん。私をなめちゃいけないよ。あんなのと一緒にしないでくれ。私は変わった。今はハクレイちゃんだけを愛している!」

「やっぱ死ね」

「きゃふんっ。その馬頭も、ス・テ・キ」

「「き、気持ち悪ぅ」」

 ルーイエの変態っぷりにドン引きするハクレイとパルミナ。それはある種の現実逃避でもあった。
 だって、ルーイエと同等レベルかそれ以上の変態どもがいるのだから。

「はぁはぁ、この至宝、素敵でやんす」

「こっちの子供服も最高だぜ」

「仕事が完遂出来たら、ご褒美がもらえるんだよな」

「幼女、幼女っ!」

「私は幼女なんかより美少年が…………」

「子供の靴下……さいこー」

「くーーんんっ、少年のほのかな香りがするぅ~~~~~」

 そう、ハクレイたちが見つけたのは、ルーイエと同じレベルで頭のおかしい変態どもだった。ここにいるやつらはどことなくルーイエに似ている。

「ちょっとまって、私ってあんな風に見えているの」

「「うん、あれと同じでしょう」」

「うわぁ、嫌だーーーーー」

 これぞ、同族嫌悪というやつである。
 ともあれ、ハクレイたちは、物陰に隠れながら、変態どもの様子をうかがう。
 変態どもはどうやら危ない思考の持ち主のようだ。
 盛り上がった筋肉を持つ巨体の男が、小さな女の子用であろう靴下をくんかくんか。
 ザ・お姉さんといった雰囲気の美しい女性が、小さな男の子用のブリーフパンツに頬をこすりつけていた。
 またある人は…………それはもう描写できないほどやばいことをしていて……。
 どっからどう見ても、ルーイエの同類だった。いや、ルーイエもそこまでのことはしないだろう。

「ねぇ、本当にあれと同類視されるのすごく嫌なんだけど」

「もし仮に、ハクレイが靴下を脱いでルーイエに渡したら、どうする?」

「くんかくんかする」

「死ね、変態」

 やっぱりルーイエはルーイエだった。ただ、モノがないだけで、あったらやるらしい。どうしようもない屑だった。

「それにしても、あの変態どもはいったい……」

「パルミナ、それについてなんだけど、あいつらどっかで見たことがあるんだよな」

「ルーイエ、何か知っているの。ならさっさと教えなさい」

「私を変態扱いしたパルミナには教えねぇ」

「っち、ハクレイ、お願い」

「任されたっ!」

 ハクレイは見事な敬礼を決めると、ルーイエに近づいて、手をそっと絡める。
 そして、ルーイエを上目遣いで見つめた。

「ねぇ、教えて?」

 軽く首をかしげる姿は幼い子供のようで、ルーイエの心を見事に貫いた。
 息を、はぁはぁと荒げて、目が血走ったルーイエはがばぁっとハクレイに抱き着く。
 ハクレイはジト目でパルミナに視線を送ると、ぐっと親指と立てて「がんばれ」というだけであった。
 パルミナ、黒い。心の中が黒すぎる……。

「さっさと教えろ、変態」

 頬すりをしてくるルーイエをハクレイは腕力で跳ねのけようとした。
 ルーイエは負けないといわんばかりに力を込めて頬をすりすりしようとしながら語ってくれた。

「あいつらはここいらで有名な性犯罪者だ。男どもはロリコン、女どもはショタコン。あいつらは孤児院とか学校みたいなところから、自分好みの子供をさらっていかがわしいことをする犯罪者。もうつかまって牢屋にぶち込まれているはずなんだけどな」

「おっふ、変態だった。やっぱ同類じゃん。ルーイエ。いい加減話せ。というか死ねっ!」

「いやんもう、ハクレイちゃんは照れ屋なんだからぁ」

 ハクレイは激しく後悔した。色仕掛けなんて使わなければよかったと。
 それでも有力な情報を手に入れられたのは確かだ。
 ハクレイは今まで始末してきた刺客たちのことを思い出す。

 そういえば、小さな靴下とか下着とかを肌身離さず持っていたなーっと。

 つまり、マリアを狙った刺客とは元犯罪者たちであると結論付けることができる。

「でもどうしてあんな危ない人たちが……」

「ハクレイは馬鹿ね。そんなの考えればわかるでしょ」

 ハクレイが犯人についてぼやいていると、あまりにもしつこいルーイエにパルミナがラリアットを決めてから話しかけてきた。

「きっとマリア様の命を狙っているのは国のお偉いさんなのよ。釈放とかを条件に危ない仕事をやらせているんだわ」

「そうなのかな? 釈放ぐらいじゃあの変態どもは動かないと思うんだけど。そうだよね、ルーイエ」

「ごっふ……。ラリアットくらって苦しんでいる私に振らないで……。でも愛しのハクレイちゃんの質問だから答えてあげる。釈放ぐらいじゃ仕事しないよ。自由になっても楽しみなんてないし」

「ルーイエなら何をもらったら仕事してくれる?」

「ハクレイちゃんに決まっているっ!」

 ルーイエが熱く語ろうとし始めたので、ハクレイが裏拳で地面に沈める。そして現状を理解を整理した。

「つまりあれだ。自分好みの少年少女を対価に仕事しているに違いない」

「変態の言っていることは間違いないと思うよ」

「そうだよね、パルミナ。あれはこの世にいちゃいけないものだ」

「ならサクッと殺しますかっ!」

 ハクレイは性犯罪者を皆殺しすることにしたようだ。
 もしかしたらマリアがあいつらの手によって……。
 そんなことが一瞬の脳裏によぎったハクレイは、強い殺意を抱いた。

 主のために、今の幸せのために、ハクレイは戦う。
 あれは害虫。この世にいてはいけない人間や化け物以下の獣たち。
 ハクレイとパルミナは害獣を始末するために、悶えているルーイエを投げつけて、敵を皆殺しにし始めた。

 ハクレイは敵を殺しながら、ルーイエもついでにどうにかできないかなーなんて思っていたようだが……、まあ殲滅できたのだからよしとしよう。

 こうして、ハクレイは主であるマリアを守るために、ごみ屑性犯罪者どもを始末していったのだった。

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