太陽を守った化物

日向 葵

第二十三話~あらわれたのはくまさんでした~

 さて、匂いをたどっていったハクレイたちがたどり着いたのは、砂漠の中央にぽつんとある洞窟だった。
 さっきまで歩いていた川や山や森や平原は一体なんだったのだろうか。
 ハクレイたちは危険種のせいだと無理やり納得しながら、洞窟の中に入る。

「なんかジメジメしていやー」

「ハクレイ、我慢しなさい。後でブラッシングしてあげるわ」

「キャハハハハハ、その役目は私だぜぇ!」

「いや、ルーイエは地獄に落ちろ! 私はパルミナにやってもらうの!」

「そ、そんな~」

「っふ、信頼を積み上げた私の成果だね。ルーイエざまぁーっ!」

 パルミナは最大級のドヤ顔を披露した。それを見たルーイエは、唇を噛んで血を流すだけじゃ飽き足らず、血涙まで流してそれを悔しがったそうな。

 まあ、そんなことを気にするハクレイではないし、パルミナもルーイエなんてどうでもいいと思っているので、鼻で笑うぐらいで終わった。

 愚かなるルーイエを構ってくれる人はこの中に誰もいない。

 ガヤガヤしながら洞窟の奥に進んでいくと、奇妙な唸り声が聞こえた。

 いやまさか、人間が唸り声をあげるわけがない、そう思いつつも怖いと感じさせるだけのなにかがあった。

 そりゃそうだ。人間は殺せても幽霊は殺せない。触れない敵にどうやって打ち勝てばいいのだろうか。
 無理ゲーである。

 パルミナとハクレイは互いに体を寄せ合って、ビクビクしながら奥に進んでいく。

「ハ、ハクレイ。急にどっか行かないでよ。ちゃんと手をつないで」ゲシッ

「う、うんパルミナこそ、どっか行かないでよね。お化け怖い」ゲシッ

「ちょ、い、痛い。痛いからっ! なんで蹴るの。私だって怖いんだけどっ!」

「「いや、だって、ルーイエだし」」

 同じく怖い思いをしながらも、手をつなぐではなく蹴りを入れられるかわいそうなルーイエ。
 躊躇なく蹴りを入れつづけるパルミナとハクレイであったが、とあるものが目に入った瞬間、蹴りが止まった。
 あるものが目に映らなかったルーイエは、やっと受け入れてもらえたと、瞳に涙を浮かべながら喜んだ。

「わ、私を受け入れてくれるの。ぐへへ、私だって怖かったんだからね、じゅるり」

 ゲス顔でハクレイとパルミナに近づくルーイエは、後ろにいる存在に気がつかない。

 ぽんっと、ルーイエの肩が叩かれる。
 肩を叩かれたルーイエがふと後ろを振り向くと……。

「やあ、僕はくまさんだよぉ?」

 全長5メートルを越えるであろう、大きなくまさんがいた。

 ぎらついた瞳、口から垂れるよだれはまさしく飢えた獣。
 きっと鋭い爪で肉を切り裂いて、はらわたを貪り食うに違いない。そう思わせるような風格があった。

「ねぇ、みんな固まってどうしたの? 仲良く遊ぼうよっ!」

 そんな風格とは裏腹に、可愛らしい少年のような声を出す、いかついくまさん。
 びっくりしたルーイエは触手で攻撃をしてしまった。
 ルーイエの触手は、くまさんの頬を叩き、くまさんは触手の攻撃の威力に負けて、でかい図体が倒れた。

「よ、よし! このまま畳み掛けて……」

「なにやってんのよバカルーイエ。そんな危険そうなくまさんを攻撃して」

「そ、そうだよ。かわいそうだよ。可愛らしい少年の心を持ったくまさんなのに」

「いやでも、あの見た目だよ。絶対に危ないって。私たちが食われるって。絶対にそうだって」

 そんなことを言いつつ、オロオロしながらくまさんを見る化物少女3人組。
 一方くまさんの方はと言うと……

「わーん、痛いよー。パパにだってぶたれた事ないのにー。パパ食べたの僕だけどー」

 と喚いていた。
 ごろごろと転がって、叩かれた頬を抑えている。瞳がギラギラとしており、なにかやばい薬でもやっている感じがした。

「ていっ!」

 不意をついたパルミナの毒攻撃。
 かいしんの一撃だ! くまさんは毒になった。

「ぐげぇええええ、く、苦しい。助けて。パパー。あ、僕が食べたんだった」

「こいつ結構余裕があるな。それもう一本っと」

 パルミナの毒攻撃。
 かいしんの一撃だ。くまさんは更に毒で苦しんでいる。

「ああ、パパが見える。どうして、僕がパパを食べたのに、え、ちょっとまって、あ、ああああああああああああああああああ………ダメェェェェェ、食べないでぇぇぇぇぇいだい、いだいよぉおおお、あがあっががああぐへぇええええええおながさけじゃうしんじゃうよぉぉおおおお………へへ友達、欲しかったな……」

「「「…………なんだこの茶番」」」

 悶え苦しんで、死んでいった。白目を向いて、舌を出しながら血を吐き出している。
 若干かわいそうになってきたな三人組は、ちょっとオロオロしだした。

「ねぇ、なんかすごい悪いことしちゃった気がするんだけど、私は悪くないよね」

「うわぁ、毒はないよ。パルミナサイテー。キャハハハハハハ」

「そうやって笑うルーイエの方がもっと最低だよ? 人生やり直したら」

「ハクレイちゃんひでぇ!」

 ジト目でルーイエを見ながら、ハクレイはパルミナを宥めた。

「ぐす、ルーイエがいじめる」

「よしよし、大丈夫だよ。変態はくまさんに食べられちゃうから」

「え、ほんと?」

「うん……。だって」

 そう言ってハクレイはある方向を指さした。
 指さした方向から大きな音がしながらなにかが走ってきた。

「わー、人間さんがいるー。一緒にあそぼー」

 全長12メートルはあるであろう、くまさんが飢えた獣のような唸り声と少女のような可愛らしい声を上げながら走ってきていた。
 鋭い爪は走りながら岩をも砕く。
 可憐な少女のような声とは裏腹に、眼力がすごい猛獣のようだったので、化物少女三人を震え上がらせた。

「あれ? くまたろう? 何してるの。寝てるの?」

 化物少女三人に近づいてきたくまさんは、途中でさっきパルミナが殺してしまったくまさんに気がついた。
 ドスン、ドスン、と可愛さの欠片もない音を響かせながらくまさんに近づいて、グシャリとなっちゃいけないような音をさせながらつついていた。

 そのくまさんがかわいそうだからやめてっ! と叫びたい気持ちを抑えつつ、三人娘は成り行きを眺めていた。

「ねぇ、くまたろう。起きてよー。あそぼーよー。ねぇ、くまたろう? どうしたの、ねえどうしたの」

 健気に死んだくまさんを揺らすくまさんの姿を見て、化物少女三人は困惑した。

「ねぇ、すごくかわいそうな気がするんだけどー。どうしよう、罪悪感が半端ない」

「う、うん。悪いことはしていないはずなのに」

「キャハハハ、お前のせいだ、パルミナァァァァァ。ぷぎゃー」

「ルーイエ最低。地獄に帰って。ねぇ帰ってよ」

「そうよ、ハクレイ。あのロクデナシの変態に言ってやって頂戴」

「私の扱いひどすぎじゃねぇ! わかっていたけどさ!」

 とまあこんな感じに喚いていた。困惑したのはどうやら一瞬だけだったらしい。
 そんな三人娘を気にすることなく、くまさんは死んだくまさんを揺らして……ヨダレを垂らしていた。

「………………………どうしよう、美味しそうだよ」

「「「なんでそうなるんだよっ!」」」

 まさかのくまさん同族美味しそう宣言。
 しかも、目がだんだんと血走ってきた。
 くまさんが、死んじゃったくまさんに口をつけようとして……。

「だからなんでそうなるんだこんちくしょうッ!」

 パルミナの毒攻撃。
 かいしんの一撃だ。くまさんは猛毒に侵された。

「うげぇええええええ、くるしぃ、なんでぇぇぇぇぇぇぇぇ」

「よし、やってやったぜぇ」

「「パ、パルミナが…………黒い……」」

 パルミナのまさかの行動に、ハクレイとルーイエが声を揃えながら引いた。
 だけど、ハクレイはルーイエに心を許しておらず、さりげなく抱きついてきたルーイエに容赦ない蹴りを放った。
 そんなバカをやっている間もくまさんは苦しみ続ける。

「ごぇあ、ああ、ダメ、美味しそう……」

「まだ言うか、このやろうっ!」

 パルミナの毒攻撃。
 かいしんの一撃だ。くまさんは更に毒で苦しみ始める。

「あぎゃぁあっぁあああぁあぅああ、苦しいよぉぉぉぉぉあひぃぃぃぃぃ、なにか、何かがーーーーーーーーーーーーー美味しそう」

 そう言ってくまさんはパタリと生き途絶えた。

「「「ほんと、なんだこの茶番」」」

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