太陽を守った化物

日向 葵

第十七話~満面の笑みを浮かべて死んでいるっ!~

 カツサンドが屋敷を恐怖のどん底に陥れている時に、ハクレイとパルミナは、楽しそうにお話をしながらおやつを食べていた。
 どこから手に入れたって? もちろん、屋敷のキッチンからだ。
 隠し通路を彷徨っていた、ハクレイとパルミナは、偶然にも、屋敷内に通ずる扉を見つけた。そこから出てみれは、食料豊富なパラダイス。
 滅多に食べられない食材や、甘い香りがするお菓子なんかが置いてあり、こりゃ食べなければいけないよね、と任務中であるにも関わらずお茶会を始めたのだ。

「このクッキー、美味しいね」

「ほんとよね~。あ、ハクレイ。お茶がなくなっているわよ。今いれるね」


「わ~、パルミナ、ありがとう!」

「それにしても、あのカツサンドたちはどうしたのかしら」

「さあ、美味しく頂かれているんじゃない? 結構美味しかったよ?」

「あれを食べられるのはあんただけよ」

 パルミナはやれやれと首を振って、お皿に盛りつけられたクッキーを手に取って、口の中にポイッと入れた。

「ふへへ、甘い、おいちい」

「は! パルミナが幼児化しているっ! これは叩いて直さないとっ!」

 ハクレイは、腕を振って素振りをしたあと、ゆったりとパルミナに近づいた。

「ちょ、ま! 壊れていないから、大丈夫だから! もう叩かないで!」

「あれ、私はそんなに叩いていないよ。一回だけだよ!」

「やだぁ~もう叩かれるのはいやぁ~」

「なんで! そんなに嫌らがないでよ! 痛いのは一瞬よ!」

「い~や~」

 ドタバタとキッチン内を騒ぐ二人。だけど、誰ひとりとして人が来る気配がなかった。
 キィーっと音を立てて、キッチンの扉が開く。
 ぎょっとした二人は、扉に視線を向けるのだが、そこに人はいなかった。
 あれ? と二人は首をかしげる。そして、顔をだんだん青くさせた。

「も、もしかして、お化け?」

「そそそ、そうだったらどうしよう……」

「「呪われちゃうかも!」」

 抱き合って肩を震わせる、パルミナとハクレイ。歯をガチガチとならせて、瞳に涙を浮かべた。
 怖さが極限状態になり、あわわと声を漏らしてしまうほど。
 だけど、扉が開いただけ。だたそれだけだ。他には何も起こらない。
 それが逆に不気味さを漂わせう。

『『ニシ、ニシシシシシシシシ』』

 キッチンに反響する不気味な笑い声。
 ハクレイとパルミナは、不意に服を引っ張られた感じがした。そのため、視線をそちらに向けると……奇妙な口がにったりと笑っていた。

「「ぎゃああああああああああああああああああ」」

 驚きのあまり、ハクレイとパルミナは叫ぶ。敵にバレてしまうなんて知ったことか!
 怖い、怖すぎる。だから叫ぶ。誰か、誰か来てくれと、涙しながら、心の奥底から、叫びまくった。
 それに反応したのは……あいつだった。

『サケブナ、オレ、カツサンド、美味しいぞっ!』

「いやああああああああああ、カツサンドおおおおおおおお」

「ぎゃああああ、ハグ、あ、美味しい、ぎゃああああああああああ、もう一個、美味しい、ぐぎゃああああああああ」

「ちょちょちょ、ハクレイ! あんたなにしているのよ!」

「もぐもぐ、ん? カツサンド、美味しいよ?」

『オレタチ、幸せ、美味しい、カツサンド、バンザイ、バンザーイ! ……あっ』

 よく喋るカツサンドを、ハクレイは手に持って、口に入れて頬張った。肉汁溢れるジューシーなカツとシャキシャキのキャベツが奏でるハーモニー。
 余りにも美味しいカツサンドにハクレイは満面の笑みを浮かべた。

「って、これ、私の毒じゃない! ああ、ビビって損したわ。てか、あんたは何してるのよ」

「ん? だからカツサンドを食べているの」

「それ、依存性がやばい毒とか、食べ続けると死ぬ毒とか、ゴブリンに変質する毒とか、色んなもんが混ざっているはずなのに、それを平然と食べ続けられると、プライドが傷つくわ~」

「そんなちっぽけなプライド、捨ててしまえばいいんじゃないかな。これ、美味しいよ? 食べる?」

「いやいや、毒の特性を持つエルドナハラでも、自分の毒で死ぬのよ! 毒を扱えるだけで、完全耐性なんて持っていないんだから!」

「へ~そうなんだ。へ~へ~。あ、カツサンド、もう一つもらうね」

「適当に返さないでよ!」

「んで、これからどうするの?」

「とりあえず、カツサンドがここにいるってことは、どうにかなったんでしょう。様子を見に行くわよ」

「え~カツサンド食べたい」

「もう、さっさと行くわよ!」

「い~や~」

 ハクレイはパルミナに引きづられて、キッチンを後にした。



 とある寝室にて、パルミナとハクレイは堂々と入って、中の光景に驚愕した。

「すごい、幸せそうだね。それほどまでにカツサンドが美味しかったんだ!」

「こう、なんというか、やった私からしても悲惨だと思わざる負えないよ。かわいそうに」

 パルミナとハクレイの足元には、満面の笑み浮かべた、ダンディなおじ様が幸せそうに死んでいた。
 口の周りは、ソースっぽい何かがついている。
 そして、少しだけ開いた口から、ニタニタと笑う、口。
 ま、まさかカツサンド! と二人は、そーっと覗いた。
 でも、カツサンドではなかった。なかったのだ。

 口から出てきたのは……幸せいっぱいの笑みを浮かべた……ドロドロの蜘蛛だった。

「「ひゃあ! なんで蜘蛛!」」

『オレ、カツサンド……だったもの。胃の中に入って……変質してしまったもの……消化して……欲しかった……』

「よし、殺そう。さっさと殺そう」

「ちょっと、かわいそうだよ。助けてあげようよ」

「えい」

『ぎゃああああああああ、溶ける、溶けるぅ』

 パルミナが蜘蛛になったカツサンドに謎の液を吹きかけた。そしたらどうだろうか。
 ドロドロとけだしていくではないか。
 グロい、グロすぎるとハクレイはつい、目をそらしてしまう。
 だけど、目をそらした先にいたのは……

『溶けるううううううう』

 別の蜘蛛が溶けていた。

「こ、怖すぎるよ、何これ、ホラー?」

「ホラーじゃないわ。これは……胃液よ!」

 胃液は強酸性で、塩酸及び酸性条件下で活性化するタンパク質分解酵素が含まれている。
 それにより、タンパク質を分解して、小腸での吸収を手助けするのだが、これはどくのだろうかと、ハクレイは疑問に思った。
 でも、出せているのだからそういうことなんだろうと、納得することにした。

「ハクレイ、ちょっと息を止めて……やっぱいいわ。ていや!」

 パルミナの周りから、突然、白い霧のようなものが吹き出した。
 ハクレイは咄嗟に口を塞いだが、つい、吸い込んでしまう。

「うげぇ、何これまずい!」

「不味いで済むだけなんて、ほんと、デタラメよ、あんた」

 気がついたらガスマスクをつけていたパルミナにハクレイは後ずさる。
 こう、殺気立った感じがとても怖かったのだ。

「大丈夫よ、ハクレイ。これ、殺虫剤だから」

 パルミナは、もういろいろとデタラメだった。

 殺虫剤が蔓延して少ししたあと、部屋にバッソたちが現れた。
 その間も、ハクレイはカツサンドをもぐもぐと……。

「お、ハクレイちゃ~ん、何食べてるの。キャハハハハ」

「ゲ、ルーイエ……。これ、食べる?」

 何を考えたのか、ハクレイは、カツサンドをルーイエに渡そうとした。
 当然、パルミナが何か言おうとしたが、それをハクレイが止めて、笑顔でカツサンドを差し出した。

「うっはぁ! ハクレイちゃんからプレゼント! やたー」

 ルーイエは、満面の笑顔をしながら、カツサンドを口に含んだ。そして、

「うぐぅ……これ…………毒……ガク」

 死んだように倒れてしまった。

「ふ、計画通り」

 ハクレイは悪魔のような笑みを浮かべながらルーイエを見下ろした。

「こ、こいつは……クソッタレが! パルミナ! 解毒しろ!」

「はい! ただいま!」

 バッソは大きなため息を吐いたあと、ハクレイにげんこつを食らわせた。


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