太陽を守った化物
第十二話~こいつこそ真の化物~
ニーズが敵意をなくしたことによって、この場で起こっていた争いは終了した。
先程まで殺し合っていたのだから、もっと殺伐とした雰囲気になってもいいはずなのだが、ニーズのなんとも言えない陽気なオーラに当てられて、なんも言えなくなるハクレイたち。フェリアの意思を継ぐ者とハクレイに向かって言ったニーズは嬉しさのあまりかにんまりと笑っている。
「なんかこいつ……気持ち悪い」
それがハクレイの正直な感想だった。
さっきまでの殺意は嘘のように消えていて、残されたのはぼろぼろになったハクレイたちと、元気なニーズ。
ほころんだように笑うニーズは年頃の女の子として遜色ないのだが、こう、なんというか、ハクレイちゃんマジ可愛いから狙っちゃおう的なオーラを放ち始めちゃうあたり、頭の残念な子なのだろう。
それにしても、ニーズが話していたフェリアという名前。それに反応した白き獣の意思、たくさん気になることがある。
「そいうえば、そこのおまえ、これやるよ」
そう言って、ニーズがどこからともなく取り出したのは、青い液体の入った瓶。
彼女が言うにはポーションという死龍会で使われている回復薬のようだ。それをルーイエに渡すのだが、ルーイエは断固拒否する。
そして、親の仇にでもあったかのようにニーズを睨みつける。
おそらくだが、ニーズの想いを何か勘違いしながら受け取ってしまったのだろう。敵意が凄まじい。
ルーイエはここでも残念だからしょうがない。
先ほどまで殺し合い……いや、蹂躙されていたのが嘘のように平和な雰囲気を漂わせていたこの場所で、ニーズはハクレイに語る。
「お前ら、今回は引いてやる。感謝しな!
ところでさ、ハクレイ。『太陽を奪った白獣と金色の勇者』って物語は知っているか?」
「……うん」
「あれが実話なのも知っているのか?」
「…………確か、碑文があるんだよね」
「そこまでは知っているか。まあ、この国でも有名な話だからな。だけど碑文のことまで知っているのは驚いた。じゃあさ、金色の勇者が何者なのかも当然知っているんだな。勉強熱心でニーズちゃんは関心しちゃうぞ」
「……なにそれ知らない」
「え、マジ?」
「うん、碑文の話は知り合いから聞いただけだから」
ハクレイが知っているのは白衣の男が語ってくれた物語と碑文についてのみ。それ以外に白き獣についての伝承を何も知らない。
だけど白き獣が実在していることは、身を持って知っているし、金色の悪魔と白き獣が呪いのように呟いていたことも知っている。
物語では勇者と語られていた。だけど、白き獣は勇者ではなく悪魔と言う。歴史は勝者が作るように、何かしらの強い力によって、金色の勇者に祭り上げられたのかもしれない。
「金色の勇者と呼ばれているやつは、この大陸から少し離れた場所にある島国から来た奴らだ。奴らは獣の力を自分に取り込むことによって、人外の力を得ていた。取り込む方法とは……獣を喰らうことにある」
「喰らう? 食べて取り込めるものなの」
「普通じゃありえない。だけど、それをやり遂げた奴らがいるってこと」
「ねえハクレイ? 獣を取り込むって今の私たちと同じだよね?」
不意にパルミナが話に割り込んできた。
その言葉に納得するものがある。それはグランツ研究所で行われている実験についてだ。
あれは危険種と呼ばれている獣どもを体内に取り込むことによって、人外の力を得るための実験を行っている。
パルミナもルーイエもハクレイさえも、この実験によって獣の力を得たのだ。
じゃあ獣の力を取り込む実験を始めたきっかけはいったいなんだったのだろうか。
実験体であるハクレイたちにはわからない。
別に獣の力を取り込まなくても、武器開発によってある程度の危険種を屠ることができる。今更人間に獣の力を埋め込む必要性などないのだ。
じゃあ何故、そのような実験を始めたのか。もしかしたら、白き獣の物語に関連するなにかがあるのでは、とハクレイは思った。
「やっぱりお前らも獣を埋め込まれているのか。普通の人間が触手やら爆発やら使える訳ないからな。ってことはフェリアから血を分け与えられた血族ってわけじゃなく、あいつの死体を埋め込まれたってところか。それを聞くとなんだか悲しいな~」
「……フェリアって、やっぱり白い獣のことなの?」
「ああ? そんなことも分かっていなかったのか。そうだよ。太陽を守る役割を与えられた白き聖獣。そいつの名がフェリア。あのバカどもによってこの世界に産み落とされた七体の聖獣の一匹ってこと。んで、私の友達だ!」
「聖獣がお友達……頭、大丈夫?」
「え、なんでそんなことを心配されているの?
言っとくけど、私は死を振りまく黒龍と言われていた聖獣の一体なんだから。当たり前でしょうに」
ここに来て更なる事実が発覚した。
化物じみた力から人型の危険種である可能性までは考えられたのだが、まさか、死を振りまく黒龍ニーズ・ヘック本人だとは思っていなかったようだ。
本来、戦って絶対に勝てる相手ではない。
聖獣と言われる七体の化物どもは、普通の人がどうのこうのできる相手ではないのだ。
ハクレイたちは、白き獣がハクレイに埋め込まれたことを感謝した。
「んじゃ、私は行くよ。ハクレイちゃんがやることに手を出さないから安心してね。それに色々と調べたいこともあるからね。
あ、そうそう、ハクレイちゃんに一つ言っておくことがある」
「……なに?」
「金色の血族はまだいるよ。奴らは頭がおかしいから気をつけな」
そう言って、ニーズは姿を消した。
その場に残ったハクレイたちは、本物の化物がいなくなったことで、気が緩んだのか、その場で寝転んだ。
無事に生きて終わらせたことに、力なく笑うパルミナとハクレイ。
この戦いで一番被害を受けたルーイエはリーナ家襲撃の作戦から外されるだろう。でも、生き残ることができた。今はそれだけでいいじゃないかとハクレイは思う。
敵がいないことに安心仕切っていたハクレイとパルミナは、不意に聞こえてきた高笑いにびくりと体を震わせる。
敵襲か! そう思ったのだが、笑っていたのはルーイエだった。
「あーはははは、二人共、だらしねぇな。そんなことなら襲っちゃうぞ!」
普通に立ちながら、手を腰に当ててバカみたいに笑っている。
こいつ……マジでバカなんじゃないの?
そう思ったのだが、ハクレイとパルミナはあることに気がついた。
片腕と片足を切られたルーイエが普通に立ってる。そんな事ありえない。もしかして、ニーズからもらったポーションが凄すぎた! と思ったのだが、青い液体が入った瓶は健在。どうやら、ルーイエは死龍会特性ポーションを使わなかったようだ。
「何が……どうなって……」
「ルーイエ! 腕と足!」
「キャハハハハ、落ち着けよ、二人共! あんまりがっつくと喜ばれないぞ!」
「「うるさい! 早く説明しろ!」」
「あ、あんまり怒るなよ。でも、ハクレイちゃんに怒鳴られているって考えるとゾクゾクするものがあるな。
いいか、私に埋め込まれているのは触手の危険種だ。触手って言えばあれだろ。切っても切っても再生する奴! 腕や足を切られたぐらいじゃ問題ない。死なない限り再生可能なんだよ!」
「「…………」」
ルーイエの言葉に何も言えなくなるハクレイとパルミナ。ルーイエが腕や足を斬られて、なんとも思っていないわけがない。心配した。すごく心配していた。そんなのは当然だ。仲間なのだから。なのに裏切られたような気分になるこの仕打ち。心配した気持ちを返せ! とでも言いたい気分になるかもしれない。
だけど、パルミナとハクレイはそれよりも違うことを考えていた。
それすなわちーー
こいつこそ、真の化物なんじゃないだろうか、と。
先程まで殺し合っていたのだから、もっと殺伐とした雰囲気になってもいいはずなのだが、ニーズのなんとも言えない陽気なオーラに当てられて、なんも言えなくなるハクレイたち。フェリアの意思を継ぐ者とハクレイに向かって言ったニーズは嬉しさのあまりかにんまりと笑っている。
「なんかこいつ……気持ち悪い」
それがハクレイの正直な感想だった。
さっきまでの殺意は嘘のように消えていて、残されたのはぼろぼろになったハクレイたちと、元気なニーズ。
ほころんだように笑うニーズは年頃の女の子として遜色ないのだが、こう、なんというか、ハクレイちゃんマジ可愛いから狙っちゃおう的なオーラを放ち始めちゃうあたり、頭の残念な子なのだろう。
それにしても、ニーズが話していたフェリアという名前。それに反応した白き獣の意思、たくさん気になることがある。
「そいうえば、そこのおまえ、これやるよ」
そう言って、ニーズがどこからともなく取り出したのは、青い液体の入った瓶。
彼女が言うにはポーションという死龍会で使われている回復薬のようだ。それをルーイエに渡すのだが、ルーイエは断固拒否する。
そして、親の仇にでもあったかのようにニーズを睨みつける。
おそらくだが、ニーズの想いを何か勘違いしながら受け取ってしまったのだろう。敵意が凄まじい。
ルーイエはここでも残念だからしょうがない。
先ほどまで殺し合い……いや、蹂躙されていたのが嘘のように平和な雰囲気を漂わせていたこの場所で、ニーズはハクレイに語る。
「お前ら、今回は引いてやる。感謝しな!
ところでさ、ハクレイ。『太陽を奪った白獣と金色の勇者』って物語は知っているか?」
「……うん」
「あれが実話なのも知っているのか?」
「…………確か、碑文があるんだよね」
「そこまでは知っているか。まあ、この国でも有名な話だからな。だけど碑文のことまで知っているのは驚いた。じゃあさ、金色の勇者が何者なのかも当然知っているんだな。勉強熱心でニーズちゃんは関心しちゃうぞ」
「……なにそれ知らない」
「え、マジ?」
「うん、碑文の話は知り合いから聞いただけだから」
ハクレイが知っているのは白衣の男が語ってくれた物語と碑文についてのみ。それ以外に白き獣についての伝承を何も知らない。
だけど白き獣が実在していることは、身を持って知っているし、金色の悪魔と白き獣が呪いのように呟いていたことも知っている。
物語では勇者と語られていた。だけど、白き獣は勇者ではなく悪魔と言う。歴史は勝者が作るように、何かしらの強い力によって、金色の勇者に祭り上げられたのかもしれない。
「金色の勇者と呼ばれているやつは、この大陸から少し離れた場所にある島国から来た奴らだ。奴らは獣の力を自分に取り込むことによって、人外の力を得ていた。取り込む方法とは……獣を喰らうことにある」
「喰らう? 食べて取り込めるものなの」
「普通じゃありえない。だけど、それをやり遂げた奴らがいるってこと」
「ねえハクレイ? 獣を取り込むって今の私たちと同じだよね?」
不意にパルミナが話に割り込んできた。
その言葉に納得するものがある。それはグランツ研究所で行われている実験についてだ。
あれは危険種と呼ばれている獣どもを体内に取り込むことによって、人外の力を得るための実験を行っている。
パルミナもルーイエもハクレイさえも、この実験によって獣の力を得たのだ。
じゃあ獣の力を取り込む実験を始めたきっかけはいったいなんだったのだろうか。
実験体であるハクレイたちにはわからない。
別に獣の力を取り込まなくても、武器開発によってある程度の危険種を屠ることができる。今更人間に獣の力を埋め込む必要性などないのだ。
じゃあ何故、そのような実験を始めたのか。もしかしたら、白き獣の物語に関連するなにかがあるのでは、とハクレイは思った。
「やっぱりお前らも獣を埋め込まれているのか。普通の人間が触手やら爆発やら使える訳ないからな。ってことはフェリアから血を分け与えられた血族ってわけじゃなく、あいつの死体を埋め込まれたってところか。それを聞くとなんだか悲しいな~」
「……フェリアって、やっぱり白い獣のことなの?」
「ああ? そんなことも分かっていなかったのか。そうだよ。太陽を守る役割を与えられた白き聖獣。そいつの名がフェリア。あのバカどもによってこの世界に産み落とされた七体の聖獣の一匹ってこと。んで、私の友達だ!」
「聖獣がお友達……頭、大丈夫?」
「え、なんでそんなことを心配されているの?
言っとくけど、私は死を振りまく黒龍と言われていた聖獣の一体なんだから。当たり前でしょうに」
ここに来て更なる事実が発覚した。
化物じみた力から人型の危険種である可能性までは考えられたのだが、まさか、死を振りまく黒龍ニーズ・ヘック本人だとは思っていなかったようだ。
本来、戦って絶対に勝てる相手ではない。
聖獣と言われる七体の化物どもは、普通の人がどうのこうのできる相手ではないのだ。
ハクレイたちは、白き獣がハクレイに埋め込まれたことを感謝した。
「んじゃ、私は行くよ。ハクレイちゃんがやることに手を出さないから安心してね。それに色々と調べたいこともあるからね。
あ、そうそう、ハクレイちゃんに一つ言っておくことがある」
「……なに?」
「金色の血族はまだいるよ。奴らは頭がおかしいから気をつけな」
そう言って、ニーズは姿を消した。
その場に残ったハクレイたちは、本物の化物がいなくなったことで、気が緩んだのか、その場で寝転んだ。
無事に生きて終わらせたことに、力なく笑うパルミナとハクレイ。
この戦いで一番被害を受けたルーイエはリーナ家襲撃の作戦から外されるだろう。でも、生き残ることができた。今はそれだけでいいじゃないかとハクレイは思う。
敵がいないことに安心仕切っていたハクレイとパルミナは、不意に聞こえてきた高笑いにびくりと体を震わせる。
敵襲か! そう思ったのだが、笑っていたのはルーイエだった。
「あーはははは、二人共、だらしねぇな。そんなことなら襲っちゃうぞ!」
普通に立ちながら、手を腰に当ててバカみたいに笑っている。
こいつ……マジでバカなんじゃないの?
そう思ったのだが、ハクレイとパルミナはあることに気がついた。
片腕と片足を切られたルーイエが普通に立ってる。そんな事ありえない。もしかして、ニーズからもらったポーションが凄すぎた! と思ったのだが、青い液体が入った瓶は健在。どうやら、ルーイエは死龍会特性ポーションを使わなかったようだ。
「何が……どうなって……」
「ルーイエ! 腕と足!」
「キャハハハハ、落ち着けよ、二人共! あんまりがっつくと喜ばれないぞ!」
「「うるさい! 早く説明しろ!」」
「あ、あんまり怒るなよ。でも、ハクレイちゃんに怒鳴られているって考えるとゾクゾクするものがあるな。
いいか、私に埋め込まれているのは触手の危険種だ。触手って言えばあれだろ。切っても切っても再生する奴! 腕や足を切られたぐらいじゃ問題ない。死なない限り再生可能なんだよ!」
「「…………」」
ルーイエの言葉に何も言えなくなるハクレイとパルミナ。ルーイエが腕や足を斬られて、なんとも思っていないわけがない。心配した。すごく心配していた。そんなのは当然だ。仲間なのだから。なのに裏切られたような気分になるこの仕打ち。心配した気持ちを返せ! とでも言いたい気分になるかもしれない。
だけど、パルミナとハクレイはそれよりも違うことを考えていた。
それすなわちーー
こいつこそ、真の化物なんじゃないだろうか、と。
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