太陽を守った化物

日向 葵

第十話~悪い報告~

「では、付いてきてもらおう」

「な、なんで私が!」

「どうぞ、これを連れて行ってください」

「ちょ! ハクレイちゃん!」

 ハクレイの裏切りにルーイエは驚愕する。だけどハクレイが裏切るのも無理はない。散々酷いことを言われ続けてきたのだ。
 だが、捕まってしまえばこれからの任務の支障がでる。だからパルミナが、ルーイエ連行に待ったをかけた。

「ちょっとだけ待ってくれない。そいつ、セクハラが酷いから連れて連れて行くのは納得するわ。下手したらほかの人に手を出す可能性もあるし。ただ、私たちの知り合いだから、今日中に返してくれると嬉しいんだけど」

「そ、そうなのか……。ほかの者たちに手を出されても面倒だ。だが……身内の少女に無理やり手を出そうとは……。世の中にはここまで落ちた人間がいるのだな」

 女騎士は軽く引いていた。
 いや、軽くどころではない。かなり引いていた。足を後ずさり、引きつった笑みを浮かべていた。

「了解した。今回は厳重注意と世の中の常識を頭に詰め込むことで許してやろう。ある程度マシになるようにするので、期待して待っていて欲しい」

「そうしてくれると嬉しいわ。そうよね、ハクレイ」

「うん、さっさと連れて行って。目が汚れる」

「お、おう……」

 ハクレイの言い方に、こいつはどれだけのセクハラ行為をやらかしたのだと更に引いて、女騎士はルーイエを連れて行ってしまった。
 その姿を見送ったハクレイは、それはそれは素晴らしい笑顔を浮かべていた。パルミナはまた、大きなため息を吐く。どうやらハクレイとルーイエにはとてつもない距離があるようだ。あれはやばい、早くしないと仕事に支障が出るだろうな~と考えながらも、時間が解決してくれるか、とのんきに考えるパルミナだった。



 あれから、二人で色々と回ったのだが、大した情報を得られなかったパルミナとハクレイは宿に戻ることにした。
 部屋に入ると、バッソが大きなため息を吐きながら憂鬱そうな雰囲気を漂わせている。
 何やら、良くない情報を手に入れたようだ。

「ハクレイとパルミナか。ルーイエはどうした」

「変質者として女騎士に捕まった」

「ったく、あのクソッタレが! デル! グランディ! あのバカを迎えに行ってやれ! 俺達の正体がバレないようにしろよ」

「大丈夫よ、あれじゃあるまいし。バッソ隊長の為だったら、私、なんでもしちゃうんだから!」

「デルは相変わらずキモイっすね。ゴツイ体でナヨナヨされると虐めたくなっちゃうっすよ。とりあえず、適当に引き取ってくるんで」

「おう、任せたぞ」

 グランディとデルは、ルーイエを迎えに行くために宿を出た。この場にはバッソ、ハクレイ、パルミナが残される。
 少しイラつきながらも、バッソが口を開く。

「お前ら、死龍会って知っているか?」

「知らない、何、それ?」

「私も知らないよ」

「死龍会っていうのはな、『死を振りまく黒龍』を絶対として崇める、俺達よりもかなりやばい組織だ。俺たちは国のために人を殺すが、あいつらはただ殺す。なんとなく殺す。そこに生者がいるから殺す。そういった組織だ。特に『死を振りまく黒龍』の化身とも言われている、リーダーの戦闘能力が凄まじいと言われている。もし、リーナス領の連中に関与していれば、この任務は確実に失敗する。まあ情報によれば、リーナス家の者たちが集めた兵士の中に、死龍会の関係者はいなかったから、この場にいるのは偶然だろう。だが、俺達が行動を起こせば、必ず参戦してくるだろうな」

「何故? 参戦する必要なんてないのに」

「ハクレイが言いたいこともわかる。だけど、あいつらが参戦してくることは間違いないな。戦いこそが世界で唯一の娯楽とか言ってやがるからな。それに何よりも殺すことを祝福という頭の狂った奴らの集まりでもある。俺らの主より、ある意味で狂っている」

「ちょ! バッソ隊長! それが誰かに聞かれたら、反逆罪で死刑よ!」

「うるせぇよ、パルミナ。あいつが碌でもない奴なのは今に始まった事じゃない。それに、この場に聞かれて困る奴がいねぇしな」

「確かにそうだけど……」

「ところで、なんて死龍会がいるってわかったの。リーナス家に関する情報を手に入れに行ったのよね」

「まあな。ハクレイの言う通り、俺達はリーナス家に関する情報を集めに行った。知らないより知っている方が確実に殺せるからな。そしたら、ある目撃情報を手に入れた」

「「ある目撃情報?」」

「黒髪でツインテールの少女が芸をやっているという噂だ。全身が黒一色の不気味な服装で、名前をニーズという。こいつの特徴が死龍会のリーダーであるニーズ・ヘックの特徴と完全一致してやがる。俺は、こいつが死龍会のリーダーで間違いないと思っている」

 その言葉にハクレイとパルミナが驚いて顔を見合わせる。

「そいつ、会ったよ」

「うん、頭のおかしいあれね。ツインテールを振り回しながら、空飛ぶぞ! とか言っていた奴だよね。あいつがまさか……」

「お前ら、ニーズと接触したのか?」

「うん、接触した」

「なんか、ハクレイに興味があったように見えたわよ。昔好きだった奴に似ているとかなんとか」

「……ハクレイ。お前には新しい任務をやる。パルミナとこれから戻ってくるルーイエと組んで、ニーズと交渉してこい」

「でも、そんな事は無理でしょう? 相手は死龍会のリーダーかも知れないのよ」

「大丈夫だ。ハクレイを使ってうまく交渉してくれ」

「私! なんで!」

「なんでもクソもあるか、クソッタレ。相手はお前に興味があるんだろ? 色仕掛けでもなんでもして、この作戦から手を引かせろ!」

「うう、了解……」

「頑張れ、ハクレイ」

「パルミナのバカ! ルーイエなんて死んじまえ!」

 ルーイエには完全に八つ当たりだった。だけど、生贄のように差し出されているみたいでハクレイにとってはすごく嫌だったようだ。
 それでも命令は絶対。抵抗することなんてできるわけがない。諦めたハクレイには、ルーイエに八つ当たりすることぐらいしかできなかったようだ。

「よし、決まったな。ルーイエが戻ったら行動しろ、クソッタレども!」

「「はい」」

 このあと、ルーイエが戻ってきて事情を説明。任務を遂行するために再び宿を出た。



 とある酒場にて、真っ黒な服装に黒髪ツインテールの少女がうまそうに酒を飲んでいた。

「うっひゃ! これまたうまーい!」

 ごくごくと蒸留酒を飲みまくる少女の姿は、この街にいる荒くれ者たちにとっても異常な光景のようで、自然と視線が集まる。

「もうちょっといいおつまみがあれば、もっと最高なんだけどさ」

「ほらよ、追加の料理だ。うちの料理がまずいなら金を払ってさっさと帰りな」

「いや~ごめんね~。これって豚と牛なんでしょ? 私はあのお肉が好きなんだよ~」

「あのお肉? なんだいそれは?」

「ふふふ、それは秘密よ。沢山あるのに滅多に食べられないものだからね」

 怪しく光るニーズの瞳に、酒場の女将はゾッとした。その瞳に宿る光が、まるで獲物を狩る獣のようだったからだ。だが、その視線はすぐに別の方向に移り変わる。
 カランと音を立てて、三人の少女たちが酒場に入ってきた。

「おお、白いの……えっと、ハクレイちゃん! どったの、こんなところで」

「やっと見つけた……ニーズ」

「うん、私はニーズちゃんだよ? いや~君たちが来てくれて嬉しいな~。ほら、そんなところで立ってないで、座った座った! ほら、飲もう?」

「お、あんた分かってんね。飲もう」

「ルーイエ、バカ、死ね」

「ハクレイちゃんひでぇ。ったく、わかってるよ」

「ふん、分かればいいのよ。ねぇ、ニーズ。ちょっと話をしない?」

「ん? だから飲みながら話をしようってーー」

「死龍会のリーダーさん? ね、いいでしょう」

「…………ここでは話しにくい内容なのかな?」

 ハクレイたちは静かに頷く。
 ニーズはお金をテーブルに置いて立ち上がった。

「おばちゃん、お金ここに置いておくわ。お釣りはいらないから」

 ニーズはハクレイたちについていき、酒場を出て行く。お金を確認しに来た女将さんは、

「あいつ、何を言っているんだい? ピッタリじゃないか」

 とボヤくのだった。

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