太陽を守った化物

日向 葵

第八話~遊びも仕事の内らしい~

 フェブラにたどり着いた、フェルシオン一行は、まず宿を取ることにした。
 フェブラの街周辺は自然が豊かであり、観光名所としても有名だ。
 新鮮な空気、風に揺れる緑の景色は癒しを与えてくれる。また、果物などの収穫量が多く、ベリー系の果物が名物でもある。
 だが、それも過去のことなのかもしれない。
 観光客が多く、街全体が活気にあふれていた時とは違い、今はゴロツキや傭兵のような男の姿が目立っていた。
 観光客がいないわけじゃない。ただ、領主が雇い始めた私兵が多いのだ。そのせいか、街の雰囲気は若干暗めである。
 そんな中を堂々と歩くフェルシオン一行。ハクレイなんかは珍しいものが多くて気になっているのか、あっちをキョロキョロ、こっちをキョロキョロ。日が落ちているので家や酒場から漏れ出す灯りが漏れ出す。そこから聞こえてくる楽しそうな笑い声をハクレイは羨ましそうにしていた。
 そんなハクレイの頭をバッソは荒々しく撫でた。

「っけ、そんなに周りをきょろきょろするな。クソッタレ。そんなに気になるなら明日見に行けばいいだろうが」

「でも、お仕事……」

「明日の予定は宿についてから話すが、遊ぶのも仕事の内ということを覚えといてやがれ」

 そう言って、バッソはハクレイの頭から手を離し、前を歩く。
 その後ろを子犬のようについて行って、ハクレイたちは宿に入った。
 入った宿は、外見がボロボロだったが、中はしっかりとしていた。出された料理はどれも美味しそうな物ばかりであり、まさに人知れずに運営している穴場の宿、といった感じだった。
 そこで料理を囲みながら、翌日の予定について話す。

「パルミナ、ルーイエ、ハクレイ。お前たちはどっかで遊んでこい」

「「は~い」」

 元気よく返事をするパルミナとルーイエ。だけどハクレイだけは首を傾げた。
 何を言っているのか理解不能。こいつ、壊れちゃったんじゃないのという哀れみの視線をバッソに向ける。
 当然、それに気がついたバッソの額には青筋が浮かぶのだが、体を怒りで震わせるものの、怒鳴り散らしたりはしなかった。

「さっきも言っただろ、遊ぶのも仕事の内だと。お前らは観光客を装って、情報を集めてもらう。リーナス家のクソッタレどもが、反逆を企てているのは確実だが、相手の戦力などの情報は貰っちゃいねぇ。クソッタレな公爵のことだ。敵っぽいのがいるからとりあえず殺してこいってことだろう。いつもそうだ。やれという割には情報をくれねぇ。俺たちが調べてどうにかするしかねぇんだ、チクショウが」

「調べてくるっていうのはわかったけど、遊びに行くっていうのがよくわからない。なんで?」

「バカかてめぇは。堂々と調査できるとでも思っているのかよ。観光客に装って、さりげなく聞き取りをするなんて基本だろうが。俺やグランディ、デルは裏で働いているやつをとっ捕まえてどうにかする。お前たちは街の人たちに聞いて適当に情報を持って来い。わかったか、クソッタレな白ガキ」

「ひぃ……わかった」

 バッソは出来るだけ怯えないように配慮したつもりだったのだろう。だけど、いつもの荒っぽい口調と怒りに震える姿が、まるで怒っている様な雰囲気を出して、ハクレイを怯えさせてしまった。
 なんだかんだでまだ少女。人を殺すことが得意でも、身内に怒られるとビビってしまうのだ!
 そんな姿を可愛いなと見つめるパルミナとルーイエ。
 いつもの変態的行動や、爆発大好き発言を捨てて、ハクレイが寝付くまで可愛がった。



 翌日。
 パルミナ、ルーイエ、ハクレイはフェブラの街に繰り出した。お小遣いを多少もらったので、お土産を買うことや食べ歩きぐらいはできる。

 宿を出た先にいい匂いがする屋台を発見した三人は、持たされたお小遣いを使って、三つほどベリーパイを買った。
 それを手で大事そうに持ちながら、次なる場所を目指してぶらぶらと歩き始める。

 ハクレイは、ベリーパイをはぐっと食べながら、とある疑問を口にする。

「ねぇ、パルミナとルーイエに聞きたいんだけど」

「どうした、ハクレイ」

「キャハ、私になんでも聞いてみな。ハクレイちゃんにならなんでも答えてやるぜぇ」

「たまに、バッソ隊長が私の頭を撫でるんだけど、なんで?」

「ああ、それ。簡単よ。多分ハクレイの姿と自分の妹の姿を重ねているんじゃないかしら。なんだかんだで妹想いだからね~」

 ルーイエは「ちょ! それ話すの」と言いたげな表情をしたのだが、パルミナは止まらない。

「バッソ隊長って、実験初期の段階で成功した人なんだけどさ。自分から志願したんだって。なんでも、売られた妹が人体実験に使われそうになって、公爵に直訴したらしいよ。俺が代わりになる、だから妹にひどいことをするのはやめてくれ! って。かっこいいよね。それで、妹の代わりに人体実験に参加したんだけど、それが成功して。いまじゃ、妹さんはサデス公爵様に人質として囚われていて、バッソ隊長は逆らえない状況にあるというわけ。そういえば……デルとグランディって何者何だろう。バッソ隊長の経緯は調べて出てきたけど、あのふたりは不明なんだよね~」

「へ~そんなことがあったんだ」

 ちょっと不貞腐れたようにハクレイは言った。きっと、あの母親を思い出しているのだろう。
 自分を売った碌でもない母親のことを。自分の欲望に忠実で、その結果破滅した。ハクレイには、もう血の繋がった家族はいないのかもしれない。ハクレイを売ったあの日に、悲惨な最後を迎えてしまったのだから。もしかしたら生きているかもしれないが、それを知るすべは無い。
 そんな母親を持つハクレイにとって、バッソが過去に取った行動は、かっこいいと思う反面、バッソの妹に嫉妬すら感じたようだ。

(自分の身を顧みず助けに来てくれる……そんな家族がいるなんて羨ましい。私には……そんなのいなかった)

 残ったベリーパイを口に含んだが、そのまま視線を下に向けてしまったハクレイ。
 哀愁漂う子犬のようなハクレイに、ルーイエが抱きついた。

「キャハハハ。何気落ちしているんだよ! どうせお前も捨てられたんだろ。私だって、パルミナだってそうだ。だけど、今の私たちは家族! これからもっと楽しいことしようぜ。どうせなら……ベッドの上でーーぐぇ」

 前半いいこと言ったが、最後に残念なことを言ってしまい、ハクレイの裏拳が炸裂した。
 そこまで力を入れていないので、鼻血が出るような事にならなかったが、痛そうにして地面をのたうち回る。当然、視線が集まったのだが、ああ、観光客同士てもめたのか? 的な雰囲気があったので、何かが起こることもなかった。

「ルーイエのバカ! 変態! 死ね!」

「そんな……ちょっとぐらい……」

「死ね、今すぐ死ね!」

「うぐ……。それよりパルミナ。その話をハクレイにしてしまっても良かったのか?」

「え、なんで……あ」

 パルミナは何かを思い出したようで、これから起こるであろう未来に顔を青ざめた。

「どうしよう、この話は誰にもしないように言われてた。後でバッソ隊長に怒られる……」

「ん? 同じ仲間なら許してくれるんじゃない? そうだ! バッソ隊長にお土産を買っていこうよ! そうしたら許してくれるかも」

「いや、バッソ隊長がそれぐらいで許してくれるの?」

「キャハハハハ、諦めな。怒られるときは三人一緒だ! とりあえず、他にも見てまわろうぜ。ほら、あっちのほうに人が集まっているじゃねぇか。情報収集にもいいかもな」

 ルーイエが指差した方向には、本当にたくさんの人が集まっている。観光客っぽい人もいれば、荒くれ者のような人たちもいる。
 その中央付近から、奇妙な声が聞こえてきた。
 ハクレイとパルミナも興味を示したようで、三人で人が集まっている場所に向かった。

 たくさんの人をかいくぐって、騒ぎの中心にいくと、そこに奇妙な光景が映し出される。

「ぶいーん、ツインテール大回転! 空飛んじゃうぞ、ぶいーん!」

 黒。その言葉が似合うほどの、真っ黒な服装と黒い瞳、真っ黒な長い髪を持った、ハクレイと同い年ぐらいの女の子が、ツインテールに縛った髪を振り回しながら怪しげなことを叫んでいた。

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