クラス転移で仲間外れ?僕だけ◯◯◯!

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243話 押し付けた選択肢


「それは…………。」

スィヨンさんは言い淀んだように口を紡ぐ。
スィヨンさんの表情なんでそれを言ったんだ。と言うような表情だった。
それもそのはず、僕が今口に出した言葉はここ数日、スィヨンさんを除く僕らのパーティー皆が思っていたことで、何処と無くスィヨンさんもその事を理解していたからだ。

「確かにここ数日二人は人の町での生活を楽しんでいた。しかし、やはりどこまでいっても人間と私達獣人は違う。何処かで歪みも生じるし、おまけに二人は子供だ。二人だけで生活しようにも仕事も衣食住まともなものにはならない筈だ。」

スィヨンさんが言ってることは最もだ。
ガレンディアは獣人に優しい人ばかりだが、やはり獣人を嫌悪している人間もいるし、別の国から来た人間、旅をする行商とかは獣人嫌いも居るんだろう。
でも………それでも死のリスクがあるよりましだ。
街の中にいる限り滅多のことが無い限り殺されることはない。
そしてさっきのスィヨンさんの言い方、それに表情、悩んだような様子ということはスィヨンさんも思うところがあるんだろう。

「それでも死ぬリスクがあるよりましだ。それに獣人を嫌う人もいるが、そんな差別をしない人は沢山いる。ここに残る方が安全だ。スィヨンさんも同じ事を考えたことはあるんだろう?」

「…………二人をこのままここで生活させる。………確かに私も考えたことはある。………仮に二人がこの街に残ったところで、誰が二人の面倒をみるというんだ。………詳しくは聞いてないが美月殿達には目的があっていつまでもここにはいられないんだろう?」

確かに僕が二人の面倒を見ることは出来ない。
クラスメイト達のことはほっておけないし、何より美樹ちゃんが心配だ。
無責任だってことも理解してる。
それを理解しているからこそ、ここ数日僕の次に二人と遊んでて子供思いで優しいエミリアさんも……、それにほかのみんなも何も言わなかったんだろう。

フイルミナさん達だってそうだ。誘拐されて捕まってた女性達のうち村に帰らなかった三人をあれだけ助けていたフイルミナさんでさえ二人を引き留めなかった。
心を完全に壊され元の村では確実に生活できそうに無かった女性は特別として、その他の女性達は憐憫れいびんの視線で見られる村での生活に耐える自信は無い状況で、逆に街で仕事先を紹介してやれば、簡単に生活の基盤を作れる見込みがあった。
だが、この二人は違う。
大樹海には二人の事を心配して待っている仲間もいるし、大切に思ってくれる家族もいる。
反対にこの街は、なれないことばかりだし、獣人嫌いの人間もいる。子供だから仕事も出来ない。
だから、冒険者としてクエストに出なければならず、直接面倒を見てあげることは出来ないフイルミナさんは、二人のことには触れてなかったんだろう。
成人していて人間である女性達の時とでは状況が違いすぎる。

でも僕は皆みたいに心は強くない。
善意の押し付けで、後先考えてなくて、他人任せな事を言ってるって分かってる。
それでもこんなにも仲良くなった人間には死んでほしくない。
もし、ここでなにもしなくて後々、死んだなんて聞いたら僕はきっと後悔する。

「二人を世話してくれる保護者も探す。お金に関しては心配しないでくれ。こう見えて結構お金はある。子供二人の生活を支援する。ここまで無責任に言ってるんだ。支援は必ずする。」

島で手に入れた強力な魔物の素材を売れば二人の生活費は用意できる。
あのときと違って今ならもう多少目立っても問題ない。
容赦なく売りさばける。

「………ソミア………それにチャロもだ。どうしたい?」

スィヨンさんが呟くように言った。

「よく分かんないけど。お父さんもお母さんも友達も心配してるから帰らないと。それに、美月さんと一緒に遊ぶのは楽しいけど美月さんもいなくなっちゃうんだよね?」

………う…ん。
多分、チャロちゃんはどういう意味か理解はしてないんだろうな。
僕が言ってるのは事を要約すると、

二人の生活を支援できる金を出すことは簡単だ。
そしてその家族、それどころか一族全員でもなんとかなるだろう。
だが、二人為に家族を避難させる、すると次は二人の家族のために更にその家族の親戚を、そしてまたさらにその親戚をそうやって永遠に終わりが見えない人数を助けなければならなくなる。
そして、そんな風に誰でも彼でも助けていれば、当然何時かは救えなくなる。
だからこそ、僕の中での人助けをする際の線引きは、その人間が直接僕が救いたい人間かであるかどうか………………命を選ぶようで最低だが僕の答えは今のところこれだ。

そして、二人がもし村を離れていてその間に、セレン聖教国との戦争が獣人+オーガ同盟の勝利で終わっても戦争の間逃げていた人がそう簡単に一族の話に戻ることなんて出来ない。
つまりは危険はある樹海で生活するものの家族と生活出きる人生を取るか、安全ではあるが知り合いのいない新天地での生活を選ぶか。
それが二人に僕がしている提案だ。

子供には残酷な選択しかもしれない。
チャロちゃんには、この選択肢の本質が伝わっていないんだ。
だからと言って僕がその事を詳しく説明してしまえば、どうしてもここに残ってほしいという僕の考えが言葉なってしまい、二人の答えを誘導してしまいそうだ。
それは二人が、今後の人生この選択肢を選ぶ上であまり良い影響にならないだろう。

そしてもっと残酷な選択肢を選ばせてしまってるのは、ソミアちゃんだ。
この娘はこの歳では考えられないほどに聡明だ。
さっきから俯いて黙っている様子を見ると、僕の提案した選択肢をしっかり理解している。
そして、チャロちゃんが選択肢の本質を理解していない以上、ソミアちゃんの選択肢はチャロちゃんの人生すら決定してしまうことになる。
ソミアちゃんがもしここでこの街に残ると言えば、恐らくチャロちゃんも残る………。そのあとにもし、チャロちゃんの家族が死んでしまうようなことがあれば一生後悔するし、大親友である二人には二度と友情が回復しないかもしれない。
そして逆に大樹海に帰りチャロちゃんが死ぬようなことがあれば、ソミアちゃんは一生後悔する。
ソミアちゃんの表情を見て僕は、その事を今一度理解した。
なんて最低なんだ僕は、自分勝手な考えで小さな子にこんな厳しい選択肢を選ばせるなんて。
でも僕にとっては見ず知らずの二人の家族よりも二人の方が大切なんだ。
すまない……。


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