武士は食わねど高楊枝

一森 一輝

4話 『おばあちゃんの爪は、どうしてそんなに鋭いの?』Ⅲ

 ニュースで、ウッドが起こした事件が喧伝されていた。何人ものJVAを、魔法により虐殺した、と。
 足音が聞こえたから、ニュースを消した。それから、カーテンを開け始める。射し込んでくる、朝日。欠伸混じりの図書が下りてきて、「ん」と手を上げる。
「おはよう、図書にぃ。良い朝だね」
「はいはいグッドモーニング。いつもお前は朝が早いな。みんなを起こしてきてくれるか?」
「白ねぇも?」
「それが出来りゃあ俺の悩みの種が失せる」
 からからと、青年は笑う。それが、何処かウッドには眩しい。
 しばらくして、朝食を、ブラック・ウィングを除く家族で食べていた。最近では珍しく、図書の機嫌がよかった。何故かと問えば、「総一郎が平気そうだから」と返された。
「白羽が帰ってきてから、お前ら大分沈み気味だったろ? それが、今日になったら総一郎が平然としてたもんだからな。お前らもしかしてアレか。姉弟喧嘩の決着ついたか」
「ううん、生憎と。今は、アレだよ。冷戦っていうか」
「核戦争起こすよりゃマシだろ。しかし、そっか。並んで食卓囲う日はまだ遠いか……」
「残念ながら。期待しないで気長に待っててよ」
「いや期待はするだろ。気長には頷いてやっけど決裂して終わりとかマジ止めろよ?」
「期待しないで」
「おい」
 その言葉を冗談と受け取ったのか、図書はウッドの頭をガシガシと撫でた。ぽつりと考える。この手を素早くとって、指先を触手に変え、撫でる兄貴分の掌から体内に入り込み、体を掻き混ぜたらどうなるのだろうと。
「……ミンチかな……」
「ん? 何だよ総一郎。今日の夕飯はハンバーグがいいって?」
「よく分かったね図書にぃ。よろしく頼むよ?」
「いや、給料日前の現在般若家で、そんな豪華なものは出せん」
「何だとッ」
 その瞬間、清が驚愕に叫んだ。流れるように、ウッドはそれを種にして反論に入る。
「ほら、見てよこの無垢な表情を。話の流れ的に絶対好物にありつけると考えていた清ちゃんが、思わぬ裏切りにあって驚いたこの顔を。どうしてくれんの? ねぇ、どうしてくれんの?」
「今日の総一郎なんかテンション高くて厄介だな!」
 叫ばれて、アハハと笑った。テンションが高いのではない。ウッドの内面構築が終わって、感情のブレが起こらなくなっただけだ。
「全く、あんまり図書くんを困らせたらだめだよ、ウッド」
「そうだそうだ。ナイちゃんからも言ってくれ」
「なんの! こっちだって伝家の宝刀、清ちゃんの泣く寸前顔で対抗だ!」
「……今日、ハンバーグじゃないのか?」
「ぐっはぁ!」
「やった! 図書にぃを倒した!」
「ぐぅう……、流石ウッド。新参者のボクより、ずっと家族の人間関係を把握している……」
 悔しそうな顔で呻くナイ。数日前、般若兄妹の認識を狂わせ、何食わぬ顔でこの家に居つくようになった。この事を、ブラック・ウィングはまだ知らない。彼女が真実を知った時に見せる表情が楽しみで、ナイはこんな事をしているのだろう。
「ん。そんなこんなでもう行く時間だ。さてと、着替えをしてから登校しますか」
「は? うわ、結構時間経ってら畜生。清、早くトースト詰め込んで着替えろ」
「う、うん。わぐ、わぐもがむぐぐ」
 小さな口には少し荷が重かったパンを詰め込む少女を横目で見つつ、階上に向かい外着に着替えた。おし、登校だ。と階段を下りる前に、『しらはの部屋』を開ける。
「起きてるか」
「……」
 寝ている訳ではないのは、すぐに分かった。だから、これは無視だ。気にせず、声をかける。
「先日接触したARF幹部全員の情報が出揃いつつある。お前に会わせ――『助けてやれる』日は、あまり遠くないぞ」
 その言葉を使うと、彼女は必ず反応した。
「その、意味の分からない言葉を使うのを、止めて。助けるっていうなら、私を開放してよ」
「そんな事はしない。だが、『助ける』さ」
 反論が返ってくるのは分かっている。だから聞く前に扉を閉めて、そのまま駆け下りた。幸いにして、彼女の声は届かない。
 家を出て、少し歩くと、仙文に出会った。最近、良く登校中に会う。そして、いつもこの言葉から始まるのだ。
「今日はJ、来てると良いネ」
「うん、そうだね」
 彼は、ここしばらく欠席続きだと聞いていた。理由は、はっきりしない。具合が悪いのだろうかと考え、見舞いにでもと案を上げたが、そもそもJの家を知らなかった。
 彼をよく知る人物と考えて、ヴィーや愛見を思い浮かべたが、どちらも上手く捕まらない。そうなると手の打ちようもなく、ただ日々が過ぎるばかりだった。
 それでもいつもの場所に行き、ひとまず授業が始まるまでは駄弁っている。その所為で仙文との仲が親友を飛び越し掛けつつあるが、ウッドはウッドなので多分自然にブレーキはかかるだろう。問題はない。
「それでネ、イッちゃん!」
「うんうん。へぇ、そうなんだ」
「おい、あの二人見て見ろよ。今にもキスしそうな距離だぜ。こんな朝っぱらからいちゃつきやがって」
「知らないのか? あの女っぽい方男だぞ?」
「つまんねぇ冗談だな。男の方が女だってんなら笑ってやるよ」
「……だよなぁ。やっぱあの娘、女だよな。マブイぜ……」
 前言撤回。問題があるのに間違いはないのだが、何が問題だかわからない。
 そんな風に時間をつぶすものの、いつもJが来る前に授業のチャイムが鳴る。そうなるとまず会話が中断されたことに互いに肩を竦め、そして今日も来なかった事に溜め息を吐く羽目になる。
 そうして、仙文と別れた。今日は、このままランチタイムまで会う事はないだろう。いつもなら半日はJと一緒で居られるのだが、今日は仙文と同じく、ほぼ一日孤独という訳だ。
「――寂しい。寂しい? ……ああ、ナイが言ったのはこういう事か」
 ニコニコと笑いながら、呟いた。喪失感、にも似た何か。否、失ったのは自分ではない。何もかもを失くし、奪われたのは彼だ。
 そう思っていた時、不意に見覚えのある黒肌の長身を見かけた。
「おっ、Jじゃないか!」
「んっ、アレ。イッちゃん」
 きょとんとした様子の数日顔を見せなかった親友に近づき、軽く一撃入れた。「痛ってーな」と言うが、顔は笑っている。
「しばらく姿見せなかったけど、どうしたのさ。こっちは仙文と一緒に心配してたんだぞ」
「へぇ? イッちゃんがおれの心配? ちょっと信じられないな」
「……そう思われるくらい冷たく接してたのか、俺。何かゴメン」
「ああいや! 冗談だって。ありがとな、イッちゃん」
 高い背丈の彼は、言いながらもたれるようにウッドと肩を組んだ。そのまま、言う。
「ちょっと婆ちゃんの調子が悪くってな。それと色々ごたついてて、顔出せなかったんだよ。悪いな」
「いいよ。心配してただけだから、そんなに謝らなくてもさ」
 そんな事より、授業に向かわないと、と急かす。「そうだな、早く行こう」と賛同を示す、逞しい親友。だが、そこに警戒はなく、無防備だ。そう思うと、いつもの思考実験が始まる。人間の皮を破ったなら、という妄想。
 ウッドは、少し考える。この首に致命打を与えることは簡単な事だと。そして、その果てに何か待つのかを――。
 その時、少し予想外な事が起こった。
 Jが、あまりに俊敏な動きでウッドから飛び退った。人間にできる動きではなかった。彼は鋭い目でウッドを睨み付ける。しかしその行動は、彼自身にとっても意外な事であったらしい。
「え、あ、……え?」
 きょとんとして、Jは言った。互いに走った緊張は一瞬薄れ、そして相互に理解の色が強まるにつれて、再び張りつめ始める。
 ウッドは、静かに彼を観察した。Jは警戒時に牙をむき出しにした。牙である。人間には無い、猛獣のそれだ。そして俊敏な動き。最後に、ウッドに視認を許さない実力の持ち主と言えば、自ずと絞られた。
「……アナグラムで、ある程度は分かっていた。だが、正体だけは全員が巧妙に隠していて、カバラで解き切るのは骨だった。――渡りに船とは、この事だな。ウルフマン」
「そ、そんな、イッちゃん。お前――ウッド、だったのか?」
「ブラック・ウィングにしてもそうだったが、何故それに気が付かないのかが分からない。出現時期にしても、ボスの弟であるという注目度にしても、気付かない要因の方が少なかった」
「それは、マナさんが」
「マナさん? あの人もARFに係わりが――」
 言葉を続けようとした最中、突如周囲に人が居ない事に気が付いた。授業前だから当然と言えたが、そこに不可解さを覚えたのはウッドの野性的な勘と言う他ない。
 彼女は、常に背後の闇から襲い来た。
「東雲愛見は私です、ウッド」
 振り返る。刃と手の平の中央で見開かれた瞳が印象的だった。振るわれる。それを、今は甘んじて受けた。
 腹部に突き刺さる。痛がる真似をする。そのまま無難な抵抗をし、力を利用されて地面に押さえつけられた。柔道に似た体術だと、ウッドは評する。体を人間の形に保っている限りは、この地面を舐めさせられる拘束を抜けるのは難しいだろう。
「アイ……、か」
「流石に、毒が塗られていれば効くのですね。――あなたと共に、遠目にウッドを目撃した。だから報告し疑いが晴れたのです。しかし、事実は違った。どういう絡繰りです?」
「アレは、俺だけが見た幻影ではなかったのか」
「……?」
「生憎と、アレは俺の意思から離れた存在だ。駆けつけて問い詰めたが、仮面を返すとともに影も形もなくなった。“戻った”のかと考えているが、実際は分からな……い……」
 僅かに話しにくい。呂律が回らないというような感覚。そうか、アイの言う毒が回ったのだと思った。毒魔法の中和で体の内部をかき回す。だが、一応まだ油断させておこう。
「そうですか。ちなみにですが、この毒は魔法対策に強い酩酊状態を引き起こす効果があります。即効性は十分。普通なら酩酊と言わず昏倒させられるのですが……本当、人間離れしていますね」
「……」
 ウッドは答えない。答えられない振りをしているとも言えた。アイはナイフを抜き取り立ち上がる。その瞳には包帯は巻かれていないが、代わりに眼鏡もなく、瞼も瞑られていた。
「ではJくん、ひとまず、早いところ逃げましょう。今のウッドをどうこうする攻撃力を、私たちは持っていませんから」
「逃げ……? え、でも」
「早くッ! 今は情報を無事に持ち帰ればそれだけで勝利です!」
 アイは素早くそこから駆け出し、ウルフマンはそれを追って、アイを抱きかかえた。見る見るうちに遠ざかっていく二人。ウッドは瞠目し彼らに目を向けると、アイの手の目が鋭くウッドを見つめていた。疑問に思う。――何故、バレた?
「……くっ、ふふ、ふはははは! そのくらいでなくては、面白くない!」
 立ち上がる。そして、全力で追いかけ始めた。重力魔法、風魔法、それらを物理魔術で支える。いつもの飛行術式と同じだ。
「今は人がいません! キャンパス内で逃げ回ったほうが攪乱できます! ウッドの飛行は開けていないと十全には発揮されません!」
「分かった! このまま走り続けるぞ!」
 怒号。微かに捉えかけた影が、声と同時にかき消えていく。ウッドは、笑いながらその思慮の深さに舌を巻いていた。自分でも気が付かなかったような欠点。追われる側であり続けていたから、追う側としての欠点を知らなかった。
 二人は曲がり角を多く巡って、文字通りウッドを攪乱した。風魔法の索敵も、同じ風魔法で打ち消しているのか見つからない。ただ、僅かに声らしきものと駆け足の音が聞こえるばかりだ。
「……奴らは、『強い』な」
 この行動の無為を感じて、ウッドは立ち止まる。そのままスタスタと、普通の歩調で学校を出た。そして、上空に飛び上がる。
 そして展開するはカバラだ。魔法はアイの手によって打ち消されてしまう。ならば、奴らの知らない技術で捕捉する。猛スピードで駆け抜けるものがあれば、注意深く計算する必要などないのだ。
 それから、数分待った。焦れたが、それだけだ。すでに抜け出しているのではという不安はない。ちょっとした計算が必要だったが、直接対面したARFなどという超烈なアナグラムの持ち主たちの存在の有無が分からない訳がなかった。
「……見つけた」
 アナグラムの大きな変動。そこに向けて、氷、金属魔法で矢を放った。固形物系の魔法はあまり親和性を持っていないが、カバラに従うならこれ以外の手がない。
 遠くの悲鳴と共に、敵の隠密が破れた。闇、音、そして風魔法。光を使うウッドとは真反対だ。こんな昼間なら光のほうが使いやすいだろうに、と思いながら、物理魔術で肉薄する。
「鬼ごっこはもう終わりか?」
 腕を大きく変容させ、巨大な鉤爪にして振るった。ウルフマンの爪がそれを防ぐ。ウッドのそれは容易くへし折れ、バラバラになった。ウルフマンは既に戦闘にハイになっているのか、先ほどまでの気落ちを見せず、勝ち誇ったように言い返す。
「追いつかれたのには度肝を抜いたが、攻撃自体は脆いな!」
「ウルフマン! ウッドは遊んでいるのです! 余計な口を叩かずに逃げなさい!」
「ふむ。やはりアイは鋭すぎて面倒だな。興が削がれてしまうよ、そんなことでは」
 砕け散った肉片の一部が、アイめがけて針を伸ばした。ウッドの肉片攻撃は、巨大な物体を模して叩きつけるよりも、断然針を伸ばしたほうが効率的だ。だが、前者を使わないという訳でない。つまりは、フェイクなのだ。
 それに引っかかって、ウルフマンは咄嗟にアイを抱きしめてその身を守る。針が毛むくじゃらの巨躯に突き刺さったが、すぐに腕力でへし折って逃げ出した。「はは」と笑う。
「いいのかな? 開けた場所で俺から逃げることの無謀を説いたのは、他ならぬアイだぞ?」
「知るかそんなこと! それでも止まれる訳があるか!」
「悲しいな、ウルフマン。もう俺のことをイッちゃんとは呼んでくれないのか」
 その言葉に答える者はいない。すでに奴らはもう百メートル前後も離れていて、聞こえなかったのだろう。ウッドはため息とともに首を振って、やはり、仮面で笑う。
「では、鬼ごっこの続きと行こうか」
 飛んだ。意識して、改めて感じる。確かに、広いと飛びやすく、追いやすい。
「だが、それでもウルフマンの方が速いな。何だ、奴は。時速二百くらいあるんじゃないか?」
 愚痴る。地面を、つまりは建物の屋上という進みにくい場所を走っているのに、なお空中を飛ぶウッドより速い。亜人相手の本気の戦いをあまり経験せずに来たが、やる奴はここまでの身体能力を見せるのか。
「これは、まだ見ぬ吸血鬼が楽しみだな。狼男でこれなら、どれほどの種族魔法を見せてくれることか」
 笑いながら、腕を差し向ける。変形させ、魔法で固形火薬を作り出し、体内に詰め込んだ。そして、衝撃、物理魔術での後押し。
 二の腕の中ほどで破裂して、強烈な勢いで拳が飛んでいく。俗にいうロケットパンチといった趣だが、これ自体が当たらずともよかった。
 腕は、さすが火薬ともいうべきか、ウルフマンを超す速度で空中を走り、奴の眼前に投げ出された。もちろん、当たらない。ウルフマンはアイを抱えたまま、容易にそれを避け――
「――そして、爆ぜるのだ」
 炸裂。ハリセンボンのように全方位隙間なく針を伸ばし、ウルフマンを貫いて絡めとった。動きが止まる。さぁ、最後の仕上げだ。
 数秒遅れて降り立つ。もはや十メートルの距離もない。左手をかざし、脳内で詠唱し始める。これで、まず二人。
 だが、抵抗があった。
 ふっと、動けなくなったウルフマンから離れる一つの影をウッドは捉えた。次いで、風鳴りの音。二つの剣閃によって、針の牢獄が壊される。多くの傷穴から血を流して倒れこむウルフマン。しかし、個々の出血は微量だ。今は無理でも、すぐに回復する。
 だから、もう一度拳を放とうとしたのだ。しかし、抜け出したアイのナイフが迫った。昨日首で作った剣で応じる。あまりに固い手ごたえ。
「お前は、本当に度し難い奴だ」
「それは、私のセリフです」
 目をつむって、左手の中央の瞳をこちらに向けながら、右手の大ぶりのナイフを逆手に持って縦横無尽に振るってくる。その一撃一撃が到底女のものとは思えないほど重い。ウッドが押し負けるということがなくとも、剣が先に砕けるのではないかと疑う。
 この近距離はいけない。剣戟の中、直感した。昔の、魔法に全く頼らずにいた頃なら、むしろこの状況こそが本領だっただろう。だが、今は違う。似せはしたものの、木刀とこの剣とでは雲泥の差があった。
「どうしました? 随分と弱腰ではないですか」
「慣れていないんで、ねっ……! 魔法で中距離以上離れていないと弱いんだ」
「それはおかしいですね。ボスからは弟さんは剣の名手だと聞きましたが」
「それ、はっ! 父の事っ、だろう……!」
 防戦一方だ。こんなにも自分は弱かったかと訝る。アイが風魔法で自らの一撃を鋭く、重くしているのは既に見抜いていた。木刀でないのだから同じ芸当ができるはず。けれど、間に合わない。
 その最中で、大きく弾き飛ばされた。すると奴は瞳のついた左手を突き出す。
「これで、終わりです」
 魔法による超火力攻撃。それを危惧して、とっさに魔法で保護障壁を張った。ここでのウッドのミスは、カバラによってアイの意図を探らなかったこと。だから闇魔法によって視界を奪われたとき、呆然となって何も出来なかった。
 世界が塗りつぶされる。天使の目を持っていた総一郎には、ありえなかったことだった。だからこそウッドは困惑した。意図せず何も見えないという人生初の経験に惑わされ、光魔法での打消しに思考が向くまで十数秒を要した。
「―――――――――――――――――――――!」
 魔法を口にして詠唱するなど、本来ならば愚の骨頂だ。それほど、ウッドの内心は追い詰められていた。そして開かれる視界の中、ウッドは悟る。
「……アイは、どこまでも逃げるという事に拘ったのだな」
 アイは勿論、ウルフマンもそこには居ない。ただただ曇り空が天を覆っていて、今日は雪が降るかもしれないと思った。嘆息。しかし、少ししてウッドは肩をすくめて笑うのだ。
「まぁ、いい。それならそれで対処するだけだ。それに、収穫がなかったわけではない。余興の準備はすでに整っているのだから」
 くつくつと、ウッドはくぐもった笑いを漏らす。そして、家に足を向けた。まずは、夜逃げならぬ昼逃げと行こうか。

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