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よくある話

甘音

思い出タイムスリップ


ジィーーー…….

今年初めて聞く蝉の声に嬉しいような悲しいような気分になる。
この季節がついに来てしまったと言わんばかりの表情で話しかける。

「一夏(いちか)さ〜ん。セミが朗報を持ってきてくれましたよ〜。」

首を振った扇風機の折り返し地点に座り、少しでも長く風にあたろうとするズルい彼女が答える。

「冬空(そら)く〜ん。この暑さは悲報ではありませんか〜。」

暑さのせいか、確かに。の一言も面倒くさく感じてしまい静かに笑う。

一夏と付き合い始めてちょうど一年が経った。
去年はまだクーラーが生きてたな。
二人でどこに出掛けたっけな。
水着すごい可愛かったなぁ。
ボーッとそんなことを考えていると、

「今年はどこに行こっか。」

心の声でも聞こえているかのようにいいタイミングで一夏が言った。
しかし、暑さに頭をやられてしまった僕は意味不明な事を無駄にハイテンションで言う。

「海には去年行ったし、今年は宇宙という名の海を共に泳ごうではないか!さあ冒険の舵を取れ!」

数秒の沈黙。
蝉が鳴いていなかったらおそらく世界の時間を止めてしまったのでは?と勘違いするほどだ。
ただでさえ暑いのにごめんな。一夏。と罪悪感まで芽生えてきた。
二人の残された希望である扇風機の首をこっそりと自分の方向に固定した一夏が笑いながら続ける。

「去年もこんなくだらない話してた気がする。来年も変わらずにいるのかな。私たちは。」

去年の今頃を思い出し、よく言っていたことを何となく口に出してみる。

「ね。好きだよ。」

また少しの沈黙。
急な言葉に少し驚いた一夏は笑いながらこたえる。

「急になに。笑」

同じく笑いながらこたえる。

「なんか言いたくなっただけ。来年も言っていい?」

「来年まで言ってくれないの?それはちょっとだけ寂しいな〜。」

「ちょっとだけかよ!」



ジィーーーー……



そんな去年を思い出す。

振る必要のなくなった扇風機の首を固定して風を独占する。
今頃冷房の効いた部屋で誰かといるのかな。などと考えながら、それが君の幸せならと自分に言いきかせる。

あんなにも中身のないくだらない話も、僕にとっては幸せだった。
君にとってもそうだったなら。
そんな風に君を思い出す。

去年よりもうるさい蝉の声にかき消されるくらいの大きさでまた、こぼしてみる。

「………ょ。」

もはや自分にも聞こえてない。
でもそれでいい。それがいい。

よし、今年はどこに行こうかな。

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