貴族に転生したけど追放されたのでスローライフを目指して自前のチートで無双します

guju

領地運営と戦争準備②

 人っ子一人居ない裏路地は、少し大通りを外れただけなのにも関わらず不自然な程に静かだ。
 
 が……。
 ボロボロになった家の窓や、無造作に置かれた木箱の裏等から、まるで野生の狼が餌となる動物を狙っているかのような視線が、ひしひしと感じられる。
 どうやら、隠れているらしい。

「主様、如何致しますか? 」
「放っておけ、さほど害もないだろう」
「分かりました。向こうが手を出してから、こちらも動きます」
「あぁ、そうしてくれ」

 まぁ、そんなことは無いのだろうがな。
 恐らく、俺がここに向かってるという情報はスラムの首領には割れていて、その監視にコイツらを配備したのだろう。

「主様、首領の潜伏地までもう少しです」
「そうか……。ネメス、武器を構えておけよ」
「分かりました」

 アイテムボックスから取り出した大鎌を、ネメスは肩にかけるようにして手に持った。

 ネメスは、色々な種類の武器を扱うが、このような場所では見た目と威圧感に特化している鎌が最善だと判断したのだろう。
 それに、室内戦闘ではこの大鎌は強い。

 他の武器と違って軍勢を一網打尽に出来る上、切れ味が鋭いため壁や天井などが阻害にならない。
 むしろ、建物ごと壊せるため相手も迂闊に手を出せないのだ。

 普通、建物の中での大振りな武器は不利になるはずなんだがな……。

 さて、そろそろか。

「貴様、名を名乗れ!」

 2人の門番は、俺に槍を突き付けながら言う。
  俺が素直に名を名乗ろうとした時、横から伸びた手によって遮られた。

「お前達、我が主に不敬であるぞ」

 門番の持つ槍を握ると、いとも簡単に握り潰し、2つに分裂させてしまった。
 
「な、なに! 」

 驚く兵士の声。
 だが、よく訓練されたものだ。片割れの兵士は驚きはしたが恐れることは無く、手にしている槍でネメスを刺そうと突き刺す。

 だが、その槍でさえもネメスに捉えられ、あっさりとへし折られてしまった。
 そして、いつの間に宙に放っていたのか、落ちてきた大鎌を手に取る。

「ふむ、ようやく相応しい姿勢になったな」

 両膝をつき、折れた槍から手を離し地面に倒れ込む兵士太刀を見下ろし、ネメスは言う。

「主様、準備が整いました」
「はぁ……。ネメス、室内での戦闘行為は俺の許可が出るまで禁止だ」
「な、何故です! 私は主様に相応しい姿勢を……」
「アホか、取引しに来たやつが暴力で支配してどうする。今後の計画に支障が出るようなら、スーリヤと変わらせるぞ」
「うっ……すみません」

 気を落胆させながらも、頭を下げて謝るネメス。
 こいつは、普段は冷静であり役に立つのだが、今回のような場面や、俺に危害を加えようとしたものに対しては手加減を知らない。
 ヤツらの槍を捌いて、静かに無力化することも出来ただろうに。
 この騒ぎで、俺への印象が悪くなったらどうするんだよ……。まぁ、殴らなかっただけマシだが。

「いつまでそうしている、早く行くぞ」

 頭を上げないネメスにそう言うと、ぱっと頭を上げて俺の元へと駆け寄ってきた。
 なんか、拗ねた猫が再び懐いてくれた時のような、なんと言うかそんな感じがする。

 部屋の中にいた別の見張りに拠点を案内して貰い、ようやくスラムの首領と俺は対面した。

「そうこそおいでくださいました、新たに領主となられたアルト・ロード・シルバー伯爵殿」

 この野郎、だいぶと舐め腐ってくれてるじゃないか。
 貴族相手に''殿''だと。 ここの領主である俺と、一悶着起こしたいとでも考えているのか?
 普通に不敬罪で、ここで首を跳ねられるぞ……。

「お前がスラムの首領か、名前は……」
「シュプリーズです」
「シュプリーズ、今日はお前達に提案があってきた」

 先に吹っかけてきたのはそちら側だ。
 俺は、本来なら''取引き''と、双方メリットがあること前提の話をするのだが、一方的な提案と明言した。

 この意味は、十分なまでに相手につたわっているようで、薄気味悪い笑顔を絶やさなかったシュプリーズの顔が、本の僅かに歪んだのを俺は見逃さなかった。

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