生きる喜びを教えてくれたのは異世界に転生した君でした
48.遺跡探索~解明~
ユウは自らが切り伏せ、目の前で崩れ落ちた骸骨を見下ろしていたが、いつの間にか崩れ落ちた骸骨のすぐ脇に明るい栗色の髪の女がしゃがみ込み、骸骨を撫でていた。
「?!」
ほんの一瞬の出来事だ。瞬きをした瞬間、その女が現れた。再び剣を構えようとしたユウだったが、その女の骸骨の残骸を撫でる指先は優しさに満ちており、敵意は感じない。ユウは剣を鞘に戻した。
「あなたは――」
誰なのか、そう問おうとしたユウはその女の身体が透けていることに気づく。
「幽体……」
その幽体の女は骸骨の骨が粒子となって消滅したのを見届けると、ユウを一瞥して立ち上がる。足は見えるが、やはり透けていた。幽体には足がないというのはよく聞く話だが、こうして実際に目にすると、その話が作り話というのがわかる。元の世界では本物の幽体を目にした人は実在しなかったのかもしれない。もしくは幽体によっては足が見えないものも存在するのかもしれないが、ユウは基本的に自らの目で見たものを正と考える質であったため、自身の知識にある幽体の定義を上書きした。
『ありがとうございました』
幽体はユウに礼を述べる。幽体には様々な種類が存在することはファンタジーの知識として有していたユウは、目の前の穏やかな幽体が危険な存在ではないことを確信する。
気が付けばユウの傍にはいつの間にかみんな集まっていた。そして幽体とのやり取りを無言で見守っている。リズも『進行は任せる』という視線をユウにぶつけていた。
「喋れるのですか?」
『はい。色々と、知りたいことがあるでしょう。お答えしますよ、救世の冒険者様』
何がありがとうなのか。先ほどの親玉が消滅したにも関わらず存在しているあなたは何者なのか。ここは魔法都市なのか。何故滅びているのか。確かに聞きたいことは沢山あった。
ユウ達が広場に腰を下ろし、幽体の女性と話し始めると、ルカは魔狼達の魔石を集めると言ってその場から離れた。ルカ曰く、長くなりそうだったり難しそうな話は最後まで聞いている自信がないとのことで、その間、他に出来ることをやっておくとのことだ。
魔石収集はルカに任せ、ユウ達は幽体の女性に疑問に思っていたことをぶつけた。
まずわかったことは、この遺跡は魔法都市のもので間違いないということ。オベリスクは空に浮かぶ魔法都市とこの都市を繋ぐ転移装置であり、転移装置が作動すればこの広場の範囲の中にあるものであれば空中の魔法都市に転移させることができたらしい。
では何故滅びたのか。空中の魔法都市が滅びゆく間、むしろこの地下の魔法都市は安全な場所だったはずだ。避難場所になっていてもおかしくなかった。にも関わらず何故滅びたのか。その解は魔法都市滅亡にも大きく関わっていると思われた。しかし、目の前にいる幽体の女性は魔法都市が滅びたという事実すら知らなかった。
『やはり……滅びたのですね。そうだろうとは思っていましたが……』
「原因はわかりますか?」
『私も騒動の間はこの都市に縛られていましたので推測になりますが、簡単に言ってしまえば内乱でしょう。この地下都市は魔法都市の中でも穏健派の都市でした。しかし、強硬派によって乗っ取られたのです。恐らく、その内乱によって魔法都市は滅んだのでしょう』
「乗っ取られた?」
『はい。転移装置によって強硬派が多数現れ、この街を乗っ取りました』
「でも、街はあまり壊れているようには見えませんでしたが?」
『強硬派はこの街を地上都市侵略の要としたかったのです。だから街を壊すことをしなかった』
「内乱の原因って、地上への侵略戦争ということですか?」
幽体の女性は、何も言わず頷いた。
衝撃の事実だった。栄華を極めた魔法都市には、空だけでは飽き足らず地上すらも魔法都市の領土にしようと画策する者達がいたのだ。しかし、その企みは実行されることはなかった。推測でしかないが、きっと魔法都市の穏健派が強硬派の道を断つために魔法都市崩壊の道を選んだのだろう。
『先ほど消滅した彼は、この都市の領主でした。とても優しく、優しすぎたが故に、強硬派から街を取り返すべく禁忌の魔法に手を染めました。この都市を取り返すことはできましたが、その代償はあまりにも大きかった』
「禁忌の魔法?」
『死霊術です。コントロールが非常に難しい魔法にも関わらず、それをしかも大規模で行った結果、失敗して魔力が暴走。この都市に残っていた強硬派も民もみなアンデッドとなり、彼の下僕となりました』
「あなたは……?」
『魔力が暴走した瞬間、私に抵抗魔法を使ったんです、あの人。おかげで私はこの都市での唯一の生者となりました。妻である私一人をこの都市に残して何をしろと言いたかったのか……この都市を守るという妄執に囚われたアンデッドキングとなってしまった彼からはもうまともな言葉は聞けませんでした』
目の前の幽体は領主の妻だった。先ほど消滅した骸骨を見送った慈愛に満ちた仕草は、そういうことだったのだ。
『最初はこの都市を離れようとも思いましたが、やはりアンデッドになろうとも彼や領民を残して離れようとは思えなかった。彼が守り通そうとしたものの最後を、ちゃんと見届けるべきだと思ったんです』
「それで幽体に?」
『はい、幽体になれば光がなくとも、時の流れを知らずとも、食糧がなくとも生きていける。生きていけるというのはおかしな表現ですが、この都市の行く末を見届けるために自分自身に死霊術を使いました』
「転移装置から人が来ることはなかったんですか?」
『もちろんありました。しかし、眠る必要のないアンデッド達は常に広場周辺におり、転移してきた者をあっという間に皆殺し。それも私が幽体になろうと思った理由です。魔力源を止めてしまえば誰も転移して来ることができませんから悲劇は起きようがありません。そして魔力源を止め、幽体となった時から、長い長い日々の始まりでした。そしてどれだけの時が過ぎたかもわからなくなるだけの時が過ぎ、あなた達が来た……本当に、この閉鎖された都市を、妄執に囚われた主人を、民を、解放していただきありがとうございました』
「あ、いえ、とんでもないです。むしろ目の前で切り捨ててしまって申し訳ないというか――」
『いいんです。神の子なんていう誉ある人に浄化されるなんて、アンデッドとしても本望ですよ』
「え?! なぜ神の子って?!」
『魔法都市にも竜族の伝承は届いていましたからね。その少女と、あちらの少年は竜族でしょう? 竜族と人族の組み合わせなんていうのは、私が生きていた時代であっても耳にしたことありませんでしたから』
組み合わせを見ただけでバレるというのも驚きである。逆にここまで来ると竜族というのがどれだけ閉鎖的な種族だったのかと思ってしまうほどだ。今まで出会ったギフティアの人達にも実はすでにバレているのだろうかとユウはふと心配になったが、今はその心配を頭の隅に追いやる。
「あの、お名前を聞いても?」
『構いませんが、都市を滅ぼした不名誉な領主の妻です。何の得にもなりませんよ』
「いえ、そんなことありません。都市と民を守ろうとし、また、見守り続けてきた誇り高いお名前です。魔法都市が地上の都市を攻めることができなかったのも、皆さんのおかげではないですかね」
『……ありがとうございます。幽体になってそのような言葉を掛けていただけるとは思ってもいませんでした。私は……イザベラ・ルイ・フェルトバッハ。主人の名前はゲラード・ジン・フェルトバッハです』
「それってもしかして――」
『えぇ、真名です。私達の命は最早失われておりますので何の力にもなれませんが、せめて想いだけでも、感謝と共にあなた達神の子に捧げます』
真名は命同様に大切にすべきものだと神に言われた。命なき今、確かに真名を告げることに意味はないのかもしれない。しかし、ユウはイザベラの想いをしかと受け止めた。命を託されるだけの想いを向けられたのだと、真摯に受け止める。
『それと、そこに転がっている主人の杖、嫌でなければ持っていってください。竜族の少女は魔術師でしょう? きっと、お役に立てる場面があるかと』
ユウの電光石火の斬撃を受け止めながらも傷一つついていない杖だ。確かにエリーは魔術師にも関わらず基本手ぶらである。せっかくの持ち主からの申し出であれば、もらっていくことにも抵抗はない。
『その他にも都市の中には魔法道具は沢山残っています。色々見て、必要なものがありましたら是非お持ちください』
「ありがとうございます、いただいていきます。それと……魔力源というのはまだ生きているのでしょうか?」
『えぇ、生きているはずです。私はただスイッチを止めただけですから。スイッチを止めた後に幽体になって以降、この都市に入ってきたのは魔物や獣を除けばあなた達だけですから、老朽化による損傷がなければ壊されてもいないはずですよ』
「転移装置を起動したら、空中にある魔法都市に行けますか?」
『滅びたという都市が、まだ空中に残っていれば行けると思います。固定の転移先がすでにない場合はどこになるかはわかりませんが。起動するのでしたら、オベリスクの下の扉を入っていけばすぐにわかりますよ』
「わかりました、ありがとうございます」
『いいえ。先ほど魔狼も一掃されましたし、大した魔物もこの都市にはもうおりませんので自由にこの都市を使ってください。私の役目も、もう終わりです。この都市に残る民もおりませんし、思い残すことは何もありません』
その言葉の通り、イザベラの身体は最初目にした時よりも確かに透けていた。
「逝って……しまうのですね」
『えぇ。そんな悲しそうな顔をしないで』
「――」
『本当に感謝しています。救世の冒険者、神の子達に幸あらんことを――』
その言葉を最後に、イザベラは光の粒子となって、ユウ達の目の前から消えていく。自分達の名前すら名乗っていなかったことに胸が痛み、咄嗟にユウは叫ぶ。
「神の子としてこのユウとリズ、必ず使命を全うしてみせます!」
宙空を見上げるユウとリズ。届いたかどうかすらもわからない叫びの先には、すでに何も残っていなかった。伴侶を想い、民を想い、都市を想い、自らの人生を捧げた女性をユウ達は決して忘れないことを誓う。そしてその誓いが届いたのか、何もないはずの宙空から、イザベラの優しい声音が響いた。
『ありがとう、応援しているわ。ユウ、リズ』
「?!」
ほんの一瞬の出来事だ。瞬きをした瞬間、その女が現れた。再び剣を構えようとしたユウだったが、その女の骸骨の残骸を撫でる指先は優しさに満ちており、敵意は感じない。ユウは剣を鞘に戻した。
「あなたは――」
誰なのか、そう問おうとしたユウはその女の身体が透けていることに気づく。
「幽体……」
その幽体の女は骸骨の骨が粒子となって消滅したのを見届けると、ユウを一瞥して立ち上がる。足は見えるが、やはり透けていた。幽体には足がないというのはよく聞く話だが、こうして実際に目にすると、その話が作り話というのがわかる。元の世界では本物の幽体を目にした人は実在しなかったのかもしれない。もしくは幽体によっては足が見えないものも存在するのかもしれないが、ユウは基本的に自らの目で見たものを正と考える質であったため、自身の知識にある幽体の定義を上書きした。
『ありがとうございました』
幽体はユウに礼を述べる。幽体には様々な種類が存在することはファンタジーの知識として有していたユウは、目の前の穏やかな幽体が危険な存在ではないことを確信する。
気が付けばユウの傍にはいつの間にかみんな集まっていた。そして幽体とのやり取りを無言で見守っている。リズも『進行は任せる』という視線をユウにぶつけていた。
「喋れるのですか?」
『はい。色々と、知りたいことがあるでしょう。お答えしますよ、救世の冒険者様』
何がありがとうなのか。先ほどの親玉が消滅したにも関わらず存在しているあなたは何者なのか。ここは魔法都市なのか。何故滅びているのか。確かに聞きたいことは沢山あった。
ユウ達が広場に腰を下ろし、幽体の女性と話し始めると、ルカは魔狼達の魔石を集めると言ってその場から離れた。ルカ曰く、長くなりそうだったり難しそうな話は最後まで聞いている自信がないとのことで、その間、他に出来ることをやっておくとのことだ。
魔石収集はルカに任せ、ユウ達は幽体の女性に疑問に思っていたことをぶつけた。
まずわかったことは、この遺跡は魔法都市のもので間違いないということ。オベリスクは空に浮かぶ魔法都市とこの都市を繋ぐ転移装置であり、転移装置が作動すればこの広場の範囲の中にあるものであれば空中の魔法都市に転移させることができたらしい。
では何故滅びたのか。空中の魔法都市が滅びゆく間、むしろこの地下の魔法都市は安全な場所だったはずだ。避難場所になっていてもおかしくなかった。にも関わらず何故滅びたのか。その解は魔法都市滅亡にも大きく関わっていると思われた。しかし、目の前にいる幽体の女性は魔法都市が滅びたという事実すら知らなかった。
『やはり……滅びたのですね。そうだろうとは思っていましたが……』
「原因はわかりますか?」
『私も騒動の間はこの都市に縛られていましたので推測になりますが、簡単に言ってしまえば内乱でしょう。この地下都市は魔法都市の中でも穏健派の都市でした。しかし、強硬派によって乗っ取られたのです。恐らく、その内乱によって魔法都市は滅んだのでしょう』
「乗っ取られた?」
『はい。転移装置によって強硬派が多数現れ、この街を乗っ取りました』
「でも、街はあまり壊れているようには見えませんでしたが?」
『強硬派はこの街を地上都市侵略の要としたかったのです。だから街を壊すことをしなかった』
「内乱の原因って、地上への侵略戦争ということですか?」
幽体の女性は、何も言わず頷いた。
衝撃の事実だった。栄華を極めた魔法都市には、空だけでは飽き足らず地上すらも魔法都市の領土にしようと画策する者達がいたのだ。しかし、その企みは実行されることはなかった。推測でしかないが、きっと魔法都市の穏健派が強硬派の道を断つために魔法都市崩壊の道を選んだのだろう。
『先ほど消滅した彼は、この都市の領主でした。とても優しく、優しすぎたが故に、強硬派から街を取り返すべく禁忌の魔法に手を染めました。この都市を取り返すことはできましたが、その代償はあまりにも大きかった』
「禁忌の魔法?」
『死霊術です。コントロールが非常に難しい魔法にも関わらず、それをしかも大規模で行った結果、失敗して魔力が暴走。この都市に残っていた強硬派も民もみなアンデッドとなり、彼の下僕となりました』
「あなたは……?」
『魔力が暴走した瞬間、私に抵抗魔法を使ったんです、あの人。おかげで私はこの都市での唯一の生者となりました。妻である私一人をこの都市に残して何をしろと言いたかったのか……この都市を守るという妄執に囚われたアンデッドキングとなってしまった彼からはもうまともな言葉は聞けませんでした』
目の前の幽体は領主の妻だった。先ほど消滅した骸骨を見送った慈愛に満ちた仕草は、そういうことだったのだ。
『最初はこの都市を離れようとも思いましたが、やはりアンデッドになろうとも彼や領民を残して離れようとは思えなかった。彼が守り通そうとしたものの最後を、ちゃんと見届けるべきだと思ったんです』
「それで幽体に?」
『はい、幽体になれば光がなくとも、時の流れを知らずとも、食糧がなくとも生きていける。生きていけるというのはおかしな表現ですが、この都市の行く末を見届けるために自分自身に死霊術を使いました』
「転移装置から人が来ることはなかったんですか?」
『もちろんありました。しかし、眠る必要のないアンデッド達は常に広場周辺におり、転移してきた者をあっという間に皆殺し。それも私が幽体になろうと思った理由です。魔力源を止めてしまえば誰も転移して来ることができませんから悲劇は起きようがありません。そして魔力源を止め、幽体となった時から、長い長い日々の始まりでした。そしてどれだけの時が過ぎたかもわからなくなるだけの時が過ぎ、あなた達が来た……本当に、この閉鎖された都市を、妄執に囚われた主人を、民を、解放していただきありがとうございました』
「あ、いえ、とんでもないです。むしろ目の前で切り捨ててしまって申し訳ないというか――」
『いいんです。神の子なんていう誉ある人に浄化されるなんて、アンデッドとしても本望ですよ』
「え?! なぜ神の子って?!」
『魔法都市にも竜族の伝承は届いていましたからね。その少女と、あちらの少年は竜族でしょう? 竜族と人族の組み合わせなんていうのは、私が生きていた時代であっても耳にしたことありませんでしたから』
組み合わせを見ただけでバレるというのも驚きである。逆にここまで来ると竜族というのがどれだけ閉鎖的な種族だったのかと思ってしまうほどだ。今まで出会ったギフティアの人達にも実はすでにバレているのだろうかとユウはふと心配になったが、今はその心配を頭の隅に追いやる。
「あの、お名前を聞いても?」
『構いませんが、都市を滅ぼした不名誉な領主の妻です。何の得にもなりませんよ』
「いえ、そんなことありません。都市と民を守ろうとし、また、見守り続けてきた誇り高いお名前です。魔法都市が地上の都市を攻めることができなかったのも、皆さんのおかげではないですかね」
『……ありがとうございます。幽体になってそのような言葉を掛けていただけるとは思ってもいませんでした。私は……イザベラ・ルイ・フェルトバッハ。主人の名前はゲラード・ジン・フェルトバッハです』
「それってもしかして――」
『えぇ、真名です。私達の命は最早失われておりますので何の力にもなれませんが、せめて想いだけでも、感謝と共にあなた達神の子に捧げます』
真名は命同様に大切にすべきものだと神に言われた。命なき今、確かに真名を告げることに意味はないのかもしれない。しかし、ユウはイザベラの想いをしかと受け止めた。命を託されるだけの想いを向けられたのだと、真摯に受け止める。
『それと、そこに転がっている主人の杖、嫌でなければ持っていってください。竜族の少女は魔術師でしょう? きっと、お役に立てる場面があるかと』
ユウの電光石火の斬撃を受け止めながらも傷一つついていない杖だ。確かにエリーは魔術師にも関わらず基本手ぶらである。せっかくの持ち主からの申し出であれば、もらっていくことにも抵抗はない。
『その他にも都市の中には魔法道具は沢山残っています。色々見て、必要なものがありましたら是非お持ちください』
「ありがとうございます、いただいていきます。それと……魔力源というのはまだ生きているのでしょうか?」
『えぇ、生きているはずです。私はただスイッチを止めただけですから。スイッチを止めた後に幽体になって以降、この都市に入ってきたのは魔物や獣を除けばあなた達だけですから、老朽化による損傷がなければ壊されてもいないはずですよ』
「転移装置を起動したら、空中にある魔法都市に行けますか?」
『滅びたという都市が、まだ空中に残っていれば行けると思います。固定の転移先がすでにない場合はどこになるかはわかりませんが。起動するのでしたら、オベリスクの下の扉を入っていけばすぐにわかりますよ』
「わかりました、ありがとうございます」
『いいえ。先ほど魔狼も一掃されましたし、大した魔物もこの都市にはもうおりませんので自由にこの都市を使ってください。私の役目も、もう終わりです。この都市に残る民もおりませんし、思い残すことは何もありません』
その言葉の通り、イザベラの身体は最初目にした時よりも確かに透けていた。
「逝って……しまうのですね」
『えぇ。そんな悲しそうな顔をしないで』
「――」
『本当に感謝しています。救世の冒険者、神の子達に幸あらんことを――』
その言葉を最後に、イザベラは光の粒子となって、ユウ達の目の前から消えていく。自分達の名前すら名乗っていなかったことに胸が痛み、咄嗟にユウは叫ぶ。
「神の子としてこのユウとリズ、必ず使命を全うしてみせます!」
宙空を見上げるユウとリズ。届いたかどうかすらもわからない叫びの先には、すでに何も残っていなかった。伴侶を想い、民を想い、都市を想い、自らの人生を捧げた女性をユウ達は決して忘れないことを誓う。そしてその誓いが届いたのか、何もないはずの宙空から、イザベラの優しい声音が響いた。
『ありがとう、応援しているわ。ユウ、リズ』
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