生きる喜びを教えてくれたのは異世界に転生した君でした

T&T

45.舎弟の誓い

「まぁいいんじゃないか? お咎めなしで。治安維持は騎士団の任務だから騎士団長には俺から言っておくよ」

「「へ?」」

 ルカと遭遇し、そのまま銀月で夜を明かしたその翌日、ユウは目の下にクマを作り、結局ネロを説得できるだけの言い訳も思い付けず、やきもきした思いでルカを連れてネロのもとを訪ねた。
 しかし、そこで待っていたネロの反応は予想外に軽く、その軽さにユウもリズも呆れることしかできない。

「そいつは反省してんだろ? それに殺された奴らは憲兵に突き出されていてもどの道、死罪は免れなかった。神都ギフティアは護る者には寛容だが、傷つける者には徹底している。問題は本当にこのルカって子の行動が被害に遭った女性達を護ろうとしてのことだったのか、というところ。助けられた女性陣の証言を全て真に受けるわけにはいかないからな。ただ、証人がお前らなら話は別ってことだ。全く問題ない」

「でも、ルカと私、幼馴染。近親者みたいなものだし、護るために嘘をついているかも――」

「嘘ついてるのか?」

 ネロの確認にエリーは頭をぶんぶんと横に振る。続けてネロの視線がユウとリズにも向いたが、2人とも手を左右に動かす。

「ほら、じゃあいいだろ。騎士団長が文句言うようならまた呼び出すよ。まぁないと思うけどな」

「よかったわね、あなた達。それにしてもクマがひどいわね。だいぶ昨晩悩んだようだけど……よく眠れるお茶でも飲んでから帰る?」

 ネロとシャルの言葉が寝てない身体に染み渡る。肩の力が抜け、ユウはソファに踏ん反り返った。
 天翔ける竜スカイドラゴンとルカはそのシャルの言葉に甘え、よく眠れるというお茶を飲んでから再び銀月へと帰った。



 ◇◇◇



「ユウ兄達、信頼されているんだね! すごいや!」

「「ユウ兄?」」

 銀月までの道を歩いているところでリズとエリーがルカの発言を聞くや否や、なんだそれはと後ろにいたユウを振り返りその視線をぶつける。ユウの隣を歩くルカはその瞳を輝かせていた。

「いや、何か昨晩、心配するなって話してからこんな調子なんだよ」

「ユウ兄だけじゃなく、リズ姉もだよ! あんな豪奢な建物の偉い人がユウ兄とリズ姉なら信じられるみたいな! すごいよ! エリーはこんなすごい人達と一緒にいたんだね!」

「リズ姉……」

 自分がまさか姉と呼ばれるとは思っていなかったのだろう。ルカに呼ばれた呼称をポツリと呟くリズが戸惑いの中にいることが見て取れる。しかし、決して不快であるというわけではなさそうだった。リズのことである、エリーを妹のように可愛がっていることからも、今度はルカを弟のように可愛がるのではなかろうかとユウは思った。
 ネロがユウとリズに寄せる全幅の信頼を見て興奮を体現して跳ねるように歩いているルカに、エリーが自慢げに軽く胸を張って言い放つ。

「すごいに決まっている。だって、神の子だもの」
「へ……?」
「リズとユウは神の子よ」
「神の……子?」

 エリーの発言を繰り返す。ルカのその表情は更なる興奮に包まれキラキラと一層の輝きを放ち始めた。豪奢な建物である冒険者ギルド本部の副代表、ネロの全幅の信頼を受けていた2人の様子を見てテンションの上がっているルカを横目に、エリーは何を思ったのか更なる燃料をそこに投下したのだ。
 そしてその燃料がルカの身体に行き渡ると、ユウの隣からリズとエリーの前まで瞬間移動したのかと思えるほどの速度で移動するルカ。
 ざざっと靴が地面を掴む音を出し、そして砂煙を舞い上げる。突如舞った砂煙に軽く咳き込みながら、ユウ達は目の前の煙を手で散らす。

「な?! どうしたんだよルカ」

 砂煙の向こうには、ルカが片膝をついてユウ達に頭を垂れていた。その姿勢はユウ達がイーストエンド国王に対して行った姿勢と同じ、敬意を表す姿勢だ。

「兄貴! 姉御! この度の恩義、一生忘れません! 不肖ルルド・オスカー、お二人のために全身全霊を尽くし恩返しさせていただきます! 神竜に誓って! あ! でも全力一番で好きなのはエリーだよ! これも神竜に誓って!」

 突然街中に響く大きな声。
 道行く人は何だ何だと興味津々。
 視線が集まってきたことに気まずさを覚える天翔ける竜スカイドラゴン、特に公然と愛の告白をされているエリーはルカの首根っこを掴むと銀月に向かってルカを引きずりながら駆け出す。リズとユウも2人を追って、衆目を集めるその場からそそくさと逃げ出した。

「急に勘弁してよ、どうしたのルカ?」

 銀月に到着し、エリーが一通りこってり絞ったあとだったが、さすがにユウもあの言動には一言物を申しておきたかった。

「あははは……ごめん。ちょっと、嬉しくなっちゃって。今後はあんなことしないように気をつけるよ」

「うん、本当、お願いね。私もビックリしちゃった」

「でも、さっきの言い方だと、ルカ、一緒に来るのかい?」

「ダメかな? もちろん、さっきの言葉に嘘はないよ?」

「わかっているよ。僕とリズは歓迎かな。エリーは?」

 ルカが来てからというもののエリーは元気だ。それは常日頃から一緒にいるユウとリズでないと気づくことのないほどの差だが、間違いない。そんなエリーがルカを拒絶するとは思えないが、エリーのルカに対しての態度がいつも殊の外厳しいため、念のため確認をするユウ。

「……好きにすれば」

「ありがとうエリー!!」

 言い方はやはり冷たかったものの、それはきっと照れ隠しなのだろう。感謝の言葉と共にエリーに飛びつき抱き着こうとするルカの頭を必死で床に追いやっている。その口元が僅かに綻んでいたように見え、言いようもない温もりが胸に満たされる気がした。

「これから、騒がしくなりそうだね」

「ふふっ……そうね」

 リズは元気なエリーの姿を見て微笑んでおり、その微笑みは女神のような慈愛に満ちている。エリーを妹のように可愛がっていたリズには、少し寂しい想いもあるのかもしれない。
 しかしリズはそれ以上に、目の前の少女が嬉しそうにはしゃいでいる姿を見て満足そうに笑うのだった。





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