生きる喜びを教えてくれたのは異世界に転生した君でした

T&T

24.極秘任務


「このギフティアに、戦力支援要請の親書が届いた」

 ネロは副代表の顔になり、この世界の国々のことに無知な僕達にもわかりやすいように本題を話し始めた。要点はこうだ。
 ギフティアの国土は四大国家に取り囲まれている。時計回りで言うと北東のハイネスト、南東のイーストエンド、南西のサザンクロス、北西のルーデンハイム。その中心に位置するギフティアは国を名乗ってはいないが、その四大国家からは一つの国として認識されている。
 四大国家は互いに侵略戦争には至っていないが、長い年月の中で幾度かの小競り合いは発生していた。ギフティアが神に贈られた都であることは四大国家でも認識されており、ギフティアもまた中立を謳っていることもあって国家間の小競り合いに巻き込まれることは未だない。基本的にはどの国も表向きは友好的であり、交易も盛んであるのが実状だ。
 そんな中、イーストエンドより戦力支援の要請が届いた。国内に得体の知れない魔獣が神出鬼没に現れ、国内の村々を荒らして回っていると。国家騎士団だけでは手が足りず、イーストエンドに滞在している冒険者達に依頼クエストとして発注しているがそれでも間に合わない。だからといって、他国に支援を要請して借りを作るわけにもいかず、中立国であるギフティアに支援要請が来た、という流れだ。

「この要請には応えたいという想いで議会は全会一致している。しかし、ギフティアが公的に堂々と支援することは他国に対して中立でないことを示す形となる。そのため、今回の件は我々冒険者ギルドが引き受けようと思っている。ただし、あくまでも表向きは旅好きな冒険者が他国で遭遇した事件に貢献するという体をとるため、報酬はない。そして冒険者達にはこのような機密事項は話せない。冒険者は基本、金で動くからだ。だがお前達の原動力は、金じゃない」
「任せてください。僕達が行きますよ」
「話が早くて助かる」
「極秘任務って感じでワクワクするね」
「でも、人手が足りないと言われているのに、僕達だけでイーストエンドは満足するんでしょうか?」
「ギフティア1の手練れを送るから一番困っているところで使え、とでも言えば文句も言わんだろう」

 冗談なのか本音なのかわからない。

「いやいやいや! 僕達まだルーキーですし、どこがギフティア1なんですか! そんな大口叩かれたらプレッシャーが――」
「頼んだぞ、天翔ける竜スカイドラゴン
「任せてください!」
「やり遂げてみせるわ!」

 まんまと乗せられてしまった。
 大人ってズルい。

「でも、なんで天翔ける竜スカイドラゴンなんですかね?」

 名前の響きに酔いしれてしまい、その由来を確認することを忘れていた。

「あぁ、そうそう、それを話してやらないとって思ってたんだ。どうやらお前達の武具の紋章と、エリーが竜族であることがきっかけみたいだぞ」

 リズの長剣と鎧、僕の小剣に刻まれている太陽と竜の紋章?

「竜が太陽のある空に飛んでいる紋章の武具を持ち、パーティの中には竜族がいる。由来としては安直だと思うだろ? 俺は思った」
「え~安直だなんて言わないでくださいよ、せっかくカッコいい通り名なのに」

 ネロは結構手厳しい。まぁ気を遣われて褒められても嫌だから構わないが。リズはそもそも由来など気にしないらしく、その響きだけで十分そうだ。

「いいじゃない、ユウ。私達が竜の如くパワフルに活躍すればまた諸説出てくるかもしれないしさ。そのためにも、早速明日からイーストエンドに向けて――」

 リズが出立の予定を伝えようとするとネロがそれを制止する。

「待て待て待て。お前達も帰ってきたばかりで疲れているだろう。この件に関しては、まだ先方に返事もこれからだし、こちらからの返事に対する先方の最終回答を待ってからだから早くても出発は1週間後だ。時期が来たらまた呼ぶからしばらくは休養していろ。ただし――」

 僕達を労いながらもネロの顔が輝く。

「休むのは銀月で一杯やってからな! あぁ~お前達が帰ってくるのが待ち遠しかったんだぞ! シャルと飲む酒も美味いんだが、人が多ければ多いほど楽しみは増えるからな!」

 その言葉にシャルは呆れながらも、ネロと共に仕事の片づけを始めたのであった。そしてネロに聞こえないようにする配慮なのか、僕達の傍に来てその声を落とす。

「人が多いほどいいなんてよく言うわ。あの人、色んな人に飲みに誘われても行かないのよ。私もそうだけど、あなた達のことがよっぽど可愛いみたいよ」

 そんな風に思われるのは悪い気はしない。むしろ嬉しい。リズも照れ笑いをしており嬉しそうだ。エリーは相変わらずの無表情。でも不機嫌でないことはわかる。

「僕達もネロさんとシャルさん好きですよ。頼れる兄さんと姉さんって感じで」
「ねー! シャルさんみたいな綺麗で優しいお姉ちゃんいたら最高だよ」
「私も、人族の中でリズとユウの次にネロとシャルは好き」
「あら、ありがとう。じゃあ、行きましょうか。ネロ、私達は先に出るから、ちゃんと片付けてから来てくださいね」

 秘書とは思えぬその言葉にネロも衝撃を受けているようだった。しかしシャルは構わずリズと腕を組み、エリーと手を繋ぐ。 複数の人とこんなに気を遣わずに接するのはいつぶりだろうか。居心地のよさに懐かしさを感じながら、同時に一抹の不安を覚える。
 この2人のことを好きになればなるほど、またあの絶望を味わうことになるのかもしれない。でも、そう思うことは2人を信じていないことと同義だ。それは2人の信頼を逆に僕が裏切っていることになる。失礼極まりないことだ。
 よくない癖だ。信じたいと想えるようになり始めたのに、まだ臆病な自分が確かにいる。

「大丈夫だよ」

 表情には出していないつもりだったが、リズが僕に笑いかける。何が大丈夫なのかは言わない。でも、リズのその優しい碧い瞳に、全て見透かされているような気がした。その言葉と笑顔の包容力に、僕の心は甘やかな想いで満たされる。

 全くこの人は……本当に……。

 この想いは伝えられないけど、僕の精一杯の想いを込める。

「ありがとう」

 この人に会いたいと願ってよかった。 この人のために生きたいと願ってよかった。神よ、あなたにも本当に感謝します。

 この胸を満たす喜びを改めて噛みしめながら、泣きそうになる自分の顔を見られまいと、ひと足先に部屋を出る。もちろん、すぐに後ろからリズもエリーもシャルも追ってくる。

 一瞬でいいのだ、時間を稼げれば。
 そして3人が僕に追い付く前に、僕はこの嬉し涙を飲み込んだ。





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