仮面に愛を

椎名

15



「……あのさあ~、まぁたケンカしたのおー? お二人サン」
「違う」「違います」
「「…………」」

 間髪入れない返答に、後輩組二人は微妙な顔をして見合わせた。うち、一人は苦笑いで、もう一人は涙目だ。

 昨日から、頭が混乱して上手く回らない。授業も上の空だった。今もそうだ。花京院ともっと話したいと思うのに、そちらまで気を回せない。顔も見たことのないオリの後ろ姿ばかりが脳裏に貼り付いて離れない。

「おーい」
「…………」
「おーい、かあーいちょー」
「…………」
「かいちょお? 聞いてるうー? かーいーちょおー? ……チッ、おい起きろよ俺様装ったヘタレ」

 聞いたことのないドスの聞いた声が吹き込まれ、反射的に顔を上げた。
 だ、誰だ!? 今の声は!

「んもー、いつまでぼーっとしてんのお? もう活動時間終わっちゃったよおー?」
「……書記?」
「なぁに?」

 ぷくっと頬を膨らませ幼げに不満を溢す愛らしい童顔。

 今のは、こいつなのか。やっぱりこいつ悪魔なんじゃないだろうか。

「それより! 活動時間終わったって! バ会計も京ちゃんも帰っちゃったよお」

 ふと時計を見れば短針は十七時を過ぎていた。皆、早いうちに切り上げたらしい。
 俺も適当に処理を済ませ書記と別れると、戸締りをしてから正面口へと向かった。

「あれ、カイチョーじゃーん」
「なんだ先に帰ったんじゃなかったのか」

 振り返ったのは、相変わらず締まりのない顔をしている明るい茶髪。会計だ。

「んー、ちょっとはなちゃんとお話しようと思って」

 ジクリと不快感が湧き上がった。そういえば、こいつも花京院によくなついている。……落ち着け。嫉妬は醜いぞ。

「カイチョーはこのまま帰んの?」
「あ? ああ」

「━━校舎、行かないの?」

 思わず、足を停めた。

「最近、通いづめだったじゃん」
「そ、れは」
「別にカイチョーが何処で何しようが誰に会おうがオレはどーでもいいけどさあ、ちゃんと色々整理してからはなちゃんに話し掛けたら~?」

 緩慢に俺へ視線を流しながら、人工的な緑の瞳が挑発的に三日月を画く。

「でないと、織色先輩はオレが貰うよ?」

 ━━ 一瞬。返答を躊躇ってしまった。
 精悍な顔付き。笑みを消した彼は、こんなにも真っ直ぐな目をしていたのか。

「わー、こわいこわい。そんな睨まないでよー。怖くてボクチャン泣いちゃうー」
「ッ会計!!」

 ヘラヘラと茶化す会計に唸るように怒声を掛けた。

「はーいはい。これ以上よけーなことはいいませーん。じゃねん。おつかれカイチョー」

 気は済んだとばかりに俺へ背を向ける会計に、停めた足が動かない。帰る方向は一緒だというのに、奴の背を、追えない。

(━━っクソ!)

 ━━目指すは、古典準備室。

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