ドラゴン転生 龍帝誕生記(休載)

鈴木颯手

第捌話

「…何?新種のドラゴンだと?」
エルカリダスの森の西に存在するマグサ王国の地方貴族であるアルム・パッカードは部下の報告に怪訝な顔をする。
「はい、何でも全身黒で統一され、背には歯車のような背鰭がついていたそうです」
「百年龍と間違えたのではないか?」
百年龍はマグサ王国の兵の大半を投入して瀕死に追いやった龍である。
百年龍は元々マグサ王国の北国境に存在するイガル山脈で暮らしていた。イガル山脈は険しい山々で作られており長年カウスマン帝国の侵入を防いできた天然の要塞であった。最初のうちは百年龍の存在など知らなかったが百年龍が生息していると知ってからはカウスマン帝国が侵入してくることはなくなった。
しかし、半年前に百年龍はイガル山脈を降りてマグサ王国の村や都市を襲い始めたのだ。科学技術が発展しているカウスマン帝国やエルカリダスの森の東側に存在する蘭国を越えた先に存在する海洋国家フソウ皇国とは違い魔術で発展してきたマグサ王国は百年龍の相手にならず死者が日に日に増えていった。
この事態にマグサ国王は討伐軍を組織し、王国に存在する上級冒険者を連れて百年龍の討伐を開始したのだ。
結果は瀕死に追いやったものの五万近くいたマグサ王国軍は半数以上が戦死し、上級冒険者もほぼ全滅する結果となってしまった。
このせいでマグサ国王の権威は地に落ち、カウスマン帝国に内応する者や独立する者が後をたたなかった。今はある程度落ち着いてはいるが百年龍との戦いの傷痕はまだ癒えていなかった。
「森の中だし暗くてそう見えたのも仕方がないのではないか?」
もしそうだった場合アルムは王国に知らせる必要がある。アルムの持つ兵では焼け石に水にもならないだろう。最も多大なる犠牲をはらった百年龍を再び王国が相手にできるかどうかは怪しいが。
「いえ、ドラゴンとあったのは開けた場所で夕暮れ時でしたが黒い体だったそうです」
「フム、それなら我らだけでも討伐出来るか?」
龍種は人類にとって最も忌むべき存在である。遥か昔とはいえ一度は龍種によって倒されているのだ。
そのせいかドラゴンを討伐するとそのものは英雄のように注目された。アルムは領主として討伐軍を組むべきと考えていた。
「軍の編成にはどのくらいかかる?」
「はい、軍だけなら2日、冒険者等の義勇軍を含む場合は3日かかります」
「ならば義勇軍はいい。あいつらに手柄をやることはない。我らだけで討伐するぞ」
「かしこまりました。直ちに取り掛かります」
アルムの部下はそう言って部屋をあとにした。部下がいなくなり部屋にはアルムだけがのこった。
「…ふふふ、俺も遂に龍討伐の英雄か。人生わからないもんだな」
アルムは今後の薔薇色の人生を想像して一人笑うのであった。

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