異世界日本の作り方

鈴木颯手

第肆話 解放

「山賊にしては装備が整っているな」
村の中を見回りしていた山賊の息の根を止めて情報収集していた暮仁はつぶやく。
山賊は胸当てのみの防備だが素人の暮仁が見てわかるほど質は良くたかが山賊程度が入手できるものとは思えなかった。
「イナゴのようにすべてを奪ってその結果金がたくさんあるのか?いや、そもそもレナの話じゃこの周辺は村がちらほらとある程度。王国はずっと北に行かないとないって聞いたがそうなると山賊はそこで調達しているのか若しくは…」
そこまで考えて首をふる。今の状態では情報が少なすぎる。決めつけるのは良くない。
「陛下、可笑しいです」
近くの様子を探ってきてもらった良太は帰ってくるなりそう言った。
「レナの言ったとおり村長宅を見てきたのですが誰もいませんでした。見張りはもう一人反対方向にいましたが他には誰も」
良太の報告に暮仁は眉を潜める。レナの言ったとおりなら村長宅に見張りを除く全ての山賊がいるはずだった。しかし、山賊は見張り以外存在せずもぬけの殻であった。
その時村の中心部が騒がしくなった。
「何だ?」
暮仁達は急いで向かうとそこでは山賊による村人の虐殺が行われていた。
「山賊がいなかった理由はこれか」
「死ねぇ!」
納得した暮仁の所に山賊の一人が切りかかる。暮仁は慌てずに剣を握る手首をつかみ膝を叩きつける。
手をやられ剣を落とした山賊をそのまま引っ張り転ばすと暮仁は剣を拾い一突きした。暮仁の鋭い一撃は的確に心臓を捕え山賊は絶命した。
「大丈夫ですか陛下?」
「問題ない。玲奈と合流するぞ」
襲い掛かって来た他の山賊を始末した良太は暮仁に聞く。暮仁は剣を振って血を落としながら言う。
「レナ!早く!」
そこへ大声が聞こえて来た。暮仁がそちらを見れば山賊が剣を振り下ろそうとしていた。その先には案内してもらったレナとレナを抱きしめる男の姿が。
瞬間暮仁は走り山賊に肉薄した。
「若い女は捕まえさせてもらうぜ」
「させると思うか?」
暮仁は飛び上がり山賊の顔面に蹴りをぶち込んだ。もろに受けた山賊は抵抗する間もなく吹き飛んだ。
「大丈夫か?」
いきなりの事でついていけてない男であったがレナは暮仁の顔を見て家を上げた。
「暮仁さん!」
「けがはないか?」
「は、はい」
レナの言葉を聞き暮仁は安堵する。中国軍から逃げる為にたくさんの人を殺した暮仁も流石に見知った人が殺されるのは見たいものではない。
「急いでこの場を離れるんだ。ここは危ないからな」
「はい」
「おいおい!逃がすとでも思ってんのか!?」
レナたちを逃がそうとした時野太い声が響いた。暮仁が後ろを見れば180を超える巨漢の男が仁王立ちしていた。更に残った山賊が十名以上が取り囲んでいた。残りの山賊は村人が逃げないように見張っていた。
「おめぇ見ねぇ顔だな!村の外の奴か!?」
「…だったらなんだ?」
「特にねぇよ!どっちにしろ殺すだけだからな!」
そう言うと巨漢の山賊は巨剣を暮仁に振り下ろした。暮仁は最小の動きで巨剣を躱すと奪った剣で巨漢の胸に突き刺す。しかし、剣は巨漢の鎧にはじかれ半分の所で折れてしまう。
「無駄だ!そんなものでこの鎧が貫けることができるわけねぇだろ!」
オメェ等は囲ってろ!と山賊に言うと巨剣を横に払った。暮仁はしゃがみ込むことで一撃を避けると巨漢に足払いをするが不完全な体制で打ったためと巨漢の重さで少しも動かすことが出来なかった。
「っちぃ!」
暮仁は直ぐに後ろに跳ねる様に下がるが巨漢は左手で殴りつける。巨漢の拳は暮仁の腹を直撃したがそのまま飛び上がって衝撃を和らげてダメージを抑えた。
「くそが!さっさと死ねよ!」
なかなか倒れない暮仁に巨漢の男は苛立ちを覚えて攻撃が直線的になってくる。
「陛下!これを!」
そこへ密かに武器調達に言っていた健吾が戻り持ってきた剣を投げた。それは放物線を描き暮仁の近くに突き刺さる。暮仁は素早く抜き取り構えた。
「はっ!そんなちゃちな剣で鎧を貫けるわけがないだろうが!」
巨漢の男は頭上に剣を持っていき暮仁めがけて振り下ろした。暮仁はそれを楽に避けると剣を今度は顔に突き刺す。
「なっ!?」
無防備な顔面に剣が近づき思わず巨漢の男は身を引いてしまう。暮仁はその隙をつき再び足払いをする。体制を崩した事もあり巨漢の男は仰向けに倒れてしまう。
「ぐ、がぁ」
受け身を取れなかった巨漢の男は痛みで呻き声を上げてしまう。暮仁は上に乗っかり一気に喉に突き刺す。
「…ゴホ!ぐ、あぁ!き、貴様…!い、一体何者…だ…」
巨漢の男は血を吹き出しながら暮仁を憎悪と恐怖が入り混じった眼で睨み付ける。しかし、その目は直ぐに光を失った。
「…」
巨漢の男の死を確認した暮仁は返り血で赤く染まった剣を抜き取りあたりを見まわす。
山賊たちは「頭がやられた!?」「お、おい!どうするんだ!?」「知らねぇよ!」「くそ!あんな奴相手にしてられねぇよ!」と騒いでおり数人が逃げ出している。
「どうする?まだやるか?」
暮仁はそう言いながら一歩近づく。その姿はまるで鬼のようであり恐ろしいものであった。
その姿に統率するものを失った山賊たちは悲鳴を上げて逃げていった。残ったのは死んだ巨体の男と遠くから見ていた村人のみだ。
「…ふう、何とかなったな」
「陛下、けがはありませんか?」
剣についた血を払っていると良太が近づいて来た。特にけがを作った所はなく殴られたところが痛む手度であった。
「特に問題はない。それよりも」
そこで一旦区切り良太とは反対方向に顔を向ける。そこにはこちらの様子をうかがっている村人の姿があった。
「彼らに説明をしないとな」

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