異世界日本の作り方

鈴木颯手

第壱話 転移

温かい風を肌に感じて暮仁は目を醒ます。暮仁はとっさに顔をあげてあたりを見まわす。どこかの浜辺らしく人の手入れがない自然そのものの浜辺は美しく荒れつつあった暮仁の心を落ち着かせた。どうやら逃げ切れたらしく中国軍は見た限りいないし潜んでいる様子もない。そもそも近くにいればすでに暮仁はこの世にいないだろう。
そこまで考えた時に学友を思い出し近くを見れば全員が浜辺で倒れていた。
暮仁は安堵のため息を出しつつ学友の呼吸を確認する。多少弱っているが全員息をしていたことで今度こそ暮仁は安心した。取りあえず学友を砂浜から離し近くに生えている木の下に寄せた。この浜辺は森に囲まれているらしく三方向が木々で生い茂っていた。
「今は起きるのを待った方がいいな」
暮仁はそう考えて周りに気を配りつつ学友が起きるのを待った。
















学友は意外と早く起きた。
「…あれ?ここは?」
まず起きたのは暮仁と最も仲のいい天童良太だ。中国軍から逃げる際は先頭を歩き暮仁や仲間を励ましながら進んでいた人物だ。
「…うぅ、頭が…」
次に起きたのは良太の幼馴染の最上玲奈だ。良太を追って上京するほど思っているが良太には気付いてもらえず良くみんなで相談に乗ったのが今となっては懐かしい。
「浜辺?てことは助かったのか?」
最後に暮仁と逃げた学友の中で唯一の東京出身の酒田健吾だ。将来は総理大臣になって国を変えてみせると言っていた。本人は今もそれを目指していたらしい。
「よかった。目が覚めたか」
「陛下、ここは何処ですか?見た事ない場所なんですが」
「俺も分からん。目が覚めてから十分もたっていないからな」
「そうですか…」
「とにかくここを離れましょう。日本だったら何時中国軍が現れてもおかしくないので」
「そうだな」
中国軍は数が多い。人口にものを言わせたやり方で行うため少数の暮仁達にとっては厄介であった。
暮仁達は五分ほど休んでから森の中へと足を踏み入れた。森の中は人が入った痕跡はなく獣道のようなものも存在していなかった。
「ここは一体どこなんでしょうね?こんな何もない森なんて初めて見ましたよ」
「さっきいた森の中でさえ獣道はあったからな」
そもそもあんなきれいな浜辺が日本にあるわけがなかった。かといって近隣諸国も発展しているため手つかずの浜辺が存在するとは思えなかった。
「まあ、どちらにせよ今はここを抜ける事を考えよう。このままで飢え死にしてしまう」
「そうですね」
暮仁達はすでに飲まず食わずで二日は歩いている。既に疲労はピークに到達しいつ倒れてもおかしくない状態であった。
暮仁はこのまま永遠に森が続くのでは思ったがそれは杞憂だった様だ。十分ほど歩けば森が開けたのだ。森を抜ければ辺り一面草原となっており右の方に踏み固めて作った道が見えた。
「どうやらここは日本ではないようだ」
発展し続けた日本に今更こんな草原は残っていない。都会で育った暮仁は新鮮に思えた。
「恐らく国外の何処かと思うが行ったどこの国なのか…」
反中国国家ならいいが親中国国家だと見つかれば掴まり中国に引き渡される可能性があった。そうなれば待っているのは死のみだ。
「今はとにかくここが何処なのか探る必要がありそうだな」
「でも言葉はどうしましょう?」
玲奈の言葉に暮仁は黙ってしまう。流石に暮仁も外国語に精通しているわけではない。精々英語にフランス語程度だ。
「私は一応ドイツ語なら」
「英語にタイ語なら会話できる程度に覚えています」
「日本語以外無理です」
玲奈、良太、健吾の順に話すがこの状況で役に立つかは不明であった。
「仕方ない。どうせこのままでは餓死するだけだ。賭けてみるしかないな」
暮仁は覚悟を決めて踏み固めて作られた道を歩く。
良太達も慌ててついて行く。
「しっかし、綺麗な場所ですね」
「ああ、人の手が入っていないみたいだし意外と辺境の土地に流れ着いたのかもな」
「今は国外ってだけでありがたいですよ」
「そうだな…ん?」
踏み固めて作られた道を進んでいると遠くの方で誰か倒れているのが見えた。
警戒しつつ近づいてみると少女の様で少女の身長より少し小さい籠を背負ってうつ伏せに倒れていた。
「おい、大丈夫か?」
暮仁は籠を少女から降ろし少女の顔を見た。まだ幼いながらに顔は人形のように整っており将来は絶世の美女となるであろうことが想像できた。
「陛下、取りあえずその娘を道の端まで寄せましょう。ここは一応道ですから車が来ないとも限りません」
「そうだな」
暮仁は肯定すると少女を抱きあげて道の端まで移動した。
「しかし、ここは何処なんだろうな」
良太は少女を見ながら改めて考える。少女の外見から察するに7、8歳くらいなのはわかるが少女は黒髪に平たい顔、アジア系の肌をしており見た目だけなら立派な日本人であった。
「日本人なら全世界にいる。たまたま日本人と国外で遭遇しただけかもしれない」
「そうであるといいですね」
最悪の場合はここが朝鮮半島や中国の時だ。見た目だけなら中国人も日本人も見分けはつかない。同じモンゴロイドであるから仕方ない事だが。
「今はこの子が起きるのを待つべきでしょう。玲奈、すまないけど陛下とここにいてくれ。俺と健吾は何か食べ物を森で探してきます」
「大丈夫?」
「大丈夫。森に行けばキノコや木の実ぐらいあるだろうし、食えるものと食えないものくらいは一応わかるから」
そう言って良太は健吾とともにも森に再び入って行った。
少女が目を醒ましたのはそれから数分後の事である。

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