異世界日本の作り方

鈴木颯手

第零話 プロローグ

「陛下!こっちです!」
草木が生い茂る森の中を数名の若者が走っていた。皆服はボロボロで顔には疲労が浮かんでいる。それでも足を休めることはしない。彼らにすればそれは愚行であるからだ。
「陛下!この森を抜ければ海に出られます!あと少しの辛抱です!」
「ああ、すまない」
陛下と呼ばれた青年は目の前を走る青年に答える。
「とにかく今は国外への脱出を図りましょう」
「…うむ」
国外への脱出と聞いた時一瞬悔しそうな顔を浮かべたがすぐに気を引き締めてしかし弱弱しく答えた。

















西暦2085年。この年は日本にとって最悪の年となり日本という国が存在した最後の年となった。
南シナ海を自領とした中国は日本からの米軍完全撤退を受けて本格的に侵攻を開始した。
まず行ったのは日本人を用いて各国でテロ行為を行った。次に自国の首都で大規模なテロを起こし人民の半数を殺害。これを中国は日本のの謀略と訴え日本に賠償を求めた。
更に中国に内通した自衛隊員を使い中国船及び旅客機を撃沈。
中国は報復を謳い日本に侵攻瞬く間に西日本を占領。同月には日本の領土全てを占領した。
政府高官は国外に亡命するが失敗したものは中国軍によって殺された。
そして日本完全占領の最終段階として皇室を絶つために一斉虐殺を決行。当時皇太孫で数名の学友と東北に旅行に言っていた暮仁以外は皆殺しにしてしまったのであった。
唯一残った暮仁は数少ない地域協力者と学友とともに国外への脱出を行おうとしたが中国軍に見つかり山に一旦非難したのである。
その山にも中国軍の手が迫っていた。

















「うわぁぁ!」
「正人!?」
突如響いた発砲音と学友の一人高田正人の叫び声。暮仁が後ろを見れば下腹部には赤い染みが広がっていた。
「クソッ!中国軍の奴等もう追い付いたのか!?」
先頭を行く学友が言う通り遠くから声が聞こえてくる。日本語ではなく中国語だ。
朝方と言う事もあり山の中は霧が立ち込めている為正確には分かっていないのだろう。最初の銃声が聞こえてから銃の乱射音が聞こえてくるがどれも見当違いの方へ当たっている。
とはいえこちらに飛んでくる玉もあるためすぐに移動した方がいいのは明らかだった。
「陛下は急いでここを抜けましょう。正人歩けるか?」
「はは、すまない。ちょっと無理そうだ」
そう言って笑う正人の顔は青ざめている。出血の量も激しく止血にと当てた白いタオルはすでに真っ赤に染まっていた。
「俺を置いて早く陛下を」
「…くっ!陛下行きましょう!」
先頭の学友は断腸の思いで陛下を連れて先に進む。
「へ、陛下…。無事を…祈っています」
それが正人の最後の言葉であった。
既にここに至るまでに八人いた学友は三人にまで減っていた。二人ほど中国軍に掴まったが偽の情報を与えて時間を稼いだためこの世にはもういないだろう。
「見えた!海が見えたぞ!」
先頭を歩いていた学友はそう叫び一足先に様子を見に走る。それを見て他の学友と暮仁の足も早足になった。
そして暮仁は海を抜けたが同時に絶望もした。
山を抜けた先は海が広がっていたが暮仁の足元は断崖絶壁の崖となっていた。
「ここを降りる事は出来なさそうだな…。仕方ない、少し戻って」
学友が最後まで言おうとした時先程よりも近くで中国語が聞こえて来た。
「…仕方ない。飛び下りるぞ」
陛下の言葉に学友は正気を疑ったが同時に思う。今の選択肢はここを飛び下りるか中国人に掴まらない事を祈って森を迂回するかしかない事を。そう考えれば陛下の言葉は最善の手と言えた。
「…相変わらず無茶しますね。俺も付き合いますよ」
「たとえ雨の中水の中、ってね」
「どうせここで中国軍に降伏しても反逆者として殺されるだろうし」
学友の言葉に暮仁は笑みを浮かべると崖を見て言う。
「ならば、行くぞ!」




















『初代天皇陛下の友人の日記にはこう記してある。あの時ほど死を覚悟した事はなかった。あの時の決死の逃亡に比べれば戦争なんて軽いものだ。建国から千年たった今でもこの一文の意味は分かっていない。そもそも初代天皇暮仁とその友人の故郷は判明されていない。当時権勢を誇った大和王朝の出身と言う者もいるが憶測の域を出ないでいる』(雨之武人作「日本皇国記」より抜粋)

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