異世界転生~神に気に入られた彼はミリタリーで異世界に日の丸を掲げる~

鈴木颯手

第三十七話 政変

No Side
「メグル公爵の罪……?」
「一体何をしたんだ?」
「あの公爵に至ってそんな……」

 唐突の言葉に会場の全員が驚愕する。メグル公爵の素晴らしい評判は国内のみならず国外にも知れ渡っている程だ。そんな彼の罪とは一体何なのか?誰もの視線がメグル公爵と皇太子グランハムを行き来しながら固唾をのんで見守っている。

「皇太子殿下? 私の罪とは一体……」
「それは別の者が証言してくれる。ズーク公爵、前へ」
「はっ!」

 皇太子が呼び出したのは三つある公爵家の一つ、ズーク公爵の当主であった。彼はメグル公爵とは正反対の悪い噂しか聞かない為何故彼が呼ばれたのか誰も不思議でならなかったが先ほどまで感じていた疑問は消えズーク公爵の悪巧みという形で場は落ち着こうとしていた。
 周囲がそんな事になっているとは本人は気づいていないようで堂々と歩いていきメグル公爵の隣に立つ。メグル公爵はズーク公爵の方を見て困惑していた。

「ズーク公爵、貴殿が掴んだ情報を話せ」
「はっ! 私が気づいたのはメグル公爵から逃げて来た領民を保護した事によってです!」
「逃げた領民!? そんなはずは……!」
「メグル公爵! 今はズーク公爵が話しているのだ! 黙って聞け!」

 メグル公爵が口を挟むとグランハムは怒声を上げた。いきなりの事にメグル公爵は目を見開き口を閉じる。それを満足そうに見るズーク公爵はニヤニヤとした笑みを浮かべながら得意げに話を続ける。

「では話を続けましょう。私はその領民より話を聞きました。すると! メグル公爵が彼らに行ってきた仕打ちを涙ながらに語ってくれたのです! 私は、その話を聞き背筋が凍る思いがしました! その日は眠る事すら出来なかったほどです……!」
「ではズーク公爵よ。メグル公爵が行った悪事を洗いざらい話せ」
「はっ!」

 メグル公爵は隣で話すズーク公爵に何か言いたげな様子だったがグランハムに一度怒声を浴びせられた為我慢しているが拳を握り締めている様子から何かを堪えている様子がうかがえた。
 そんなメグル公爵など気にしないとばかりにズーク公爵は悠々と話していく。

 領民を奴隷以上に酷使している。
 領民を国外に売りつけている。
 麻薬を製造している。
 別邸にてうら若き女性たちを監禁して言葉では言い表せないような事を行っている。

等々、ズーク公爵が語った内容はあまりにも酷く本当にメグル公爵がやっているのかという疑問が出てくるがそれ以上に壮絶な内容の為もしかしたらという気持ちを持つ者もあらわれていた。
 そこで漸くグランハムは冷たい視線でメグル公爵を見た。

「メグル公爵、何か申し開きはあるか?」
「皇太子殿下! 私は、そんな事は……!」
「今更否定か。残念だが貴様に不当な扱いをされたという者を保護している。証言も取れている。大人しく罪を認めよ」
「そんな……、私はそんな事は……」

 メグル公爵はその場で膝を付きうつむいている。その様子を見たグランハムは衛兵に命令を下そうとした時だった。今まで静観していた皇帝が声をあげた。

「グランハムよ。これはどういう事だ? 余は大事な話があるとしか聞いていないぞ」
「この状況の通りですよ。それ以上でもそれ以下でもありません」
「だが、やりすぎだ」
「……」

 それを聞いたグランハムは失望したような視線を向けるとズーク公爵に視線を向けた。ズーク公爵はその意味を悟ったのか笑みを浮かべると右手を挙げた。
 瞬間、扉を蹴破り幾人もの兵が入って来る。衛兵とは違う鎧を着ている事からズーク公爵の私兵というのが想定できた。しかし、唐突に入って来た兵に会場は一気に混乱する。それは皇帝とて同じことで目を見開き驚愕の表情をしていた。

「グランハム! これはどういう事だ!?」
「父上、貴方には今この瞬間を以て退位していただきます。皇帝は今後、私がなりましょう」
「馬鹿な……! そんな事を出来るはずが!」
「問題ありませんよ。陛下」

 グランハムの言葉に動揺する皇帝に話しかけたのはズーク公爵だった。会場は既に兵が壁際と公爵たちを守るように展開が完了している。顔を青ざめている皇后とメリエルには兵士が持つ槍の切っ先が向けられている。

「元々殿下は皇太子です。それが皇帝になったとしても問題はないでしょう。それも陛下が退位を宣言なさればね」
「そんな事をすると思っているのか!?」
「では殿下が確実に即位できるように全員殺すとしましょうか」
「っ!?」

 その言葉に反応するように兵士の一人が皇后の腹部に槍を深々と突き刺した。瞬間に上がる悲鳴に会場の者達は顔を青ざめているが出入口は兵士たちが抑えており誰一人として逃がさないという意志が感じ取れていた。故に、この場の誰もが玉座で起きている事を見守る事しか出来なかった。

「ミアーシャ!? やめろ! やめてくれ!」
「では退位していただけますね?」
「……分かった。余は退位し、グランハムに帝位を譲る」

 力なく宣言したその言葉にズーク公爵は笑みを浮かべグランハムは皇帝が皇后の方に駆け寄り空いた皇帝の玉座に深々と座った。

「諸君、聞いた通りだ。これより俺がガルムンド帝国皇帝となった。反対する者は今この場で名乗り出よ」

 グランハムはそう言うが誰一人として声を上げる者はいなかった。例え反対だったとしてもこの場で声を上げれば殺される事は誰にでも予想が出来た。

 こうしてガルムンド帝国は新たな時代を迎えることとなった。しかし、後の歴史家はこう答えている。

『ガルムンド帝国が大陸最強の国家として存続出来る最後のチャンスはここでなくなりました。グランハムは自ら歴史に名を残す愚帝の道を歩み始めたのです』

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