異世界転生~神に気に入られた彼はミリタリーで異世界に日の丸を掲げる~

鈴木颯手

第二十五話 大陸の国々

No Side
 ハンラット大陸の南東部に位置する宗教国家聖オクシデント法王国は神を頂点としつつ法王を神の代理人とする構図を取る国家である。それゆえに総人口の八割は信徒であり同盟国のハクレイド帝国やインテガリア公国などでも国教と認められるほど、勢力を誇っていた。
 そんな国であるが近年では北部のガルムンド帝国の侵攻を受け少しづつ領土を失いつつあった。大陸南東部にあるハサミのような形をした東部イデコメー半島と西イデコメー半島にまで撤退を許し聖都バレアレムの陥落も近かった。

「聖下! 大変です!」

 法王国の聖都オリエントにある法王の自室に一人の男が入ってきた。法王を支える枢機卿の一人である。そんな枢機卿に対し法王は何か書類整理をしていた様で見た目以上の俊敏な動きで何かを書いていた。

「……どうしたのです? 見ての通り私は忙しいのですが」
「……アルバ島のパララルカ王国が崩壊しました」

 その言葉を聞き法王の手が止まる。そして書類にばかり向いていた目が初めて枢機卿を捕らえた。その瞳は続きを促しており枢機卿は緊張しつつ話す。

「数年前にアルバ島北部に”日本帝国”という国が誕生していたようでパララルカ王国はその国によって王都を破壊されアルバ島を追い出されたようです。現在、我が国の港にパララルカ王国からやってきた船が大量に停泊しています」
「亡命や難民ですか?」
「はい。数は千を超えておりこのままだと五千は軽く超える勢いです」
「分かりました。彼らを受け入れましょう」
「ですが……」

 法王の指示に枢機卿は難色を示す。今の法王国に千以上の難民をいきなり受け入れる国力はない。ガルムンド帝国から侵略を防ぐことに費用を使っているからである。その為、法王国内でも餓死者が出始めている程だった。
 その事を分かっているのか、法王は笑みを浮かべると受け入れる理由を話し始めた。

「問題ありません。彼らには我が法王国の”壁”として行動してもらいます。今すぐに何か武器を持たせてガルムンド帝国に送り出しなさい。食料は渡さず指示に従い動き出した者にのみ日に二回、食料を与えるのです。食料をこちらで握り従わないと命はないと脅すのです」
「成程、確かにそれなら……。ですが、もし彼らが食料を持っていた時は……」
「それなら食料を全て徴収する代わりに国内に住む許可を与えればいいのです。勿論、住める場所は北部に限定します」

 つまり、法王国にやってきたパララルカ王国の民に与えられた選択肢は『食料などを得られる代わりにガルムンド帝国と戦う』か『食料などを全て差し出してガルムンド帝国が何時攻めてくるかも分からない北部に住む』か、どちらかしか与えないというものだ。枢機卿も納得してその案を実行するべく部屋を後にした。
 一人、残された法王は先ほどまで行っていた書類整理には戻らずに窓の外に見える空を見上げる。そして呟いた。

「我が法王国にとって日本帝国は”救世主”となりえるのか、それとも滅亡へと誘う”悪魔”なのか。どちらにしろ彼の国の動きには注意しませんと行けませんね」









 聖オクシデント法王国の北部、ハンラット大陸東部を支配するガルムンド帝国は名実ともに世界最強の国家である。僅か百年程で十倍も勢力を広げ東方に置いて一大勢力だった聖オクシデント法王国相手に連戦連勝を繰り広げている。一時期はパララルカ王国をアルバ島に追いやり大陸からたたき出したこともあったが十年以上前に大陸に再上陸されシアーリス半島を奪われた事もあるがそれ以外の戦争ではほぼ負けなしだった。
 そんな大国ゆえに毎日の様に各国の使者がやって来る。大半が不可侵条約や同盟締結などが目的でありガルムンド帝国の”友好国”と言う立ち位置を欲しているのである。これはガルムンド帝国に気に入られているという事でありその国に攻め入れば最悪の場合ガルムンド帝国が介入してくる可能性もある重要な地位だった。
 明らかに媚びを売る各国の使者を対応するのはガルムンド帝国皇太子であるグランハムの役目である。「若いうちから各国とのコネクションを作っておくべきだ」という父である皇帝の思惑により行われているがグランハムにとってはめんどくさい各国との相手を丸投げにされている様なものだった。

「何故他国はこんなに俺たちに媚びを売るんだ?」

 あまりにも多い使者に辟易としたグランハムが補佐をしてくれる執事や侍女に聞いたことがある。そんな疑問に答えるように彼らは等しく、同じ回答をした。

「それは我らガルムンド帝国を恐れているからです。我らに侵略されないように彼らは民族の誇り、国家の矜持を捨てて我らに媚びへつらっているのです」

 その回答はグランハムにとっては理解が出来ないものだった。彼の周囲にはグランハムを皇太子として敬う者ばかりではあるが媚びへつらい、少しでも待遇をよくしてもらおうとする輩は皆無だった。グランハム自身が皇太子として将来が約束されているのもある。力なき国々の事情など理解も納得も出来るものではなかったのだ。

「なら不快な国はガルムンド帝国への立ち入りを禁止しよう。近い国なら攻め滅ぼすのもいいかもしれない。失礼な使者を送ってきているんだからその様な事態に陥っても可笑しくはないよね?」

 聖オクシデント法王国に大軍で攻め入り、属国であるループル公国に駐留軍を置き治安維持を行いつつハクレイド帝国と大軍同士の小競り合いを行っているにも関わらずガルムンド帝国にはまだまだ与力があった。世界最強の国家というのは伊達ではないのだ。
 皇太子グランハムの言葉は直ぐに各国の知る事となりあからさまな媚びへつらいをする使者はいなくなった。グランハムは自らの言葉の重さを知ると同時に煩わしい各国からの媚びへつらいを一気になくすことに成功するのだった。これが後にガルムンド帝国の衰退を招く事態になるとも知らずに……。

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