悪徳領主(商人)で快適生活

鈴木颯手

第五話 王都とパーティー

次の日、窓から外をのぞくと死んだと思われる奴隷はいなくなっていた。実際は生きていたのかそれとも直ぐに片づけられたのかは分からないが俺が知る事は無いだろう。
朝食をすますと再び父とは違う馬車に乗せられて王都へと馬を走らせた。王都とエッケルタはかなり離れているため途中休憩や昼食を挟んで夜にようやく王都につくことが出来た。王都は王国の首都だけあってエッケルタほどの活気はないが…と言うか夜なので人自体がまばらであるのだが。
それにエッケルタ同様奴隷の数も多いな。だが、エッケルタよりは酷くは扱われてはいなそうだ。流石に王都だけあるからか奴隷の死骸を出すような事は無いか。それでも扱いが悪いことに変わりはないか。
今回王都に来たことは成功だったな。まだ王都についたばかりだったが辺境伯の屋敷が世界全てだったことを考えるととても新鮮であった。本屋使用人からの話でしか知ることが出来なかったこの世界についてを実際に見ることが出来た。これは何もできずに瑞樹アルフレッドの話を聞くだけだった日々に出来た新しい風だ。俺はようやく一歩前に進めたのだ。
そんなことを考えつつ俺と父が乗る馬車は屋敷とは比べられないほどの大きさの王城へと入っていく。流石は大陸の半分を収める王国の王城だけはある。逆らう気をなくさせるような威圧感を持っている。中に入ると父とは別れて辺境伯が与えられている部屋に通されパーティー用の衣装に着替えさせられる。うん、ザ・貴族衣装と言った感じだがすごく動きにくいし苦しい。普段からは着たくない衣装だな。
着替えさせられた俺は一つの扉の前まで連れて来られる。そこには父がおり俺が来たのを確認したからか扉を盛大に開けた。そこにはそこだけで生活できるくらい広い式場に百はいそうな貴族たちがいた。成程、これだけ貴族がいればこの広さも納得できるな。
「辺境伯、オレール・バルバストル!アベル・バルバストルのおなぁりぃ!」
そして扉が開かれると同時に扉に控えていた兵士が大きな声で式場に伝える。その言葉によって貴族たちがこちらを見てくる。…あまり心地の良いものではないな。俺としてはあまり目立つのは好きではないからな。…しかもよく考えるともっと早く来れたのではと思ってしまう。まあ、後の祭りではあるが。
俺はとりあえず父について行く。流石に中身はおっさんとは言え今の見た目は10歳だ。いろいろと不味いだろう。
「おお!バルバストル辺境伯殿!久しぶりですな!」
そう思っていると父に近づく貴族がいた。かなり体が引き締まっており見た目は武勇のある将軍と言った感じの人であった。
「クレア伯、久しぶりだな。七年ぶりかな」
「六年、ですぞ。ここ十年ほどは王国はバタバタしておりましたからの。全貴族を招いてのパーティーなど八年ぶりですな」
「全くです」
どうやらここ十年は王国がごたごたしていたみたいだな。成程、それなら御用達の商人が領地を離れていたのもそれ関係でのことかもしれない。やはりここに来たのは正解だったか。
「ところで、そちらの子供は辺境伯殿の御子であるのかな?」
「ええ、その通りです。アベル、挨拶をせよ」
「はい、お初にお目にかかります、クレア伯。アベル・バルバストルと申します。以後、お見知りおきを」
「ほほう、なかなか聡明な子である様じゃの」
「いえいえ全然ですよ」
…クレア伯はどうやら無能ではないようだな。父にも見習ってほしいものだ。
「それでは、私は公爵殿下にご挨拶に参りますのでこれで失礼します」
そう言うと父は俺を連れて式場の奥の方へと向かった。式場の奥に行けば行くほど人は多くなっていきしまいには貴族の壁が出来ていた。おや?ここは貴族によるラグビーでも行われているのかな?全然進めそうにない。
そう思っていると急にスクラムが解けていき通路の如く左右にキレイに分かれてしまった。一体何があったのかな?貴族通路の先には貴族よりも身なりの良い男性がおりこちらに向かってきた。あれが公爵様なのかな?その公爵?が近くまでくると父が頭を下げた。
「お久しゅうございます。国王陛下」
…公爵どころか国王陛下でした。その国王陛下は父の言葉に満足げに頷く。
「うむ、何年振りかの。最後に会った時には王位を継いだばかりの頃であったな。あの頃は王位を継いで王国が揺れ動いてしまったがお主が帝国を防いでいてくれたおかげで無事に収めることが出来た。礼を言うぞ」
どうやら王国のごたごたは王位を継承したからのようだな。確かにどの世界でも継承するときが一番もめるからな。特にその前が優秀だと比べられるからな。
「陛下。こちらは息子のアベルです」
そんなことを考えていると父は俺の事を国王に紹介する。って、いきなりやられても困るんだが。とにかく頭を下げる。
「お初にお目にかかります。アベル・バルバストルと申します。以後、お見知りおきを」
「ほう、その年にしてはしっかりしておるな。わしの事は知っておると思うが名乗っておこう。わしはエドワード・チャールズ・テューダーだ。これからも頼むぞ、未来の辺境伯よ」
「はっ!」
…少なくとも俺は辺境伯として継承できるという事かな。何度も言うが今回の事はとてもいい事ばかりだな。後はさっさと成人迎えて父を金属中毒で殺さないとな。
俄然やる気が湧いてきたぜ。

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