魔帝國戦記~ムーアシア大陸編~

鈴木颯手

25・マーシャル連邦侵略戦争~ウィテリック・エニウェトク間の戦い2~

「我が軍千に対して敵は正面だけで五千。その横に中央の方を向く敵が五千…手が出しづらいな」
ギルは率いる兵のいないベールナ軍千を率いていたがその前に陣取っているのはラリック軍五千であった。比率的に見れば中央のウィテリック軍とエニウェトク軍別働隊よりも少ないがそうであるから勝てると言うわけではない。高々戦では質がこちらの方が上でも押しとおされる可能性があり正面から突撃するのは危険であった。ただでさえ今なお歩兵相手に無双を繰り返しているボブゴブリン切り込み隊長率いる切込み部隊のような突出した戦力がある訳でもない。そもそもベールナ軍千はゴーストタウンとならないように配置しているだけであるためステータスもそれなりに低かった。
「…とまぁ、ここまで普通の奴でも考え付く。だから常識・・の範囲外から攻めさせてもらおう。武器を構えよ」
ギルは不敵な笑みを少し浮かべると指示を出しベールナ軍千に弓を構えさせたのである。
無論、その様子は対陣しているラリック軍五千にも丸見えであった。
「…敵は障害物がない状態で弓を撃たせようとは…指揮官は愚か者のようだな」
ラリック軍五千を率いる将軍ルドガー・アーレントはそう呟いて呆れた。彼から見ると戦術を知らない指揮官がいるようにしか見えなかったのである。
「まあ、それで敵が崩れるなら問題ないな。先発隊を向かわせろ」
ルドガーの指示で先発隊千が進んでいく。ラリック軍の中でも精鋭を集めたこの軍勢はエニウェトクの太守ハネス・ヴェリンガーすら感嘆させるものである。
そんな精鋭部隊千は雄たけびをかげることもなく淡々と、しかし確実にベールナ軍千へと迫っていった。
そんな時、ベールナ軍千は矢を放った。山なりに発射されたそれは人間が放ったものよりも飛距離が長かったが精鋭部隊千はそれを難なく回避していき当たったのはわずか十数名でありその十数名も大したけがをしなかった。
そのまま精鋭部隊は次の矢が来る前に一気に迫るがここで不思議なことが起きた。精鋭部隊は近づくにつれ角度が上がっていることに気付く。そして精鋭部隊の隊長は素早く周りを確認して驚愕する。
「…なんだ、これは…」
ベールナ軍千を頂点としてそれなりに急な山が完成していたのである。先程までは平たい平地であったのに今では山が出来ていることに精鋭部隊の隊長は驚きのあまり足が止まり部隊の者たちも予想外の事に足が止まってしまう。
そのすきを逃すほどギルは甘くはなくすぐさま矢を放たせた。その矢は的確に精鋭部隊に襲いかかりかなりの数の死者を出させることに成功した。
「くっ!急げ!次の攻撃が来るまでに頂上へとたどり着くのだ!」
隊長がそう鼓舞して前進するがまたしても彼は常識外の事を目にしてしまう。
「なっ!水!?退避…ぐあ!」
突如として頂上から大量の水が流れ出たのである。これには隊長も対処しきれずに精鋭部隊すべてを飲み込んで押し戻していく。更にその勢いを保ったまま後ろのラリック軍四千へと襲い掛かった。
「うわ!水だ!」
「た、助けて…!おれ、泳げな…」
「くそ、鎧を脱げ!溺れ死ぬぞ!」
気付けばラリック軍本体を囲むように岩で覆われており高さはかなりあり水は増え続けていた。このまま水が増え続け満杯になるころには全員が溺死しているだろう。
「まさか敵がここまで常識外だったとは…ゴホッゴホッ!」
ルドガー・アーレントは幸いにも高齢と言う理由で鎧を着ていなかったため浮くことが出来ていたが何か掴める物もあたりには存在せず冷たい水が体温を容赦なく奪い溺れかけていた。
「将軍!大丈夫ですか!?」
そこへ若い兵士が将軍の元まで泳いできて将軍を助ける。
「将軍!しっかりしてください!」
「…ワシはもうだめだ。私を見捨てて君は逃げなさい」
「そんな事例えこの命と引き換えだろうと出来ません!」
若い兵士はそう叫ぶと上を見上げた。水量がもう少し上がればラリック軍の周りを覆う壁にのてっぺん手が届きそうであった。
「水が襲ってきたとき後ろの壁に大きくぶつかった。下半身が全く動かない。それに…こうして話しているのもかなりつらい…」
「将軍…!」
「無念だ…だが、同時に安心している…。クヌート様は助かることが出来ているのだから」
クヌートとはラリックの太守で政治手腕はかなりの腕を誇るが軍略には全く通じておらず軍事に関してはルドガーに任せていた。そんな彼は現在別働隊五千を率いてルドガーの指示通りに動いていた。その為この壁の中にはおらず五千の兵も健在であった。
「本当ならもう少し…側で見守っていたかったのだが…それも…叶わないか。…クヌート様、天から見守っておりますぞ…」
「…将軍?将軍!将軍!」
その言葉を最後にルドガーは息を引き取った。ルドガーを支えていた兵士はそのまま泣くも少しすると水が一杯になろうとしていた。
「将軍…。もうすぐ一杯になります。あと少しで…え?」
兵士はルドガーにそう話しかけたが次の瞬間には呆けた声を出していた。ものすごい音がしたと思うと一気に水が下がり始め渦を巻き始めたのである。
ルドガーを支えていた兵士は絶叫と共に意識を失うのであった。
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