魔帝國戦記~ムーアシア大陸編~

鈴木颯手

18・マーシャル連邦侵略戦争~エニウェトク~

ウィティリックへと戻ってきたギルは八百まで増えたウィティリックの全軍を率いてウィティリックの西方に位置するマーシャル王国の都市エニウェトクへと進軍した。ただし、今回は偵察が主な目的である。
エニウェトクはムーアシア大陸最西端に位置する都市でありマーシャル王国第二の都市として栄えていた。良質な鉄が取れる場所でもあるため代々王族に連なるものが治めて来ていた。その為この都市を落とせばマーシャル王国はほぼ国としての機能を失い連邦にも大打撃を与えることが出来た。しかし、重要な土地であるため都市の規模は首都よりも大きく守っている兵も多かった。
「ここから見るだけでもかなり苦戦しそうな規模だが…一当てしてみるか?」
ギルはそう呟くが門は固く閉じられている。エニウェトクのまわりは見渡しのいい平原であるためギル達の動きは既に知られていたのである。
「…ゴブリン兵百は突撃せよ」
ギルは冷静にそう伝え指示を聞いたゴブリンは百名のみエニウェトクの都市に向かって進んでいった。最初のうちは何もなかったものの途中からエニウェトクの都市から何から勢いよく放り投げられ岩が多数飛んできてゴブリンの周りに着弾していく。中には潰された個体もいるようで岩が降る中進んでいっている個体は少なかった。さらに途中からは燃え盛る炎の球が降っていき勢いは増していきやがて百名は都市にすら辿り着けずに全滅してしまう。その時間はかなり早くそれほど時間が経ってはいなかった。
「成る程、予想以上にエニウェトクの防御は想像以上に固かったか。本来ならもう少し調べたいが今はこの情報を持って帰るのを優先するか。それに撤退すれば追撃は来るだろうからな」
ギルはそう予想すると全軍に撤退命令をだしウィティリックへの帰路についた。


















「見よ!化け物どもは尻尾を巻いて逃げていくぞ!我らの勝ちだぁ!」
「「「「「わああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」」」」」
ギル達化け物軍が逃げていったのを確認したエニウェトク太守ヨハネス・ヴェリンガーは普通の人の倍以上はあると思われる太い腕を突き上げて叫ぶ。その言葉に合わせるようにエニウェトクの兵士たちも勝利の叫び声をあげた。その熱は冷めることはなさそうなほど熱く燃え上がっており細身の文官と思われる者たちは熱そうに遠くへと離れていた。
「…追撃を仕掛けるかい?」
暫く兵士たちと一緒に声を上げていたヨハネスの息継ぎを待って彼の軍師であるヨーゼフ・ヴィンクラーは問うた。肩にかかる程度の髪に前髪が目に入らないように分けている彼は一見すれば文官と間違えるほど細く顔は青白かった。しかし、その眼は確固たる意志が宿っており文官ではないと思わせていた。
軍師の言葉にヨハネスはふんと鼻を鳴らす。
「追撃はなしだ。あれは恐らく偵察隊。態々こちらの手の内を見せる必要はない。貴様も分かっておろう」
「…ふっ、そうだね。いつもの様に勢いに任せて地の果てまで追いかけまわすのかと思ったから聞いただけだよ」
「もう昔の話だ」
「ふふ、そうだね。最後に行ったのは一年と百五十一日前だったね」
「…俺は城に戻る。事後処理と敵の正体解明は任せた」
暗に言うほど昔ではないと軍師は言うがヨハネスは無視して事後処理を押し付けて太守の城へと向かっていく。
その後ろ姿を「全く、そんなに怒らなくてもいいと思うんだけど」と言いつつ「分かったよ。僕に任せて君は休んでいると言いよ」と気遣い化物の死骸を取るためにエニウェトクから外へと出るのであった。
「さて、早速始めようか。君は姿かたちが分かる個体を探して絵をかいて。君は燃やす準備を。君は僕と一緒に情報収集だ」
「「「了解しました」」」
死骸の近くまでくると軍師はテキパキと指示を出していく。自らも口元を布で覆い病原菌予防をして行う。
「これは…猿人類とは違うしかといって他の動物でもない…、まさに新種と呼べる存在だ。それに筋の硬さが凄いな。これなら一体で人間の倍以上の働きが出来そうだな」
「軍師様、スケッチが完了しました」
軍師の部下がそう言って羊皮紙に描いた化物の顔、体、その他の特徴を見せてくる。それを見て軍師は更に思案顔となる。
「う~ん、これを見た限りではやはり新種の動物もしくは人と言う事か?でもそれが千近くも一斉に現れるものか?それとも王都と連絡が取れない理由の一部でもあるのかもしれないね。これはもっと詳しく調べる必要がありそうだね。君たち。奇麗な死体を残して残りは焼却処分するよ。燃やさなかった死体は地下にある僕の研究室まで運んでおいてね。僕はこのことをヨハネスに伝えてくるから」
「「「了解しました」」」
部下たちは返事をしてすぐに作業へと移った。そんな彼らの脇を軍師は通る。しばらく歩くと立ち止まり笑顔を空へと向けて話す。
「ふふふ、何か面白くなりそうな予感がするよ」
彼はそう言うとエニウェトクへと向かって再び歩くのであった。

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