異世界戦国記
第八十五話・加納口の戦い11
俺は倅の信元を逃がし遠山景前の兵と対峙する。遠山景前が率いている軍勢は千を超えているだろう。それに対するこちらの兵は三百程度。残り五百は柴田殿に預けて本丸から出てくる斎藤勢の相手をさせておる。しかし、これほど敵が多いのなら全員連れてくるべきだったな。
そして、俺は遠山景前を見るが視線は鋭く、睨みつけるようになっているのを自覚する。信元が肩を貸していた信近の後頭部には矢が刺さっていた。明らかにこいつらやられた傷だろう。握っている槍がミシミシと音を立てていやがる。
「おらぁっ! 景前! 貴様も将なら俺との一騎打ちに応じたらどうだぁ!?」
「ふん、ワシはお主のような猪武者ではないのでな。お主には我が兵たちの相手となってもらおう」
俺が前に出れば景前は後ろに下がり間にアイツの兵が入って来る。その全てが精鋭と言える者達で俺の槍にしっかり合わせて反撃してくる程だ。とは言え1対1なら俺に勝てる奴はいない。数と奇襲に特化した、確実に俺を仕留める動きをして来るからこそ互角の状況となっていた。
俺が一人、二人と下していくと敵は三人、四人と数を増やしていく。既に俺の周りには味方はおらず敵が半包囲するように囲んでいる。数は10人は確実に超えておるな。そして、俺と景前の距離はおおよそ兵五人分!先ほどよりも遠くなってきているな。このままでは数に押されて我らが敗北するか。ならば……。
しかし、俺がそこまで考え実行に移そうとした時だった。俺の後方の兵たちが吹き飛び、そこから騎馬隊がやって来る。旗印は斎藤家。先頭には俺を超える巨漢の男がいる。馬に乗る姿は威圧感を出しており味方のはずの遠山家の兵すらビビっていやがる。
「貴様、何物だ?」
「我は斎藤家家臣、加藤影泰だ」
「っ! 貴様が……!」
俺と柴田殿が相対していた相手。若手ばかりの稲葉山城に置いて数少ない老将の一人。まさかここまでの人物とは思っていなかったがな。そんな影泰は俺の方に向かって何かを投げてくる。どうやら誰かの首らしく俺の顔面に飛んできたそれを体を傾けて避ける。それは俺の後ろ、半包囲する遠山家の兵との間に落ちた。
「……一体何の真似だ?」
「いいのか? 貴様にとっては大事な首ぞ?」
「……!」
その言葉に俺は嫌な予感がする。先程、信元のほかに信近しかいなかった。信元の陣には近守がいた。だが先ほどは一緒に行動していなかった。では近守は何処に?影泰が奇襲を仕掛けてきたのは倅の陣。それを見たから俺はこうしてここまでやってきたのだ。
俺が振り向き首の方を見れば首はこちらに顔を向けていた。……首は、近守のだった。鋭い眼光だが生気のない瞳でこちらを見ている。その瞳は何処までも深く、俺を取り込もうとしている様だった。
「っ! 貴様ぁぁぁぁぁっ!!!!」
「流石に息子の首の前では冷静ではいられないか」
俺は一瞬で目の前が真っ暗になり影泰に槍を放つ。だが俺の攻撃は全て単調なものとなり馬上にも関わらず影泰は軽やかに避けて時には弾いていく。だが、それでも俺は持ち前の力を使い強引に影泰に攻撃を続ける。
「くっ! 手強いな」
「死ねぇっ!」
そしてついに馬上から影泰を落とす事に成功した。その衝撃で怯んだすきを突き俺が槍を放つ。今度は邪魔される事なく影泰の首に向かって行き、
背中に走った激痛で槍の動きは止まった。
一瞬、何が起こったのか分からない。だが俺の視界には体から生えている血に染まった槍が見えた。それを自覚すると同時に口から大量の血が噴き出す。ゆっくりと後ろを向けば遠山家の兵士たちが俺に槍を突き刺していた。周りにいたはずの俺の兵たちは、みんな血の池に沈んでいやがる。
ああ、俺はここで漸く冷静になれた。どうやら俺は息子の死に激怒して周りが見えなくなっていたようだ。息子と同じくらいに大切な兵たちがやられているのにも気づかずに。
「やれやれ。遠山殿、あと少し遅ければワシは死んでおったぞ」
「それは済まない事をしたな。だが結果的に死ななかったのだ。そしてそいつの首はそなたに譲ろう。せめてものわびだ」
「ほう? それは有難い。これほどの武士を手柄に出来るのは重畳」
影泰が脇差を抜いて俺に近づいてくる。心の臓もやられたらしく腕の感覚はない。持っていた槍は刺された痛みで落とした。後出来るのは僅かだな。
信元よ。お前を置いて逝く俺を許せとは言わん。水野家の今後はお前に任せたぞ。
「っ! 貴様!?」
「ただで死ねるかよ!」
俺も脇差を抜き躍りかかる。またしても硬直し動けない影泰を押し倒しそのまま首に脇差を落とす。もはやどこが痛いのか分からないくらい痛いうえに恐らく後数秒の命だ。だが、その数秒の命、きっちりと燃やして見せよう! 俺は残った力を腕に集中させ体重をかける。少しずつ影泰の首に沈んでいく脇差。
「加藤殿!?」
「ぐっ! がぁ……!」
「近守の命を奪った罰だ! 俺の共を! させて、やる……よ……」
俺は薄れゆく意識の中、影泰の首を切り落とした感触を感じながらその意識を失った。
ああ、近守。
安心しろ、信元なら大丈夫だ。
手前勝手だが俺達はあの世から信元の事を見届けて野郎ではないか。
さぁ、信元よ。お前の時代を見せてくれよ……
そして、俺は遠山景前を見るが視線は鋭く、睨みつけるようになっているのを自覚する。信元が肩を貸していた信近の後頭部には矢が刺さっていた。明らかにこいつらやられた傷だろう。握っている槍がミシミシと音を立てていやがる。
「おらぁっ! 景前! 貴様も将なら俺との一騎打ちに応じたらどうだぁ!?」
「ふん、ワシはお主のような猪武者ではないのでな。お主には我が兵たちの相手となってもらおう」
俺が前に出れば景前は後ろに下がり間にアイツの兵が入って来る。その全てが精鋭と言える者達で俺の槍にしっかり合わせて反撃してくる程だ。とは言え1対1なら俺に勝てる奴はいない。数と奇襲に特化した、確実に俺を仕留める動きをして来るからこそ互角の状況となっていた。
俺が一人、二人と下していくと敵は三人、四人と数を増やしていく。既に俺の周りには味方はおらず敵が半包囲するように囲んでいる。数は10人は確実に超えておるな。そして、俺と景前の距離はおおよそ兵五人分!先ほどよりも遠くなってきているな。このままでは数に押されて我らが敗北するか。ならば……。
しかし、俺がそこまで考え実行に移そうとした時だった。俺の後方の兵たちが吹き飛び、そこから騎馬隊がやって来る。旗印は斎藤家。先頭には俺を超える巨漢の男がいる。馬に乗る姿は威圧感を出しており味方のはずの遠山家の兵すらビビっていやがる。
「貴様、何物だ?」
「我は斎藤家家臣、加藤影泰だ」
「っ! 貴様が……!」
俺と柴田殿が相対していた相手。若手ばかりの稲葉山城に置いて数少ない老将の一人。まさかここまでの人物とは思っていなかったがな。そんな影泰は俺の方に向かって何かを投げてくる。どうやら誰かの首らしく俺の顔面に飛んできたそれを体を傾けて避ける。それは俺の後ろ、半包囲する遠山家の兵との間に落ちた。
「……一体何の真似だ?」
「いいのか? 貴様にとっては大事な首ぞ?」
「……!」
その言葉に俺は嫌な予感がする。先程、信元のほかに信近しかいなかった。信元の陣には近守がいた。だが先ほどは一緒に行動していなかった。では近守は何処に?影泰が奇襲を仕掛けてきたのは倅の陣。それを見たから俺はこうしてここまでやってきたのだ。
俺が振り向き首の方を見れば首はこちらに顔を向けていた。……首は、近守のだった。鋭い眼光だが生気のない瞳でこちらを見ている。その瞳は何処までも深く、俺を取り込もうとしている様だった。
「っ! 貴様ぁぁぁぁぁっ!!!!」
「流石に息子の首の前では冷静ではいられないか」
俺は一瞬で目の前が真っ暗になり影泰に槍を放つ。だが俺の攻撃は全て単調なものとなり馬上にも関わらず影泰は軽やかに避けて時には弾いていく。だが、それでも俺は持ち前の力を使い強引に影泰に攻撃を続ける。
「くっ! 手強いな」
「死ねぇっ!」
そしてついに馬上から影泰を落とす事に成功した。その衝撃で怯んだすきを突き俺が槍を放つ。今度は邪魔される事なく影泰の首に向かって行き、
背中に走った激痛で槍の動きは止まった。
一瞬、何が起こったのか分からない。だが俺の視界には体から生えている血に染まった槍が見えた。それを自覚すると同時に口から大量の血が噴き出す。ゆっくりと後ろを向けば遠山家の兵士たちが俺に槍を突き刺していた。周りにいたはずの俺の兵たちは、みんな血の池に沈んでいやがる。
ああ、俺はここで漸く冷静になれた。どうやら俺は息子の死に激怒して周りが見えなくなっていたようだ。息子と同じくらいに大切な兵たちがやられているのにも気づかずに。
「やれやれ。遠山殿、あと少し遅ければワシは死んでおったぞ」
「それは済まない事をしたな。だが結果的に死ななかったのだ。そしてそいつの首はそなたに譲ろう。せめてものわびだ」
「ほう? それは有難い。これほどの武士を手柄に出来るのは重畳」
影泰が脇差を抜いて俺に近づいてくる。心の臓もやられたらしく腕の感覚はない。持っていた槍は刺された痛みで落とした。後出来るのは僅かだな。
信元よ。お前を置いて逝く俺を許せとは言わん。水野家の今後はお前に任せたぞ。
「っ! 貴様!?」
「ただで死ねるかよ!」
俺も脇差を抜き躍りかかる。またしても硬直し動けない影泰を押し倒しそのまま首に脇差を落とす。もはやどこが痛いのか分からないくらい痛いうえに恐らく後数秒の命だ。だが、その数秒の命、きっちりと燃やして見せよう! 俺は残った力を腕に集中させ体重をかける。少しずつ影泰の首に沈んでいく脇差。
「加藤殿!?」
「ぐっ! がぁ……!」
「近守の命を奪った罰だ! 俺の共を! させて、やる……よ……」
俺は薄れゆく意識の中、影泰の首を切り落とした感触を感じながらその意識を失った。
ああ、近守。
安心しろ、信元なら大丈夫だ。
手前勝手だが俺達はあの世から信元の事を見届けて野郎ではないか。
さぁ、信元よ。お前の時代を見せてくれよ……
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