NON DEAD〜転生したら不老不死というユニークアビリティを授かったので異世界で無敵となった〜

英雄譚

第17話 閉ざされた光

 
「村にふりかかる厄介を払ってくれた英雄に祝福を! 今宵は宴を開催するぞ! 全員参加じゃ!」

 村に帰るころに村長はキュリムからの報告を聞いた途端にテンションを上げた。 村長の奥さんはというと、フライパンをもって音を立てながら村人たちを呼んでいた。

「お酒は飲めるのでしょうか?」

 カゴを持った村娘は興味がありそうな表情でキュリムに近づき聞いてきた。

「あ、ああ。ある程度なら飲めると思う」「では今夜、この村でも至高の一品を用意しますね。そちらのお方は……?」

 キュリムの隣にくっ付いている魔道士のドロシーが気になり村娘は聞いた。 彼女はというと、キュリムの隣で寝ていて肩に頭を預けているところだ。 熱々カップルのようだが、彼女の小さな体を見る限りではまだ成長期真っ最中だ。

「連れだけど多分まだ未成年かもしんないからジュースでいい」「かしこまりました! ウポの実を絞った酸味のあるジュースをご用意致しますね!」

(なに? ウポの実だって? ジュースってあんのかよ飲みてぇ)

 キュリムはドロシーの方を見ながらとりあえず頼んでおいた。 気持ちの良さそうな寝顔である。 そりゃ守護神との死闘から四時間しか経過していないし、1週間は迷宮で彷徨っていたので無理もない。 村に辿り着いてからずっとそうだが、彼女は決して杖を離すことはなかった。

「では空き家をご利用ください、今宵の主役は貴方がたですので無理せず休息をとってくださいね」

 村長の背後でニヤニヤしている青年がタムズアップをした。 狩猟を専門にしているのか槍を背負っている。

「俺はアランっていうんだ。村の脅威を払ってくれてありがとう恩人よ!」

 アランと名乗る青年は急に馴れ馴れしくキュリムの肩に腕を回して肩を組んだ。 歓迎ムードである。

「お、おう」「しゃっきとしなよ! 今宵の主役はアンタだからよ!」

 青年はキュリムの気を無視して肩を離してから背中をやさしく叩く。 それでもキュリムは今ある歓迎を何故かされている状況にハテナをいくつも思い浮かべていた。

(村を救ったような感じだが、なんの話しだ??)

 村からタダで提供された衣服をキュリムは身に纏いながら、尊敬の目を自分に対して輝かせている村人たちに困惑を覚えた。

「……あのお尋ねしたいんスけど、村長さんよろしいですか?」「うむ! いかがなさいましたか! 英雄殿の力になるのであれば是非。村周辺のモンスターやらアイテム等……」「いや、そういうのじゃなくて。ただ単にどうして皆でワイワイとハッスルしているんだろうなって思って。英雄とか大層な呼ばれ方をして、俺らなにかしたんですか?」

 宴げとか英雄とか、状況を飲み込めていないキュリムは村長に聞いた。

「はて、もしかして貴方がたの多大なる貢献を理解してないと?」「うん全く。こないだココに来た時より歓迎されているし、俺ら何かイイことしたっけか?」

 顎に手を当てて考えるキュリム。 そんな彼を目にした村長の瞳から涙が流れ出てきて、急に抱きついた。

「人助けがもはや当たり前かのような心得……! うぅ、私ら住人はなんて素晴らしい方に救われたのでしょうか! 神よ、我らに救いの使徒を授け感謝を申し上げます!」

 クシャクシャになった顔面で村長は舌をつきだしながら空に向かって雄叫びを上げた。 集まっていた村人のギャラリーらも釣られてキュリムを拝みながら泣きだした。

「「うわぁぁあああん!!」」「なんて優しさなんだ!」「きっと善意の塊なのね!」

(な、なんなんだよコレ!? どゆう状況??)

 流石の英雄キュリムでさえどうにも出来ない展開である。 そんな彼の困った表情を見た村長はすぐさま申し訳なさそうに離れて涙を拭った。

「……私らだけではしゃいで申しわけありません。実はというと」

 ごほんと咳払いをしてから村長は理由を語りだした。

 半年前、村長がキュリムらの攻略した未攻略迷宮を発見して間もない時、突然『魔力低下病』と呼ばれる病気がこの村、領土全体に流行りだしたらしい。 最初にその症状に気がついたのが『深黙の森林』で狩猟をしていた村長の息子であるアランだったという。

 モンスターを狩るには魔力を必要とする。 最初は「思ったより魔力が出でこねぇな」程度で大したことではなかったらしい。 けどその分獲物であるモンスターが活発化しだし、死人も出てしまったという。

 日にちが経過し徐々に病が大きく悪化しだしたらしい。 狩猟者だけに限らず村人らも同様に症状が酷くなっていき喘息から吐血、魔力が減っていくことにより体が弱りきって発現する重い発熱。

 村長は迷宮を見つけたことが原因だと推測してすぐさま領主の辺境伯『バイズ卿』に報告。 状況確認のため騎士を派遣したが、無論言葉が受け入れられたのだった。

 それからすぐ村に名のある医師や魔力に詳しい魔道士ギルドの連中や聖職者等が訪れ、症状を訴える人々らの検査をすぐさま行なったがお手上げだと断定されてしまったらしい。

 ほとんどの医師は様子見で残ったが、大半の連中は金を貰いながら無理だと嘆いて、尻尾を巻いて逃げて行ってしまったらしい。

「人手も足りない、土地が痩せるわ地獄の日々でした……それから大至急、全支部のギルドを呼びかけて迷宮の調査を依頼しましたが、半年の間に誰しも上階層を突破出来ていない」「モンスターの進行の対策は騎士を雇って対処していたんだ」

 手を振るえさせながら村長に続いてアランが悔しそうに言う。

「幸い、私の貯蔵庫で費用を支払っていましたがいつ尽きるか……」

(そんなことがあっただなんて……)

 キュリムは先日、この村に来た時を思い出した。 今ほどではないが微かに歓迎する村人たちの作り笑顔、村長の必死な姿勢。

 村に訪れた者に対する接し方ではなかった。 救いを求める眼差だったのだ。

 自分を取り囲んで、泣き崩れながら笑ってくれている住人らの表情を眺めてキュリムは微笑んだ。

「それから貴方が現れて迷宮を攻略した途端に! 苦しがっていたハズの住人の病が何事も無かったかのように突然治ったのです! 血の気のない者は顔色を取り戻し、目を閉ざした者は目覚め、腰を痛めてしまい狩猟を休んでいた私の腰が治り背筋が立ったのです!」

 うぉおおっと感激して拍手をする村人たち。 最後のは不要じゃね? と内心ツッコミながら拍手をする。

「お、おうそんな事があったなんてな。守護神を倒して良かったぜ……あ、言っとくがトドメを刺したのが彼女だからさ。あまり俺をチヤホヤしても意味ないと……」「スースー」

 猫のように気持ちよく寝ているドロシーに指を差す。 別に名声なんて求めてなんかいないキュリムは正直に話した。

 全ては彼女ドロシーが居て勝てたのと、自分は全然役に立っていなく隅で観戦していたのと、守護神の姿に特徴と能力、最後に彼女が放った『炎魔法』で守護神を討つことが出来たと一部始終を語る。

 少しドロシーの活躍を盛ったような気がするが自分は脇役で良いのだ。 目立つ為にこの村に来たわけではないことをわきまえなければならない。

(ヘタに目立ったらヴィオラのヤツにこっぴどく叱られるもんなぁ)

「ん……うぅ」

 相変わらずそれでも輝いた目を向けてくる村人に困りながらキュリムは隣で頭を預けていたドロシーが目を覚ましたのに気がつき、肩を貸しながら彼女の顔を覗き込んだ。

「んん……キュリムさん? どうして顔が近くに、アレ?」「おう、また目を覚ましてくれたかドロシー。今ちょうどキミの話をしていたところだったんだ」「ふぇ……? ドロシーの話をですか? それまた、どうして……ふぁぁあ」

 盛大なアクビを披露してみせたドロシーはまさに赤ん坊である。 手足を伸ばしている動作がなにより可愛い。

 その後すぐにドロシーは自分の体がキュリムとの体と密着していているのに気がつき、恥ずかしさで慌てふためきながら座っていた丸太から落下してしまった。

「おい、病み上がりなんだから気をつけろよ」

 手を差し出したキュリムは彼女を見下ろして、ある事に気がついた。 彼女はうつ伏せに倒れてしまって、それでもなお魔石をはめた杖を手放そうとしなかったことに。 気のせいか魔石がキュリムを捉えて反射すると色が変色する、真っ黒に。

「ドロシー!! もしかして、ドロシーなの!?」

 叫んだのはキュリムではなかったし、女性口調だ。 村人のギャラリーの群れの中から1人、老けた50前半ぐらいの白髪の女性に注目が集まる。

「なに、ドロシーだって?」「ドロシーってあの小娘だった……」「泣き虫でど天然、さらに才能ゼロのドロシーだって?」

 老けた女性だけではない。 彼女が発した名前に反応して特に高年齢者の男女がざわついた。 その中で1番動揺をしていたのがドロシーの名を口にした老けた女性の人だった。

 地面に倒れこんだ状態でドロシーは声の主に視線を移動させる。

「私だよ! 覚えているかい? レイミおばあちゃんだよ」「あぁ……! あ。 レイミおばあちゃん……?」

 心なしかドロシーも同じ反応でレイミと呼ばれる老けた女性に悲しそうな表情をみせた。 地面から立ち上がってドロシーはすぐさまレイミという人物の元へと駆けつけ、レイミは彼女を受け止めた。

 抱き締め合った2人は声を上げて泣いて、夜空になるまで声はけっして鳴り止むことはなかった。

 後ほどキュリムは宴が開始される前、ドロシーと2人っきりになって彼女は泣いた理由を聞いた。

「私、こう見えても『羊族』という異種族なんですよ」「え」「そのせいで色々あって、幼少期から孤児だったドロシーを唯一引き取ってくれたのがこの村の方々たちだったんですよ。大変なことが起きていることを知って久々に帰ってきてみましたけど、相変わらずでしたね。優しい嘘をつくの……皆さんヘタなんですよ。特にレイミおばあちゃんが」

 彼女の話を聞いていたキュリムは固まっていた。

 驚きながらもそういえばとキュリムは最深部でドロシーに『弱体化アンチ』を付与した時に突然、彼女の頭に尖った角が生え出たことを思い出す。 しかも羊族は『雷魔法』を得意としている。

「めぇぇえ」

 急にキュリムはからかうように笑いながら、ドロシーの目の前で羊の鳴き声を真似た。 杖で頭を軽くゴッツンされる。

「めぇぇえっですよ! 気安く鳴き声を真似することはドロシーの一族を愚弄しているも同然ですよ!」「わ、悪りぃ。つい調子乗って」「もうっ。これは戦闘時に相手を威嚇するための行動に使用したり、人間には見えない空気の揺れを発生させて標的を攻撃することも可能なんです。例えばこう」

 めぇぇえと羊のような鳴き声をあげた彼女の手前の木に擦り傷がついた。

「今回だけキュリムさんを特別に許しますが……それ以外の人には相応の罰を与えるのです」「本当に悪りぃ……何も知らなかったんだ」

 頰を染めてぷいっとそっぽ向いてしまったドロシー。 キュリムは拗ねる彼女の背中を見て目を見開いて驚いた。

 純白のモフモフな尻尾がついていたのだと。 小さく動く仕草が可憐だ。

「とりあえず行きましょうキュリムさん」

 見惚れているところドロシーはキュリムの方へと向き直った。 彼女の背後からは、暗い空間を照らすような明るい光が天まで昇っていた。

 村人たちが設置したキャンプファイヤーのようなものだ。 本格的な宴が始まろうとしていた。

 作業を進める村人たちに唖然とするキュリムにドロシーは小さくな手を差し出し、ニヤける顔を恥ずかしそうに逸らしながら言う。

「みんなが待っていますよ。ドロシーだけじゃない、キュリムさんが救ってあげた皆さんが」

 真っ赤になった顔をキュリムの方へと向けて、完全に告白する勢いだ。 キュリムは驚いたような表情を一瞬みせたが、受け入れるように彼女の手を取って強く握りしめた。

「ああ」

 そのままドロシーに引っ張られ、キュリムは足跡を残すような大きな一歩を前へと踏み出した。


 一方、ドロシーのパーティの仲間である3人組は彼女ドロシーの探索のため迷宮に潜ったままだと知ったのはそう時間は掛からなかった。 そして翌日、パーティメンバーのノトスという男性は両目を失ってしまったらしく、傷だらけの仲間2人に運ばれながら村になんとか帰還。

 ノトスは無くなってしまった眼ち苦痛を吐き出しながら倒れてしまい、キュリムらの使用していた空き家の布団で彼を寝かせた。

 痛みに魘されているのだろうか落ち着きがない。 一方、仲間が帰ってきてくれたことに喜びを隠しきれずドロシーはノトス達の元へと駆けつけたが、状況を知って彼女はノトスを見た。

「クソッ…………くり抜かれてっ……持ってかれてしまいました……ああ」

 痛々しそうに目を覆った包帯から血を流すノトスにドロシーは叫んだ。

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