NON DEAD〜転生したら不老不死というユニークアビリティを授かったので異世界で無敵となった〜
第9話 ドロシー
数多く危険な魔物が生息する上階層を少数パーティで行動していた私は、運悪くも戦闘中に落とし穴というレベルの低い罠に掛かってしまい、行動してた仲間と離別されるかのように逸れてしまった。
石造の広間に辿りついた私は、深く動揺しながら不安を感じた目で周囲を確認する。 落下してきた落とし穴を見上げて探すが、天井はとっくに何事もなかったかのように塞がれていた。
真っ暗な広間の奥にはアーチ状の出口が一つだけ配置されていて、進むとしたらあそこしかないと悟る。 最初は数時間も、落とされた広間で佇んでいて中々一歩を踏み出せずにいた。
けど、ここで餓死してしまい死ぬというイメージが私の脳裏によぎり、込み上げてくる恐怖が私を突き動かしていた。
同時に孤独感と空腹感に襲われ、何かをしなければという衝動に駆られてしまう。 行くしかない! たとえどんな危険が私を待ち受けようとも、得意の『精霊魔法』で討つだけ。難しいことではないと自分を安心させた。 仲間に合わなければという決意とともに、探索を私ドロシーは開始させた。
迷宮のあっちこっちと方向がわかない世界に彷徨い続けて数時間が経過した。 私は薄暗い通路の端で休憩をとりながら、携帯食を荷物から取り出して食べ始める。
結局、罠に掛かってからパーティの仲間とは会えずにいた。彼らを考えるだけで悲しい愛しさが私の胸をギュッと掴んだ。
皆んなと会いたい。大陸の西端に生息する精霊と友好的関係のエルフ族、弓矢使いエインズさんに。 少年の頃から冒険者ギルドでは中々功績を稼げずにB級止まりしてしまっているが、とても頼り甲斐のある火力を専門にした大男ケルベルさんに。 有名な鍛冶屋の元で生まれた次男だが、鍛冶としての才能がないという些細なことで実家から追い出さてしまい、現在では前線のサポーターとしてパーティを支えている気の弱いノトスさんに。
仲間だけでは表せられやしない。私にとってはパーティの皆は大切な家族のような存在だ。  旅を始めてから数年間、死にたくなってしまいと思ってしまうぐらいの辛い日々や困難な試練を皆との絆でくぐり抜けてきて、失ったモノも数知れないし、喜びで泣いてしまった思い出も数知れない。
皆んなと会いたい……ここから出て、生き残って帰還できて、ノトスさんの振る舞う美味しい最高品の料理を食べて、迷宮攻略の祝いにドンチャン騒ぎをして、肩を組んで笑い合っていたい。 両手を合わせながら私は強く祈った。 家族との幸せな日々に終着点がありませんように……と強く心の内に想いながら。
ここから脱出するためにあきらめず、私は昔から愛用している杖を握りしめて前を向いてみせた。 そして誓う。
「ドロシーは絶対にぜーったいに負けません! 皆んなと会うことができるまで!」
弱音は吐かない。決意を奮い立たせて、私は目の前の地獄へと自ら身を投げ込んでみせた。
必ずこの状況を打破して勝てると信じ込みながら、受けた痛みをこらえながら、涙を流さないように走り抜けながら、迫りくる現実に耳を塞がながら……私は大きく喉が枯れるまでに叫んでみせた。
そして絶望してしまった。 唯一の武器である精霊魔法が使えなくなってしまったことに。何かが私を……阻んでいることに崩れた。
 大きく絶望の淵に陥った瞳で、過酷な現実を捉えて私は受け入れてしまった。
ー ー ー 私はこの異空間の思い通りに、蝕まれてしまっていたのだと。
※※※※※※
狼モドキのマッチョな体と毛で覆われたダンディなガタイの筋肉によりキュリムはおぞましさに目を見開く。 さらにどこからか入手したのだろうと疑問に思ってしまう使い込まれたようにサビれてしまった武具や防具をしっかりと装備していた。構えられた武器は鋭そうに輝いていて、その刃を恐ろしくギラつかせていた。
「数人も揃って、たった一人の可憐な女の子を痛ぶって楽しいかよ?」
背中に背負った剣に手をかけて、警戒モードに突入している狼モドキどもをキュリムは睨みつけて笑った。
「なら俺も混ぜてくれよな。 痛ぶんのはテメェらだけどよ。来な、三下魔物どもめが!!」
鞘と剣の刃により擦り合う音が開始の合図だ。 キュリムに抜かせまいと先手を取ったのは狼モドキの集団だった。
劣勢に陥ってしまったキュリムだと思われたが、彼の剣を構える逆の手には何かが握られていた。それをスッと狼モドキに見せつけてから前線の駆けてくる連中に投げ寄越した。 危険なのを察知したのか、狼モドキらはなるべく触れないようにそれを避けて通る。
しかし、キュリムにより投げ込まれた物体は瞬時に大爆発を起こし狼モドキらを1匹残らずと飲み込んでいった。 気を失うドロシーも含めて、キュリムの目の前に映る者すべてが光に包み込まれてしまう。
キュリムが放った物体はギルドから支給されたアイテムは『太陽弾』。閃光弾にも似たような代物だが、リアルのと違って爆音はまったくしない。しかし、太陽弾は衝撃を受けることにより発せられる閃光は増していき、瞼を閉ざしたとしても失明もあり得る恐ろしいものだ。 素材は砂漠の洞窟内で目も当てられぬほどの鉱石『太陽石』。貴重ではないので苦労せずに自力で調達できるアイテムだ。
それから、何が起きたのかを理解できない狼モドキらは慣れない光に目を瞑り、腕で瞼を塞いで失明していた。 効果抜群に目をやられてしまった魔物らに、ヒソヒソと接近してくる者がガッツポーズをとりながら剣を鞘から抜き出して気色悪い笑みを浮かべる。勝ち誇った表情のキュリムだ。
まずは前線で目を瞑っていて盾を装備するタンカーのような狼モドキを潰すことからキュリムの標的が決まった。剣を振りかぶって瞬時に接近して、タンカー狼モドキ胴体に思っきし剣を叩きつけてみせた。
一撃でグシャ! という生々しい音が命の灯火を斬ったという感覚が彼の手元まで伝わり、暖かい感触が頰に飛び散る。 躊躇いはしない。キュリムは頰に飛んできた赤黒い返り血を尻目に、握る剣に力を込めてタンカー狼モドキを真っ二つに両断した。
「うお!」
勢いを余ってしまい、体のバランスが崩れて剣先が地面に浅く突き刺さってしまう。 ギーン!! という今にでもぶっ壊れそうな剣に走る衝撃がキュリムの手を痺れさせた。
「うおおお!? やっちまった、ぬけろ!ぬけ!! ぬけよ!」
テンパりながら剣を抜こうとしても、手汗により剣の柄を握る手がツルッとすべってしまう。 その間にも視力を取り戻し、状況を把握し始める狼モドキども。キュリムを見るは狼モドキどもは察して武器を向けてきた。
仲間の死体を足場にして、キュリムの刺さってしまった剣よりでかい大剣を装備した全身鎧の狼モドキが2匹、キュリムの懐に狙いを定めて距離を詰めていた。
素早い判断の結果、キュリムは地面に刺さってしまった剣を後回しにして腰に仕込んでいたナイフを取り出して翳す。
二つの刃がぶつかり合い、互いの目元まで広がるほどの火花が大規模に飛び散る。 キュリムは狼モドキの大剣をナイフ一本両手で受け止めながら、横から迫ってくるもう1匹の狼モドキに目線を向けた。
ソイツは棍棒を持っていた。多分、人間の首を吹っ飛ばせられるぐらいデカい棍棒をキュリムにむかって振りかぶって、直撃と確定するかのような表情でそれを振り下ろされる。
「おりゃ!!」
ナイフで大剣の狼モドキの攻撃を瞬時に受け流し、大剣を地面へと叩きつける。 ハイ、お揃い。
そのまま勢いをブーストさせて、棍棒の狼モドキの攻撃を避けながら鋭く血を求めているようなナイフを喉元に狙いを定めて、スパッと掻っ斬った。
さらにキュリムは大剣を地面から抜こうとする狼モドキに向き直り、振りかぶりながらソイツの頭上に今までにない強烈な蹴りをお見舞してやった。 横へと吹っ飛んだ狼モドキに手をかざしてから、人差し指を向けて中指を引いた。
「『風弾』!」
吹っ飛んだ狼モドキは突然、発生した弾のような風によって顔面に風穴が空いた。飛び散る肉片と血しぶきを吹き出しながらソイツは一瞬で生を失う。キュリムに罪悪感などはない。
それよりもドロシーの救援が優先であって、無駄な思考をすべてシャットダウンしなければならないのだ。
(大丈夫だ、慌てずに対策を練りながら順調に戦いを優位に進めればそれでいい)
後方へと待機する狼モドキらの数は残りで数匹というところだ。 その中心に横たわって、気を失ってしまったドロシーが奴らに囲まれていた。 奴らが彼女を盾にしたりして離脱するかもしれない……という心配性もキュリムにあったが、どうやら奴らはそこまで知性的で賢くないらしい。
前衛の仲間がやられてしまったことに後衛の狼モドキらが詠唱を急ぎ、安っぽい杖を振り回して属性別の魔法を返り血まみれになったキュリムにめがけて発射。
さすがは最階層の魔物だと感心するほどの精度で、強力な闇魔法と炎魔法、雷魔法がキュリムのいる位置にピンポイントで炸裂して魔法耐性のない体が木っ端微塵にされてしまった。
「ぐほぉっ!」
吹っ飛ばされたキュリムの体はバラバラに分裂され、そこら中の通路に肉片が雨のように散乱してしまう。 グリルされたようにキュリムの体はジュゥゥと美味そうな匂を放ちながらジューシーに焼けあがる。 グルメ探究家ならば魔物らを褒めてやりたいところだ。
「ってぇなこの野郎」
何事もなかったように地面から立ち上がってキュリムは首を鳴らした。 飛び散った肉片は彼の破損した部分に集結して傷を塞いだ。
ちょっぴし飛び出てしまった眼球も押し込めば元どおり、服に血液が付着してしまったことは以外まったく問題なく彼はピンピンしていた。
それを目の当たりにした魔物らはハイタッチすることをやめて唖然としてその場に硬直する。 キュリムの向けられる視線は、まるで化け物を目の当たりにした時のソレだ。
そんなことを気にも止めず、地面に突き刺さってしまった愛剣を抜き取って肩に担いだ。 ニヤッとした唇でキュリムは言葉を発した。
「……やるじゃないか、結構効いたぜ。てっきり一瞬死んじゃうのかなって、思ったんだけどさ……」
キュリムは自分を捉える狼モドキらの警戒する視線を利用して瞬時にその姿を消し去って、目では到底捉えられないスピードで壁を走り抜けて後衛で杖を構える狼モドキらの背後に音もなく回ってみせた。
奴らはキュリムの姿を見失ったと同時に動揺して、先ほどキュリムが復活した通路へと揃って視線を外さずに探しだす。しかし、キュリムならとっくに奴らの背後で剣を振りかぶって攻撃を仕掛けようと踏み込んでいた。
「結局、そんなこと無かったよ……」
背後から感じる威圧に冷汗を垂らして、狼モドキらは恐怖でけっして振り返ろうとしなかった。 冷たい一言を奴らの冥土の土産として言い残したキュリムは躊躇いもなく狼モドキらを、まとめて横から愛剣で斬り棄てて真っ二つにする。
音もなく胴体を斬り裂かれた狼モドキらは下半身を残して、地面を両膝でひれ伏して崩れ落ちた。
奴らの最期にいちいち気に掛けてはキリがないと、キュリムは興味なさそうに狼モドキらの抜け殻に背中を向けて背負った鞘に剣をおさめる。それよりも囲まれていたドロシーの容態が気になったキュリムは、地面に這いつくばった小さな背丈の子の元へと急ぐ。
ボロボロに服装から皮膚までが無数に斬り刻まれて、小さな鼻からは純血を流していた。それでも顔に目立つほどの痣ができてもなお、彼女の可憐な顔は崩れることはなかった。
一安心したところでキュリムは、地面に寝かせられているドロシーの細い両膝と軽々とした後頭部に手を回してお姫様抱っこをする。やましい気持ちは決して抱いてなんかいないキュリムは顔色一つ変えず狼モドキらの援護が駆けつけてこないと心配しながら、狼モドキらの残骸を残して颯爽とその場を退散した。
※※※※※※
しばらくして、布を被せられた魔術師の格好のドロシーは数時間も眠りこんでいた。 強引に起こすのはよくない。そばから離れずにキュリムは周囲を警戒しながら、彼女が起あがってくれるのを待つだけ。
魔物と遭遇しては倒し、罠を発見してら解除したり、ドロップしたアイテムを回収したり、最深部に降臨しているであろう守護神と戦わずに済むよう、下層への階段を探したり、さまざまな作業をキュリムは繰り返しながら気長に彼女が目を覚ましてくれるのを待った。
頭が痛くなるような時間だが、生死が確定しない彼女を捨ててはいけない。魔物を斬り倒しながはキュリムは、そんなことを頭に思い浮かべては悩んでいた。
ひたすら待ち続けて2日が経過して、遂に食料が尽きてしまった。
しかし、同時に待ち続けた甲斐があったと実感する。 パチりと瞼を開けてドロシーは目を覚ましてくれたのだ。勢いよく起き上がった彼女に驚いて、すぐ側で石造りの地面に腰を下ろしていたキュリムは、身を引きながら驚いた。 が同時にホッとしたような表情をみせ、肩を落とす。
「おはよう」
時刻も曖昧な空間の中でキュリムは手を上げて、横顔で目を見開いた状態のドロシーに挨拶をする。 やつれた正面顔を驚いたように向けられ、キュリムを見るは彼女は身を低くさせて逃げようとした。
「どこに行くつもりなんだ? キミも存知ていると思うが、ここは迷宮の45階層だぞ。魔法も使用できない」
彼女はキュリムから目を離さずに体を止めた。そして首を傾げて、キュリムの顔をおそるおそると覗く。
暗闇のせいだろうか、キュリムはただいま『暗視』を使用中であり、彼女ドロシーの顔ならハッキリ見える。 だが彼女にとっては暗闇のせいで周囲がボヤけていた。キュリムの表情が伺えられるほどの視力を持っていない。
「悪い、向かい合えるような状態じゃないよな。ちょっと待ってくれ」
カバンから太い木の棒を一本取り出して、先端に手をかざして『炎魔法』を発動させた。
木の棒の先端に燃え移った火により、周囲が明るく照らされてキュリムの顔が鮮明になる。そんな彼の顔を見て、彼女は声を漏らして唇をサッと抑えた。
「?」
ドロシーの不思議な行動にキュリムは首を傾げながら寄っかかっていた壁に、松明となった木の棒を差し込んで離す。
「あっ……のぅ、 すみま……せん」
急に顔を逸らして彼女は謝罪を口にして、キュリムに小さく頭を下げた。 ロングヘアーが前へと垂れてしまい、恥ずかしながらドロシーはそれをさっそうと整えた。
「ん、なにがだよ?」
キュリムはそれを気にとめず、ポカンとした表情で彼女の謝罪の意図を聞いてみた。 髪の毛を弄りながら彼女はキュリムを不本意なジト目で見て、言葉の間を開けてからドロシーは話しだす。
「……貴方をドロシーの知り合い、かと思ってしまいましたけど……勘違いかもしれません。そんな都合のいいことがあるだなんて……思えませんし」
緊張しているのか、リラックスできてない様子でドロシーは深い吐息混じりに理由を説明する。 それも仕方ないだろう。魔術師にとって異郷の地とも言えるこの迷宮で、落ち着くことができるだなんて逆に異常だ。
「………大丈夫?」
「容態が」という意味で聞いてみたのだが、間違った解釈をして受け取ってしまったドロシーは自分の頭に手を置いて言う。
「ハイ、頭は……正常です」「いや。そういうことじゃなくて、体は平気かって聞いたんだよ。待て、俺が悪いなコレ」
言葉不足だ。 あんな話しをした後に聞くべきではなかった、とキュリムは自覚しながら脳内で反省をする。
「………」
見つめ合って……はないが、互い気まずそうにドロシーとキュリムは目を逸らしながらも、顔はしっかり合わせてた。 だが互いが初対面のためか話題が湧いてこなくて、沈黙がその場を支配する。
「「………あの」」
声が被ってしまい、無言の譲り合いでまた二人は黙り込んでしまった。
俯いていたドロシーが先ほどまで虚ろだった花緑青色の瞳を移動させ、下からキュリムの困った顔を恥ずかしそうに見上げて、つぐんでいた口を開いた。
「………あの、好きです」
!!!!??   
彼女の言葉により、キュリムの頭上に赤いクエスチョンマークが宇宙の彼方へと、勢いを増してスパーキングされる。
首を振って、地面に手を置いて体を支えながらドロシーはキュリムとの距離を詰めた。 そして聞く。
「覚えていますか? 私はドロシーですよ。……ちょっぴりですけど、大きくなったんですよ? 」
ドロシーは嬉しそうに表情を固め、泣きそうになるのを誤魔化しながら、潤んだ瞳でキュリムをまっすぐに見て、赤い袖で涙を拭う。 溢れた涙には微かに、動揺してしまい唖然としているキュリムを捉えていた。
覚えているか? っていっても彼自身には好かれるようなことをした見覚えはない。 こういう可憐で純粋そうな少女なら尚更、ヴィオラという女性以外あまり接してきた記憶はないのだ。
いつ? どこで? どういう状況で? と記憶を巡りに巡ってみるが、女神ヴィオラの依頼するゲスい仕事しか浮かんでこない! 
充血した目を見開き、荒い息遣いで動揺をまともに制御できないご老人キュリムは自分の胸を鷲掴みした。
ドロシーは震えながら、嬉しそうな声で言う。
「今まで助けてくださり……ありがとう……ございます。  会えて、本当に……良かったです」
頭を沸騰してしまったキュリムは、彼女に迫られるがままに返す言葉が浮かんでこなかった。
「……グリム様!! あの時の恩を、私は忘れません!」
不意に小さな体で抱きしめられる。 かよわい力により体は締められ、ドロシーは彼の胸にむかって顔を埋め込んでしまった。
しかし抱きしめられているキュリムの頭上にまた、クエスチョンマークが一つ落下する。
………グリム様って、     だれだよ?!
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