NON DEAD〜転生したら不老不死というユニークアビリティを授かったので異世界で無敵となった〜
第7話 辿り着いた上階層
術者自身が火傷を負ってしまうぐらいにヂリヂリと燃え盛る蒼炎に包まれた愛剣をキュリムは渾身の筋力を込めて振るってみせた。
迷宮の通路に避けようのない炎が走り抜け、キュリムに敵意を向ける蜘蛛を高温度で焼き払った。
緑色の血を吐きだし奇怪な鳴き声を上げながら蜘蛛集団はジタバタと我が身を焼く炎に苦しがり慌てふためく。
キュリムも反動を受け、後方へと吹き飛ばされ地面に頭を叩きつけてしまう。 しかし、自分の左腕を固めていた術者を撃破したことにより、蜘蛛の糸はスライムのようにネバネバと柔らかくなり、地面へとこぼれ落ちる。
安堵も束の間、キュリムは颯爽と地面から立ち上がり、業火に燃えつづける剣を前方の通路へと向けた。 戦意を簡単に解除してはいけないと彼の本能が自らくすぶっていた。
焦げ臭い臭いが漂う方向から、真っ黒になった蜘蛛が姿を現す。
「チッ。 上層に進めば進むほど、攻撃魔法に対しての耐性が増していってやがる……けど、まだまだ」
キュリムの魔力は発動予定のない刻印により増幅している。
人間の魔力上限を百パーセント中、四十パーセントに表せれば、キュリムの魔力上限は現在五十パーセント以上だ。
強力な一振りで捉えられたのは4匹中、3匹。
残り1匹という心寂しい数だけだが、けっして油断してはいけない。 突然、覚醒したりして喰われかねないのがなにより用心すべき心得だ。
「………!!」
灼熱により汗ばんだキュリムの額から一滴の雫が溢れ落ちるのが合図かのように、炎に照らされた二つの異なった影が同時に地面を力強く蹴る。
言うまでもなく蜘蛛は覚醒することなく、キュリムの愛剣により真っ二つに一刀両断。 キュリムは返り血によりびっしょりに濡れてしまった顔をポカンとさせた。
「………あらま、魔力が……とろけていく」
戦意を一瞬で失った彼の意識に反応し、左手に刻まれた刻印が光を喪い始める。 同時に軽い吐き気に襲われて、キュリムは大理石の床に強く仰向けに倒れこんでしまった。
ん、ナゼ刻印を使用したって? 
別に、自発的に自ら使用したわけではなく刻印の発動に必要な条件が偶然揃っただけ。 条件は魔法陣に触れることと魔力を魔法陣に流すこと。 それが例え他者がキュリムの左手の陣に触れようとも、魔力を込めようとも勝手に発動してしまう。
蜘蛛の尻から出された蜘蛛糸にはたんと魔力が込められていて、左腕だけならず糸は左手に触れてしまった。 例えキュリムが刻印の発動を強引に抑制しようとも、女神並みの《魔術制御》を身につけない限り抑えられることは不可能だ。
蜘蛛の糸が左腕から解放されて、流れていた魔力が途切れたことによりキュリムの刻印は鎮まり返った。 なので戦闘以外は触れないように、普段は分厚いレザーの手袋をつけている。
「こりゃ一日中は寝こみのパレード開催の予感がするぜ……」
不用心に散乱した瓦礫の山に横たわり、キュリムは苔の生えた天井を見上げながら薄く笑い、重要なことを思い出す。
すると不思議に冷たい涙が目元に溢れて、顔面をくすぐり流れ落ちる。 潤った瞳に映る視界はまるで、水面のように歪んでいた。
開けた口から白い吐息が溢れでて、頰にあたる見えない空気が掻き消す。
「………もう………………俺は………80年も生きちまったよ」
思い返せば、とても長い道のりを歩んできた。 だが決して死ぬことのないキュリム自身にとってはスタートラインに立っているのも同然で進むこと自体、馬鹿馬鹿しく思ってしまう。
これから先、生きている中で自分が求めようとするモノとは出会えるのだろうか?
笑顔を絶やすことなく過ごせていけて、自分は幸せになれるのだろうか? 妄想でしかない理想は今更ではなく、今だから意識してしまう。 孤独ではない、なにかにキュリムは………なりたかった。
「俺は一体、何を求めているん……だろうか」
制御できない感情が心を蝕みながら瞼が重なり合うと、彼の意識が途切れ……………途切れる寸前…………途切れる瞬間に細くなった視界の先に突然、気配のない黒い影のような物体が通り過ぎる。
『…………世界が変わろうとしているのに、呑気なのね』
薄い紅の細い唇が向けられ、キュリムは息を飲んで震える。 凶器に満ちたような声質によって、無意識に体が拒絶反応を起こしていた。
電撃が走り、口と指をピクリと動かしてしまう。
『……………!!』
ズサ!!   ズサズサズサ!!  ベチャ!!!
姿のわからない物体はキュリムの臓物が詰まった腹部を切り裂く。
スパァとなにかが裂ける感覚に苦痛が走る。
………!!!? え? え? え!!?  え ?  
理解が働こうと脳みそに信号が送られるが、理解という概念が押し潰されるかのように遮断される。
視界が遠のいていき次第に失明していく。暗闇へと閉ざされ、遮断されてしまった思考が元どおりに修復される。
耳をすませ、視聴により察知できる物体の発する音に動揺しながらキュリム は集中してみせた。 暗い瞼裏を震えさせながら凝視する。痛みを必死に堪えながら自分の露出した首に、刻印の刻まれた手を移動させ鷲掴する。 そして、キュリムは自らの喉元を思いっきり捻切ってみせた。
ドサリと血に染められた左手が地面へと崩れ落ち、同時にキュリムは暗い闇へと落とされてしまう。
『……とっても漲るわぁ』
色気の感じる微かな声を最後に、キュリムの前から物体は去っ………。
※※※※※※
どのぐらい時間が経過したのかが解らない。 お腹を支えながら、見慣れないゴツゴツとした地面の上に身を任せながらキュリムはギラついた眼光を周囲に向けた。 いつ手に入れたかは解らないスキル『暗視』を、いつの間にか寝ている間に習得していることに気がつき、暗くなった周囲を暗視により対処する。
それよりも だー ー ー
「ここ何処だ?」
見上げていたはずの苔の生えた平面な天井がそこにはなかった。 天井には洞窟のように鍾乳洞が伸びていてる。通路ではない、見覚えのない暗い広間の水たまりに浸かりながら、キュリムは孤独に横たわっていた。
起き上がったところ苦痛はない。 腹は完全にスキルによって修復されていて元どおりで、外相は一切なくなっていた。
元気ビンビンの自称主人公補正は、周りを警戒しながら地面に足を着けて重くなった体を持ち上げる。
「アリャ? おかしいな……30層は進んだと思ったんだが、上層に上っている時にこういう空間は途中見かけなかったハズ……」
全ての層の部屋は把握済みで、上っている時にはこんな場所はなかったはずだとキュリムは首を傾げる。
「ん?」
ピチャンっと水滴の音がして体が無意識に痙攣した。 反射的に振り返ると、そこには松明が照らす小さな通路があることにキュリムは気がつく。
幸運に思い警戒しながら通路に近づくと、通路の入り口らへんのすぐ側の壁に文字が刻まれているのを見つけ、キュリムはそれに目を通した。
ー ー ー ー ー 迷宮40階層 ー ー ー ー ー ー
目を見開き声を漏らした。
「へ、あ、は!? どういう、って……確か俺はさっきまで30層に……居たはずなんじゃ?」
脳裏を横切るのは、甘い声を発する謎のナニかだった。 ソイツがここまで自身を連れてきた可能性を考えるが、その経緯は解らない。
それか、魔物が自分を餌にするために連れてきたか……と、道理が通じそうにない発想が彼の頭に次々と浮かんでいた。
しかしキュリムの動揺は一瞬で冷める。 仕事が省けてよかったという甘い考えが次第に滲み出ててきて、自然と気色悪い笑顔を作っていた。
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