NON DEAD〜転生したら不老不死というユニークアビリティを授かったので異世界で無敵となった〜

英雄譚

第1話 80年後

  


 俺の臓器は今日も、 モンスターによって華麗にぶちまけられてしまった。

 血しぶきによって降る赤い雨を浴びらされながら、 胴体がダンジョンの地面に食い込むように生々しい音をたてて倒れこんでしまった。

 ガクシと首を曲げた。

「ギュルルル!(殺ったか!? おい、やったのか!)」
「ギュルルン! ギュルルル!(殺ったに決まってんだろ相棒! 見ろよ、 この美味そうな肉片どもよ!)」

 殺った張本人どもの人型モンスター同士が、到底理解できないであろう言語で会話をしながら勝利を喜んでいた。

「ギュルルル(おうおう! かなり手強ったが、今夜のメシを確保したのはかなりの収穫だ!)」

 ドクンドクンと動く臓器やそこらじゅうに飛び散った肉片。 それをモンスターは、手づかみで集めだす。  息をしなくなった俺の胴体を眺め、おもしろそうにケラケラ笑っていた。まるで、かつて俺を虐めてきた連中どものように。

「………」

 笑いたいのはこっちの方だ。

 死んでいるのだと、 ヤツらは油断している。 確かにどうみても斃死していて、 そう思われるのも仕方がないだろう。

 瞳が生を失ったようで虚ろに天井を見ていて、  口はぱっくりと開いたまま。 死んでもなお、 まるでおろされた魚のようにピクピクと身が痙攣していた。

 しかし、 ヤツらには死だと捉えていようと。 これは俺にとってはほんの一時的なモノでしかないんだよ、モンスターの衆よ。

 ーーー オレは死んでいない。

  胴体を斬り裂かれたとしても。
   内臓を失ったとしても。
    血を大量に出血させたとしても。 
        跡形もなく消されたとしても。
      死同然に至ったとしても。

 それでも、大したことはなかった。

「ギュ? ギュルルル?(ありゃ? なんだコイツ……血が泡立って、 1つに)」

 これは女神から授かった、 未来を左右することも無くなった運命の力。

 外傷の痛みは相変わらず感じる。 今でも腹の部分がジンジンとしていて、押し潰されたかのように苦しい。

 しかし、死ぬことがありえなくなってしまった超ユニークな『我の女神』の能力。


 ーーー 《NON DEAD 不死身》 ーーー


 生き返っていくゾンビのように足だけで立ち上がっていき、ピキピキとはずれた関節が元どおりに戻っていく。

 モンスターが唖然としているのをいいことに、 胴体が元どおりの姿へと、 傷痕1つなくメリメリと再生していった。

 衣服には赤い血の跡が大量に付着している。 しかし放置すれば、 すぐに乾燥する程度なので気には止めない。

 ゴキゴキと首の骨を鳴らしながらモンスターと目が合って、 改めて蘇ったことにひどく痛感した。

「ギュルルル!! (な、 こいつ生き返りやがったぞ! どういうことだ!?)」
「ギュルンギュルルル!! (知らねぇよ! 気持ちワリィ!)」

 さけられない唖然から驚きへと、 モーションを移動させる間の時間をムダにはしなかった。

 俺は、自身の動く臓器を手に持ったモンスターとの間合いを詰める。

「オレの身体を、 勝手に食料にしてんじゃねぇよ!!」

 反応するのに遅れたモンスターは、 後方へと後ずさった。

 だがダンジョンの凸凹とした地面に足を取られてしまい、 つまずく。

 背中の鞘から抜いた重々しい剣で、 反撃のスキすら与えぬ斬撃をモンスターに繰りだす。

 狙いは臓器を持つモンスターの手を斬り飛ばすこと。

 愛剣が鋭くギラつきながら、 モンスターの腕を捉える。 我の剣ながらいい斬れ味で獲物の腕を吹っ飛ばしたことを確認して、 キメ顔を作った。

 宙に浮いた自身の臓器をキャッチすると、 血しぶきをあげるモンスターに再び剣をむけて、 斬撃をあらゆる急所に命中させて息の根を止めた。

「ギュルルルギュルルル!!」

 そのそばに佇むモンスターは何が起きたのかを理解できずに、 都合のよい姿勢でスタンばっていた。 同様に閃光を走らせながら、 愛剣で斬り刻んだ。

 ビシャビシャと肉を斬る手応え。 温かくて汚いモンスターの血液が周囲に飛び散っていく。

 気づけば、モンスターはバラバラにサイコロのような形で斬り刻まれていた。 まさに、芸術的な形だ。

 という感心をしながら適当に剣を宙に振って、 付着した血をとばしてからチャキッと剣を収める。

 同時にミンチにされてしまったモンスターは、 跡形もなく地面へと崩れた。

「………オープン」

 息を引き返すことが2度とないであろうモンスターに近づいて、 手を当てながら魔力を込める。

 逆の手の平から小さな結晶が、 どこからか出現すると、虹色に小さく輝きだした。

『所有者の魔力を察知。ドロップアイテムを回収します』

 結晶が1人でに喋る。 倒したモンスターから魂を奪い取るかのように、 透明な何かをモンスターの身体から吸い出し始めた。

 目に見えないドロップアイテムを吸収してくれる、 我の女神から貰った珍しい魔道具マジックアイテムの1つだ。

 かなり貴重な代物のためか、 1度は売却しようかと思ったことはあった。 しかし我の女神に殺さかけ、 結局は返品してもらって今でも所有している。

「クローズ」

 魔力を抑えて結晶に指示を出すと、 発光するための力が消滅した。 暗くなった結晶がポトッと手の中に落ちる。

 静かになった魔法道具を握りしめると、 紛失しないように厳重な荷物の中へとすぐしまう。

「よし、A級モンスター討伐完了だな」

 鉄のような生臭ささのせいで、けっきょく気分は上々にはならなかった。 けど目的を果たせたので良しとしよう。

 ダンジョンの通った道へと、 130度振り返えった。

 かなり疲れた。 戻ろうかと足を動かしたが、 倒したモンスターの死骸が目に入ってしまう。

 命もない、ただの赤い抜け殻になってしまったモンスターを羨ましい目で見た。

「………いつでも死ねるお前らが、スゲぇ羨ましいよ」

 一言残すと、 ダンジョンの出口を目指して俺は歩みだした。

 考えてみれば、 ダンジョンでのソロ攻略はもう数えきれないほどにこなしている。 こういった討伐系なら得意中の得意だ。

 だって死なないんだもん。

 まあソレは置いといて。 そういや明日、 俺がこの異世界に転生して誕生した日になるな。

 歳をとれば皆うれしい。 けど、 俺は違った。
 幼い青年のような見た目だが、 不死の影響であって実際の中身は長生きしたおっさんだ。

 俺に不死の力を授けた張本人である女神の『ヴィオラ』によって、現在拠点にしている所でもよく扱き使われる魔法剣士である。
『キュリム・カオスレイ 』


 不死の影響だけであって、 実際なら今年で年齢はシワくちゃの80になるハズだった。

 思えば、 冒険しながら長生きしている割に元気だ。 けっして死にたいとは思っていない。

 むしろ能力を授けてくれた女神には感謝している。

 といってもな、 限度ってものがあった。 10年ほど前からすでに感謝という想いからは覚めている。

 疲れたからもういいよ! !  とか。
 永久に休ませてくれよ!  って言ってもこの身体では永久に休息はないだろう。

 受け入れるしかないのだ。


 そう……


「命とはなんなのか?」


 疑問と呪縛を背負いながら今日も、                        

                       死なないのであった。

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