呪いの痛み〜地球では報われなかった僕が異世界転生して世界の悲願を達成する譚〜

高梨 白

一章:アルダード/第3話:ハーフエルフ


「───それでですね、かくかくしかじか、まるまるうまうま、ということがあったんですよ」

 一通りジブリエルさんと自己紹介などを済ませてから、僕はこの世界に来てからすぐのことや、森で少女が襲われていたことなどを掻い摘んで説明した。

『そうか、なるほど…。過去にやっていたゲームに酷似した世界で、そのゲームにも登場したモンスター『蜥蜴人リザードマン』に少女が襲われていた、と…。その世界、たぶん『アルダード』と呼ばれる世界だろう』

 彼女は世界の特徴と起こった出来事を少し話しただけでこの世界を特定したようだ。

 流石知識の天使ガブr───

『コホン』

───ジブリエルだな、持っている情報の絶対量が僕らとは桁違いだ。

「えと、その、『アルダード』、ですか?」

 もちろん知識の天使でもない凡人の僕はそんな世界見たこともなければ聞いたこともない。この世界のことについても色々と聞いてみることにした。

『あぁ、そうだ、『アルダード』。その世界からミドリと同じように地球に転生したものが10年ほど前に一人居てな、当時十七歳だったが、それが成人してその世界の「言い伝え」を元としたゲームを出しているそうだ』

 「言い伝え」というワードに少し引っかかったが、後で聞くことにして、今はジブリエルさんの話について行くことにした。

「そのゲームって、もしかして」

『そう、『Cursed Painカースド・ペイン』、通称『CP』だ。ミドリが過去やっていたゲームというのはこれだろう?』

「はい!その通りです!」

 なるほどゲームの元になった世界なんだから似ていて当然だろう。しかし、少し腑に落ちない点もあった。

「…ですが、ジブリエルさん。そのゲームには、僕がさっき助けた少女のような見た目の種族は出て来ませんでしたよ?」

 「種族」とは、CPの世界観設定の一つで、登場するキャラクターの特殊能力や見た目に影響するステータスだ。

 例えば【土人族ドワーフ】なら男女ともに低身長だが大柄で剛力、【妖精族フェアリー】なら体が小さく、体力や力の能力値が低い反面、魔力や敏捷力などの能力値が高い、などの例が挙げられる。

 ちなみに僕は全ステータスが平均的な【平人族ヒューム】でプレイをしていた。見た目のバリエーションが1番豊富だったり、ほぼ全ての防具や武器を装備できたからだ。(種族専用装備は基本ヒュームと○○専用、といった設定が多く使われていた)

 そして、今僕が言ったように、さっき助けた少女の身体的特徴が当てはまる種族はCPにはいなかったのだ。

 このの目立った外見の特徴と言えば、ほっそりと尖った耳と、サラサラの長い金髪くらいだ。他は、ヒュームの、大体12、13歳位の少女とあまり変わらない。

 細く尖った耳を身体的特徴とする種族はやはり、ファンタジー世界王道の【森人族エルフ】なのだが、CPに登場したエルフは背中に小さな、子供の手のひらくらいの大きさの羽根が生えているのだが、この少女にはそれがない。

 確か、エルフの設定が、『古代、地上に舞い降りた天使の末裔』だったっけ。

「ジブリエルさん、この娘は細く尖った耳を持っていて、パッと見エルフかと思ったんですけど…エルフなら背中にあるはずの小さな羽根がなかったので…変かな、と思いました。これじゃあまるでヒュームとエルフの…」

『そう、その娘はハーフエルフだね、ミドリ』

「やはり、ハーフエルフですか…でもそれじゃあなんでCPには出てこなかったんでしょう…?この世界がモチーフになったんですよね?」

『それは、その世界でハーフエルフは、と言うよりも【半亜人デミ・ヒューム】は快く思われてないからなんだ』

 えっ…

『どうもその世界では、ヒュームと他の種族間に生まれた子はあまり認められずに、「半端者」のレッテルを世間から、生まれながらに貼られるみたいだ』

 「半端者」、か…。

 そのレッテルに少し思うところがある僕は、複雑な表情で押し黙った。

『ミドリの元の世界ではありえないことが別の世界では当たり前だったり、元の世界で当たり前だったことが別の世界ではありえないことだったりすることは少なくないと思う。今後は少しカルチャーギャップ…じゃないかもだが、常識の違いとかに気をつけていた方がいいかもしれないな』

「なるほど、分かりました」

『それより!』

 少しこの世界の暗い部分の話題に触れて、重くなってしまった空気を入れ替えるためか、明るい声で話題転換をするジブリエルさん。

『さっき言った「言い伝え」というのに興味はないか?』

────が、それは違うようで、どうやらただジブリエルさんが言い伝えとやらを話したくてしょうがないようだ。心做しか眼がキラキラしているように見えるのは気のせいだろうか。

 ……天使ってみんなこうなのか?マイペースというか自由というか…。

「まぁ、気になりますけど…」

『そうかそうか!実はだな、その世界には、【呪いの魔女】と呼ばれる言い伝えがあるんだ』

「【呪いの魔女】、ですか…」

 思いの外物騒な名前に、喉を鳴らす。

 その言い伝えの内容は要約するとこういうことらしい。

《────深い霧の夜、「呪いの森」の奥深くに現れる古いお城には、姿を見た者全ての魂を抜き取り、その者の縁者にも数日で『変死』する呪いを掛ける、真紅色の血染めのドレスを纏った『呪いの魔女』が住んでいるという…。なので霧が出た夜は、何があってもその森に近づいてはいけないのだそうだ───────》

「…って、それ、本当なんですか?」

 いまいち信じ難いその言い伝えに、少し半目で突っ込む。

『あぁ、過去何度も「魔女狩り」が行われたそうだが、その度に数人の行方不明者が出ている。それに行方不明者の縁者にあたる人も言い伝え通り「変死」している』

 なんとも物騒な言い伝えだ、と感じる。

 その魔女とやらが実在するならば絶対に遭遇しないようにしないとな。

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