二人の世界。一人の記憶。

あんころ餅

幻想との邂逅

ひんやりとした心地よい風が頬を掠める。…おかしい。屋上から落ちたバズなのに、いつまでも衝撃は襲ってこない。不思議に思い、身体中に意識を巡らせる。柔らかな草の上に転がっている様で、さながら高級なベッドの様だった。しかし、いつまでも寝ているわけにもいかない。重い瞼を開け、身体を起こすと、そこにはおとぎ話の世界があった。想像もつかない様な年月の経っていそうな大樹。その側に横たわっていたらしく、まるで見守られている様な気になる。周りを見渡しても、ここら一体が大樹を中心にした生態系を作っている事がわかる。頭を覚めさせるように、周囲の状況を確かめていると、青々と茂る草木をかき分ける音が聞こえた。これだけ豊かな森であれば当然、獣も居る。獣を追い払うには少々頼りなくはあるが、迎撃の構えを取る。音のした方へ全神経を集中させていると、音の主が姿を現した。しかしそれは、獣と呼ぶには少々、可笑しなものであった。二足歩行で立ち、身体は人間とほぼ変わらない。しかしその顔は狼そのものと変わらない。海と空を混ぜ合わせた様な蒼の目は、この人の様な生き物の知性を伺わせる。「綺麗だな…」ふと口から言葉が漏れるほどに、それは美しかった。

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