ねこと一緒に転生しちゃった!?

十六夜 九十九

033話 やっぱり悔しい


「フィー様。お疲れ様でした。救護用の休憩スペースがありますのでこちらへ」

「はぁはぁ……あ、ありがとう……ございます」

 魔力も尽きて、ひとつも戦力にならなくなった私は、協会の職員さんによって、後方へ移動をした。
 後方には救護班が待機していて、戦闘で傷を負った者が担ぎ込まれることになっている。私は、魔力切れなので、後方で魔力の回復まで休憩という事になる。

「少し使い過ぎた……」

 魔力切れで怠くなっている体を休める為に横になった時、無意識にそんな言葉が漏れた。
 魔力が切れる程の魔法を撃つつもりは無かったのだけれど、クマの獣人に言われた事を思い出して妙にむかむかしてしまったのがいけなかった。そのせいでちょっと力み過ぎて、必要以上の魔力を使ってしまった。
 その分、魔法の威力は上がっていただろうけど、それでもウルフテンペスタは倒せなかった。それだけウルフテンペスタが強かったった事の証明にもなってしまったので、悔しい気持ちがある。

「うあぁぁ……」

「どうされました?」

 あまりの悔しさについ声が出てしまい、それを救護班の女性に見られてしまった。

「い、いえ! なんでもないんです! ちょっと思うところがあっただけで……」

「そうですか? 魔法を撃つフィーさんをここから見てましたけど、私は凄すぎて言葉を失いましたよ。周りの人も『凄い』とか『なんだあれ』とか色々言ってましたし」

「それは素直に嬉しいです。けど、ウルフテンペスタには自分の攻撃が通らなかったのを見るとやっぱり悔しいです」

「フィーさんって欲が大きいんですね。別に悪い意味じゃないですよ? ただ、あれだけの魔物を倒したのにまだまだって言っているのが凄いなって思いまして」

「やっぱり、冒険者として生活するには力が必要ですから。…………カヤとの約束もありますし……」

「私にはそのカヤって人の事は分かりませんが、フィーさんの大切な人だって事は分かります。言うまでもないかもしれませんが、頑張って下さい」

「はい、もちろんです。私も誇り高い冒険者の一員ですから」

「今後の活躍に期待してます。では、私は他のところに行って負傷者の方の治療に戻ります。フィーさんは安静にしていて下さいね」

「分かりました」

 女性は担ぎ込まれた負傷者の方へと駆けて行った。
 どうやら、向こうでの戦闘も激しくなってきているらしい。傷の深い負傷者が次々に担ぎ込まれ始めている。
 ここから戦地を見る限り、ウルフ達は三匹で一つのグループを作って、冒険者達に対抗しているように見える。冒険者達も三から五人程度でパーティを組んでいるので、対処出来てはいるけれど、ウルフとの戦闘経験値が浅いのか、ウルフの連携に翻弄されているのが分かる。
 その為、ウルフに虚をつかれて、深い傷を負っている者が増えていく一方のようだった。

 しかし、そんな冒険者達がいる中で、一際目立っているパーティが二つある。ハピネスラビットのみんなとクマの獣人がいたパーティだ。
 ハピネスラビットのみんなはいつにもなく素早くて、アクロバットな動きを見せていて、ウルフに翻弄されるどころか、逆にウルフ達を翻弄していた。
 右から左、上から背後から。様々な角度からウルフ達に攻撃を加えていき、たった一つのパーティで、二十、三十のウルフ達を相手取っている。

 そしてクマの獣人達のパーティだけれど、クマの獣人だけが相当な強さを持っていた。
 私達を協会で馬鹿にした時に担いでいた斧を片手で持ち、薙ぎ払い、振り下ろし、叩きつけなど力任せな戦い方だったが、その力が尋常ではなかった。
 その斧に当たれば十数メートルは吹き飛ばされ、振り下ろしの時の風圧ですら、ウルフ達を押し付ける。更に、斧を両手で持った時など、地面が凹む程だった。
 あの筋肉は伊達では無かった。むしろ、あの筋肉自体があの獣人の武器だった。恐らく、斧はあの筋肉に合う武器だったのだと思う。

 私はこの二つのパーティを見て、自分もあの場で一緒に戦いたいという欲が出てきた。だが、魔力切れでそれも叶わず、ただ、見ているだけしか出来ない。
 それのやるせない感と言ったらなかった。そして、自分の新たな課題が見つかったような気がした。

――グオォォオオッッ!!!

――ワウゥゥウウッ!!

 ハピネスラビット、クマの獣人のパーティを筆頭にウルフの数が順調に減って、殲滅寸前になった時、ウルフテンペスタが大声で鳴き声を上げた。
 ウルフ達はその鳴き声に呼応するかのように遠吠えを上げ、一斉に撤退を始めた。

「全員、奴らを追えっ! 一匹でも多く狩るんだっ! ただし、深追いはするなっ!!」

「「「おうッ!!」」」

 クマの獣人の掛け声によって冒険者達が奮い立ち、逃げていくウルフ達に追撃を加えて、確実に数を減らす。
 ハピネスラビットのみんなも自慢のフットワークの良さで、逃げていくウルフ達を一番多く狩っているように見えた。

「全員止まれーッ!! これ以上の進撃は無意味だ! 先に逃げた奴等にはもう追いつけない!」

 その掛け声で、冒険者達は進軍を止めた。そして、ウルフの残党を狩りつくしてようやく戦いが終わった。
 冒険者達は自らが生き残った事に安堵をすると同時に、戦いに勝った事で興奮をしていた。手を叩き合う者や肩を組む者など様々だった。
 けれど、クマの獣人とハピネスラビットのみんなだけは険しい表情をして、こちらへ戻って来ていた。それもそのはず。この戦闘では根本的な問題は解決していないのだから。

 本来なら、ウルフが少なくなって邪魔が入らない今回でウルフテンペスタを討伐してしまいたかった。冒険者総員で掛かれば倒せない相手ではないはずだし、全体的に流れはこっちのものだった。
 その好機をみすみす逃したのは痛手と言えるし、そもそもウルフテンペスタはまだ生きている。またいつ攻めてくるか分からなくなったのも痛手だろう。

「あーもう! なんであんなベストタイミングで逃げるの! あれ頭いいの!?」

 私の元にハピネスラビットのみんなが来てくれた。ただ、みんなウルフテンペスタを倒せなかった事に少なからず思う所があるようだった。

「そうカッカするな。あいつは引き際を知っていたってだけだ。そして俺達はそれを知らなかった。その差が今回の戦いの結果だ」

「その通りだ。そこのちっこい女」

 彼女の怒りを静めていると、クマの獣人が一人で私達の会話に入り込んで来た。
 しかし、前回初めて会った時とは違った雰囲気だ。

「むっ。何の用なの?」

「謝罪に来た」

「謝罪?」

「謝りに来たという意味だ」

「そ、それくらい分かるし! あんまり馬鹿にすると怒るよ!」

 既に怒っている事に本人は気付いていなんだろうと思う。

「なあ、いつもの事ではあるんだが、既に怒っている事にツッコんでもいいか?」

「やめとき。あん子には何言っても無駄やし、好きなようにさせた方がいいんよ」

 ハピネスラビットのみんなも同意見のようだ。
 だけど、クマの獣人だけは真摯に受け止めているみたいで、神妙な面持ちをしている。

「……それはすまなかった。俺様はお前を怒らせるつもりはない」

「ふん! そんなの後からどうとでも言えるじゃん!」

「その通りだ。だか、信じて欲しい。俺様はお前達に先日の事で謝罪に来たのだからな。下らん事でお前達を馬鹿にする事はもうない」

「うん? どういうこと?」

「要するに、こいつは俺達の力を認めたから馬鹿にはしないって事だ。分かったか?」

「なるほど! ありがとう!」

 どうやら、クマの獣人は本気で謝罪に来たらしい。今回の戦闘で私達の戦いを間近で見て考えが変わったのだと思う。

「お前達の言ったように、お前達は強かった。それに、今日の戦いを見ていて感じたが、お前達は冒険者として大切なものを持っていると思った。そんな冒険者達を馬鹿にした事に対して謝罪をする。……すまなかった」

 クマの獣人はそう言って頭を下げた。本気でそう思っていることは態度で分かる。さすがにここまでされているのに許さない程、私達の心は狭くない。
 ただ、馬鹿にされたという事実は変わらないので、快く許すというのは難しい。それはクマの獣人も分かっているだろう。

「謝ったのなら良し! 許してあげる!」

 ……一人を除いては。
 やはり彼女は少し人とは違う感性を持っていて、悪い方ではなく良い方に傾いていると思う。そんな彼女だからこそ、純粋な心を持ち続ける事が出来て、今回のようにすんなり許せるのだろう。

「そうか。感謝する。……それとフィーとやら。お前の魔法は今まで見てきた中で一番の魔法だった。お前の魔法のおかげで楽に戦う事が出来た。特権を支部長から貰っている意味が分かった一発だったぞ」

「満足のいく結果ではなかったですけどね」

「向上心がある事はいい事だ。今後も期待している」

 私の魔法も認めてもらえたようなので、私的にはもう満足ではある。
 ただ、私の気持ちなんてどうでも良くて、今回の戦闘に関しては満足のいくものではないことはみんなの共通認識になっている。

「それで? お前は謝りに来ただけじゃないんだろ? なんか用があったんじゃないのか?」

「その通りだ。……俺様の考えが合っているなら、お前達は今回の戦闘が終わって、不味い事になったと感じたはずだ」

「……確かにそうだな。あの流れで親玉を倒せなかったんだからな。フィーさんの魔法も奴に見られたし、対策される可能性もある。それにまだ奴は本気で戦ってなかった事を加味すると、俺達は圧倒的に不利な状況に立っている事が分かる」

「まさにお前の言う通りだ。俺様達は窮地に立たされていると言ってもいい。そこで俺様は、今後どう動いて行くのかの検討を支部長としようと思っている。そこにお前達も参加して欲しい」

「なんだそんな事か。こちらからも願いたいところだ」

「感謝する。……話し合いは一刻でも早い方がいいだろうと思っているのだが、今からでも大丈夫か?」

「俺達は問題ないが……フィーさんは無理っぽいな」

「すいません……魔力切れで動けなくて……」

「逆にあれだけの魔法を撃っていて、魔力を使い切っていない事に俺様は驚いているのだが、魔力切れならしょうがの無い事だ。お前はここでしっかり休むといい。話の内容は追って説明する」

「はい、ありがとうございます」

 そして、ハピネスラビットのみんなとクマの獣人さんは支部長がいるであろう協会へと向かって行った。その間も、今回の戦闘に関する問題点を上げてどうするかを話し合っていた。

「はぁ……どうして私はここにいるんでしょう……」

 本来、自分の居るべきはずの場所はこの休憩スペースではなく、ハピネスラビットのみんなやクマの獣人さん達のところのはずに、大事な時にその場所にいない。
 それがたまらなく悔しい。

 今回の戦闘においての問題点は、戦闘中に私情を挟んだ事、それによって力み過ぎた事、もう少し魔力の使用料の少ない魔法を使わなかった事、魔力総量が自分の使う魔法に見合わなかった事など、まだまだ無数にある。
 その無数にある問題点を改善、克服しない限り、私はこの先の戦闘に生き残れないのかもしれないと感じている。

 カヤとの約束『ちゃんと帰ること』。それが守れなくなるかもしれない。そうなると、またカヤを悲しませる事になる。それだけは絶対にしてはいけない。
 あの時に誓った、カヤを悲しませる事をしないという誓いを守るために。

 私はまだまだ強くなる事を心に決めて、魔力回復に務める事にした。



  ◇◆◇◆◇



「にゃあ!?」

「フッフッフッ。カヤよ甘かったな! これであがりだ!」

「にゃあ……」

「じゃ、俺が先にあがったから今日のご飯は普通のやつだからな」

 俺とカヤがやっているのは簡単に言えばすごろく。俺が自作したプレイ時間が二時間ほどのちょっと規模の大きいすごろくである。
 そして、これで先に上がった方が今日の献立を決めれる事になっている。

 なぜ、そんな事をしなければならないのかと言うと、カヤに『偶にはねこまんま食べたい!』という発言によって、俺が『じゃあ、勝負に勝ったらな』という事を言った為である。
 ただ、ジャンケンやそれに準ずる体を使うものだったら完全に負けるので、ならばと運要素満載のすごろくで勝負をすることにしたという訳だ。
 こうやって簡単に言っているが、作る側になると分かる。めちゃくちゃだるい。というかだるかった。プレイ時間二時間とか言う長いやつ作らなければ良かった。

『……フィーが倒れた? かも?』

「えっ。どういうこと?」

 カヤが勝負に負けた途端、耳をぴくぴくさせて、一点をじっと見つめながらそう言った。
 カヤにはフィーの身に起きている事が分かっているらしい。さすがなんでも出来るって言われただけある。

『倒れてなかった。大丈夫みたい』

「そうか。それは良かった……のか? 何があったのか分からないから断言出来ないな」

『魔法使ったのかな?』

「魔法って事は魔力切れか何かって事か。それなら倒れてない事は喜ぶところだな。だって魔力切れで倒れたら、死ぬかもしれないんだろ?」

『うん。フィーがそう言ってた』

 どうやら、魔力切れを起こしかける程の魔法を使わなければならない程の何かがフィーに起きているみたいだが、ここからでは何も出来ない。ただただ無事に帰ってくるのを祈るばかり。
 フィーなら大丈夫だとは思うけど、人生何があるか分からない。俺が異世界にきたようにな。

「まあ、フィーを信じて待っていような」

『うん』

「じゃ、飯作るか。えーっと、今日はチャーハンにするか。カヤのは食べやすくしとくからなー」

『分かった』

 俺は遠くて戦っているフィーの事を信じなから、今日のご飯を作る事にしたのだった。

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