ねこと一緒に転生しちゃった!?
031話 ねこまんま作るのになぁ
「それで、結局俺等は何をすればいいんだ? いつか攻めて来るという事は分かったんだが、それって詰まるところ、冒険者に対する忠告みたいなもんだろ? けど、それまでにする事って戦闘に備える以外に何がある?」
私が戦いに思いを馳せていたら、そんな事が聞こえてきた。確かにその通りだ。
今回の遠征はウルフテンペスタを倒す為に組まれたものだと言ってしまっていいと思う。けれど、それ以外の事をするのは含まれていない。簡単に言えば、私達はウルフテンペスタを討伐すること以外は別段しなくてもいい。
ただそんな訳にもいかなくて、私達冒険者は冒険者としての責任もあるし、お金だって稼がなくては生活が出来ない。その為の依頼を受けようと思っても、今のままでは思う様に依頼を受けることが出来ない。
私達の冒険者には所属している協会によって別けられている。依頼を受ける際には、所属している協会から発注された依頼を受けることになる。逆説的に言うと、所属している協会の依頼しか受けることは出来ない。
ただ、それにも例外があって、他の地に所属協会の要請で遠征に向かった時はさっきの話とは別になる。遠征時の任務の内容としては『遠征先の町に従って依頼を遂行しろ』と言うのが一般的であって、この場合、その町で依頼が受けられる。
しかしながら、『危険性の高い魔物を他の協会と協力して討伐せよ』という場合、私達に課せられた依頼は指定された魔物の討伐以外は何も出来ない。要するに、依頼が受けられないという事になる。
今回の遠征は後者に当たる為、依頼を受けることが出来ず、対策以外にする事がない。けれど、それではさっきも言ったように、冒険者としての責任や、お金を稼いだりする事が出来なくなる。一体どうすればいいのか分からない。
「あ、それは今から説明させていただきます」
そんな私達の思考を読んでいたのか、絶妙なタイミングで受付の人がそう言った。
「今回の遠征は他の遠征に比べ、長期的で尚且つ危険度の高いものとなっています。その為、通常の依頼を受けることを許可し、この地で戦うことに少しでも慣れてもらおうと、協会は考えています」
「ってことは、俺達の今後しなければいけない事は"慣れ"か。まあ慣れねぇと存分に戦えねぇしな。妥当っちゃ妥当か」
「はい。勿論、報酬も支給しますので、いつものように過ごしていただければ幸いです」
どうやら、今回は特例で、任務を受けることが出来るみたい。協会側はそれだけウルフテンペスタを危険視しているのだろう。
「じゃあ、これからどうするよ?」
「そうだな……まずは宿に言って荷物を置きたいところだ。それからの事はその後に考えよう」
「宿は、ここから出て左手にずっと進んだ突き当りにあります。中で、名前もしくはチーム名を言えば私達がご用意した部屋に案内されると思います」
「そうですか。ありがとうございます。じゃみんな行くぞ。……フィーさんはどうしますか?」
今までの流れから、私はどうするのかという質問が来る事は大体予想していた。私は別にハピネスラビットのチームメイトというわけじゃないので、行動を強制される事はない。
「私は、少し外で魔物の様子を見てこようと思います。勿論、魔物達は気が立っているでしょうから、戦闘はなるべく控えようと思いますが……」
「分かりました。怪我しないように充分気を付けてくださいね」
「ありがとうございます。みんなもすぐ会うでしょうし、その時はまたよろしくお願いします」
私達は軽く挨拶をして一旦分かれる事となった。ハピネスラビットのみんなは挨拶の後、協会から出て行き、左手に向かって行った。方角的に見ても、さっき言っていた宿に向かっているのが分かる。
「さて。あのー、私が今から受けることの出来る依頼って何かありますか?」
「それでしたら、調査依頼はどうでしょうか? 先日の騒動後、まだ調査が終わっていないので調査依頼は多く残っています」
「でしたらそれでお願いします」
依頼の発注を済ませて、依頼内容を聞く。
「フィーさんはこの街の東から外に出てもらい、東側の広範囲の調査をお願いします。こちら側は先日での被害は少ないので、ソロのフィーさんに丁度いいはずです。何か異変を感じた場合、直ぐに協会へお戻りください」
「分かりました。ありがとうございます」
「ご武運を」
私は受付の人の声を受けて、協会を後にした。
目指すは東側。場所から考えるにこの街に来た時にくぐった門が東側だろう。
受付の人が言っていた、東側は被害が少ないという言葉。もし私達が東側の門から来ていなかったら、恐らく何かの異変に街に入る前から気付いていたと思う。
これは予想でしかないのだけど、戦った後の戦場痕や、死んだ魔物や人間の血液などが他のところにはとんでいるのだろう。
そしてそうこうしているうちに、東門へと着いた。私は今回の依頼内容を反芻した。それ程重要そうに見えないが、異変を見落とさないように集中する事は思ったよりも難しい。
その異変の見落としで決定的な何かが起きる可能性だってある、重要な依頼だ。簡単だからって手を抜く事はしない。
私はそう心に誓って東門をくぐって外へと出た。
◇◆◇◆◇
「にゃー!!」
「や、やめてくれぇ!! 悪かった! 俺が悪かったって! 痛ッ! 死ぬぅ! 死んじゃう! カヤに殺されちゃう!!」
「シャー!!」
「きゃあぁぁあああ!!」
只今、俺はカヤからのお怒りを受けている。それはもう大層なお怒りで俺の命が幾つあっても足りないレベル。
とは言ったももの、カヤのお怒りはごもっとであり、俺自身、俺が悪いと思っている。まあ、これ程までにカヤがお怒りになるような事をしたのだから自覚が無い方がおかしいのだが。
さてと。ここで本題に入ろう。
たった今、俺の身体中をよく切れる爪で引っ掻きまくっているカヤが目の前にいる。俺はそのカヤに向かって土下座をしている訳なのだが、一体なぜこんな事になっているのか。
俺としてはこんな事は起きないと思っていた。ただただ、俺の不注意からこんな事態が引き起こされた。
――フィーの部屋にうっかり入ってしまった時から。
言い訳をさせてもらえば、入るつもりなんて一ミリも無かったし、その時は寝ぼけてたせいで正常な判断が出来なかったのだ。
そんなの後からどうとでも言えると思う奴もいるだろうが本当の事だ。もしなんなら、俺が起きてからフィーの部屋に入るまでの短い話を聞いてくれ。
昼のちょっぴり前の朝、目が覚めるとそこはいつもの布団の中で、何も変わり映えしない風景が目に入った。俺は寝起きの為、大あくびをしながら布団から這い出て、眠い目を擦りながら自分の部屋を後にしようとした。
その時、ふと『あれ? リビングってどこだっけ』という寝起きあるあるのド忘れを極端な程に発動させ、リビングを探す事となった。
正常な判断が下せない俺は、取り敢えず近くの部屋を確かめようという事になり、自室の近く――フィーの部屋――の扉を勢い良く開けた。
するとどうだろう。久しぶりで懐かしい匂いが俺の鼻腔をくすぐり、俺の頭を徐々に正常へと戻していったのだ!
それによって完全に目覚めた俺は、ここがフィーの部屋であり、開けてはならない扉だった事を思い出して顔を白くした。
そして俺の背後に足音もなく忍び寄って来て『しぬ?』と一言、マジトーンで言ったカヤに対して、全力の土下座を敢行した、という感じだ。
ここまでの話を聞いてくれた奴には分かるだろうが、俺は一切、邪な気を起こしていない。ただの寝起きによる不注意だ。
俺はカヤに何度もこの事を話した。
しかし『俺が入ったの悪かったが、邪な気があったわけじゃない』と何度も言ったところで、カヤは聞く耳を持たず、ただただ俺に体罰を与えるだけなのだ。
「シャー!」
「もうやめてくれぇ! マジで死んじまうよ! 本当に俺が悪かった! 詫びと言っては何だが、今日はねこまんまを作るから! それで許してくれ!」
――ピクッ
おお?? カヤの耳が一瞬だけど嬉しそうに跳ねた? もしかしてねこまんまにつられているんじゃ……。
「ここでやめてくれれば、奏陽特製のねこまんま作るのになぁ」
――ピクピクッ
やはり、ねこまんまの話を出すとカヤは反応を示す。流石に理性が本能を超える事は出来ないようだ。人間でも難しいのに、猫のカヤだったら当然の結果ではあるが。
「あー、でもなぁ。これ以上傷が増えたらねこまんま作れそうにないなぁ」
「にゃっ!?」
「あぁ、全身痛いなぁ。こんなに引っ掻かれて痛いなぁ。あー痛い痛い」
「に、にゃあ……」
――ペロペロ
カヤは誘惑に負け、俺の傷痕を舐め始めた。
しかしこの傷痕。別に今は痛くも痒くもない。忘れがちだが、俺は傷の治りが早いし、傷を負ったすぐは痛いが、治っている最中は痛い事なんて殆どない。
「カヤは優しいなー。こんな事されたら奏陽特製のねこまんまを披露するしかないな」
「にゃ〜ぁ♪」
ふっ。ちょろいぜ。
「んじゃ、ちょっくら作って来るか」
俺は土下座をやめて、キッチンを目指す。
どうやら、今日の朝はねこまんまに力を入れて作らねばならないようだ。カヤのためにめちゃくちゃ美味いねこまんまを作ってやろうと思う。
あっ。それと、フィーの部屋は思ったよりも女の子してて可愛かったです。
◇◆◇◆◇
「ふー。今日はこのくら――ん? なんでしょうか。何か見てられてはいけないものを見られた気がするんですが……まさか……ね?」
「フィーさーん!」
身体を駆け巡る嫌な予感がしたのと同時に、私を呼ぶ声がした。嫌な予感は直ぐに消えたけれど、まさかと思うと心配でならない。
もう一つの私を呼ぶ声は、ハピネスラビットのみんなのものだ。ここに来ているということは、みんなも調査依頼を受けたという事だろう。
もしかしたら、私を追いかけてくれたのかもしれない。それだったら、純粋に嬉しく思う。
「やっと見つけたー! フィーさんがいるところを見つけるにはね、何かが焼ける匂いを追えば良かったんだけどね、進行速度が早すぎて追い付くのがやっとだったよー!」
「まあ、なんや。知らん土地で一人で戦うのは心配やと思って、うちらも来てみたんやけど、思いの外フィーさんは普通でどうしようか迷ってるんよ」
「そうだんったんですか……」
戦闘において、ソロとパーティでの差はこの進行速度も含まれる。
パーティで戦闘をこなして行くと、どんどん先に進もうと思っても、パーティメンバーと足並みを揃えなければならない。戦闘は楽にこなせるが、スピードは落ちるという訳だ。
一方ソロはその逆で、進もうと思えばいくらでも早く進む事が出来る。誰かを待つこともしなくていいので、心労的に言えばソロの方が楽。ただ、ソロは危険度が高いし、集団相手になると手間取る事もあるので、結果的にパーティの方が良かったりする。
それでも私はソロを選択している。
私のソロは特殊で、一対一、一対多、どちらになったとしてもあまり大差がない。本来の魔法使いなら、呪文を詠唱している間で、魔物に何かしらの攻撃をされる事になるけれど、私は呪文の詠唱をしなくてもいい。
そうなると必然的に攻撃性の高い魔法をタイムラグ無しでぽんぽんと放つことが出来て、一人でも全く苦もなく戦闘を終える事が出来る。
それ以外にも、ソロを選択しているのには理由があるけれども、それは割愛する。
「フィーさんの魔法ってやっぱりすごいね! 早いし、強いし、かっこいいし!」
「いえいえ、そんなことはないですよ。まだまだです」
「じゃあそんなフィーさんに提案です! 私達と一緒に戦ってみませんか!」
「一緒にですか?」
「うん!」
「そうですね……私がフォローに回るということなら良いですよ」
「じゃあ決まり! あとちょっとだけ調査していこー!」
みんなで『おー!』と掛け声を上げる。なかなかどうして気合が入る。
ちなみに私がちょっとばかり渋ったのは、複数人で戦う事になったからというのがある。
私の魔法は一対多をメインにしたものが多く、パーティで戦闘をすれば味方も巻き込みかねない。そうなると、一対一用の魔法で味方のフォローをしていく以外に手段がなく、最新の注意を払わなければならないというわけなのだ。
「フィーさんっとせんとうっ♪ フィーさんとせんとうっ♪」
「なんや、楽しそうやね?」
「うん! フィーさんと一緒だと安心感が全然違うから!」
「それって安易に俺達と一緒だと安心できないみたいな言い方じゃないか?」
「まあ、僕達ですし、仕方が無いんじゃないですか? 僕から言わせれば妥当だと思うんですけど」
「まあ、お前の言う通りだわな。俺等を見て安心出来るやつがいんなら見てみてぇよ」
「殆どお前達のせいだけどな。どうやら自覚が足りないようだが、今日の夜は説教で決まりだな」
「「うぇい!? 何故!? 何故説教なんだ!」」
「説教を受けたくなければ、成績を残せ」
「「うっしゃ! やるぜ! さっさと来い雑魚共!」」
いつも通り過ぎるみんなを見ていると心が落ち着く。なんだかんだ言ってもパーティの方が私にはあってるのかもしれない。
私は嫌な予感が身体を駆け巡っていた事もとうに忘れて、そんな事を感じなからパーティでの戦闘をこなしていったのだった。
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